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206.花火

お待たせいたしました。久しぶりの撮影回でーす。

「確かに二十分前にきて、待っていてとはいったけど……」

「これは、ひどい……」

 なぜか崎ちゃんとさくらがひどい顔をしていた。

 現在午後の六時。待ち合わせ時間ちょうどで、待ち合わせの場所にはきちんとご指定通り二十分前には来ていた。

 厳密には待っていたというより、その場にいた、という形容が正しいだろうか。

 今日のルイの装いは橙色の浴衣姿。木村に言われたお前のイメージの色、ということでこうさせていただきました。着付け? そこらへんはもうしっかりと覚えたので大丈夫なのです。普通の和服に比べると浴衣の帯の結び方なんていうのはかなり簡単なものなのであります。そして頭の左サイドに花かんざしをつけていたりする。普段そこまで髪飾り系は使わないのだけど、まあお祭りだし、きらきらしてる崎ちゃんの隣にいるとなるとこれくらいやってもいいだろう。

「待ち合わせに本を読んだりスマホをいじったりするじゃない? それと同じことでしょう? 待ち合わせの待ち時間に写真を撮ってちゃいけないっていう決まりはないです」

 あんまりな言いぐさなので、むぅと拗ねながら二人を見る。

 崎ちゃんは赤に百合の花という感じの浴衣で、さくらは名前にでもあやかったのか薄紅色に菖蒲(あやめ)だ。まだ夏の日差しはあるのでその姿をまず一枚撮っておいた。

 もちろん、さくらにも撮られたのだけどそれはおあいこというやつだ。

「そりゃそうだけどさぁ……なんていうか……」

「珠理さん、諦めたほうがいい」

 ぽふっと肩に手をおいて首を振るさくらに、崎ちゃんも、むぅと不機嫌そうな顔をしながらもしょうがないと諦めたようだった。なんなんだろうこの扱い。っていうか、さくらさんや、あなた崎ちゃんと仲良くなりすぎではないですか?

「っていうか、それをいうならさくらだってばっちり三脚装備じゃん。あんまりかわんないじゃん」

 ルイのバッグの中にも三脚はしっかり折りたたんで入れてある。夜撮影の鉄則であるし花火を撮るなら必須アイテムである。

「そりゃ三脚は必要っていうか必須だしっ」

「おまけにカメラ新しくしてるし……」

 うん。さっきから視線はしっかりと彼女の胸元に向いている。別におっぱいを見てるわけじゃなくて、そこにあるカメラを見ているのだ。

「さすがにあたしもそろそろ新しくしようかなって思ってね。ルイに先を越されっぱなしじゃ嫌だし」

 天才は道具を選ばないっていうけど、やっぱりちょっとはね、という彼女の台詞はとてもよくわかる。

「っていうか、あんただって今日はそっちじゃないの。ルイとしては使わないとかなんとか言ってなかったっけ?」

 彼女が指摘しているように、今日のカメラはルイ用として使っているものではなく、三月に新しく買ったほうだ。

「ま、イベントに来てるわけでもないしね。夜ならカメラの機種とかわかんないだろうなって思って」

 それに花火なら断然センサーとか良い方がいいじゃんというと、まあ、そりゃそうだけどとさくらに同意していただいた。

 そんなやりとりをしていたら、なぜか崎ちゃんにむっとされてしまった。

 しかたないじゃん。写真家同士のコミュニケーションだもの。新しいカメラとか持ってたら話題にしない手はないんだもの。

「それで? 今日はどうするの? 縁日とかもやってるみたいだけど」

 とはいっても、この姫様を放置するわけにもいかず。

 では、お嬢様、どうなさいますか? と方針を尋ねる。

 花火に行きたいという話はきいた。二十分前には待っていろという指令もきちんと完遂した。こっちはかなりご不満なようだけど、別に待ち時間になにをしていようがこっちの勝手なので許していただきたい。

 それで、そう。ここら辺の花火情報はすでに下調べはしているので、どこでなにをやっているのかは把握している。

 う、うん。別に花火の上がる場所とか、光量とか余計な光とか、そういうのを計算してたとか、そういうわけじゃないよ!? どこかに連れてけといわれたときに、その、すぐに答えられるようにといいますか……はい。すみません。花火を綺麗に撮るためにいいスポットはないか、というのを中心に情報収集させていただきました。

