197.特撮研のコスROM
遅くなりました! そしてイベント一日目って予告をしてましたが、一話別のをさしこみです。ほんとは後半でイベント一日目に入るつもりだったのですけれど分割です。
「とっどいたよー!」
大学の庶務センターから帰ってきた桐葉部長はぜいぜいと肩で息をしながらもにんまりとしながらその段ボールをびしっとこちらにみせびらかした。
中に入っているのはDVDが102枚だからいちおう女性でも持ち運べる重さではあるだろうけど、それでもうっすら汗をかいているのをみると大変だったらしい。
「おっ。さっきの呼び出しこれだったか」
庶務センターは学校の庶務のいろいろをやっている部署だけれど、学校宛の荷物もここに一括で届くようになっている。さきほど呼び出しをうけて取りに言っていたのだった。
「じゃー、さっそく開けちゃいますよー」
カッターを薄くいれて段ボールの封を開ける。それだけでぱかりとそれは開いた。
「おぉー、これだけあると壮観ですなー」
「あとは当日用にポスターとか展示して、売るだけであります」
あと一週間あるし余裕で間に合ったねーとにんまりしているみなさんの中で一人木戸だけは、あわ、あわわわわと唇をひくひくさせていた。
たしかにデータ入稿してROMはできあがった。中にはしっかりと今まで作ってきたものが入っているだろうし、パソコンで起動すれば良い感じの写真がいっぱいでてくるはず。けれどだ。
その真っ白な汚れのないROMの姿に、えっとなってしまったのだった。
エレナが以前作ったコスROMはブックレット型だったというのは伝えた通りだ。各キャラでそれぞれ出来がいいもんを冊子としても印刷している。
そこまではさすがに予算的にもできないというのが特撮研の総意なのでそれは別にかまわない。仕方がないとも思う。
けれどもだ、さすがにこれだけっていうのはちょっとどうかと思う。
「あの会長? ジャケットとかはどうするんすか?」
だからこの提案はしごくまともなことだと思う。
ROMだけの販売にするにしても、ケースのジャケットや、ROMそのものへの印字などもできるわけだし、これがうちのもんです!っていうアピールの素材としても使えるのに、そこらへんがまったくもってまだまだなのだ。
「うっ」
「って、さすがに花実が考えてると思って、そっちは任せちゃったんだけど……まさか用意してない?」
志鶴さんがそこで初めてえぇっと表情を歪めた。
「ええと。その、すっかり忘れてました。というかそういうもんがある発想が抜けてました」
がっくりという言葉がこれほど似合うこともないじゃないかと思うほどに彼女はうなだれて、すまねぇと意気消沈して椅子に座り込んでしまった。
「ま、花実は一昨年熱だして当日不参加だったし? 去年は落選してるからでてないっていうし、しかたない。わけないし! 下級生みんな未経験なんだからわかるわけないし」
なんてことしてくれちゃってますかと、同学年でもある志鶴先輩の言葉が会長にぐさぐさささる。
ううむ。正直教習とエレナの撮影に集中していてこっちはあまり手を出していなかったのがいけなかったか。でも一年があまりでしゃばるのもよくないし、撮影自体は時宗先輩にくっついていろいろやらせていただいたのだけど、そのほかは全面的にお任せしてしまったのだ。
「ど、どうしようー」
桐葉会長が情けなさそうな声をあげてまわりに視線を向ける。状況がよくわかってない一年生はきょとんとしていて、二年以上はうわぁやちまいましたかという感じで特に意見がでない。まったく。しかたないな。
「ジャケットだけなら、そこそこの紙を買ってきて家庭用のプリンターで対応してもできます。あとROMのラベル印刷ですね。白だけだと味気ないし、なにかしらいれたいですけど」
ラベル印刷ができるプリンター持ってるかたいますか? ときくと奈留先輩がはいはーいと手をあげた。
「さんせー。てか木戸くん問題点だしてくるの早いなぁ。いちおーうちのでROMにラベル印刷できる機能ついてるから、絵柄がきまったらそれでやっちゃおう。問題はなにをのせるか、だけど」
あとは会長、ホワイトボードつかって意見集めるといいよと話をふられてさきほどまで灰色になっていた桐葉会長は戻ってきた。
