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221.

すみません。やっぱり間に合わなかった……

とりあえず学園祭三日目の1です。2は23日中にアップ予定。でき次第お送りします。

 学園祭三日目。 

「か、馨ちゃんが可愛くない格好をしている……」

 今日はサークルの方の手伝いはなく学園祭を見て回れる日、ということで。

 本日はエレナさんがご来場しております。

 ふっつーに女子大生です。実は女の子派大勝利です。

 そしてそんなエレナ様は、ぷぅと膨れてこちらの服装にダメだしをなさっております。

「仕方ないっていうか、これが普通なの。そうなの」

 一瞬、仕方なく男の格好してるんですと言いそうになって踏みとどまった。やばい。エレナと一緒にいると引きずられてしまいそうになる。

 というか、口調自体が男っぽくない。いかん。

「つーか、こうやって男女で会うのなんて何年ぶりだ?」

「ボクがよーじと付き合うようになる前だから二年は経ってるかな。その前も男女って組み合わせはそうそうなかったかも」

 んーと、あごに指をあてて考え込んでいるエレナさんはやはり可愛くて、一枚カシャリと写真を撮らせていただいた。あとでよーじくんに送ってあげよう。

 エレナと会う時はもともと性別を合わせようという約束をしていたので、確かに男女でというケースはほとんど無いと言っていいかもしれない。敢えて言えばエレナのおうちでの誕生会くらいなものだろうか。アレはエレンとルイとして参加している。周りもお似合いのお二人ですねなんていうけど、そういう関係では当然ない。

「なんか違和感ありすぎで、ちょっとないくらい引くね」

「ひどっ。これが本来の……姿。です。はい」

 うぅ。大学に来ているときは基本的には男子である。高校の時だって男子だったわけだし……う。週末の印象の方が強すぎてルイさんの比率の方が思い出としては大きいような気がしてならない。

