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210.はるかさんと腐イベント2

「で? 午後はルイで出ろって? それ先に言って欲しかったですよね」

 スタッフの控え室の中で、はるかさんと二人きり。今日の彼女は主催者ということもあるけれど、珍しい男装コス姿だ。はっきりいってノエルさんがやるようなショタコスに近いのだけど……えと。はるかさん? いちおう貴方二十代半ばを過ぎてる男性のはず……なのになんで男装コスに見えるんだろう。なんて思ってしまうくらい、普通に今日もおねーさまオーラ出しまくりでありました。きっとメイクと声の力なのだろうな。

「だってー馨ちゃんなら、いろいろいつも持ってるでしょ?」

「まあ、持ってきてますけどねぇ」

 解放されたらルイ状態で近場の撮影スポットにいってみようかなんて思っていたので着替えは一式そのままそろっている。ウィッグもあるのでじみーにそれなりの量なのだけれど。出先で着替えることが多い身としては割ともうこの程度の荷物は慣れっこだ。

 それじゃ、控え室使っていいから着替えちゃってくださいなー、とはるかさんが言うので、鍵をしめてから着替えを済ませる。監視カメラのたぐいもついていないというし、まあここなら安全だろう。

 更衣室は使えないしじゃあこっちでという彼女なりの配慮だ。しかもこの控え室は会場側にでる扉と廊下側にでる扉があるので、外側から出れば人にほとんど会わずにさも今来ましたというくらいの感じを装える。

 まずはウィッグをかぶってから着替えを始める。万が一のぞかれてもいいようにという配慮だ。

 そういうのがなければ最後にウィッグの方が絶対にいいのだが、万が一ということもある。

 シャツを脱いで軽く汗を拭く。夏場ということもあって少し汗ばんでいたので、必要な処置である。

 いつもは冷えるシートを首の後ろあたりに貼っているのでそこまで汗もかかないのだけど、男状態だったらそこまで匂いも気にしていないので、何の対策もしていないのだ。

「ふぅ。夏場はスカートの方がいいと思ってしまう時点で、なんか駄目な気がする」

 もはやいまさらなわけだが。膝上くらいの藍色のスカートと黒のノースリーブのカットソーを合わせているので、正直さっきの服装よりも風が体に当たって涼しい。夏なのにくらいコーデだなと思ったそこのあなた! 肌の白さが浮き立ってこれはこれでいいものなのです。

 足下はカカトがそこまで高くないサンダルだ。コルクっぽい素材の茶色のサンダルである。

「んし。今日はポニテで行こうじゃないか」

 白のシュシュで髪をまとめる。首筋が見えるだけで涼やかである。ウィッグであろうと夏場はどうしたって長い髪を背中にたらしていると暑い。普段がショートな身としてはいささかしんどいのだ。

 それから軽く顔をウェットティッシュでぬぐう。本当なら洗顔をしたいところだけれど、施設的にそこまでは無理なので、顔を綺麗にしてから日焼け止めを塗り直す。普段から使ってはいるものの、あちらは色がつかない普段使いでルイの時に使っているのは顔色が少しだけ明るくなるものだ。ファンデを使わない代わりに使うにはちょうどいい。

「あとはカメラのチェックですな」

 うん。完璧と鏡を見ながらうなずくと、カメラの調子を念入りにチェックしていく。光度計をポーチにいれつつ、SDカードの容量もチェックだ。昨日チェックしているので中が空なのはわかっていても念のため。

「ここのロッカーって鍵がかかるっていってたけど、コインロッカーじゃなくていいのは、いいなぁ」

 私物と着替えをロッカーに入れて貴重品とハンカチや小物をポーチにしまう。あとはロッカーの鍵を閉めればこれにて準備完了である。

 いちおうタブレットでこの会場の話はチェックしてみたのだけど、さすがにルイさんくるかも的な話はそんなに多くはかかれていなかった。まあ小さな会場だしもともと期待もしてないのだろう。

