175.父様と慰安旅行5
「さて。馨くん。詳しい話をいろいろきかせていただきましょうか」
ぎちぎちぎちと顔を引きつらせながら、はるかさんが笑顔を浮かべていた。さきほどはどうにも仲居さんの前だったから感情を押さえていたらしい。
ひぃ。そりゃ気持ちはわかりますが。怖いから、その笑顔怖いから!
「と、とりあえず落ち着きましょう? こっちだってはるかさんのこと知ったの、そんなに昔じゃ……」
「結婚式の後だから、九月以降は知ってたでしょー?」
「で、でもこっちも受験でイベントあんまりいってないしー」
ふむぅと言い訳をいっても、いつはるかさんに会ったかなんてこっちもわかってはいるのである。
「十月に、銀香でイベントあったよね。あのときは……知ってて知らないふりしてたんだ……」
「うぅ。そうですけど。頭の中からそのことは閉め出して話してましたよ? っていうか思い人の件だってこっちからはぜんぜんつっつかなかったし」
むしろ危ういところは全面的に接触しないのが木戸のスタイルである。ルイとして知っていること、木戸として知っていること。それらはお互い知らないモノとして相手と接するのが基本となっている。
「そうだけどー。あんなに親しくなったら言って欲しかったよー」
「言えないですよう。あたしの性別ばれって、エレナにある程度影響しちゃうし。はるかさんだって先にこっちの素性知ってたら自分のこと内緒にしてたでしょ?」
「うぐっ……それはごもっともすぎる……」
おたがいさま、か。と彼女はため息をつく。
「お互いそれぞれ内緒にしつつ、まー今まで通りに仲良くしましょーってことでいいですか?」
「私としては、今まで以上に、お願いしたいところだけど」
ルイさんにお願いします! だなんて言われてしまうと、もうそれに反論するだけの気力はないのであった。
「さて、ところではるかさん。この宿五時からお風呂が解禁するんですが、どうします? 思いっきり混浴はいります?」
昨日はどうせあんまり気楽にはいれなかったでしょー? とルイのりでいうと、おぉっと彼女は目を輝かせた。
「あ、でもみんな入りにこないかな、朝風呂とかって」
「んー、まあはるかさんは正直大丈夫なんじゃない? あたしは素顔見られたら、別人のふりをしてまきます」
でも、いちおうみなさんが寝入ってるのを確認してからいきましょっか、というと、そうねぇとはるかさんらしい口調での返事が返ってきた。
はるかさん自体はおそらく口調での変化の方が大きいし、メイクなんかはまるっきりやらないでお風呂に入るので昨日と基本なんらかわらない状態になる。それにたいして木戸は眼鏡をはずすという暴挙にでるので、係の人に見られたらそれまでである。
そして、こそこそとそれぞれの部屋の様子をそろーりと観察する。みなさま元気にすーすー寝息をたてているようだった。
父様は一人、寝言でも泣いているようで、うわーとか、嫁にはやらーんとか言っているけれど、きっといろいろと疲れてしまったのだろうから放っておく。
「さて。それじゃそろそろいきますか。ふふ、さっき岸田さんの寝顔も撮ってきてあげたのであとであげますよ?」
ふふっと笑ってあげると、そ、それはーと西さんがきょどる。欲しいけどーでもーと照れているのだ。どうせ拒否をしようが昨日撮った写真と一緒にプレゼントなので暖かく受け取っていただきたい。
「うぅ。なんかもーやだ。全部見透かされてるようで、いろいろ恥ずかしすぎるー」
いいもん、さっさとお風呂はいるもんと、彼女は子供っぽいキャラ付けで混浴ののれんをくぐった。男女は日によって入れ換えをするそうだけれど、混浴のお風呂だけはずっと同じところなので安心である。
「せっかくだから、男湯とか入ってみる?」
この時間なら誰もいないんじゃない? そうはるかさんに言われて、おぉっと少し心が揺れた。
混浴風呂は、宿屋の解説によると少し小さい。それでも十分足は伸ばせられたけれど、それよりも広いお風呂があるというのなら、ゆっくりはできなくても入ってみたいというのが心情というものだろう。
「混浴の方から入っていく感じにしましょうか? 誰かいたらいろいろ危ないし」
「ま、僕は危なくないけどね」
岸田さんさえいなければ男湯だっていけるのですと言い切るはるかさんはどことなくボーイッシュではあるけれど、やはり乙女である。
「むぅ。どうせ素顔だと女子扱いですよーだ」
でも、やっぱりお風呂は眼鏡なしで入りたい。お風呂眼鏡付きが悪いわけではないけれど、開放感は違うのだ。
「ほんともう眼鏡外すと性格変わるわね……まあ、可愛いけど」
「右側が男湯……でいいんですよね。ってことは中に入ったら右側を開ければいいのか」
日にちによって入れ替えという話もあったのになぁと不思議に思いながら、二人は混浴ののれんをくぐったのだった。
そしてその直後。
「おっと、いけないいけない。撮影に集中しすぎてて、のれん換えるのすっかり忘れてた」
ふー、あぶないあぶない、と仲居さんは男女ののれんをかけ直して満足げに頷いた。
夜のうちにお風呂の掃除をすませて、お湯をはり途中のところでルイさんとばったり会ってしまったので、そのまま撮影になってしまったのだ。ああ、今思い出してもあの一線級のコスカメラマンに単独で撮ってもらえただなんて、もう嬉しくてたまらない。
中の扉に関しては特に表示はしていないので、外ののれんこそが大切だ。まあもちろん部屋の方にもお風呂の案内はしてあるので、日が変わると男女が逆のお風呂になることはお客さんはわかっているとは思う。先ほど男湯と女湯の脱衣所も見たけれど、特に衣類も置かれていなかったので、入っている人がいないのは確認済みだ。
