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201.夏イベント二日目夜 男子会

遅くなりました! 最近ちょっと書き下ろしばかりかつ私生活が慌ただしいので一日おき更新になりがちですがご了承をっ。

「クロキシの偉業といったらもう、ここにルイさんを連れてきたことだな。存在価値がほんとそれ。君はそのために生きてきたんだ、違いない」

 コスプレ会場から数駅離れたさきに下りて、ずらりと立ち並ぶ店のうちの一軒に入ると、ふわんとソースの香りが鼻腔に広がった。ちょうどお店に入ったときに鉄板の上に焼き上がったお好み焼きにソースを塗っていたらしい。少し鉄板に垂れたソースがばちばちと音をたててすばらしい香りを周囲に放っている。

 そんな香りにきゅるりとお腹を鳴らしながら、空いている席に通される。四人がけの席で見た目の男女比率は3:1というのは、いままでルイとして生活した中では珍しい組み合わせなんじゃないかと思う。というか男子の中に女子一人とかなんてちょろいんなのさといろいろ言われるだろうけど、隣にクロキシがいるので、それでと思っていただきたい。さすがにルイさんだって男子ばっかりの会は、自分が男としてしか滅多に出ません。必要性があれば男子の家にでもおしかけますけれどね。

 そして、ドリンクのオーダーをして乾杯が済んだ後。まっさきに出た一声が冒頭にでてきたシュージ先輩のひどい一言だった。

 あのBLカフェで三年生をやっていたにーさんは二日目の今日に休みができたから、というか休みをなんとかもぎ取ってイベントに参加していたのだという。たしかに女の子の日に参加した方が彼としてはいろいろといろんな意味でおいしく味わっていただくことができるので、あえてこの日を選んだのだというのはわかる。

 ちょっと悔しいけど、周りがきゃーきゃー声を上げてる姿は想像できる。ほんともう、著作物の出典の方に迷惑がかからないかひやひやしたくらいだ。

 会場では会うことは無かったけど、かなりの女の子達の煩悩を満たしてあげたことだろう。

「ひっでぇなぁ。シュージさん。そりゃ確かに男だらけのむさい会っちゃそうだけど、別にそれでも今までそこそこ楽しく打ち上げしてたじゃん」

 ぶすっとしながらクロキシがウーロン茶をくぴりとあおる。グラスに印がついているアルコールの入っていないものだ。シュージさんは二十歳を過ぎているのでウーロンハイを呑んでいたりする。

「にしても、すごかったっすね。俺初めてこのイベントでましたけど、なんつーか人が熱いっていうか、人が多くて暑いっていうか」

 もう一人はイケヤさん。BLカフェでシュージさんの相手役をやっていた方である。

 この人はルイのこともあんまり知らなかったみたいだし、イベントも今回が初めてのようだ。アルバイトをあそこでするようになって、ずぶずぶこちらの世界に足を突っ込んでいる最中と言ったところだろうか。

 ちなみにノエルさんは夜は用事があるので帰りますということだった。女子会みたいなノリならついてくるんだけど、さすがにこのノリとなると躊躇してしまったということなのかもしれない。

「まーな。この三日はお祭りだし、そりゃみんな熱くもなる。っつっても俺達明日出勤だけどな」

 明日の夜はやべーぞうち、と言っているのは、三日目のイベントを終えたあとの打ち上げでみなさんオタク街やらオタクショップに集まるからだ。それはあのお店だってそうだろう。いや、むしろ。

「女の子の日の放課後の方が混むんじゃないですか?」

「まあ、そうなんだが、それでもうちの場合はちょい距離もあるし、そこまででもないって感じかな」

 明日もある人がいっぱいだし、そこまでこまないよと、しれっとシュージさんは言い放った。たぶん半分は嘘であるのはイケヤさんを見ていればわかる。

「もちろんこのイベント行きたいって言ってるヤツが多いから従業員の登校率が最悪ですんごい忙しいって噂だけどね」

 シュージ先輩の補足をするようにイケヤさんが言葉を継いでいく。店を想像しながらにまにまするのは良い根性だけれど、そんなもんだろう。何とかするだろうと信頼しつつ、いたらこき使われそうだ、と言う感じだろう。

 うん。今日も二人のコンビネーションはばっちりだ。

「にしても、シュージ先輩きもいっす。どうしてさっきからそんな悟りを開いちゃったような顔してるんです? 確かにルイさんがうちらとご飯って、おぉってなりますけど、いちおー知り合いなんだしそこまでおかしくならなくても」

