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185.ジェンダー論と堅物先生

今回はちょっとジェンダー系のまじめなお話をはさんでおります。

昨日はお休みしてしまってすいませぬ。

「おっ、なんか初めて授業かぶったかも」

「ああ、木戸くんだ。久しぶり」

 五月になっての一回目のとある講義で一緒になったのは健康診断のときに仲良くなった清水衛くんだった。いつもは大きめな部屋での講義ばかりなのでなかなか会えてなかったのだけど、ここまで狭い教室のなかでとなると、見つけるのは容易いというものだ。

 本日の講義はジェンダー論。

 人文科学の領域の講師が担当するこれは定員が六十人程度のさほど大きくはないものである。

 ディスカッションなんかもやるとかかんとかでこの人数になっているという話もあるのだけれど、純粋にあまりとろうとする人がいないからなのかもしれない。

 実際定員割れしていて今年の受講者は五十人にいかないくらいだし空席もある。

「つーか、なぜに同じ学部なのにこれほど会わないのか……」

 もうすでに五月で、初回の講義が始まっているものもちらほらある。

 その前は講義のとりかたの説明だとかを大部屋でやっていたものだけど、その時もいたはずなんだけど見つけられなかった。

 人が多いからその中に埋もれてしまっていたのだろうけど、あちらからも声をかけてこなかったのはちょっと寂しい。

「んー、まぁチュートリアルは参加義務がないし、通院してたりとかいろいろあってさ」

「それはそうと、隣は開いてるかい?」

 じぃとその少人数制の講義を前に、一番端の席に座っている彼にそう問いかける。

 右端にいる彼の周りは、それこそなにかで隔てられてるように、思い切り人がいない。

「開いてるもなにも……がらっがらだよ。みんな左側に寄っちゃってるし」

 あははと苦笑を浮かべる彼の顔は硬い。もうちょっとゆるゆるにしてあげたいものである。

「んじゃ、隣と後ろとどっちがいい? 話しやすいのは隣かあ」

 では失礼をしてと座り込むと、彼の横顔に視線を向ける。

 ううむ。改めてこうやってみるとたしかに整った顔立ちだと思う。かっこいいとも思うけれどそれは表情の問題なのかもしれない。

「にしても見事に女子ばっかりだなここ」

「だね。完全にアウェーというか。どうして木戸くんはこれを?」

 他にも選びそうなの一杯あるのにと言われて、真面目に答えておくことにする。

「身近にジェンダーがどうのってやつらがたくさんいて、それなりに詳しいつもりだけど、一回きちんとこういうところの講義も受けてみようかって思ってさ」

「へぇ。僕も似たような感じかな。ジェンダーって聞くと放置できないというか」

 男子はやっぱりこういうの避ける傾向なのかなぁと言う声音はまだまだ高めで、かわいい男子という感じだ。ここらへんの状態で男装女子という扱いになるんだろうか。自分も半陰陽だのFTMだの言われるので、似たり寄ったりなのかもしれない。だが、男だ。

 そんな会話を交わしていたら、講師が入ってきて授業が始まった。大学の講義は基本九十分。

 最初にジェンダーとはなにか、という説明から入っていく。

 聞くまでも言うまでもなく、社会的な性別のことをジェンダーという。男らしさや女らしさと言われるものだ。

「このジェンダーという単語はあまり日本人には浸透していないわけであり」

 講師は四十を過ぎてさらにもう一声というくらいの女性の方。若干、不健康そうな顔立ちをしているように思える。

 すでに既知のことなので、まあそうだよねという感じで話を聞いていく。

「そして、それに基づいた偏見をジェンダーバイアスといいます。ではみなさんがどれだけそれに染まっているかというのを見るためにも十分時間を上げますので、それぞれ男らしい、女らしいことを記載してみてください」

 プリントが配られるとそこには記名欄はなく、男らしい、女らしいってなんだろう、みたいなことを書く欄がある。

 んーと思いつつ、鉛筆を走らせた。

 一般的な男性と言えば、大きい、ごつい、活動的、直線的。最後に家庭的と入れつつ、×でそれを消しておく。

 そして一般的な女性と言えば、小さい、柔らかい、大人しい。最後に怒りっぽいと入れつつ、×でそれを消しておく。

 書いていて、個人差だろこんなのと思ったのはいうまでもない。

 ちなみに怒りっぽいを消したのは、ジェンダーではなく身体のほうに依存するからかなぁと思ったからだ。ホルモンバランスで女子はいくらでもヒステリーになるものである。これぞ、ミステリー。