 会場を見ていても即売会のほうがメインの会だしレイヤーさんはせいぜい五十人もいればいいくらいだ。

 ルイへの注目度がどうなのかわからないのだけど、とりあえずカメラをもって撮影をするだけだと心を決めるのだった。




「お写真撮らせていただいてもよろしいですか?」

 集まる人の中で、二人にターゲットを絞って声をかける。

 実を言えば、午後はルイさんくるかもという話を聞いてからちらちらレイヤーさんをすでに物色していたのである。

 会場に入った時は特別に周りも何も気にしていなかった。

 まあみんなイベントに集中しているし、戦利品をむさぼり読みながら、やーんとか、はわーとか遠慮のない喜びっぷりを発揮している最中だ。

 今回のはるかさん主催のこのイベント。原作もそうとう腐っていらっしゃるもので、別段お客が勝手にカップリングをして腐らせたものではない。原作からしてきわどいシーンも多発してあったし、この会場に集まるような人達むけに作られているのをすでにルイは知っている。

 二次創作の方も、カップリング押しというのもあるけれど、もともと原作でもご褒美なシーンがいっぱいある。

 そんなわけで、完成度が高そうな二人組を選んだわけだ。

「な、ななな。ルイさん!?」

 あ。声をかけたらなんか固まった。

「はいっ。ルイさんですよ? しっかりとした男装だったので是非二人であんな姿やこんな姿をしていただこうかなと思っていまして」

 粘着させていただいても? というと、二人とも男装姿なのに、やったーと黄色い声を上げていた。

 ええと。それくらいうれしがってくれるのは好ましいのですが、せっかくの男装なのだしなりきっていただきたい。

「んじゃ、シフォンとザンパーの絡みでこれは見せたい! みたいなのがあったらどうぞ」

 声をかけながら、まずは彼女達の好きにさせる。見せたいところを撮るのがルイ流である。

「お。いい表情ですねぇ。そこからのー」

 きっちりあいの手をいれて感情も高ぶらせていく。コスプレというものはなりきりだ。どこまでそれができるのか。

 ルイとしては言葉で誘導しながら上手くのってもらう。そうすれば表情だって自然とそのキャラっぽくなっていくものだし、あとは微調整を加えてやればいいだけだ。

「ルイさんすげぇ……さすが」

「ああん、今日こんなことになるならコスプレしてくるんだった……」

 会場の数少ない男子が、いつのまにかできた人垣の中に混ざっていたようだ。木戸は退場してしまっているので今は会場には四人しか男子がいない。堂々と男同士の行きすぎた友情が大好きと言えてしまう猛者達だ。

「ああ、この場にクロキシ様とノエル様がいればさらによかったのに」

 お二人の絡みもこの人数で独占できたらーとため息交じりの声が聞こえたけれど、今日は健はお休みだ。

 そしてエレナはというと。

 この作品には男の娘がでてこないから興味ないと言っていた。うん。正論ですよね。

 ショタっこはいるけど、女装はしないんだよね。そういうキャラがいるならはるかさんだって絶対やってただろう。

「さて、ではデータもお渡しということで。いかがでしょうか?」

 五十枚くらいは撮影しただろうか。それを相手に渡すと、きゃーんと再び黄色い声が会場に響いた。

 ええと。なんだか先ほどよりも人垣が多くないですか? ブースは? 即売会は?

「はいはいっ。ストーップ。次から撮られたい子はくじ引きで行きましょー」

 第一被写体さんは恒例のルイさんの指名なわけだけれど、二人目からは集まった人達同士でひどい状態になるのが目に見えているので、はるかさんがあらかじめ用意してくれていたそうだ。

 時間的にとれるのはあと十人くらいだろうか。

「あたり札には二から十までの数字が振ってあります。番号後ろのほうだった場合はちょっと時間たりないかもなのでご了承ください」

 その発言に周りから少しだけ不満な声が漏れた。

 早い者勝ちで、自分が撮られたいという子が多かったせいだ。 

「えー、はるかさんだって、撮られたいでしょ?」

「僕のことは別にかまわないんだ。主催者ってのはそういうものだし、それに……」

 ちらりとこちらに視線が向けられる。言えばいつだって撮ってくれるよねということだろう。

 ま、はるかさんとは知己ですし、いつでも撮影はしてあげますよ。それこそプライベートで。

 岸田さんとの二人きりのデートに密着取材して、こそこそ隠れ撮りもしてあげますよ、もう。

「あのー私からも一つお願い! トイレにだけは行かせてくださいまし!」

 その一言でぎすぎすしていた雰囲気がいくらか和らいだ。うん。トイレ効果は絶大である。

 基本的にみなさんは良い子なので、順番で撮られたい人はくじ引きをしていった。

 その間は暇もできたので、カメラをいじりながら、まわりの景色を見ておく。

 うん。まあイベントホールという感じで特別特徴もない部屋だ。セットが用意されていたりもない。

「あの。ルイねーさま……いつもこんな感じなんですか?」

「んー。まあだいたい、そう、かな」

 一人フリーになっているところに声をかけてきたのは楓香だった。

 学校の方々が、ちょ、なにあんたやってんの、畏れ多いとか言ってるけれど、別にルイと楓香の間柄なのだしそもそも話しかけるのが畏れ多いとかやめていただきたい。ルイさんは普通の一般人なのですよ。