 そして、あまりこの業界に詳しくないイケヤさんの発言が入った。今日は会場では会っていないしあの昼間の翅とのやりとりなんかも目撃はされていなかったらしい。アレを見せられればたいていはどん引きをするものなのだけど。

「いやいやいや。俺まだ、今でも夢なんじゃないかって思ってるくらいよ? 絶対ルイさんのことだから俺達より錯乱の方にいくと思ってたし」

 ていうか、これを見ろとシュージ先輩は大きめなスマホに映し出した画面を隣に座っているイケヤさんに見せた。肩がとても近くて今にも触れあってしまいそうである。

 きっと楓香あたりが見たら、あはは、イケメンが肩を寄せ合ってるとかつやつやした顔で言うに違いない。

 普通に一枚写真を撮らせていただいた。あとでこっそり楓香にあげよう。大喜びしそうだ。

「うは、これ今日のルイさんの行動履歴みたいな感じ?」

「そ。誰かが見つけてつぶやいてるってやつ。企業ブースでなんか撮影してたとか、クロキシとの話なんかも載ってるな」

「今日はあんまりチェックしてなかったけど、半端ねぇよな。昨日は年下の女の子をはぁはぁ言いながら撮影してたとかって話だろ」

「うっ、はぁはぁまではしてないよ! それにあれがきっかけでお仕事貰えたんだし、いいんです」

 うん。千恵里オーナーとは知り合いになったし、音泉ちゃんを撮らせてもらったことはトータルで必ずプラスになっている。特別何かを言われるいわれは無い。

「つーか、サンドイッチで指ぺろって……」

「画像はよっ、みたいなので祭りになってんな……」

「さすがにそれに画像投下する勇気はないし、やってる人が出たら文句いってるところですよ」

 三人ともスマホで本日のルイさんの活動を追っているようだった。四人の中で一人だけガラケーか、とか思いつつこちらも最近はタブレットが通信できるようになったので不自由なことはまったくない。

 昼間自分でもそれをチェックしていたことを伝えると、クロキシがルイねぇと情けなさそうな声をあげた。

「頼むから、自重してくれ。そりゃこんなネタになるのって大規模イベントの時だけだし、小さなイベントなら問答無用で囲まれるだろうから、あんまり問題にならないだろうけど、これはさすがにいろいろヤバイだろ」

「そりゃ、指ぺろは自重しようかと思っていたところだけど、それ以外は別にいつものルイさんですが?」

 なにか駄目なところがありましたでしょうか? と言ってやるとクロキシが、るーいーねぇーと、呆れた声を漏らしていた。

 さっぱりなにがいけないのかわからない。別にこぽぉと言いながら撮影していたわけではないし、いいねいいねぇと撮影をしてきただけだ。まあ久しぶりの大きなイベントでがんばったというのはあるけれど。

「それより黒木氏だって、今日は翅さんと絡んだりとかきっとネットで騒がれてるよ?」

「ちょっ、ルイねー。その発音はやめてっ」

「あ、ほんとだ。翅さんお忍びで美女とツーショット。お相手は業界でも人気な女装コスプレイヤーのクロキシ、だってさ」

「まじでこれで女装なの!? とか突っ込まれてるな」

 うん。クロキシとて翅と一緒にいた関係でそうとう撮られているし、噂にもなっている。女装というほうに話が強くでていてルイの時みたいに、あの女は誰よという話にならないのが、ちょっと羨ましい。

 もちろん、拡散が一般の層にまでいっていたりするので、こいつとならヤれるとか、定番の発言も各所で発生しているのだけど、それは健が頑張ってスルーすればいいだけのことだ。

「クロキシのリアル顔はまだ割れてないから、その点楽ですね。ルイねーみたいなことにはならないで済むというか……」

「ああ、ルイさんもなんかこの翅って人と因縁あるんでしたっけ?」

「一時期、ツーショットですら無い一緒に映ってた画像が回っちゃって、大変なことにね……ったく。悔しいけどノエルさんの言った言葉がそのまま大当たりですよ、もう」

 くすんと嘆いてやると、よしよしと健が頭をなでてくれた。良い子だなぁ、もう。

「って、おまっ。クロやんなんで自然に頭なでなでとかしちゃって……おま、席を替われこらっ」

「へっへーん、シュージさんにはできないのですよー。女装状態が維持できなきゃルイねーの頭はなでさせません」

 クロキシが自然と女声に切り替えて、にまりと演技を始める。なにかのキャラを模しているのだろうけど、まえにシフォレに行ったときよりはかなり自然な感じだ。町中で女子のふりするのはちょっとと言っていたのが二ヶ月前だというのに、たいした進歩だ。というか、男同士だからこそ自然にやってしまえるのかもしれない。