 男性の家庭的は最近は増えているけれど、一般的ではないかということで×をつけている。正直今までの経験から、木戸の家事スキルが周りに感心されるのをみるに、これはちょっとないかーということだ。

 そして回収された紙を元に、講師は男らしさ女らしさを板書していく。

 もちろんこれだけの人数が居てもかぶるネタは多いので、そこに書き出されているのはそれぞれ十個ずつくらいだ。

「見ての通り、これだけ、らしさに染まっています」

 ばばんと書き出された、男らしさ、女らしさを見ながら、うぅーんと内心で苦々しいうめきを木戸はもらしていた。いわゆる、ステレオタイプの男らしさ、女らしさの中身がまったく自分と合わない。

 男性は強い、大きい、かたい、文明的、理性的、進歩、能動的、攻撃的、暴力的、ここらへんに絡んだ内容がでているわけだけれど、木戸はなるべく柔らかい物腰でいけるように努力しているし、もちろん攻撃的でも暴力的でもない。そんなもんは狩猟民族としてやっていく場合の役割分担であって、今の文明時代に合わないように思う。

 と、そこで気づいた。

 ああ。これは頭の中で思っている男らしさや女らしさを書いただけで、実際の生活とはあんまりリンクしてないんだな、と。

 総体としてのイメージでは、これだろうという印象がどこかで植え付けられているけれど、実際生活していれば、そうじゃない男女のあり方はいくらでも見てきたし、今の年齢になってしまえばそんなに差も無いように思う。

 もちろん十歳前後の男女だと明確に差はあるのだと思う。女の子のほうがませ方は早いわけで、男子はいつまで経っても馬鹿なままと言われている。そこらへんは木戸自身アホな子だったので、おぉこれが男子らしさかと思ったりもしないではないけれど。え、あれは無邪気さだって、ああそうですか。

 男女差というよりも個人差の方が大きいし、その相手を見ればそれでいいのではないかという気になった。

「さて、ではさらに掘り下げてジェンダー記号についての話をしようかと思います」

 そうして取り出したフリップには、一枚の絵がかかれていた。

 一見して女性であるということがわかるパーツが揃っているデフォルメされたキャラだ。もうちょっとかわいくかいてあげればいいのに、いわゆる一般人が描く絵という感じ。萌え絵でもなければ男の娘でもない。

「先ほどみなさんに書いていただいたのは、行動面でのことが大半でした。けれどもそれ以外にジェンダーを縛るものについて、なにか思い浮かぶものがあったらどうぞ」

 挙手を求められて、一人の生徒がそれに答えた。なんとも進歩的な女生徒である。

「服装でしょうか。女性の動きを阻害するようなものが多いように思います」

 その子はそういうとすとんと自分の席に座った。パンツスタイルだからこそなのか、少し股が広がっているように思う。姿勢は良くしておこうよと思ってしまうのもバイアスだろうか。

「はい。その通り。スカートなんかは女性のジェンダー記号です。これをはいていることによって、相手がその人を女性だと認識するアイテムと言えます。逆にパンツスタイルの場合、男女共用なので記号たりえません。そういった性別を判別するために使われるものをジェンダー記号と言っていて、これによって我らが区分けされます」

 ここテストにでますからーとぺしぺしその言葉を指す講師は、心なしか満足そうである。

 こっちとしては、複雑な心境だ。たしかにジェンダー記号を多用することによっての女装はできるのだろうと思う。学術的にアプローチもかけられるのだろうけれど、女子だったらこうだろうなという風なアプローチをしてきた人としては、いまさらこれは女の子っぽいから~とかっていって選ぶというのもナシである。

 というか、それをやり過ぎるとバランスも悪くなるしあまあまな服装になってしまいそうだ。個人的にはかわいいバランスというものを維持しておきたい。

「その絵を見る限りでは、髪型とかからだのラインとかも記号になるのでしょうか?」

「そうですね。小柄で髪が長くてスカート姿だと、大抵女の子だと思われます」

 では、次のフリップに、ということで彼女が取り出した写真に、は? と一言呆けた声を発してしまった。

「まずこの写真をみて、彼女が女の子だと思う人は手をあげて」

 そこに表示された写真。それは言うまでもなくエレナのコスプレ写真だった。姫の服装をしていてとても可愛らしい。完璧スカート姿で乙女乙女した姿だ。髪も長いし、ジェンダー記号たっぷりである。