「まっ、そういうことならいいんだけど……それで? 学園祭の目玉的なものとか案内してくれるのかな?」

「ああ。まあ俺も昨日は仕事中心であんまり回れてないんで、これがオススメーみたいなのはないんだが」

 うちにゃーつれてかんですよというと、えぇーコスプレ中心のサークルなんでしょーと言われてしまった。

 うん。正直、特撮研のみなさんはエレナさん大好き過ぎるので、そんなところに連れて行くことなんて出来るはずがないのである。あんまり会わせたくないのだ。

「とりあえず学校案内しながら、ぶらぶらしよう。うち割と多目的トイレもいっぱいあるし、行きたくなったら連れてくから」

「うぅ。馨ちゃんがボクのトイレ事情に食い込んでくる……そんなに近くないし、冷えたりとかもないんだけどなぁ」

「念のため、だって。いまだに外では性別不明を貫く気まんまんなんだろ?」

「そりゃまあ、まだまだあと数年は隠しておきたいところだけど」

 よーじとのこともあるし、とりあえず二十歳までは、とこそっとつぶやく。

 どのみち親父さんをなんとかしないとよーじ君との交際は公的に無理だろうし、性別不明の方が親父さんの目をかいくぐる意味でも便利に違いない。

「にしても、ほんと男状態の馨ちゃんとの距離感が難しいなぁ。なんかぶっきらぼう系男子を演じてるみたいで、見てて違和感しかない」

「うぐっ。そんなのエレナだって誕生日の時は違和感ありありじゃん」

 まあ、こいつの場合はふわふわした感じの男子に仕上げるから、多少はましなのだろうけど。いや、まった。

 こちらは演技をしているわけではまったくないわけで。

「えっと、今日は姫と騎士みたいな設定でどうかな? さぁ淑女(レディ)。お手を、とか」

 自分で演技をしておいてキャーと彼女は顔を赤らめる。おまいさん絶対よーじに言われた設定で妄想してたろ。

 たく。こっちとしては王子声がかっこよすぎてなんて無駄遣いなのって感じだ。低くはないんだけど女性の声優さんがイケメンを演じるみたいな感じ。

「それで、私に姫役をやれとおっしゃるのですか?」

 なんかそのままにするとしゃくなので、こちらも女声に切り替えて不満そうに切り返しておく。

「あはっ。もう眼鏡も変えちゃってそれでいこうよ。やっぱり女同士のほうがしっくりくるし」

「だが、断るっ」

 えーと不満声がきたけれど、そればっかりは譲れない。

 エレナが居て、シルバーフレームの木戸が居てとなると、知人に見られたらいろいろときわどい状況になってしまう。

 ルイ=木戸というのを知られてはまずい人だってこの学校にはいるのである。

 主に、田辺さんとか田辺さんとか田辺さんとかねっ。

 日常生活が、だいぶまずいことになってしまうだろう。

 あと、長谷川先生あたりも、きっともっと粘着してくるようになる。ルイ氏ーとかいいながら、カメラ談議である。あ、こっちは楽しそうかも。いや、でもダメだ。

「とにかくぶらぶらしながら、いろいろ見て回るぞ。女装系のイベントもあるっぽいし」

「あー、見てがっかりする感じのやつだね。うちのガッコでもあるっぽい」

 後夜祭とかでやるコンテストとかだとクオリティ高い子もいるんだけど、なんていうかなーと困った顔をするエレナさんの意見にはほぼ賛成であります。

「日常的に女装してる人と比べてはいろいろイケナイんじゃない?」

 とはいえ、これは慣れの部分も当然大きいので、いくら仕草を研究したりしたとしても付け焼き刃では限界もある。仕草の研究をした上でそれが自然に出るようになれば、違和感はほぼなくなってくれる。

 でも、そこまで出来る人がどれくらいいるか、と言われたら、ほぼ本職というか千歳くらいのがっちり性別変える系くらいじゃないと、そうそうやるものでもないだろう。

 エレナは大好き過ぎてそっちよりなわけだし、ましてや木戸の理由のような人なんてほとんど居ないだろうと思う。なんか最近女装が普通みたいに思われてるけど、撮影のためなのですよ?

「あ、でもこの人、割と良い感じじゃない?」

 エレナが立ち止まったのは、何人かの写真が載っている看板の前だった。建物の中でやっているイベントらしく、紹介用に写真が貼られてあるのだ。ホストクラブとかがこんな感じ、なのだっけ?

 でもそれと決定的に違うのは、その写真に写った人が全部女装してる人という点。

 女装喫茶であることが告げられていて。

「さぁお目に止まったお二方、是非ともうちでお茶でもいかが?」

 客引きに来たのだろうか、鈴音さん由来の女声で声をかけられた。

「ってぇ、志鶴先輩、なーにやってんすか」

「ああ、馨。と、そのお友達かー。あたし一応いくつかサークル出入りしてるしね。それの一つで駆り出されてるのさ」

「志鶴先輩監修となると……すさまじきクオリティを期待」

 うん。木戸の目からは女装男子であることがわかる志鶴先輩ではある。だけれど他ではまずばれないだろうし、そうとうのクオリティの持ち主なのである。特に声は違和感はルイと同様にまったくない。