「うはっ。自然な女声……クロたんって呼んでいい?」

 イケヤさんはこの声を聞くのは初めてなのだろうか。たん付けを始めるほどに興味津々のようだ。

 というか、クロキシさんはなんだかんだで短縮して呼ばれてることに今日一緒にいて気づいた。

 ノエルさんはクロくん。シュージさんはクロやん。そしてイケヤさんは今日からクロたん呼びだ。

「えええぇ。たんはさすがに男同士だと引くな……」

 ルイねーもそう思うだろ? と聞かれて肩をすくめておく。

「どうせイベントだとほぼ女装なんだからいいんじゃないの? まあ私もルイたん、はぁはぁとか言われるのを見ると背筋のあたりがほどよく、うわぁってなるけどさ」

 最近つっこむ気にもならないわけだけど、ルイの男子からの評価は、カメラをやる人以前に、可愛い女の子で目につくというものの方が多い。

 今日のネットでのつぶやきだって、目撃例を出しているのは男性が多い。女性はたいてい、おぉっ、いらっしゃるけど声をかけるのは我慢、とか自重しているのが多いけど、男性の場合はそこにプラスしてはぁはぁかわいいお。俺の嫁。とかそういうのがくっついてくる。

 申し訳ないけど、渋谷でしか挙式はあげられませんよ?

「っていうか、どうしてクロやんはそんなに自然にルイさんと仲良しなんだ? なにか秘訣でも?」

 俺もそれくらい仲良くなりたいですと、まるっきり欲望をかくそうとしないシュージさんがそこにはいた。 

 クロキシは、ちらりとこちらに視線を向けてくる。どうするの? ということだろう。

 もちろん従兄弟同士だというのは言えない。

「秘訣は女装しているっていうのが一点ありますけど、あとはクロキシは幼なじみだから、としか」

「はぃ!?」

 まじか……とシュージさんはなぜかダメージを受けたようにしゅんとうなだれた。

 そのタイミングで店員さんが、餅明太チーズもんじゃのタネと牛肉ネギそばもんじゃのタネを持ってきてくれた。こちらの会話なんざ聞いちゃいませんよという、ドライな態度で確認事項を伝えてくる。

「焼き方は大丈夫ですか? 初めてなら教えますが」

「あー、大丈夫です。前にやったことあるんで」

 クロキシがもんじゃの具をスプーンの背の方をつかって手早く油をのばした鉄板にのせていく。じゅっという音がなって、良い匂いが広がっていく。餅は別個で焼き始めている。

 一年一人暮らしをしている関係で、クロキシはこれで家事全般ができる男の娘である。身近にあんまりこの手のことが出来る人がいないので、貴重な戦力なのだ。

「相変わらずクロやんは作るの上手いなぁ。手慣れてるっていうか」

「慣れすっよ。シュージさんだって何回か作ればちゃんとできるようになります」

 しれっと言っているけれど、ちゃんと作り方を見ておかないと忘れてしまいそう。でもポイントを押さえておけばそこまで難しくも無いのかもしれない。

 最初になるべく小麦粉の入ったつゆは落とさずに具とキャベツだけをしっかりと落とすこと。スプーンの背を使っていたのは多分このせいだ。そしてキャベツはよくへらできって小さくしておくこと。小さくしすぎだと歯ごたえがなくなるから注意といったところか。

「幼なじみってことは昔のルイさんのこととかも知ってるってことだよね」

 さあ、はよ、ルイさんのちっちゃい頃のエピソードはよと、シュージさんがいつもつくってるちょっとけだるいけど頼りがいがある先輩という感じは綺麗に崩れ去っている。今あるのは欲望にもえる一人の漢の姿だ。