 そこでみなさん手をあげるわけだけれど、木戸はもちろん手をあげない。だってエレナたんは男の娘だもの。

「では、次はこちらの写真です」

 ぶふっ。

 その写真が公開されて、思わず、ちょっとまてと噴き出してしまった。ひどい。いくらなんでもである。

 ローアングルから狙った写真はこれでもかとスカートの中を撮っていて、思いきり下着が見えている。エレナはキャラの特性を重視する子だから、あえてタックなんて技術はやらない。なので思いきりもんまりした下着が写し出されているのである。つーかあいつ下着までキャラ設定のまんまなんだよな……

「えと、男の子なんですか?」

「ええ。紛れもなく彼は男子です。この膨らみが証拠です。本人は内緒といっているし、いろいろ諦めきれない方はいまだにそれは作り物だ、それくらいの役作りをしているんだと言っていますが、事実はこうです」

 なんとまぁとみなさんの目がまんまるくなる中で木戸だけは一人、あーあ、まったくもうと不満げだった。そもそも本人の許可をとって教材にしているんだろうか。

「つまり、ジェンダー記号を駆使してやれば、それを受ける側はそれに反応するというわけです」

 そしてそれこそが押し付けられたらしさの一部でもありますと講師の方はなぜかどこかをにらむようなしぐさをする。

「じゃあ、先生はジェンダー記号になるようなものは除外していった方がいいってことなんですか?」

 おしゃれだって楽しみたいのに、と一部から不満の声が上がる。

 当然だ。衣類は、おしゃれは楽しみだ。スカート自体が押し付けられたものだ、なんて言い始めたら今のアパレル業界は大打撃である。

「そういうことではないですよ。自分から着るのであれば別にそれはかまいません。ただ押し付けになってしまってはいけない。そして多くの会社では女子社員の制服はスカートだし、学校だってそうなっています」

 まったく、いつまでたってもこの風習は変わらないし困ると講師が言うと、教室中はどことなくそれが正しいという空気になっていくから不思議なものだ。

「しかも先ほども出ましたがスカートの方が圧倒的に動きづらい。いいですか。ジェンダー記号として成立するもので女性のものとされるものは、どれも苦労する物ばかりです」

 長い髪だって、本当に処理が大変と彼女が肩をすくめると同意するような声がちらほら上がった。

 そりゃ、わかりますよ。夏は暑いしケアも時間がかかるし。ウィッグでごめんって思うけど、それもオシャレの一環だし、髪型に関しての規定なんてむしろ清潔感が優先じゃないだろうか。

「あの、スカートってそんなにダメなもんですか? 夏とか涼しいだろうし、そこまで目の敵にしなくてもいいと思うのですが」

 服は所詮布だ。押し付けられたもなにも制服というもの自体が学校から、会社から押し付けられたものであるし、好きな服を仕事上できたいというのなら、仕事を選べばいいだけの話だ。いまいちこの講師は、女性は差別されているという前提のための道筋としてこの講義を作ってるようにしか見えない。

「今年は珍しく男性もこの場にいます。せっかくだから衣類を強制される辛さを味わってもらいましょう」

 こちらの意見を見事にスルーして講師の方はこちらに冷たい視線を向けてきた。ああ、例年こうなるから男子が極端に少ないのかここはと、今さらになって思ってしまった。反対意見は権力で封殺して自分の意見だけをごり押して、同志を集めていくというのがこの授業なのだ。とても下らない。

「さて、二人いるわけですが、どちらかにやってもらおうかと」

 ちらりと視線を木戸とお隣の清水くんに向ける。さぁどちらがいいかなという感じか。その視線に彼はひぃと体を震わせていた。まあそうだよな。FTMでなにが嫌って、スカートはかされるのが一番嫌だろう。

