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223.クリスマス企画

時系列的には少しずれますが、クリスマスイブなので!

 学園祭も終わってしばらくあと、コンビニの一角で黒羽根店長が職員を集めてミーティングを始めていた。

 ええと、もちろん全員で一気にはできないから、順次交代のときにちょっとずつ伝えていくようにしているらしい。

「ぱんぱかぱーん。クリスマスケーキ商戦に加えておせちの予約と、大変コンビニ業界は十一月から地獄です。今年の冬を初めて迎える皆さん。がんばりましょう。長いみなさん、去年よりもっとがんばりましょう」

 黒羽根店長から、いやーなおたっしがきて、先輩ともどもどよんとしてしまったのは十一月も上旬のことだ。いろいろな事件に巻き込まれたりとかもあって大変は大変なのだけど、アルバイトも休むわけにはいかないのできちっとお仕事はしているのである。

 さて。今日日コンビニは四季のそれぞれの風物詩的なものの販売も行っている。それが今回のクリスマスケーキとおせちである。

 両方ともかなり気合いが入っていて、ケーキ屋さんで買うのと遜色がないものとも言われているのだけど、売り上げが例年上がりにくい商品でもあった。

 ケーキ屋があるところではそちらに頼むものだし、最近はシフォレができた影響で、あそこのケーキがいいとオーダーが殺到するというのもある。いづもさんは去年はひぃひぃ言いながらケーキ作りをしていたらしい。

 かくいう木戸家もシフォレでぜひという話だったけど、残念ながらコンビニケーキのご予定だ。自爆営業とまではいわないけれど、例年一個は買うようにしている。

 店長なんかはおせちも買っているようだけど、木戸家のおせちは自前で揃えることにしている。数の子やいくらなどは外で買ってきて伊達巻とか昆布煮や黒豆なんかは家で作っている。うん豆煮るのは面倒だからと、もちろんここも木戸さんのお仕事です。

 お雑煮の出汁をひいたりと最近はどんどん母が家事をこちらに投げてくるようになった。

 しかも今年はおじさんたちも遊びに来る予定だ。お正月だけだけどね。年末は受験生なはずの健も、腐っておられる楓香もあのイベントで大忙しだ。おじさんへのサービスってことで手料理くらい食べさせてあげなさいと母には言われたのだけど、母さんの若い頃に似ているという評判の自分がそんな過剰サービスをして、おじさんがどうにかならないかちょっと心配である。けど、それは別のお話。

「さて。それでクリスマスケーキの販売なんだけど今年は男性客をターゲットに狙おうかと思っています。正直ここまでやりたくはないのですが、オーナーが是非! というので仕方なく。特に女性店員さん、守ってあげられなくてすまん!」

 ちらりと集まっている人達の中に混じっている女の子に向けて店長はぱしんと手を合わせた。うん。そういう仕草はちょっと凜々しくてよいものだ。

「ええと、守るってちょっと穏やかじゃないですね」

 そんな姿に怪訝な反応をしたのはもちろん木戸である。数年冬のお仕事はしてきているし、忙しいのはわかっているけれど、店長がここまで言うほどの何かがあるというのだろうか。

「今年のクリスマスケーキの販売はサンタコスでやろうって話になって……」

「ああ、その時期になると結構見かけますよね。ピザ屋とか特に」

 でも、それがなにか? と周りから声が上がっている。うん。確かに同感だ。

「女の子のミニスカサンタ姿で男性客の心をがっちりホールドしなさいって。もう。この年になってアレをやるとはさすがに思わなかった……」

 黒羽根店長はしょぼんと肩を落として、再度女子に向けてすみませんと謝っていた。

 クリスマスイブのケーキやその他揚げ物などの販売は店の中ではなく、外に長机を置いて特別販売をすることにしている。あれを太ももを割と出すミニスカサンタ姿でやるのはちょっと可哀相だ。