「じゃー、このROMをきれいに飾るためにってことで、意見ある人ー」
ざっくりすぎる会長の言葉にみなさん、うーんと悩ましげな声をあげる。
なにか意見がでるのであればそちらを優先してもらおうかとも思っているのだけど、なかなかよい案は浮かんでくれないらしい。というか、どういう考えをしていけばいいのかがわからないのかもしれない。
「まず、スペースの分割から始めるといいですよ。我々が使えるのはジャケット表の表面と裏面。そしてジャケット裏の表面。そして最後はROMそのもののラベルです。外はみなさんの目をひくような感じでコスの写真ベースのなにかをっていうので探せばいいし、中はROMにテキストでいれてる、はじめましてのみなさまへ、の文章をもとに、背景飛ばしたようなぼやけたようなところの上に文字をのせてけばいいんじゃないですか? もちろん書体とかもある程度こだわりつつで」
「う、うん。なんとなくイメージはつかめたかも」
「あとは裏面に関しては、コスROMの一般的なものっていうと、こんな感じらしいですよ」
ぺぺっと、通信ができるようになったタブレットに表示した画像をみなさんに見せる。
こんな写真が入っていますというのがサムネイルくらいの小さな画像としてばーっと並べられたものが表示されている。一枚ずつは小さくてわからないけれど雰囲気はつかめるし、ブックレットまでいかなくても近いことができるというわけだ。
「もちろん一案であって、他のコンセプトがでるようならそれで。あと写真をどんなのにするのかはみなさんから意見どうぞ」
一人で独走しすぎてしまうのもまずいのでとりあえず出しゃばらないようにこそこそしておく。
これはあくまでも特撮研のROMであって個人でやるものではないのである。
「じゃ、じゃあ木戸くんのコス姿をトップで」
そんなことを言ったら急に鍋島さんがそんなことを言い出した。彼女がにんまりしているのはひさぎさんから、この前さんざん撮ったアレを見させられたからだろう。まったく服はかわいいし着こなした感じはするですが、見せびらかすのはよくないのです。
「ちょ、それ表紙詐欺になるからっ」
とりあえず、速攻でその案は否定しておく。残念ながらモデルではない木戸、というかしのさんはROMの中にはいないので、表紙なんて飾れない。下の方に注:撮影者ですみたいなのも斬新かもしれないけど、たぶん世界がついてこないと思う。
どのみちモデルは勘弁だ。
「裏表紙も馨の案でいいんじゃないかな。写真選びはするとして、各キャラ何枚かずつで」
そんな中志鶴先輩が苦笑まじりにROMの中をパソコンで開いて六キャラでどれにしようかと探し始める。
「あとは表面をどうするか、だね。これかなり重要っていうか、売り上げ左右するよね」
じぃと視線を向けられてあわあわと花実会長はしょんぼりと肩を落とした。
「新しく撮るか、それともこれが一番っていうのをばーんってのっけちゃって、タイトルつける感じにするか、ですか?」
花涌さんがこそりと自分の意見を言ってくる。うん。その考え方で間違いじゃないと思う。四月には初心者だった彼女も七月の撮影を通して少しは育ってくれたようだ。
「あの! エレナちゃんのROMを参考にするのってどうかな?」
けれども、そこに奈留先輩がこんなことを言い出したのだった。
ブックレットとこっちは違うわけだけど、表紙だけならといったところだろうか。
エレナの一冊目のROMはここにもあるけれど、風景を中心として、あまりキャラを推さない作りになっている。みなさんからは珍しいと言われたものだ。
「いやぁ、無理でしょあれは。背景メインでそのなかにこっそりキャラがいるとか、滅多にできるもんじゃないし、真似してる人とかもでてきたけど、いまいちしっくりこないみたいだし」
あれはあの人だからできることだよーなんて言われてしまうと少し照れる。というかみんながコスプレに特化しすぎた写真しか撮らないのがいけないんじゃないだろうか。もっと山とか森とかがんがん撮れば良いのに。
「ええと、木戸くんならできるんじゃないかな?」
奈留先輩が恐る恐るそんな話をふってくる。はて、どうしてそう思われるのかさっぱりわからない。