「清水さんがやりますか? それとも木戸さん? さきほどスカートは涼しそうでいいとかいっていたのだし、あなたがやりますか?」

「あー、別にいいですが、来週ってことなんですか? 時間もおしてますし」

「ええ、小柄な子用の服を用意して待っています。来週休んだら単位あげないので」

 残り時間はあと五分程度だ。実際に着替えてとなると時間が足りなくなりそうだし、衣類の用意などもあるだろう。彼女はにんまりしながら、来週こなかったら単位をあげないと宣言した。こちらの言いぐさは逃げの手段とでも思ったのだろうか。こちらとしては物理的な障害でできないと言っているだけなのだけど。

「では、今日の締め括りとして、これをお伝えしましょう。ジェンダーバイアスはまだまだ存在している。それが男女差をうみ、差別に繋がっている。そこら辺の話を中心に、次週はより詳しく話をしていこうかと思います」

 そこでちょうどチャイムがなった。まったくはた迷惑な講義を取ってしまったものである。けれどもこういう人もいるという点で見れば勉強なのかもしれない。

 いままでアクティブに生活していた女の子が多かったから気づかなかったけど、大人女子というのにはこういうのもいるのだと、今日一番学んだ内容を頭に詰め込むことにした。



「うぅ。木戸くんさっきはありがとう」

 まじ、どうにかなりそうだったという清水くんを前に思わず頭を撫でそうになって、やめた。ルイなら、女同士ならやるのだけど、相手も自称男子だし、こちらだって男子である。そんなことをやってしまったら腐ってる人たちが大喜びしてしまう。

「いんや。別にどうってことねーって。ていうよりスカートは嫌だろ。俺の方がダメージ少ないし別にいいよ」

 さすがに慣れていますので、とまでいうつもりはない。

「えっと……木戸くんは僕のこともう、聞いたんだ?」

「うん。まあな。友人からだけど」

 なので、と彼に向き合ってあらためて、問いかけることにする。

「FTMってことで、性自認と性指向と、どこまでやりたいのか、どう扱われたいか、言える範囲でどうぞ」

「……手慣れてるなぁ。そんなあけすけに言われたの初めてだよ」

「だって、面倒臭いの嫌だし。感覚の共有はしておかないと面倒なことになるし」

 そもそもこれが聞けないから周りの連中は少し距離をおいてんだろ、というと、まーそうなんだよね、と苦笑を返されてしまった。何を聞いて良いのか、怖がってしまうからこそあの線引きはできる。繊細な壊れ物みたいに思ってるのかもしれない。

「で、僕のことだけど、いちおう気持ちは男子だと思ってるし、手術とかホル注とかも視野に入れてる。好きなのは一応女の子だけど、一回しか付き合った経験がない、かな」

「一回あるだけで勝ち組って、どこかの誰かが言ってた」

 木戸とて彼女を作ったことなど一度もないというか、男から告白されるケースの方がむしろ多くて、ばったばったとふりつづける日々である。

「おっけ。ならふっつーに男子扱いでいいな。まーもともと下ネタ系は俺もいわんし、問題になることもないと思うけど、会話中でそれはちょっとってのがあったら遠慮無く言ってくれよ」

 我慢はさせたくないし、こちらも気になることがあったらばんばんいうんで、というと彼は、えっ、と目を見開いた。

「一方的に配慮されるもんだって思ってたけど……こっちの話も突っ込み入れてくれるなんてやっぱり初めて」

「そりゃ、普通の人間のコミュニケーションってそういうもんだろ。お互い考えてることが違うんだし、背景(バックグラウンド)だって違うんだから、ちゃんと話さないと通じない。GIDの場合はなおさら特殊だからきちんと聞かないとトラブルになるってだけで、一般のコミュニケーションと変わらないよ」

 ここらへんは、ルイとしての活動が大きな影響を与えている。人を撮る時にはコミュニケーションをしないといけないわけで、そこでこういう風に会話をして相手を知ろうとするわけだ。いろんな人に会ってきたし、それぞれ考え方も全然違う。それこそ男女での違いというよりも個人や地域で気風や風土が違う感じだ。

「そんなわけで、いちおう携帯番号交換しておこう。お友達ということで」

 この前はあんなことがあったので、友達っぽい行為であることのこれをしていなかったのだ。番号は木戸用のものを当然教える。ルイにも番号を持たせたいと思うこともあるけれど、基本メールでのやりとりをさせていただいている。この前の田辺さんの騒動から、エレナに、ルイちゃんも外でWEBメール読めるようにしといた方がいいよと言われて格安SIMを紹介された。今ではラインとかメールとかもタブレットで使い放題である。まああくまでもアレは写真確認用という用途が主なのは変わらないけれど。