「つーか、寒そうだ……」

 うん。見た目の問題もあるだろうけど、気温の問題もある。

 ふわもこな服であればいいけど、冬のミニスカは結構寒いのだよね。

「うん。いちおーオーナーがふわふわなの用意してくれるっていうけど……レッグウォーマーとかもついてるやつね」

 でも、さすがに冷えると思うんだよねーと言う彼女の言葉に女性陣は、うぅとしょんぼり声を漏らしていた。可哀相に。

「まあ、でもそういう方針なので、特に男性客にはクリスマスイブにミニスカサンタさんが手渡ししてくれますってアピールして買ってもらうようにしてください」

 ポップも作りましたので、という黒羽根店長の言葉をどこか他人事に聞きつつ、今年の冬は寒くないといいよねなんてその時は思っていたものだった。



 そして当日。

「ええ、店内で無事に仕事をするだけでいいやと思っていた時期が私にもありました」

「いやー、オーナーが試してみてよーって言ってたけど、まじ似合いまくりだわー」

 はい。お約束ですよね。

 なぜか、はい、これ木戸くんの分ねと渡されたサンタ衣装は女性用でありました。

 クリスマスの日はバイトの人数も少し多めの配置になっていて、店内は通常営業で外での販売は補填要員というような感じである。

 時間帯としては、でれるなら午後から夜までお願い、と言われていていつもよりも出勤時間はかなり早い。

 ケーキの予約はこれの効果もあって順調で、夜のためにと早めに手配をしている人から、仕事帰りに買っていく人やらそれぞれいるそうで、どうしても昼間に従業員が足らなくなるということでこうなったわけなのだった。

「ですよねぇ。まさかこれで男の子だなんて誰も思わないですよー」

 シフトの関係であまり一緒にならない女の子にもそんなことを言われてしまった。彼女も確か大学生だったか。一個か二個上だったような気がする。

「ま、今日は胸も大きめに作ってますしね……」

 ワンピースタイプのふわもこのサンタ服に、ケープがついているわけなのだけど、その胸元は本日はEカップなのでした。けっこう重いパットを使っているので肩が凝りそうだ。

「その大きさは羨ましい……さぁおねーさんに揉ませるがいい」

 こんなんがいいのんかーと後ろからわしりと胸を掴んでくるねーちゃんに、ちょ、まってくすぐったいと抗議しておく。

 うん。完璧な女声でね。声に関しては着替えたあと普通に喋ってたら普通に馴染んでしまって今に至る。今時の若者は両声類というものがいることを知っているので、割と驚かれずに普通だった。

「って、店長……このさわり心地……もしかして木戸くんにブラまで渡してたりするんですか?」

 え? とねーさんはそこで複雑そうな表情を浮かべて下さった。

「うん。木戸くんに関しては下着まで全部こっちで用意したよ。そりゃ女装してもらうんだし、ミニスカサンタの下がトランクスじゃ興ざめだし」

 それがなにか? という店長に、ねーちゃんは、あんたは鬼や……さすがにそこまでさせるとか引きますわーと驚いた顔をしていた。はて。なにか問題があるのでしょうか。

「えと、木戸くん? いい? これで変な道に目覚めたりとかしちゃダメだからね? 締め付ける感じが好きとかくせになりそうとかダメだからね?」

「締め付ける快感とかはわかりませんが……女装の時は下着も女性用っていうのは、一般常識かと」

「……手遅れだこの子……」

 なんか心配してもらったのにすみません。木戸くんはこんな感じな人なのです。

 そんなことを思いつつ、足下を温めてくれるヒーターにほっこりする。

 実は店長権限でヒーターを二台用意してもらっている。足下の冷え込みが半端ないためである。

 真ん中にでんと居座っている店長の所にはそこまで暖かい空気はいってなさそうだけれど、両サイドは譲るといわれてしまえば素直に甘えるだけである。ほんと、コート欲しいくらいだもの。

 寒いなぁと思いつつ、ちょろちょろとお客が来ては三人のミニスカサンタさんに鼻の下を伸ばしている男性客をお見送りするのが続いて、割とケーキは売れ行きがよかった。

 でもそれ以上によい売り上げなのがチキン関係だろうか。値引きしているというのもあるけれど、ミニスカサンタを珍しそうに見つつチキンをいただくという女性客がそれなりに居たのである。

