179.コンビニめしの撮影
昨日の夜アップ分の178もありますので、どうぞよろしくです。
それから数日経たずして、おすすめ商品の紹介ページをつくるはめになってしまった。
基本的には、お弁当系の売り出しがメインとなるので今回撮るのはリニューアルされた親子丼。
さぁどうやって撮ろうか。それを考えると数日かなりわくわくした。
シフォレで言われるのは「食べたそうな写真を撮ってよ」ということだ。
実を言えばいづもさんには、臨時の新作の写真はさぁ、撮ってくれたまえと言われているのだった。
基本的にメインのデザート写真はもともと撮ってもらったものを使っているけれど、季節の新作となるとルイが呼ばれる。月一回の試食会も、半ばそれのためというような側面もあるくらいだった。
料理専門で撮ってる人ほどかっちり撮れないですよ、と言いはしたんだけれど、そのときにそんな言葉がでたのだ。
もちろんその後に「なるべく経費は節減したいので」という言葉が漏れ聞こえたのを聞き逃しはしていない。
そんな経緯があって少しだけ、食べ物の撮影には思うところがあるのだけど。
新作紹介をするなら、試食会をしているところを映せばいいのではないか、という提案をしてみた。
まず、店頭で販売しているものを撮影する。本部でキレイに映されたものではなく、もろお客の視線で陳列しているところをパシャリと一枚。
そしてそのあと。
規定通りに温めて、湯気が立っているところで一枚。
実は、数ある店のお弁当の写真でこれがない。温めた後どうなるの? というのは重要である。
「はいっ。では店長試食をどうぞ」
「もーやっとだよぅ。朝ご飯へらせーっていわれて、もーさっきからおなかなりっぱなしだよ……ひどいよ木戸くんったらほんともう」
「でも、匂いかぐだけでたまらんでしょ?」
ひくひくと鼻を鳴らせているところを一枚。そして。
「やっとごはんだー」
うわーぁんといいながら店長が幸せそうにお弁当を口にいれるのを撮影する。
すっごい幸せそうな顔だ。
結局店長はそのまま、食べ慣れたお弁当を食べきった。新商品ではあるものの毎日働いていればすで食べ慣れもしてしまうのが恐ろしいところだ。
最後にちゅるりとイチゴ牛乳をすすっているのは彼女の好みというやつだった。
「んじゃ、気に入った写真つかってくださいね」
ほれほれと、コンビニの裏のパソコンに写真を写して反応を伺う。
我ながら今回のやりかたはありだと思っている。食品の宣伝という意味での写真を撮るのは初めてに近いくらいだけれど、ご飯のおいしそうな感じというのはもちろん食べている人が楽しそうというのはいいものなのだ。
それを目指して、ネット通販系のところだと子供が無邪気に食べてる絵なんかが載っていたりするのだけれど、やるなら大人が喜んで食べるというのを見せるのが一番だろう。
コンビニめしは家族団らんのためというよりは、仕事人の生きる糧なのだから。
「ちょ、木戸くん!? あたしこんな顔してた?」
「してましたよ?」
「飢えた野獣から一転……って感じかなぁ。木戸おまえすげぇな、こんなん撮れるとか」
絵もめっちゃきれいだし、とシフトでいつも一緒になる先輩から褒められてしまった。
そしてそこからの加工は店長に任せる。
それの影響があったのかどうかは知らないが、少しだけお弁当の売り上げは上がったのだそうだ。
ご褒美で牛串をもらったのはいうまでもない。一本だけの報酬である。
そしてそれ以降。月一回のペースで新作を撮ることにきまってしまった。
今回はふわとろ親子丼だったのだが、次回はどういう趣向でいこうかと思ってしまう。
あえて奇をてらう必要はないだろうが、その場の空気を見せる必要がある。そしてその場の空気をおいしく仕上げないといけない。
「これはこれでおもしろい。いろんな方法論試せるってのはたまらん」
大学の方があまり本格稼働という感じじゃないからだろうか。普段から試行錯誤はしているけれどまったくもって方法論の違うところに足を突っ込むというのはそれはそれで楽しいことだ。
それも他の場所の知識なりを使った上で、どこまで試せるのか。
どこまで人の目を引くモノができるのか。
こざかしいといわれるかもしれないが、それはそれでかまわない。
まさかバイト先でまでカメラを扱えるだなんて、本当に幸せなのである。
それから一月が経った。
上機嫌で入り口から入ってきたのは、五十過ぎの男性の姿だ。
オーナーさんである。四十すぎくらいで脱サラして店を始めたのだという。もともと彼が店長をやっていたのだが、いまや彼がもつ店舗は五つにもなっていて、どちらかというとマネジメント業務を中心に行っているので店にはあまり顔は出さないのだけど、今日は何かあったのだろうか。
「黒くん。今月もここの店のホームページ大好評だよー。どうしちゃったのあれ」
「あれは、木戸君のアイデアですよ。まー割とあの手の食系漫画とかもあるので珍しくはないですが……アレンジとかは店内ではわりとやるし、今回はそこら辺もやってみた感じです」
廃棄……ださないように努力はしてても無理ですもんさ、と店長は頭を抱える。
そう。天気とイベントを念頭に多めにいれたモノが売れ残るなんていうことはしょっちゅうあることだ。