「腐会場以外でも?」

「うん。大規模のイベントだと早い者勝ちみたいな感じで殺到するか……エレナがいれば遠慮してくれたりするかな。最近はほんと第一被写体さんくらいであとは選べない感じ」

 ま、どんな被写体さんでも徹底的に撮るんだけどさ、というと、楓香はふへーとため息交じりの声を漏らした。

「それにほら、あたし別に腐専門ってわけじゃないし、なんでも撮れないとかなって感じで」

 基本的にそこまでこっちの世界にどっぷり浸かっている訳ではないのですと答えておく。うん。そもそもルイさんは風景撮影の人なのだ。みんな忘れてるかもしれないけどね!

「でも、ルイさん。BLカフェでお仕事したって話を聞いたことがあるのですが」

 楓香が気安く話しているからか、勇気を振り絞って九重部長さんがこちらの会話に混ざってくる。

 彼女はコスプレしているわけではないので、くじ引きの列には行っていないようだ。 

「あれは、友達に連れられて行ったらレイヤーの知り合いがいて、とんとん拍子で話が進んだんですよ。私、あそこの特待生扱いで、しかも写真部って設定です。突発的にイベントみたいな風にしちゃいましたけど、お客さんは喜んでくれてたのかなぁ」

「あっ、それ、私その場にいました! 二人の絡みがそれぞれ艶めかしくて、きゃーって内心はしゃいじゃいました。あの後できた写真も他の日に登校したときに見ましたけど、もー、ちょー最高! すごかったですー」

 九重部長が参加したのを皮切りに、他の手持ち無沙汰になっていたまったくしらない子が話しかけてきた。

 ああ、あの場にいたのですかこの子。

 楽しんでいただけたなら何よりであります。

「やった! 二番げっとー!」

 そんなほっこりした会話をしていたら、くじ引き組のほうでついにあたりが出たらしい。

 十番まではかみが入ってはいるものの、後半になればなるほどあたりであっても、はずれに近くなる。

 五番くらいまでは確定とはいえ、二番を引けたら嬉しいに違いない。

「とまあ、そんな感じでルイちゃん。なんか強引にイベント扱いにしちゃって悪いけど、撮影お願いしていいかな」

 今度シフォレでアップルパイ奢るからさ、と言われてぱちりとウインクされると、おぉ、男装なのにかわえーと思ってしまった。

「その時は、彼とのデレ話も存分に聞かせてもらいますからね」

 ふふふ、と答えると、周りがはるかおねーさまの恋人!? と少しだけ騒然となった。

「まだ恋人じゃないんですー」

 もう、あんまり盛り上がらないでよーとてれてれにいうはるかさんはやっぱりかわいくて。

 くじびきはしていないのだけど、一枚パシャリと撮らせていただいた。うん。すごく恋する乙女という感じで可愛い写真である。岸田さんにあげるかどうかと言われると……まあ。うん。後で考えよう。

「では、ルイさんに撮られまくり会のスタートというわけで」

 くじ引きも終わり、さぁはよと十番あたりの人にせかされつつ、撮影は始められたのだった。


BLもののオンリーって行ったことがないのでかなり想像で書いてます。そもそも男装キャラばっかりなんだろうなーとか、はるかさんも男装かーとか。

岸田さんとの関係は、ほぼ恋人。でもプロポーズはされてません。というような感じ。

 大人時間はヤバイです。すぐに四ヶ月とか経っちゃいます。でも岸田さん的には俺の嫁とか思ってるんだろうなぁ。ほんともうできる男なんだからちゃんと言葉に出しなさいよと言いたい。


 次回は楓香と一緒に町周りです。久しぶりにクロキシさんのご友人たち登場です。

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