「おぉ。大学に入って初めてのアドレス交換だ」

「おまえ、どんだけ隔離されてんだよ……」

 ううむ。今まであってきたFTMが押しが強い人ばかりだったから、気弱系というのもなかなかに新鮮だ。

 でも、自分を売り込むバイタリティというものは持っていて欲しいものである。

 そんな風に二人で話をしているところに、乱入してくる影があった。

「清水さん。貴女、男になろうだなんて言ってるそうだけど、無理に男になろうだなんて思わなくたっていいのよ」

「なっ……」

 講義終了でみなさんがぞろぞろ外にでていく中で隣の席に浴びせられたその一言に、一瞬理解が追いつかなかった。せっかく新しい友情を育んでいるところにさきほどの講師が乱入してきたのである。清水くんは明らかに不愉快そうに顔を歪めている。

「それは、どういうことですか?」

「どうもこうも、男になりたいだなんて、今まで女として嫌な目にでも合ってきたんでしょ。でもこれからの時代は男女平等の社会にしてかなきゃいけないんだから。あえて男になる必要なんて欠片もないの」

 そもそも、と話しかけるところで、えいやっと、清水くんの体を抱き締めておく。震えて爆発しそうだったからだ。こういうのは女子っぽいかもしれないが構わん。

「それ以上はやめてくれませんか? 攻撃的で暴力的な言葉ですからそれ」

 その姿勢のままきっと視線講師に向ける。許せることの方が多い木戸だけどこれはダメだ。

「は?」

 何を言っているのあなたはという視線がこちらに向いた。

 だから少し落ち着いたのを見て、友人の体から離れて講師(てき)と相対する。

「彼の友人として、黙っておくわけにも行きませんから。その言葉が彼にどれだけ負担になるのか、想像してみてくださいよ。バイアスは嫌だといった先から、自分で相手をはかって決めつけるっていうのはどういう了見ですか」

「いままで私だってそういう事例にあってきています。たいてい嫌な目にあった子が変に歪んでしまってそうなるの。テレビの影響もあるでしょうし。でも男になって社会的地位を得てどうするというのです」

 女は女のままで強くならなければならないと、彼女はしごくまっとうな、それでいて思考停止をしている演説をした。

「こいつの場合は、そんなんじゃないですよ。そもそも男になった方が地位が上がるから性別変えるなんて、営利目的でしょうが。そんなんで性別変えられるはずないし、そもそも性別変更した人間の社会的地位が、LGBTって呼ばれてる人達の地位が、一般女性よりも上だ、という根拠はあるのですか?」

 いづもさんも言っていたけれど、一芸を持っていればいいようなものの、採用段階で普通の人とトランスの人を並べたらトランスの人を落とすのが今の世の中だ。

「うぐっ。あなたはあくまでもそんな自分は男だ(よまいごと)を信じるってわけね」

「そりゃもちろんです。友達ですから」

「うふふ。ここまで私に暴言をはいた生徒ははじめてよ。来週を楽しみにしていなさい」

 彼女はそういう捨て台詞を残して去って行った。本当に香ばしい御仁でござる。

ジェンダー論。大学時代にとっていたのでそれを思い出しながら書きました。ゆえに時間がかかったわけです。性差よりは個人差ってのがメッセージでそれはわかるんだけど、性差もあるよなぁというのがこちらの言い分でした。女子ばっかりでした。

ジェンダーってついてるけど、セクマイとはまた違ったベクトルというか、女性活動家のための講義という感じで。そういう思想ならむしろ「性別を変える行為」にいちゃもんつけてくるのかなと思ってこうしたんですが、実際の団体などとは全く関係ないねつ造です。実際どうなんでしょうね。

ルイさんの携帯事情で2in1の携帯にしようというプランもありましたが、着信がどっちあてかわからないみたいなのでやめました。いずれは二台持ちにさせる予定です。


はい。それで明日も書き下ろしになりますが、最後にござるでしめたことからもわかるように、長谷川先生の所にこの件で相談にいって、翌週を迎えます。木戸くんは果たしてどんな衣装を着させられるのかっ。今から楽しみでござる。

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