 そんな人が監修をしているのであれば、最低限はなんとかしてくれるだろう。

「んー、それが今回は一個人で参加で、仕切りは他に任せたんだよね。そうしたら……うん。まあ実際見てみるといい」

 ウェルカムドリンクをサービスしちゃうから、と言われてエレナに視線を向ける。

 あれま。目をきらきらさせてしまっておいでだ。まあ志鶴先輩を見たらエレナならそういう反応ですよね。

 男の娘大好きですもんね。

「祭ならありっちゃありな光景……ですか」

「おー、いらっしゃーい」

 うぇーいと野太い声が来客に向けられる。ええと、喫茶店なのにここはどこの居酒屋なのでしょうか。

 しかも部屋の中は暗幕が貼られてあって薄暗く、照明も弱めに落とされている。

「SPが根こそぎ奪われていく……」

「あはは。エレナちゃんには刺激が強すぎたかな」

 志鶴先輩が苦笑気味にこの異空間を眺めていた。

 うん。なんというかマッチョ女装の人が結構多いのだ。肩だしのドレス姿なのに二の腕がすげーくごついとか。

 そういう狙いの店というのもあるにはあるし、新宿とかに行けばそっちの店もあると聞くけれど。

 濃いなぁ。

「って、さすがに気づきますよねー。特撮研の人間としては」

 一瞬その異空間に飲まれそうになっていたけれど、志鶴先輩の言葉にはしっかりと反応しておく。

 そう。反応した場所はエレナちゃんって呼びかけた点だ。

「まね。馨との関係は女装同士ってことで、おk?」

「さぁ。こればっかりは志鶴先輩でも内緒ですよ。エレナの性別についての情報はノーコメントで」

 ちぇ、先輩権限で聞き出せるとちょっと期待してたのに、と彼女は子供っぽい反応を返してくれた。

「ええと、馨ちゃんとはどういう関係なのですか?」

 完成度の高い女装の人をきらきらした目でみつつ、エレナは気になっていることをまず尋ねたようだった。

「特撮研の先輩と後輩っていう関係っていうのが一番波風立たないのかな? 両声類同士っていう関係でもあるんだけど」

「昔、俺が声のレクチャーしたことあったじゃん? あれの大本の理論を作ったのがこの人のお父様だったというお話です」

「お父様……それはまた……」

 エレナにはその一言でいろいろとわかったらしく、少し表情を柔らかくしていた。

 どちらに向けての同情なのかまではわからない。

「それで、馨はエレナちゃんとどうして親しげなのか、教えてもらいましょうか」

 さぁどうして今までそれを隠してたのかも含めて、ほれ、吐くがいいと言われて肩をすくめそうになる。

 こうなるから言わなかったんですって。

「長谷川先生の所に特大パネルがあったりもするし、特撮研のみなさんエレナに関してはほんっと食いつきいいじゃないですか。変に騒がれるのも嫌だったんで、ここではあまりその情報は出さなかったんです」

 関係はお友達です。恋人ではないですと言っておくと、そういう雰囲気では確かにないよねと言い切られてしまった。

 事実だけど。

「親しげな理由はまあ普通に友達だからというしかないですね。出会いとかにドラマがあったりなかったりしますけど、内緒です」

 しぃと人差し指を口許にあてていってあげると、先輩は、それが食い付きのもとかーと気だるげな声をあげた。

「時々馨ってば男子状態でもえっらいかわいい雰囲気出すときあるんだよね。それを前提として、女装してるときにばったりあって意気投合、リアル男の娘だっ! なんて話になって盛り上がった、とか?」

「んー、まあ近いといえば近いですね。馨ちゃんの女装姿はかわいいのよーく知ってるし、時々女同士でデート擬きをすることもあるし」

 小物みたりとか、いろいろというエレナの一声に、あぁなんかあのエレナちゃんとそこまで仲がいいだなんて、と志鶴先輩はぐっと拳を握って羨ましがっていた。

 志鶴先輩とエレナは面識はないようだけれど、一方的に写真集とかが部屋にある関係もあってよく知っているという状態なのかもしれない。

「ハニートラップティーでーす。ごゆっくりー」

 そんなやり取りをしていたら、注文していないのにお茶がでてきた。ドリンクおごるよって言っていたのでそれかもしれない。

 にしても、ほんっと欠片も女子を装うという気構え自体がまったくもってないその姿はむしろすがすがしいほどだ。

「ああいうのはああいうので、アリってくちだよね、馨は」

「まーそっすね。自分でやるなら最高を目指すけれど、祭の雰囲気のなかでこういうのは悪くはないと思います」

 路上でとなると、女装してる子の印象が全体的に悪くなってしまうので、良し悪しって感じがしますけど、と答えておくと、志鶴先輩はちっちっちと指を左右に揺らす。

「女装のクオリティが低い人が居れば居るほど、世間の認識は、女装無理って方に傾くのね。そうなるとパス率が飛躍的に上がるのさ」

「目の問題ですか。みんなが疑いの目を持って相手を見るようになると、それだけ査定が厳しくなるっていう」

「そゆこと。その目を真っ向から受けても、どっちかわかんないエレナちゃんはまさに神だと思うけど」

 そんなことないですよー、とエレナはハニートラップティーを飲みながら照れた声を漏らしていた。

 うん。十分かわいいし、普通にしているとまさか男の娘だとは思えない。

「でも、それを言えば志鶴先輩だってそうとう目が肥えてないとわからないんじゃないですか? 自分でやるってレベルじゃないとそうそうわからないですよ」

「まあそりゃ自信はあるけどねぇ。どこかの誰かさんに即答されたりもしたからねぇ」

「それは馨ちゃんが魔眼の持ち主だからですって」

 甘くておいしーと紅茶を飲みながら、エレナがほっこりひどいことを言う。

 まあ魔眼持ちなのは否定しないけれど。カメラをやっている関係もあって、人よりは性別に関しての見分けは得意な方だと思う。

 ちなみに紅茶が甘いのは、はちみつが入ってるからだそうだ。甘くてのみ過ぎると糖質のとりすぎになるトラップが仕掛けられているのだそうだ。

「ま。町中ではネタ女装はほどほどにということで」

 かっちり作り込みましょうといいつつ、木戸もハニートラップを口に含んだ。甘い香りがすんと身体に入ってきたのだった。

三日目のおともはエレナさんでした。この子と一緒だとどうしても女子っぽさがでてしまいますね。

そしてエレナさんはさすがに特撮研には連れて行けないので、本日彼らの出番はありません。


さて。実は三日目をかききってからアップしようと思っていましたが、酔いつぶれて寝ていたので、とりあえず前半のみをお先にお届けです。後半も今日中にはアップ予定。明日はクリスマスあわせをしたいので、きりよくいかねばなりませぬ。

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