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212.健と楓香の学園祭1

健と楓香の学園祭話1でございます。ちょい分割した関係で短めです

「健とは関係なくてもイベントはたつもんだな」

 世の中変わったもんだーと、健の学校の入り口で配っていた学園祭のパンフレットを見ながら、そんな感想がこぼれた。そこに書かれていたのは去年木戸たちがやったようなコスプレレンタルのブースだ。

 一昔前なら、学校でコスプレなんてサブカルチャーを堂々とやれる空気ではなかった。

 それが今ではこれである……。うん。それに関与した自覚はありますが。でも、学校のお偉方が企画をして、さらにそれを通してしまった経緯があるので、はっきりいってルイだけのせいじゃないと思う。

「まあな。どっかの誰かさんが学校でコスプレイベントをやるとかいう前例をつくっちまったもんだから、他でもやってまえーって感じなんだろ」

 まあ、どこまで本気なのかはわからないけどな、となぜか健は浮かない顔だ。

 本日は、健と楓香がそれぞれ通っている高校の共同の学園祭に参加させてもらっている。もちろん健の手前女装はなしで木戸としての参加だ。カメラも木戸用のものを持ってきている。

 そんなお祭りだというのに、健ったらどこか悩ましそうなお顔をなさっている。

 でも、そもそもそんなに期待をすること自体が間違っている。我らは素直に「男子校でこういうイベントが立ち上がったこと」をこそ喜ぶべきだ。

 男子校でこのイベントが成り立つというのがまず珍しい。それというのもコスプレは圧倒的に衣装をつくるのが大変なので男子が裁縫をやるかといわれたら、なかなかに難しいのだ。そりゃ木村みたいなのもいるし、みんなが苦手とはいわない。ただ絶対数が少ないからこういうイベントがあると、お? と思ってしまうのだった。

「正直あんまり噂も聞かないから、どんなもんなのかは期待しないほうがいいぞ」

 健は口ではそういいながらも多少期待したような視線をパンフレットに向けている。って、見てるのは女子校の方主催のコスコンのほうか。そっちは力が入ってるようにもみえるし、夕方からやるので是非見に行こうと思っている。

 ちなみに健のクラスはそこまでのやる気がないようで、展示に落ち着いているらしい。というか三年は比較的力を入れないのはどこの学校も同じなのかもしれない。受験もあるのだし。

 とりあえずぱっと学校の周りをまわらせてもらう。

 普段きたことのない学校に入るというのは少し新鮮なものがある。男子校ではあるものの、姉妹校と共同開催なので男女入り乱れての活気に満ちているという感じだろうか。

 校舎は普通にすごい。もちろんエレナのところよりは数段落ちるけれど、綺麗に掃除されているし、設備だって立派なもんだ。空調の完備はもとより教室に備えられてるテレビも新しそうに見える。

 うん。ろくに高校でビデオ教材なんて使わないのにもかかわらず、昼の放送部員の放送のためだけにあれはあるんだろう。豪華じゃないか! 時々でいいから写真部の写真とかあそこに流してくれたりしないかな……

 空き教室は全面的に開放されていて、二つの学校のイベントを一個でやってしまおうというようなノリらしい。

 一クラス三十人くらいの学校は、木戸が通っていたみっちみちな所に比べれば余裕があるように思える。

 ちなみに、エレナのところも一部屋三十人くらいだった気がする。あっちは施設がさらにボリュームアップというくらいか。

 もちろん木戸の高校時代も十分だったと思っている。生活に支障はないし必要十分な環境だったと思う。女子の制服は個人的には好きな方だし、クラスメイトが妹のためにってやってたアンケートの項目でも高評価だった気がする。ま、木戸氏は男子ですから「女子向け」のそのアンケートはやってないのですけど。

 ……えと。みなさま。着るの前提ではなくて、見るの前提で話したつもりですよ? ほんとですよ?

 うう。だれも信じてくれない……しくしく。

 ああ、そうそう。

 来年はあちらの女子校が舞台になるのだというけれど、ゼフィ女よりも人の出入りは厳しくないという話だった。女子高ではあるけれど、お嬢様学校じゃないからというのは楓香の言だ。あっちの学校も機会があれば行ってみたいと思う。女子校とかなんかいろいろといい風景がありそうじゃないですか!

「私立は設備が大変によろしいな……」

「馨にーは公立だっけ?」

「制服も学ランだしな。ここみたいにオシャレな感じじゃないやつ」

「旧体制の象徴の黒学ランもコス衣装としては割と重宝するアイテムだけどな」

 うはっ。ルイさんの彼学ラン想像して鼻血吹きそうと、健がいけない妄想をしていた。

 まて。確かにたぷっとした学ランをルイがきたら似合うとは思うのだが、自分のはもちろん体格に合わせてある。彼ラン状態にはならない。さすがに他の男子の制服の上着を……なんて展開はさすがに高校時代はありませんでしたとも。そりゃ、青木や木村の学ランをかりればぶか学ランが実現するんだろうけど、する意味がわからない。