 だって、余計な光がはいったら綺麗な花火の写真撮れないじゃん。

 正直、数時間前から風向きの情報をチェックもしてる。煙がどうなるのかとかそういうのもあるわけだしね。

 風上を是非ともとらせていただきたい。

 わけだけど、とりあえず今日は崎ちゃんの意見が最優先であります。縁日がでてるほうだと正直いまだと風下になってしまうのだよね。煙がもわっとしてしまう上に他にも光がたんまりあって。もちろん狙うのは上空だからそこまで影響はないのだろうけど、できれば社の方は避けてくれるといいなぁ。

 さくらもたぶん似たようなことを考えてるんだろう。どこにいくの? と少しハラハラしているような感じだ。

「あっちはパスかなぁ。あたしが行ったらパニックになるのは目に見えてるし……ま。女友達二人と一緒っていうことで別の心配はないんだけど」

 とほほとなぜかこの人声にもらしたよ。スキャンダルになりたいだなんてやめていただきたい。

 っていうか、撮影にくるならルイでっていうのは、どうしてこの子はわかっていただけないのか。

「で? どうします? 私的には、縁日の社の上でも、川沿いでも、どんとこいなのですが」

 できれば人混みは避けて欲しいんだけどなーとつぶやくさくらも、きっと風上で撮りたいってことなんだろう。うんうん。良い感じに彼女も育っていてくれてルイさんは嬉しいです。これでこそです。

「人があんまりいなくて、撮影もばっちり、おまけに席取りの心配もないという好条件のところがあるから、そこのお庭で思う存分とればいいわよ」

「おおぉ、芸能人パワーというヤツですか」

 人がいないというのはまず第一点ですばらしい。今回の花火大会は、それなりに大規模だし、集まる人達も多い。それこそヘリコプターが飛んだり、テレビ中継される規模のヤツだ。うちの近所の二十倍くらいの規模じゃないだろうか。

 そうなると、人だって集まるわけで、席を取るのも大変で。

 縁日だってその人をターゲットにしてるってのもわかるくらいだ。

 そんなところで、ここらへんに住んでいる個人宅の軒先を借りれるならありがたい。

 うん。人がいないっていってた時点で、たぶんそうなんだろうなと思っていた。

「まあ、半分そうだけど、今回のは本当に相手のご厚意。それと失礼のないようにね。今日は咲宮の本家の方もきてるとかってはなしだし」

「ああ、春先のあそこかー。あれならばっちりだね」

「はるさき?」

 え? とさくらが声を漏らしているので、軽く説明しておく。

 川辺に浮かぶ桜の景色とゆったりした川の景色はたまらなかったと。

「なっ。あんたなんたる……うぅ。昔は一緒にさくらの撮影してくれたのにー」

「去年は受験だったししかたないじゃん!」

「うぅ、でも、珠理さんとはいったんでしょ?」

「それは……」

 うん。彼女が言ってる去年の、受験年の春。確かにこりゃあ花見どころじゃないよねーって感じだったんだけれど、目の前の珠理奈さんに言われてそういう席もできました。

 こちらの本意ではないんだけどね。そして今年の春もなんだかんだであんまりお付き合いできてない。

「ふふっ。今日の目的地もその時と同じ所よ」

 そう言われて、ぐっと首に腕を回されて、むぎゅっと肩の下あたりに胸の感触が来た。うん。柔らかい。

 でも、こんなところでそれを披露しくさってこのお嬢さんはいいんだろうか。

「さすがに崎ちゃん。女同士でもこのスキンシップはどうなの?」

「こ、こほん。ま、とりあえず目的地に行くわよ!」

 軽く咳払いをしてから彼女はすたすたと前を歩き始める。

 いまだ夕陽がまぶしい時間帯。

「はい、ここで軽く振り返ってみようか」

 どうせお蔵入りになることはわかってはいるのだけど。

 この振り返り際の勝ち気そうなその表情を一枚しっかりと押さえさせていただくと、今度はさくらに、ずるいと膨れられてしまった。



「しかし、まぁすごいところとは聞いてたものの……」

 まさかあんな、ザ・家政婦みたいな人がいるとは、とこそこそさくらが小声になっているのは、今日の咲宮の別邸に他に人がいるからなのだった。唯一崎ちゃんだけは最初から聞いていたようで、軒先を貸してくれる話にはなっているから、心配はしないでいいと苦笑ぎみだった。あの家政婦さんの主人に対する忠誠心みたいなものに、ちょっと感じるものでもあるのだろう。