「ルイねーのちっちゃい頃とか、一言で言えばアホの子としか」

「んなっ。ひどい。そりゃいっつもほわほわしてた自覚はあるけれど……」

 相変わらず健のルイの評価はひどいの一言だ。まったく、いろいろと仲良くあれこれしていたはずなんだけど。

「ちなみに今は写真のこと以外はろくにできないアホな子です」

「ひどっ。い、今はさすがにあそこまでひどくないよ! 私だって大人になってます」

「ほんとかねー。ルイねーいまでもぬいぐるみ抱っこしたりしてるし、大人って感じしないなぁ」

「ぬ、ぬいぐるみのどこが悪いのさ。ほめたろうさん可愛いよ! ときどきぎゅってするし」

 そもそもクロにも貸したら、むぎゅーってしてたじゃんと言うと、彼は具を環状に広げながら言った。

「そのとき、おれ十歳とかだったよな。でもさすがに今の歳でってどうよ」

「ほ、ほめたろうさんってこれか……ルイさんがこれをお腹のところに起きつつってなると、あはん。なんか良い感じに、かわえぇなぁ」

「しかも、ちょっと乗っかる感じが、いい」

 乗っかるといって少しよだれぎみなイケヤさん。何が乗っかるかといえばたぶん胸なんだろうけど……すまん。人工物です。そんなにおっぱい大好きなら自分でも装備すればいいんじゃないかと思います。そして上からおっぱいみて、でゅふふってすればいいと思います。

 ……なんだろう。他人の胸を見て興奮するのは一般的だと思えるのに、そっちを想像したらなんか危ない人だと思ってしまった。別にフェティシズムを否定はしないけれど、なんか絵面がやばい。

「さて、ではそろそろかきまぜーる、ということで」

 キャベツや具で作った環状のドテに残っていた汁を少しずつ投入。蒸発して色が変わってきたら継ぎ足しということで全部が入りきって、さらに少し色合いをみつつクロキシがヘラを二つ持って宣言した。

 ここのお店はもともと汁に味がついているから、ソースを入れる必要がないそうだけど、他の店の場合は好みで調整できるところもあるから気をつけるようにという注意は最初に健からいただいている。 

「やっぱクロやん粉ものは強いなぁ。これで女装なら申し分ないのに」

「だよなー。なんで着替えてしまうのかと」

「着替えるなら服は貸すんだけどな」

 じぃと視線がむかう男子二人の尻馬にのるように、ルイもどうしてクロキシさんは女装じゃないのかを突っ込んでおく。彼さえこっちの格好なら見た目男女2:2という同数だったというのに。まあどうせみんな、だが男だなんですけれどね。

「ル、ルイねーの服はさすがにちょっと……普通女子すぎてちょっと」

「普通女子のどこが悪いっていうの?」

 思い切り表情を固まらせつつ、クロはてろっとしたもんじゃの上に最後のチーズをトッピングする。だんだん熱で溶けていって、最後に青のりをかければ完成だ。

「あのさ、ルイねー。前から言おう言おうと思ってたけど、親父さんとか大丈夫なの?」

「うちは放任主義だから自分で選択して責任とりなさいって感じ。それより(たけ)こそ大丈夫なの? 妹どのはご存じのようだけど、おじさん知らないんでしょ?」

「えっと、実はルイさんちって、ご両親と上手く行ってないとか、なのかな?」

 いまいちどんな内容かわかっていないシュージさんたちは、クロキシの中途半端な言葉に戸惑っているようだった。

 そりゃ、さすがに女装しているのを親に咎められているという想像は誰もしえないだろう。それくらいのクオリティは作っている自信はある。

「ほらっ、このカメラ馬鹿っぷりがね、大丈夫なのかなって。年頃の娘さんなんだからちゃんと彼氏なり彼女なり作りゃいいのにって感じで」

 ほれ、出来たから食えといいつつ、クロキシは苦笑まじりに小さな自分用のヘラでもんじゃの一部を鉄板に押しつけるようにしてとる。じゅっといい音が鳴った。

「うちの父親はそんなことをしたら、お前も嫁に行ってしまうのかーって大騒ぎよ」

 勘弁してよーと良いながら、こっちもヘラで一口分のもんじゃをいただく。

「あふっ、いけど、おいしいね!」

 うん。ソースの味もしっかりだし、ぷつぷつする明太子とかキャベツの感触が心地良い。

「特にここの町のは格別なんだよな。しかもクロたんが焼いてくれてるっ。脳内で女装姿に変換すると、なんかもう……これであーんとかしてくれたら、ああっ」

 イケメンなはずなイケヤさんがなんかちょっと近寄りにくい人になってしまわれた。

 でも、イケヤさん。それは一手間抜けてると思うのです。

「じゃあ、クロ-、あーん」

「あーんって、こらルイねー、悪のりするなよ」

「えぇー、恋人がどうの言ったのはクロでしょ。予行演習ってことで」

 ほらほら、可愛いお口を広げるといいよ、といいつつ、目の前でふーふーしてあげる。そう。彼にたりないのはこの工程だったのだ! 

