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226.

その3で終わるかと思ったら、長くなりすぎたので分割します。

「あきれた」

 むぅといい放つ崎ちゃんは胸の前で腕組みをしてたっている。

 うん。そう言いたいのもわかりますよ? 女装グッツが眼鏡しかないっていうことも言いましたけどね。

 換えの下着くらいは……入ってたりしますよ。ええ。

 ……ごめんなさい。普通に換え下着を入れて忘れてただけです。

 ブラは入ってないよ! なにその、おまえなら全部そろってんだろ的なのは。

 カメラ機材がそこそこの重量があるし、今回は新しく買ったレンズも入れているので重量いっぱい。できるだけ軽くしようとなって、本当に女装用品は全然入ってないのです。

 それと、みなさん。いいですか? 女性用下着の下だけって、すんげーコンパクトなんです。ほんとハンカチかっ、てくらいの軽量化です。これ以上いうとセクハラで訴えられるだろうからいわないけど。

 そんなものが、ちょろっと紛れていても、そんなに鬼の形相にならなくてもいいではないですか。 

「下着がないなんて嘘つかなくてもいいじゃない」

「あくまでも予備。っていうかみんな予備は入れといた方がいいよーとか、いざというときには絶対あったほうがいい! とかさ」

「……あなたにいざがあるとは思えないんですけど」

 なにかおかしなことでも言っただろうか。そりゃ、まだ若いこの年ですし。おしっこ漏らしたりがあるとは思わない。六十過ぎてなるものだというのが一般的な認識ではないだろうか。笑うとうっかり出ちゃうのぅみたいな!

 おまけに、男だと尿道が長いから尿漏れしにくいっていうしね。

「わかってないで、その言葉を受け入れていたのか……」

 なぜか崎ちゃんから冷え冷えした言葉が漏れたのだけれど、よくわからない。

 え。予備ってそういう意味じゃないの?

「まあ、それはともかく。どうしてこんな展開にしちゃったのか、説明をいただきたいのですが」

 うん。とりあえずあっちの言いたいことは言わせたのでこっちのターン。こほんとしきりなおしながら、敢えて女声にしてるのは嫌がらせである。不機嫌ですよ私はという姿勢……というのもあるけど、崎ちゃんと男女で会話しちゃまずいだろうという配慮もある。

 どうしてあの二人の前で、木戸が女装しなきゃならなくなったのか、そこらへんを是非とも教えていただきたい。

「その場のいきお……ではなくて、まず第一に、この私が男と一緒に遊んでたっていうのがダメだって言う点」

「それ、ちょっと遠巻きに見守るだけでよかったんじゃ」

 そういうと、ぎろんと鋭い視線を向けられてしまった。すみません。ごめんなさい。

「最近あんたあんまり構ってくれないし、他の女子と楽しくやってるってなったら、無意識にやっちゃってたのよ」

 ううむ。複雑そうな表情をしていただいているけれど、仲間はずれ感でもでたのだろうか。

 たしかに、崎ちゃんと構ったのはメインでは春の花見。あとはエレナの誕生日会で一緒になったくらいだろうか。

 でも。住む世界が違うのだもの。そうそう頻繁にあう間柄でもないのではないだろうか。

「メールはきっちり返しているつもりだしこちらからも出してるわけですが」

「それだけじゃ……むぅ」

 なにか言いたげだが、彼女はそこで言葉をきった。

「計算だって有ったのよ。あんたのこと蠢は知ってるんでしょ。それで蚕くんは知らないって。蠢は自分のこともあるし絶対に秘密は漏らさない。それで蚕くんは……そ、そう。あんたの……」

 あ。勢いで言っちゃって後で理由探しましたっていう感じだ。

 まあ、いいですけどね。しかけがばれたって、蚕くんなら脅しはきくし。なにより蠢の秘密を守るためには相互に弱みを握り合う関係になれたなら、それは一番いいだろうし。

「ば、ばれたならばれたで、いいこともあるわよ」

「ほほう。わたわたした状態で、頑張ってきかせていただこう」

 さっきから、頭をフル回転させている崎ちゃんがちょっと可愛くて、さらにあおっておく。うん。もちろん一枚撮らせていただきます。滅多にないわたわたする崎ちゃんの姿。さてマニアにどれくらいの値段で売れるだろうか。売らないけどね!