 メイドさんではなく和風の家政婦さんっていう感じで、お屋敷の雰囲気に溶け込むほどだった。

「前の時はほんと場所だけ貸してくれるだけだったんだけど……ねぇ。崎ちゃん? お屋敷の中とかも見れたりとかしない?」

「ん-、さっきも言ったけど、咲宮のおじいさま夫妻がいらっしゃるから、それは無理ね。花火の日はゆっくりここでっていうのが例年の過ごし方だっていうし」

 忙しい最中の一日だからあんまり騒がしくしちゃうのはさすがにね、とあの崎ちゃんが自重した。

 それだけ重要度の高い相手ということだ。

「会長さんなんだっけ?」

 咲宮の家はいろいろな会社を経営している旧家だそうで、こういう絶好の場所に別邸を構えるほどのおうちだ。

それそうおうに忙しく仕事をしている間の休息であるなら、ゆったりと花火鑑賞をさせてあげたいという気持ちもよくわかる。

「いったんは一線を退いて名誉会長的なポストになったんだけど、まあいろいろあったみたいでね。今でも重要なポストを担当してるんだってさ」

 まだまだお元気みたいだし十分やれるみたいだけど、後継者関係のごたごたがどうのってのはちらりと聞いたことがあるのだと崎ちゃんが珍しく他の人の話をしはじめた。

「ま、なにはともあれ。どう? この立地なら人混みもほとんどないし、部屋の明かりもそうないし、十分な撮影ができるんじゃない?」

「うんうん。そりゃもう」

「夢のような立地だよね」

 さくらと思わずぎゅっと両手をつないでしまうほど、川沿いの景色は美しい。

 まだ少し花火までの時間はあるけれど、三脚にカメラを固定して準備を整えていく段階で、どんな絵が撮れるのか想像できるというのもいい。

「はいはい。この写真馬鹿どもはこれだから、まったく……」

 崎ちゃんに呆れた声を漏らされようがお構いなんてしない。

 そろそろ日が落ちるころになるけれど、花火まではあと三十分といったところだろうか。

 夕飯はそれぞれで持ち寄ることということだったので、庭に設置されている和風のベンチみたいなところをお借りして去年の春先のように食事会を始めることにする。

 さくらのごはんは縁日風で、さきほど屋台にいっていましたというのが丸わかりな構成で、イカ焼きとかお好み焼きとかたこ焼きとか、粉物が多めだった。

「さくらさんや……さすがにそれ、炭水化物ばっかりなのでは?」

「んー、なんか懐かしくなっちゃって。ついウッカリ」

 明日から頑張るというさくらのお腹周りはすっとしているので、相変わらず食べても動いて消費する感じなのだろう。

「それにお好み焼きはキャベツたっぷりだからいいんじゃないかなぁ」

「あら。どなたかいらっしゃるの?」

 そんな会話をしていたら、不意にお屋敷のほうから声がかかった。

 その声はとにかく上品の一言につきるだろう。少し年齢を感じさせる女性の声。

「あ、あの。私たちはその。本日はお庭をお借りすることになっていまして」

「あらあら。誰かと思ったら珠理奈さんですか。たしかひいお婆さまの役を演じて下さった」

「はい。その縁で春先も桜の景色を楽しませていただきました」

 珍しく崎ちゃんが丁寧な口調だ。もちろん仕事上は彼女だって普段みたいな砕けたしゃべり方はしてないんだろうけど、すごく丁寧で、猫かぶりすごいなぁと思ってしまった。さすがは女優様である。

「そんな軒先にいないで、中にお上がりなさい。若い娘さんたちが外でご飯だなんて……」

「えっ、でも今日は、お二人でゆっくりされると伺っています。お邪魔しては……」

 とりあえずルイたちは成り行きを見守ることにする。崎ちゃんがある程度上手くやってくれるだろう。

「別にいいのよ。何部屋かあるしせっかくだから(わたくし)の話し相手になってもらいたいわ」

 あの人も、貴女たちみたいな娘さんならむしろ喜ぶんじゃないかしら、とこちらの顔を見てにこりと笑われてしまうと、すいません男で、と心の中でつぶやいてしまう。騙してるわけではないし、いまさらな感じはあるけれどなぜかこの人にはそんな感想を抱いてしまう。いい人そうだっていうのもあるんだろうけど。