「俺としては是非、馨ねぇのブルマ姿をみたいわけだが」

「……んとさ。さすがにあれは俺でも恥ずかしいぞ。ハーパンになって女子が大喜びなわけだけど、あのお尻にぴちぃって感じがいろいろまずいんじゃないか?」

「……前をきにしねぇ馨にぃにげっそりだよ。気にするのは尻かよ……」

「だ。だって健だってお尻のラインは気にしてるでしょ?」

 当たり前な台詞をあたりまえにいったのに。全部男の格好なので無意味でした。

 ルイとしてなら。クロキシを相手にしてなら通る日常会話なのに。

「いつか、ブルマと体操着だぶっと着こなしたコスはしてもらうとして、どこか行きたいところがあれば」

 案内しまっせと、展示で終了で当日フリーな健は肩をすくめながら言った。

「じゃ、まずは園芸部からいこーじゃないですかい? 女子がいっぱい集まりそうな、ヘルシー野菜ジュース即売会という感じで」

「ぐぬっ。男子でそこに食いつくって言うのはどうなんだ?」

「どうもこうも、甘い物とか野菜ジュースとか気になるのですよ」

 女子め……と普通に従兄弟どのに言われたが、しかたがない。

 日常生活での興味がどうしてもそちら側によってしまうのは、もうルイとしての生活が多い自分としては仕方ないことなのである。

「それに、案外男子校に通う男子が同じ発想してるかもしれないぞ? よく店なんかでもあるじゃん? 女性客をつっておけばそれ目当ての男性客も来るってさ」

「馨にーのは、純粋に女子側の発想だったわけだが……」

 ま、そう言うなら行ってみますかといわれて、彼に案内されて園芸部のビニールハウスに向かう。

「……ていうか一つの部活がビニールハウス一個貸し切れるとかどうよ」

「それはほら、園芸部は学校中の花壇のサポートをしてるからな。そういう功績があってそこそこ予算がつくんだ。それに品種改良とか、土壌改良とかもやってるらしいんだよ」

「へぇ。こういうとこだと花のたぐいかと思いきや」

「男子校ってのもあるし、思いっきり食い気だな」

 ついたぞといわれたそこはででんとビニールハウスでありました。

 今の時期はぶどうがとれるというので、そこそこ人が集まっている。

「あっ、木戸さんだ……」

「うわ、君が園芸部所属とはちょっと意外」

 そして、なぜかそこでフルーツを振る舞っているのは、健の悪友その一だったのだ。

「やっぱ馨にーもそう思うよなぁ。こいつ最初は、フルーツとか作れば女の子が寄ってくるんじゃね? とかいう不純な動機で始めて、土いじりにどはまりしたんだ」

「……うぅ。木戸さんが女装じゃない」

 せっかくあっちの格好なら、花束でもプレゼントしようと思ったのにと、彼はがっくり肩を落とした。

 どんだけ期待していたんだ君は。

「個人的には薔薇より百合が好きデス」

 ちょっと本気でロックオンされてそうなので、げんなりしながらそう言っておく。

 果たしてどれだけの人が理解できるだろうか。健はぽんぽんと肩を叩いてくれているから、わかっていますという感じだろうか。

「それより、さっさか野菜ジュースとかフルーツジュースとか下さい」

 さぁはよと花束話をばっさり切り捨てて本題に入る。

 周りにいる方々は紙コップで何かをのんでいるので、こちらもさっさといただきたいのである。

「ったくつれないなぁ。木戸さんが冷たくて俺は悲しい」

 ほい、と渡されたのはなぜか青汁だった。こんにゃろう、いじめか。これはいじめなのか。

「一番人気なさげなの出してきたな。ま、馨にー。おいしくいただいてあげろよな。身体にはいいだろうし」

「うぅ。もっと甘いものが欲しいんだが」

「女装してきたら、あっまいぶどうジュースを振るまってあげます」

 ひどい。完全に私利私欲じゃありませんか。

 でも、周りの子たちが甘いとか、おいしいねーなんて話をしてると、ぶどうジュースも飲みたくなるというものだ。

 とはいえ、そのために女装をというのはちょっと難しい。

 そもそも今日は着替えのたぐいを一切持ってきていないのだ。せいぜいがシルバーフレームの眼鏡くらいなので、これを変えても……いや、変えるだけで女子に見えますけど。女装の範疇にはいるのかどうかが疑問だ。

 全体的に男ものを着てて、女装だなんだと言い張るつもりはまったくない。

 しかたなく、青汁をくぴりと一口。

「あ、でもこれも結構いけるかも」

 まずいーもういっぱい、なイメージがあるので青汁には少し勇気が必要だったわけだけど、ここのはなんか普通に苦くもないし、すっきりした感じだ。もちろん食物繊維たっぷりっぽくて、とろっとはしているけれど。

「……満足されてしまわれた……うう。うちの青汁の飲みやすさにがっかりだ」

 しょぼんと健の友人Aは肩を落とした。

 今日はこれだけまわりが女の子だらけで華やかなんだから頑張れば良いのに。

「大盛況なんだから、声かけてみればいんじゃね?」

「どーせ果物屋の店主くらいにしか思われてないよ。去年もダメだったしきっと今日だって……」

 どうせ今年もダンスは一人に違いないとがっくりきていると、ついかわいそうと思ってしまうのは悪い癖だろうか。

「んじゃ、もういっぱい」

 うっかり女声になりそうなところを押さえて、青汁をもういっぱいいただくことにしたのだった。

学園祭シーズン突入ということで。第一弾は健んとこです。

エレナのところにはおとりますが、ほどよい環境なのではないかと。

ほんとはビニールハウスでイチゴでも食べさせてあげたかったのですが、旬が……ね。


さて、次話はコスプレブースをみにまいります。まあ、高校の出し物って熱量でいくらでも変わってしまうよねみたいなお話です。

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