「あなたまだ、翅のあんにゃろうに、あぁルイさぁん大好きーとか、好意を寄せられてるんでしょ。もう仕事が一緒になるたびに、おまえ可哀相なやつだなって感じよもう。それのカウンターとして、同じメンバーがいるのはありなのではないの?」

 お。なんか珍しく崎ちゃんから建設的な意見がでた。

 たしかに、こちらとしては翅からのアプローチは全然なくって平和そのものではあるんだけど、エレナによれば、あぁ師匠-、かわゆすなルイたんの写真とか持ってないですかーとかなんとか、会うとき一回は言われているとかって話もあるのだし、ちゃんとした道に戻して差し上げたいところだ。

 だって、あれだけ人気のあるグループの一人なのだし、不毛にルイを追い求めるより自由に生きていただきたい。

 そういう意味では「蚕くんを言いくるめる方向」というのはとりあえずありだと思っておこう。ばれないならばれないでもちろんそれでもいい。

「それよりも、崎ちゃんにこんな趣味があるとは思ってなかったよ」

 とりあえず重要な会話が終わったところで、今着替えた服装について、コメントをしておく。

 下着に関しては木戸の私物と、ブラはさすがにいづもさんに貸してもらった。

 うん。この店、「どうしても入りたい男性客」向けに、女装グッズの貸し出しもしているのだ。

 貸し出しているのは衣類とブラでございます。下まではさすがに貸せないし、そのままであっても入店条件はクリアーさせるんだそうだ。

 アンダーそんだけ細いのはそれだけだし、貸し出しも最初ですと苦笑はされているけれど、あなたの体型は貧弱ですといわれてるようで、むぅと不機嫌そうな顔になってしまった。

 はい。通常男性の胸板なんて、アンダーもなにも80とか行きますヨ。貧弱ですいませんよもう。

 と。下着話じゃなかった。

 今身にまとっている服装の方が問題なのだいまは。

「普段使いっていうよりは、なんかこう、崎ちゃん、自分で着る気だったの?」

 まじなの? と詰め寄ると、視線をそらされた。どういうことなのさ。

「エレナが時折ちょっとアレな格好するでしょ、それで私もちょっと頑張ろうかなとか何とかで、びびっときたんだけど……」

 着る勇気は……といいはる衣装を押しつけてきましたこの女優様。

 今着ているのは、暗い緋色ベースのゴスロリ服でした。なにかのコスプレですといっても多分通じると思います。緋色の小さいシルクハットも可愛くて、髪飾り代わりにちょこんと頭に乗せています。

 ウィッグ無しのショートスタイルだろうと、普通に目を引く少女という感じの出で立ち。そう。こんな服をきさせられるのは春の田辺さんの一件以来のことだ。

「へ、部屋の中で着てちょっとこう、どやっ! ってしようと思ってたの! こういう服着ればちょっとはその……」

 もごもごとそのあとの言葉は聞き取れなかった。

「んなことより、あたしと同じサイズを平然と着こなすあんたの方が変よおかしいわよっ。男子って言ったらもっとこうごつくて」

「発育不良ですまん」

 うん。逆ギレ混じりの指摘に素直に謝った。

 うちは、遺伝子的なものもあってそんなに高身長の家系ではない。それに加えて先ほどの胸板の話もそうだけど全面的に華奢なつくりなのだ。

 ねーさんにそこらへんのサイズを聞いたら「え。内緒だよ、もう」とかなんとか大きなおっぱいを押しつけられたので、女子だったらどうだったのかというところまではわからない。

「うぅ。いろいろ言いたいことはあるけど、準備が終わったら行くわよ」  

 シルバーフレームの眼鏡をかけて、最後に首からカメラをつって、準備を終了させる。

 鏡を見ると、どこに出しても申し分のないゴスロリスタイルの、それと少し浮いている胸元のカメラが写し出されている。

 よし、完璧と思って、裏口で待っている二人に合流した。

 店の中だとごたごたするから、という理由で裏口でまたせてもらったのだ。

「は? はああ?」

 ちょっとまてと、蚕くんが口をパクパクさせている。

 さっきまで、自分いけてるんじゃね? とか思ってたのが一気に塗りつぶされたような感じだった。

 蠢は事情を知っているから無表情かとおもいきや、ぽかんとしているようだった。

 いや、あんたはルイにあっとろーが。そりゃルイさん普段着でいることが多いしここまで着飾ることはないだろうけどさ。

「めっちゃかわいいじゃない。よくこんなの見つけてきたわよね」

 わざわざ見送り、ではなく着替えたかおたんを見にいづもさんも裏口に出ていた。

 お仕事はどうやら給仕の人達に任せてきたらしい。

「崎ちゃんの見立てなんですけどね。滅多にこういうの着ないので似合ってるのかどうかすらさっぱりです」

 とほほ、といづもさんの賞賛に答えておく。

 フリルたっぷりな服なんて滅多に着ませんと彼女に答えつつ、裾を心配そうに見つめる。確かにスカート丈はそこそこあるのだけど、フリルたんまりというのが自分で着ていてなんかしっくりこないのだ。着ている子を撮るならいくらでもやるのだけど。