では、やるか、と言われたらどうだろうか。あの時はエレナのキャラの一つがそれっぽかったので、空間そのものを、生活している場所をということでああいうものにしたけれど、これでやる必要があるだろうか。
「背景メインで撮ることはたしかにできないではないですけどね。でも中のキャラとの整合性っていうか、そういうのを考えつつです。みんなが失敗してるのって雰囲気で引きで撮ってるからってのもあると思うんですよね。それじゃキャラと合わないじゃんっていうような」
たんに引いて撮影をすれば、いい表紙ができるというものではない、というのがルイとしての感想である。今回のROMに関してははたしてそれは適応できるのかどうか。
「な、なるほどね……ちぇ。せっかく見れると思ったのに……」
奈留先輩がなにやらよくわからない感想をこぼしながらしょんぼりとしていた。
本当に彼女はなにをしたいのかがよくわからない。
「もしくは本編では三人が絡むことはなかったので、それを絡ませつつこの子たちならどういうシチュエーションになるのか想像してみましょう」
「お茶会……かなぁ。食堂のわきのテラスで。志鶴は給仕みたいな感じで、紅茶を持って立ってて、奈留っちが主人で、遊びにきている鍋ちゃんって感じかな。借りてきた猫みたいに小さくなってるイメージというか」
「おお、花実が会長っぽい威厳を保った」
ううんと考えつつ出てきた答えにみなさんの顔が少し明るくなる。
「会長っぽいじゃなくて会長です。このコンセプトでどうだろ? 木戸くん撮ってくれないかな」
「別にいいですけど、時間指定は? 朝訪ねてきたのか、夕方なのか。アフタヌーンティーをしているのか。そこらへんも変わります」
「うぐっ。そこまでですか……」
「それくらいまで、です」
もう、それくらいこだわっていただかないと困りますとあえて女声でいうと、みなさんが、またかよという視線を向けてきた。べ、別に七月の撮影の日にいろいろ言ったりしたけど、むしろセーブしたくらいですよ。
ルイだと思われても困るし、きちんとテンションは落とした。
落とした上で、おまえはーと言われるとは本当に心外である。
「奈留先輩のキャラの趣味がおかしづくりだから、アフタヌーンティでいいんじゃないですか? 撮影の時につかった道具もありますし」
おかしも買ってきてやりましょーよーというのは鍋島さんだ。ちゃっかりお菓子を食べる気まんまんらしい。
「じゃーそれで。時間は三時くらいで行きましょう。何枚か撮って、それで良さそうだって思ったの選んでください」
撮りはするけど選ぶのはやってくださいよと上級生に丸投げする。さすがに選別までこちらがやってしまっては、出しゃばりすぎという物だろう。
「あとはROMそのものの印刷はどうする?」
「時間ないしなぁ。表紙の切り出しでいいと思う」
ふむ。確かにタイトルロゴをいれつつの表紙をそのまま円形に切り抜いてラベルとしてしまえ、というのはありといえばありなのか。まあ場合によってはそのシチュエーションの別パターンを入れたっていいと思う。
「んじゃ、あとは会場での展示のことを考えるだけだな」
一応今日はそっちの会議がメインだったわけだしと、成り行きを見ていた時宗先輩が苦笑をもらした。
そう。本番一週間前である今日は、なんの写真を印刷して会場で面に出すのかを話し合うためのものだったのだ。
そこからは時宗先輩に進行をバトンタッチである。
「とりあえずは、なんとかなった……かな」
ふぅとため息をついていると、奈留先輩にじぃーっと熱烈な視線を向けられてしまったのだけど、その理由はよくわからなかった。
久しぶりの特撮研での一幕です。これを前編でやって後半にイベント当日まで行く予定だったのですが、さすがに間に合わんということで。書き上がり次第一日目の一話をアップしようかと。夏イベントは全面書き下ろしですが、一話目はルイとして、エロゲ会社の企業ブースに遊びに行きます。別作品のクロスオーバー予定。
二日目はクロキシと翅と、女の子の日を過ごす予定です。翅さんはエレナの弟子になってから大人しくなってますので、ご安心を!
そして三日目が特撮研の人達と一緒にという感じですね。変装した崎ちゃんが買いに来たりーみたいな計画です。二日休みなのでしっかり書きますよー!