「では、お言葉に甘えて」

 とりあえず、カメラはもう設置してあるのでそのままにしておきながらお屋敷のほうに夕飯を持って移動する。

 想像していたよりも華美ではなく、装飾のたぐいもあまりないおちついた和室だ。

 別邸というだけあって、調度品のたぐいもそこまで多くはないのだろう。

「あの、御当主さまは?」

「あの人でしたら、もう少ししたらこちらにつくのではないかしらね。それよりもお茶を煎れてあげましょう」

「いえっ、おかまいなく」

 そうはいうものの、若い子が遠慮しちゃダメよと、上品に笑いながら彼女はやかんに水を入れた。

 別邸とはいっても、しっかりと台所もあるし、住もうと思えば十分家としての機能はある。

 台所の方で先ほどの、ザ・家政婦さんが、奥さまっ、何をやってらっしゃるのですかなんて声をあげるのが聞こえたのだけど、まあ、そういう反応にもなるだろうね。

 結局、家政婦さんは根負けしたようで、奥さまである彼女が嬉々としてお茶をいれてこちらの部屋に戻ってきた。

 そしてそれぞれの夕飯を見て、最近の娘さんはやっぱり洋風なのかしらなんていう言葉が漏れた。

 崎ちゃんは人気ベーカリーのサンドイッチだ。ルイは和洋折衷というか、サンドイッチプラスでお総菜をつくってきてみた。ちょっと多めなのはどうせ崎ちゃんたちに食べられるのがわかっているからだ。その卵焼きちょうだいとか絶対言われる。

「あらあらあら。こちらのお嬢さんは見事に縁日なのねっ。お店も出てるみたいだし」

 そんな三人の中で唯一の縁日のご飯に彼女は興味津々だった。

 なんていうか、かわいいおばあちゃんって感じに印象が変わった。ルイの家は祖父母と疎遠だから、こういうお付き合いは新鮮だ。まあ銀香でお年寄りから声をかけられることももちろんしょっちゅうなのだけどご飯時に一緒になるっていうのがあんまりないのである。

「昔、うちの人と一緒にあの社の縁日にいったことがあるのよ。あの人ったら暗いからってむすっと無言で手を握ってくれて」

 懐かしいと微笑む姿に思わずシャッターをきった。うん。コンデジの方で。

「あああ、コンデジ持ってきてるとかずるいっ。今の表情あたしも撮りたかった-」

 うん。一眼の方は外に置いてきてしまっているけど、ルイさんはいつだってカメラを手放せないのです。

「あらあら。こんなおばあちゃんを撮ってもあんまり良いことないでしょうに」

「そんなことないですっ。さっきのちょっと恋する乙女みたいな感じの表情は素敵でした」

 ほらっ、こんな感じで、とタブレットに画像を移して表示すると、彼女はあらあらと頬に手を当ててはずかしそうにしている。

「それにしても、ルイさん? それとさくらさんも。お二人は写真大好きなのね。せっかくだから屋敷の中も自由に使って良いから、私とあの人の写真を撮ってはいただけないかしら」

 今日の思い出というのもあれだけど、うちの人と一緒に写ったことがなくってと彼女はわくわくしたような、一周りくらい若がえったのではないかと思うくらいの笑顔を浮かべていた。

 うう。こんな表情されたら撮るしかないじゃない。

 さくらのほうをちらりと見ると、こくりとうなずきがきた。

「花火は長いことあがるっていいますし、前半と後半で、家の中と外とで撮らせていただいてもいいですか?」

「私たち少し撮影方法違いますし、それぞれ入れ替えみたいな感じで」

 二人に狙われるのはさすがに緊張するでしょうし、とさくらがイカ焼きを食べながらそう提案する。

 そう。つまり、ルイが外の撮影をしているときはさくらは中を担当するという感じにしようということだ。

「面白そうね。じゃあそれでお願いね。あの人にはちょっとしたサプライズがあるって伝えておくから」

 遠慮とか無しでどんどん撮っちゃっていいから、と言われるともうどんな風に撮ってやろうかという気分にもなる。

「結局、こうなるか……」

 こちら二人はテンションが上がってきているところで、ぽそっと崎ちゃんの呆れ声が聞こえたような気はしたけれど、とりあえず今は撮影の方を優先である。



「にしても、いい撮影会だったねぇ」

「うんうん。最高のロケーション。あそこ使えなかったらこっち岸から狙おうとは天気予報見てて思ってたんだけどね」

「ぐぬっ。この写真馬鹿ども……あたし一人のけ者みたいにしくさってー」

 撮影に集中しすぎよと駅に向かう途中で崎ちゃんは少しふくれていた。

 でも、こうなるのはある程度わかっていたはずだし、それに撮影しながらいちおう声はかけていたよ?