どこぞではネットで呼びかけて大量のシュークリームを完売させたりしたそうだけれど、さすがにそこまではできない。
そして廃棄は基本NGなので、社割で買ってみたりとかして、コンビニ弁当を食べ続ける日々となるわけだ。
木戸は働いている時間の関係でそこまで毎日食べ続けるということはないのだけれど、店長あたりになると相当で、それに好みでトッピングをしたりしているのである。
しかもおもしろいのが、コンビニにある調味料なり別のものをセットでくっつけるという荒技をするのである。
そういや、この前はふんわり玉子丼に、おでんの卵をトッピングしていた。
けっこーコレステロール多そうだけれど、アレで大丈夫なんだろうか。
でも崩すとすっごいおいしいよぅとかなんとかいうので、満足なのだろう。たしかにおでんのだしが良い感じに染みておいしそうではある。
「へぇ。撮影も木戸くんなの? あれ一部から写真のできもいいよねなんて話がでてるんだけど、カメラやるんだっけ?」
「そりゃまあ。カメラやるためにアルバイトしてるくらいですからね」
「それはいいことを聞いた」
にっと、オーナーのおじさんは口角を上げる。
うちの父より十歳くらいは上のはずなのに、見た目はけっこう若く見える。独身というのもあるのかもしれないけど、こういうのが大人の男というやつなのかもしれない。
「実は今度、喫茶店を開こうと思っていてね。本業のこっちはもちろんないがしろにしないけど、ちょっとこうーほけーっとできそうな場所を自分でつくりたいなぁっていう昔からの夢があってね」
そろそろ実現出来そうなんだよねこれがと彼は言い放つ。
なるほど。新しいことを始めたいと思えるくらいに、まだまだ若いというところか。
「そこでだ、そこはある程度アーティスティックに行きたいわけで、写真とか絵画とか彫像とか、そういうのがあふれるようなところにしたいなぁって」
「はぁ」
画廊とセットになっている喫茶店みたいなところもあるけれど、オシャレ系なカフェにでもなるんだろうか。
「それでね、芸術品コンペみたいなのやってそれで俺が気に入った作品はそのまま使わせてもらおうって思っててさ。もちろん謝礼は出すし名前も出すつもりだけど、どう? 木戸君もやってみない?」
お。ちょっとおもしろそうな話を聞いてしまった。この手の話にはいままで参加したことがないし、石倉さんにもなんかそういうのに出したりしないの? とは言われたし。
「それって締め切りとかもあるんですよね? 告知とかもするんですか?」
今のところ、木戸がその話を耳にするのは初めてだ。コンテスト系に興味はそんなにないけれど、町のオーナーさんのお宅のための写真というのならば、それは力をいれて撮ってみたいとは思う。
「実はここのホームページつかって告知しようと思って居てね。いちおう明日には公開予定」
「しょっけんらんよーってヤツですね」
「まあ、僕オーナーだしねー。それにちょこっとトップページにバナー張って誘導するだけだし」
そこまで大々的にやるつもりはないよーと彼は言い切った。
オーナーとはいえ、本部に目はつけられないといったところなのだろう。
「じゃあ、そこに作る予定の喫茶の間取りみたいなのものっかります? イメージ映像みたいな感じで」
「あー、まだ工事中だからアレだけど、完成予想図は載せるつもり。ってかそれに興味があるの?」
「なんていうか、イメージの問題もあるじゃないですか。飾る現場見た方がこんなかんじーみたいな」
あとはオーナーの趣味って俺そんなに知らないですしと告げると、まあそうなんだけどねぇと彼は苦笑する。
「僕としては、いくつか来た作品からびびっときたのを選びたい感じなんだ。だから今回プロへの依頼っていうよりコンテストにしたわけで。プロアマ問わず、あの完成予想図を見て、こんな写真ってのを出してもらってどんなのが来るのかなってのが楽しみなんだ」
参加賞も用意してるしね、と彼は言い切る。
コンビニで使える500円券一枚である。
それ自体も魅力ではあるものの、せっかくだからずっとそこにその写真が置かれて多くの人に見られるっていう状況まで行きたい。
そう思ってしまうくらいには欲はでてきたのだろうか。
なら、さらにつっこんでオーナーと世間話をしておこう。
「ちなみにオーナーの趣味っていうとどんな感じでしたっけ? ネコは駄目なんですよね」
「あ、うん。どっちかというと犬派かなぁ。でも動物よりは植物の方が好きではあるかなぁ」
「なるほど」
植物と聞いて一瞬であの銀杏さまが浮かんでしまうのはいろいろといけないのだろうなと思ってしまう。
「はは。さっきはああいったけど、君はどっちかというと現場を見て固めたいって感じみたいだね」
むぅと眉間にしわをよせていたからなのか、彼は笑いながら言葉を続けた。
「いいよ、建設中だけど店に案内してあげよう」
いつならあいているかな? と言われたので都合のいい日を伝えた。
工事中の喫茶店というのも撮影場所としては面白そうだ。
コンビニでも写真が必要になるケースはあるのでした。もっと日常にカメラを。
って、作者あんまりカメラいじってないんですけれどね!
働くのは大変でありますな。
次回はオーナー向けの写真って? みたいなお話ですが、半分以上書下ろしでまにあうのやら……です。