 そしてそんな中には見知った顔もいたわけで。

「か、かおたんがサンタコス……なんてミステリー」

 あわわ、と声を上げてるのは超お久しぶりな佐々木さんだった。

 ご近所さんでしたっけ? と思いつつ連れがいるのが見えた。

「どうしてこんなおいしい話を私にしなかったのか、木戸くんは猛省すべき」

 それはともかく、お写真を撮らせていただいても? と一眼を構えているのはさくらだった。

 どうやら高校の友達を集めてクリスマスパーティーをやるらしい。

 ……木戸さん呼ばれてないのですけど。週末じゃないから遠慮されてしまったのでしょうか。

「あれ? いつぞやの木戸くんの彼女さん?」

 お久しぶりーと黒羽根店長は昔の記憶を思い出したようだった。

 そう。さくらは高校一年の冬に、木戸の身辺調査をしていた頃があったのだ。

 その一環でコンビニでのお仕事の時間やシフトを調べるために、彼女です、構ってくれないのですという嘘をついていて、それが残っているのだ。

「もー甲斐性無しの木戸くんとはこれっぽっちも関係がありませんです。いくら誘ってもなびいてくれないし、カメラが恋人とか言ってるし」

「それ、さくらもだよね! カメラ恋人って言ってたじゃん」

「そりゃ……まあ否定はできないけど。あんたほどじゃないわ」

「ほほぅ。相変わらず息ぴったりなのに、これで付き合ってないだなんて……」

 佐々木さんが揚げたチキンをいただきながら、これが痴話げんかじゃないとかどういうことなのというような反応をしている。学校ではあんまりさくらとは絡んでいなかったのだけど、去年の学園祭あたりのやりとりを思い出しているのかもしれない。うん。その日は女装してたしまさに今の状況と大差なかったわけだし。

「それで? クリスマスパーティーやるって、メンバーは誰よ?」

「主催はチヅだよ。それで去年のクラスメイトから数人と、あたしはおまけ」

 撮影係も兼ねて呼ばれたと言ってはいるものの、なにげに出入りしてたし、斉藤さんとは仲良しだものな、その流れで一緒にやろうって話になったに違いない。

「男は誘わないので?」

「んー、ぷち同窓会も兼ねて女子だけでわいわいやろうかなって」

 うん。そういうのも確かに楽しそうだと思う。男子がいると変な方向に雰囲気が行ってしまっても困るし。

 なによりずけずけ遠慮せずに言いたいことが言えるのがいい。

「かおたんは夜のご予定は?」

「九時までこのままここでバイト。そんでケーキ持って自宅でこいつをいただきます」

「うっ。こんなに可愛い子がクリスマスを家族とすごすとかっ」

 すぐに彼氏とかできそうなのにと、普通に佐々木さんに言われて、店長たちは苦笑いを浮かべていた。

 うん。その気になれば男子と恋仲になること自体はできるかもしれないし、声をかければ二つ返事の人達もいる。

 だが、こっちも男だ! その気にはなりません。

「それに今日は時給もちょぴっと良いからね。がっちり稼いでお正月に備える感じ」

「お正月かー。バーゲンとか行っちゃう感じ?」

「うん。ちょっと買い足したい物もあるし」

「どーせ、レディスものでコートとか買うんでしょ?」

 なぜわかった。さくらにさらっと言われて、ちょっとびくりとなってしまった。

 というか、働き先でしれっとレディスものを買いあさってる話はしないでいただきたい。

「そうそう。初日の出イベントはどうすんの?」

 困った顔をしていると、話題を変えるためなのかさくらが確認するようにこちらに聞いてきた。

「あ、うん。参加予定。くわしくはあとでメールする」

 でもその先の着地点がルイを相手にしているものなのが大変によろしくない。

 お正月。高校の写真部の面々で初日の出を撮りに行こうという企画が持ち上がっている。

 見晴らしのいい高台で良いスポットがあるよーとあいなさんもお墨付きなところで、もちろん彼女も参加予定だ。

 なので、話をばっさり終わらせる。そこでちょうど別のお客が来てくれた。

「それじゃ、仕事中なので。佐々木さん、クリスマスパーティー楽しんでおいで」

 いらっしゃいませーと新しいお客さんに声をかけると、二人はあいまいな笑みを浮かべながら、それじゃまたーと離れていった。

「店長……木戸くんってこんな子でしたっけ?」

「そうなんじゃないの? もー諦めて受け入れてしまった方が楽になるかも」

 もうどこからどうみても女子ですがな、とひそひそやり合っているお二人を横目に、ありがとうございますーと愛想笑いを浮かべながらケーキを男性客に販売すると、みなさん大変喜んでくださいました。

 独り身のみなさん。よいクリスマスをどうかお過ごし下さい。

 ミニスカサンタはいいものだ! ということを二ヶ月前くらいから思っていていつか木戸くんに着せたいなーって思っておりまして、やるならここかー、ここだーということで。

 ミニスカサンタなかおたんにケーキ手渡ししてもらえるとか、もう、うらやまです。

 でも、ブッシュドノエルを作って家でらぶらぶしてるエレナさん達のことを思うと……くっ。クリスマスなど、ぐぬぬという感じですね。


 はい。次話からは日常回に戻りますが、蚕くんから呼び出しがくるお話です。実はこのクリスマスにいたるまでのお話がまたかなりのボリュームがあったりいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そういえば木戸くん、純粋な女子会に誘われることってあんまりないですよね……お菓子作り会くらいな印象があります。 こういうとき、女子扱いされないのは少しモヤッとしてしまうのはなぜなのか……。…
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