 だってルイが外で撮影してるときはずっとそばで花火を見てたわけだし、おぉとか、今の綺麗だねとか、そんな会話になってしまったけど、ちゃんと声はかけた。それでものけ者と感じるのなら、自分が被写体になれなかったからじゃないだろうか。

「なんなら今から縁日の方いっちゃう? 提灯のあかりに照らされた君を是非」

 ほれ、これでのけ者じゃないし、と言うと、ぷぅと膨れられてしまった。さすがに美人さんなだけあって膨れてる姿もかわいい。

「えと、ルイ? 天気予報見てたって?」

「え……風向きの話だけど? さくらは意識してなかったの?」

 ものの見事に煙りがあちら側に流れていってくれたので、かなり綺麗に花火の写真は撮れた。それもこれも全部あの場所だからこそ。花火の撮影は場所選びが一番重要といってもいいとあいなさんからも聞いている。

「いちおー風向きも考慮したほうがいいよってアドバイスは受けてたんだけど……さすがに花火撮影は初めてだし、リアルタイムでの状況確認とかはしてなかったっす」

 人混みとかより落ち着いたところで撮りたいなーと思っただけ、と言われて、ちょ、おまと普通に声に出してしまった。

「先週までイベントだったじゃーん? そっちのほう集中してて、こっちはそこそこになっちゃってね。一回やってみてどんなもんかなーって修正しようって思ってたんだけど」

 ほらー、あたしってば人撮影中心の人だしさーと、にははと笑うさくらに、げんなりした。

 あの。スゲー成長してんなーとか、そういう賞賛を返して下さい。心の中で言っただけだけど!

「……あいなさん泣くよ? ああ、講習やってるのにーって」

「えー、夜景の撮り方は確かに教わったし、冬の夜空は綺麗だったけど、花火は教わってないしー。ルイにだけ個人レッスンとかあったの? どうなの?」

「ありませんってば。でも、いろいろ調べると撮り方とかっていろんなところにいろいろあるじゃん。花火の撮り方だって、メジャーな話なんじゃないかな」

「……う。それは面目ないかも。受け身だったかも……」

 あ。さくらが素直にしゅんとなった。

「まあまあ、それくらいにしてあげなさいよ。さくらだって前より比べものにならないくらい綺麗な写真撮れてるじゃない?」

「そりゃ、カメラも変えたし、失敗写真も格段に減ったけど」

 でも……と、タブレットを撮り出すと、一枚の写真を映し出す。

「さすがにこれは、反則だと思う。ルイの持ち味は知ってるけど、これは……」

「あーそれは確かに、お二人とも大絶賛だったしね」

 そこに映し出されているのは縁側で寄りそう二人と、そして花火という光景。

 正面からではなく、後ろから狙って花火も一緒に写し込んでいる。今回の依頼は二人の写真を撮ってくれ、だったのでピントを合わせるのは二人のほうで、花火は思い切り焦点が合っていなくて光の粒みたいになっている。それでもちゃんと花火なのはわかるし、ばっちりと今日の日の思い出ということで通じるものに仕上がっている。

「あたしもいろいろ育っているのですよ。もともとこういう撮り方は好きだったけど、夜景でやるのは初めてだったしいろいろ楽しかった」

 今日はありがとね、と崎ちゃんに満面の笑顔を向けてあげると、彼女はなぜかそわそわし始めて、ええと、そのと身体を震わせている。うーん、夏だし寒いってことはないと思うのだけど。

「ほんっと……ルイったらぶれないわね……」

 さくらがじぃとこちらを見てきたのだけど、その視線の意味まではさすがにわからなかった。

 わかってないのは、木戸くん君なんだよ! って書いていて叫びそうになりました。ほんっと珠理奈さん回だったはずなのにこの仕打ち。。可哀相に。珠理奈さん回が、さくらとの撮影回に変わってしまいました。


 ちょいちょいでる咲宮家ですが、まさか作者も「あいつより先にばーちゃんかよっ」とウッカリ発言です。でも、この場所だと被写体欲しいし、花火を背景の人物って言うね。花火そのものももちろん良いのだけど、それを見ている好々爺と奥さんって、ちょいしびれる絵だと思うのです。

 ……うん。後の展開でじーさまあんまりでてないから、修正少ないとかっていう理由もありますけれどね!

 さて。これにて八月は終了です。やっと九月であります。

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