 ちなみに気分は彼氏にというよりは、従兄弟の餌付けである。 

「……メチャクチャ恥ずかしいなこれ」

 最悪だ、とクロキシはしょぼんと、もんじゃを食べつつつぶやいた。

 まあ、従兄弟で、男にやられてもということなんだろうな。

「つーか、シュージさんたち、こういうの日頃にやってんの? BL喫茶とかってなるとあるんだよな。俺、さすがにこれは無理」

「ええぇ。無理って、ルイたんのあーんをここまで無碍にするやつがいることが驚きなんだが」

「それと、うちはあーんはないぞ。従業員は基本的に食事はしねーし」

「ポッキーゲームはありますけどね」

 ぽそっと付け加えると、クロキシは一人、せかいがやばいと言っていた。

 まあ、そういうの見るのが好きな子がいるんだし、やってくれるっていうならそれはそれでいいんじゃないかと思う。

「さて、じゃー二枚目は私が焼こうかと思います。っていうかあと二枚くらいは頼むんでしょ? どうします? お好み焼きの方いっちゃいます?」

 決めといてくださいねーと言ったのは、基本、一枚が一人前だからで、二枚だと明らかに四人の胃は満たされないからだ。

「ルイねー、大丈夫か? 初めてだろ?」

「大丈夫デス。大人なところを見せびらかします」

 それに、ほら、決壊しちゃうのも醍醐味っていうか、と付け加えるとクロキシから心配そうな顔が、シュージさんたちからは、そういうところが良い! というつぶやきがきた。

 でも、もんじゃなんてもんはそういう食べ物だと思う。

 けれど、具をいためてドテを作ったところで、携帯が鳴った。

 この着信音は、すぐでないとあかんやつや。

『あたしだけど。来週のこと忘れてなんかないわよね。っていまはルイか。どーせ女子ばっかりな打ち上げしてるんでしょ?』

「花火のことは忘れてないし、その想像ははずれ。今日は男子会デス」

『ちょっ、いつもいつも想像の斜め上を……で。大丈夫なんでしょうね? 他に女の子いるの?』

 あの。崎ちゃん。どうしてそういう心配をしているのでしょうか。

 女子が多いと不機嫌になるくせに、男子ばかりだと心配するって、なんだかすごく不思議なのですが。

「女の子はいないけど、信頼できる男友達ならいるよ」

『まさかエレナさんって言いたいんじゃないでしょうね。アレは男友達じゃないでしょもう』

 あ、崎ちゃんの中ではエレナはもう女子扱いなのか。確かに彼氏がいてあの見た目でってなると、そうなのかもしれない。

「幼なじみっていうか、その……従兄弟です」

 ぽそっと話し口を押さえて周りに聞こえないようにしつつ伝えると、はい!? と不思議そうな声が漏れた。

『た、たしかにおねーさんがいる以上、従兄弟がいたっておかしい話ではないけど……今までそんな話聞いたことないじゃない』

「だって、言ってないもん。っていうか崎ちゃんだって家族のこととかあんまり話さないじゃない?」

『そりゃそうだけどさ……ルイんところだと、個性的な人が多そうっていうか』

 電話の先にいるであろう崎ちゃんが思い切り視線をそらしている姿が想像できた。

 たしかにうちは個性的な人が多いかもしれないけど、芸能界で女優とかアイドルやってる人に個性的とか言われたくない。

『まあ、いいわ。こっちはオフにしたから絶対待ち合わせに間に合うこと。それと二十分前から待ち合わせ場所で待ってて、ごめん、待った、いまちょうど来たところだよ、的なあれをやること。いいわね』