「さて、それじゃあんまりお邪魔してもわるいから、撮影、いきましょっか」

 ほいいく、ほらいくとカメラをちらつかせながら、崎ちゃんたちをひっぱる。

 その口調はルイのものに似てはいるけれど、あそこまではアグレッシブではない……と思いたい。うん。

「それじゃ、いづもさん、また後日きますのでよろしくっ」

「楽しんできなさいな若者たち」

 忙しいなか更衣室を貸してもらったお礼をいうと、そのまま秋空の中に歩を踏み出す。

 靴に関しては一悶着あった。さすがにもともと履いている靴ではその服には合わないという意見だ。

 崎ちゃんは特別靴までは用意してなかったようで、着替える前にそれらしい靴を買いにいかされた。

 費用は崎ちゃん持ち。さすがに稼いでいる芸能人様はお金払いがよくていらっしゃる。羨ましい。

 そして用意したのがゴス服に合うような黒い靴を選んだ。ヒールは動きやすさを考慮して低めで、足首にストラップがつけられていてすっぽ抜けることもない。そしてつま先にはリボンがつけられている可愛いものだ。

 うん。普段のルイさん状態でもまずこれは履けない、かなぁ。せっかく買ってもらったけど。

 そんな靴を履いて近所へ散策。

 シフォレのそばには公園があるわけで、撮影をするのにふさわしい背景はいっぱいあるので、少し移動すれば絶好のポイントがいくつもある。

 そこに向かって少しの移動時間のスタートだ。

「本当にいいのか?」

「ん? ああ。別に蠢は知ってるんだし、蚕くんに言い含めておけばいいかなって」

 先頭をきって歩く木戸に蠢は心配そうな声を上げる。

 どうやら、蚕の目の前で女装なんてしてしまって良いの? ということを聞きたいらしい。

 こういう配慮を見ると、蠢さんったらこちらのことは内緒にする気満々だったわけか。

 それに、今の所は彼からなんのアクションもない。

 自分のなんちゃって女装と比べて別物のこちらを見て唖然としているだけだ。ばれないならそれに越したことはない。

 けれど、それでも心配げな彼にもう一言言葉を加えておく。こちらが安心している一番の理由でもあることだ。

「別に蚕くんを信じてるわけじゃなくて、メンバー全員が蠢を大切にしてるってところを信じているんだけれどね」

「それは、その。まあそこはね、あるけどね」

 顔を赤くしながら、蠢ははずかしそうにいう。もしくは嬉しそうに、だろうか。

 正直こいつの、メンバーからの愛情は、ちょっと度をこしている。そりゃ秘密がばれたら活動がとかもあるだろうけど、そういうのなしにしても、蠢への愛情というかそういうのがHAOTOは大きすぎると思っている。

 少女を守るナイトとは敢えて言わないけどね。こいつ男だし。うん。その扱いが正しいし。

「うーん。どっかであんたのこと見た気がするんだよなぁ」

 一方、蚕くんはうーんとわりと化粧の薄い顔を歪ませる。目を細めてじぃっとこっちを見つめてくる。

「あんまり見つめられると、その……」

「うぐっ」

 照れてしまいます、と頬に手をあてて照れる演技をする。崎ちゃんからおまえはーという視線がきたけど無視。

 女子相手に熱い視線を向けると逆にやけどしてしまうよ、というのをこの二つ下の男の子に知って欲しかったので。

 それからはもう蚕くんがこちらをまじまじ見ることはなかった。

「さて。こちらが撮影場所候補でございます」

 到着した先は、少しの広場と背景に木々を全面に展開できる場所だった。

 時間としては日没まで一時間ないくらいだろうか。もうちょっとすると空が赤らんでいってしまうので、ぱっぱか撮影をしたい。今日は三脚を持ってきていないので夜の撮影は明るい町の中限定になってしまうのだ。

 許可はとってないから大事にはしないでねーといい放つと、へいへーいとみんなからやたらテンションの低い声が聞こえた。考え事をしながら移動したからなのか、みんな少し疲れているらしい。そんなに遠いわけではないのだけれど。え。歩幅大きすぎました? そんなことないよ。蠢とは同じくらいだろうし、蚕くんのほうがちょっと身長たかいじゃん。

「んじゃー、とりあえず準備しちゃうよー」

 フフーんと鼻唄を漏らしながら、カメラのレンズを換えてみせる。

 ちょっと普段のレンズよりもはめるのに力が必要で、ぐっと力を込める。

 さて、これにみなさんはどんな反応をするのか。そしてどんな感じで撮れるのか。今から楽しみだ。

男子大学生のバッグから女性用下着がでてくる件について。

ええ。文字にするとあれだけど木戸くんならありだと思っています。

そしてかおたんとしてのゴスロリでございます。


もともと撮影会までセットにしようかと思ってたのですが、えっらい長くなってしまったので、切りの良いところでいったんアップです。


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