「よくないってばっ」

 それじゃーまた来週ーと言ってぷつんと一方的に電話を切られてちょっとげんなりする。

 デートのシチュエーションに憧れるのはわからないではないですよ。

 でも、ルイ相手にそれをやれというのは、ほんともう。

 まあどうせ待ち合わせ時間より早くいく予定ではあったので、大変ではないのだけど。

「お。電話終わった? そろそろ汁いれないといかんですよ」

「ごめんごめん。じゃあちょっとかき混ぜつつ、いっちゃいますよー」

 もんじゃの汁は放置すると粉が沈殿するので入れるときは軽く混ぜてからが基本だ。

 ちょっとドテの外に注ぐ段階で出てしまった分はあるけど、ご愛敬ということでお願いしたい。

 鉄板がばちばちと鳴って香ばしい香りが広がっていく。

 居酒屋みたいなところで料理がでてくるってところもいいけれど、目の前の鉄板で自分達で焼くというのもこれはこれで楽しいものである。

「それで? 今の電話ってかなり親しそうだったけど、錯乱から?」

「さくらじゃなくって、崎ちゃんからだった。来週花火一緒にいくから」

「ま。ちょ。ルイねー? 崎ちゃんって、崎山珠理奈さん?」

「そーだけど、それが何か?」

 あ。クロキシさんがフリーズした。シュージさんはルイと崎ちゃんの関係を知っているのか、にまにましている。

 イケヤさんは、ルイたんのお手製もんじゃはよ、とヘラを握って待機だ。

 こっちももんじゃ対応をしないといけないので、汁とにらめっこしながら混ぜるタイミングを見る。

 そろそろ良いかな。

「あの。ルイねー。どうしていつもいつもそういうおいしい話を俺にひた隠しにするかな。言ってくれてもいいじゃん!」

「いや、機会が無かっただけだよー。わざわざげーのーじんの知り合いですってふれてまわるとかどんだけミーハーな人ですかって話になるし」

 そんな人物なら、崎ちゃんは友人関係を続けてくれてはいない。彼女が欲しているのは業界もファンも関係ない対等な同年代の友達なのだから。

「まあまあ、クロやん。今回はお前が悪いよ。珠理ちゃんとルイさんの関係ってネットでは結構のってんだから、ぐぐっとけば良かったのに」

 っていうか、お前は幼なじみなのにどうしてルイさんのことをこんなにしらないのかと言われて、でもーと情けなさそうな女声を上げていた。

 言いたいことはわかりますよ。健にとって自分(ルイ)はあくまでも従兄弟だものね。それをネットで検索するのかっていったら、しない。こっちはモデルとしてのクロキシの写真が見たいので、いろいろ検索したけどそれは従兄弟だっていうのを知る前の話だ。

 健はぶすっとしながら、できあがったもんじゃをはむりと食べている。

「お、ルイさん、次のドリンクなんにする?」

 はふはふ言いながら食べていると、イケヤさんがさらっとグラスが空になっているのに気づいて声をかけてくれる。さすがはBLカフェで働いているだけあって、こういう所には敏感だ。

「じゃあ柚はちみつで」

 もちろんお酒はなしですよ? といいつつ、ドリンクと追加でお好み焼きをオーダーする。

 まだまだお腹に余裕はあるし、時間的な余裕もある。

 それからは馬鹿話が続いた。二人は二十歳過ぎでお酒を飲んでいるからというのもあるだろうけどかなり陽気に話をしている。

 ああ、こういうのも悪くないなぁと思っていると、つんつんとクロキシに肩をつつかれた。

「あのさ、ルイねー。こういうのが男を侍らしている図ってやつなわけだが」

 ばかな。

 クロキシに指摘されて、緩んでいた表情がいっきにぴしりと固まった。

 その表情に満足したのか、彼はにひひと女子っぽい笑い声を浮かべながらできあがったお好み焼きをぱくついていた。

 こっちもそうとうだけど、健くん。君もいろいろと足を突っ込んでいると思います。

二日目夜の部は男子会でございます。

クロキシは確定として、他は誰かねってなったら、この二人でしたとさ。

そして書くの大変だよーって思っていたら文章も長かったorz

夏のイベントっていったら、その後は打ち上げは月島かなーってことで、こんな感じ。育ち盛りの男子達なのですから、一人一枚では足りないような気もします。きっと最後はあんこ巻とかに違いない。

花火の約束の話もちらつきましたし、夏イベントはまだまだたっぷりです。


ですがほっとんど書き下ろしっていう感じなので……更新ペースが二日に一回とかになりぎみです。楽しいのは楽しいのですが……秋さえ来てくれれば。

次回予告ですが。三日目です。いろいろと盛り込んでまいります。


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