「そしてお次は、と」
撮影の関係で仕事が押してしまっているのは確かだった。女将にどやされるなぁと思いつつさぁさっさと次の仕事にいかなきゃと彼女はとてとて歩き出したのだった。
「さて、どっきどきの男湯体験がまさにいま実現せりっという感じですね」
ふふふと、ととりあえず混浴のお風呂の方で少し火照った身体を、朝の風にさらしながら入って右側の扉に手をかけた。
混浴とそれぞれ男湯女湯に通じている通路は同じ作りをしていて、それぞれからは直接混浴が見えないように目隠しをされている。これは混浴から女湯に戻る時に禁断の園が見えてしまうのを避けるためだ。
「まったく、ルイちゃんったら、男湯覗くような絵面になっちゃって」
はるかさんが苦笑ぎみだ。ちなみに昨日はコンタクトをはずしていたけれど今日は思いきりつけてるらしい。昨日はずした理由をきいたら、だって男湯に入ることになったら、ちょっと見えないくらいな方がいいじゃないとてれってれに言ってくださったのだけど、カメラは手元にないので指でフレームを作るだけに止めておく。もったいない。
「い・い・ん・で・すっ。別に男の人の裸を見たいとかじゃなくて、浴槽のほうに目的があります。広いお風呂なんてあんまり入れないんですもん」
ほんともう、涙目なんですからと言うと、よしよしとはるかさんは頭をなでてくれた。
まったく、装飾まったくなしなのにこの人の感じは思い切りにお姉様のそれだ。
その雰囲気にほっとしながら、先に進んでいくと、ばばーんとそのお風呂は姿を現した。
すごかった。うん。混浴の三倍まではいかないのだけど、それなみの広さがあるそこは、良い感じに草木も植えられていて、リラックスできそうな感じだった。
ああ、なんであたし、男湯に入れなかったんだろう。
眼鏡かければ入れるんじゃないか、という考えがいろいろと頭に浮かんできてしまった。うん。避けちゃいたけど、お風呂眼鏡かければそちらに入れるのでは無いだろうか。
「あー、ルイたんルイたん。いくら眼鏡かけても身体のラインで男子の目がやばいから、やめといたほうがいい」
ぼそっとつっこまれるはるかさんの台詞で妄想世界はそこでおしまいだ。
くぅっ。お、男湯ならみんな、ヤローの裸体なんてみないんだもん! 修学旅行の時だって青木が変なことしなければ普通にちゃんと温泉にだってつかれていたはず。きっと。
「ほんとに、だめ?」
じぃとはるかさんに、なさけない視線を向けるものの、彼女はふるふると首を横に振った。
「そういう仕草がはいダメー。もうね、下ついてても、作り物でしょどうせって言われるレベルよ」
「……あの、ちゃんと根付いてますからね? アロンアルファとかでくっついてるとかないですからね!」
「ほんとかなぁ? その顔見ちゃうともう……そんなものはタダの飾りですっ! みたいに思っちゃうよぅ!」
はぁはぁ、ルイたん。と息を荒げるはるかさんは、いつものおねーさまの雰囲気をかなぐり捨てていた。
若い頃の熱い血潮がとか言っていたけれど、いくらなんでも熱すぎである。
そもそも接着剤疑惑をかけられたのは初めてですよ!
「まー、それでも、広いお風呂にぬっくぬくしてると、いろいろどーでもいいんですけどねー」
身体はすでに洗い済みなので、ここでとぽんと入ってしまってもマナー違反にはならない。
「ふふー。混浴のお風呂も良かったけど、開放感がたまりませぬな……」
「そりゃ、広いしねぇ。ほんともー壁があんなに遠いとか驚きな感じ」
ちょろちょろちょろ。少しずつ注がれる温泉のその音が心地よい。時間はまだ六時前だ。あたりに多少は車の音はしたとしても、日常の喧噪にくらべればもう、朝日が上がり始めて良い感じな時間帯にお風呂に浸かれるだなんて幸せすぎる。
そんな時間がどれくらいたったろうか。たぶん五分はなかったとおもう。ここは水温が高めでちょっと入ってちょっと休むみたいな感じなところなので、混浴にいたときはこまめに休んでいたものだった。もちろん男女トータルであの回廊を渡ってきたのは木戸父のみだったので、思い切りくつろがせていただいた。
カップルがいないのはありがたいといったら、お金があるカップルさんなら、部屋風呂のほうで楽しんでいるに違いないとはるかさんが羨ましそうにいっていた。
なら、岸田さんと一緒に部屋風呂体験しちゃいなよといいたいくらいだ。
そんなことを思っていた矢先だ。
「いっちばーん!」
いやっほーと、扉をからからあけてハイテンションな声をあげているのは、なぜか若い女の子だった。中学生か高校生か。ともかく木戸をして年下の子である。
「って、あれ?」
あれあれ? と彼女はこちらの姿を見つけたみたいで、ずずいと近寄ってくるようだった。
その台詞はむしろこちらの台詞である。はるかさんだって固まって、あれあれ? と言っている。
我らは確かにのれんの位置を確認してきたし、こちら側は男湯のはず。だよね?
でも、目の前にいるのは女子だ。ほらそこ、どうせその子は戸籍上は男だとかそういうのを期待しないでいただきたい。目の前にいたのは、なぜかこちらののれんをくぐった女の子だったわけだ。
「まさか、先客がいるとは思っていませんでしたっ! おはよーございます」
完璧な女声で彼女は手を上げて挨拶をしてきた。まあ女子なのだから女声なのはあたりまえなのだけれど、もうルイとて自分が何をいっているのかよくわからない。それくらい目の前の現象には戸惑いを隠せない。
「あ、ええ。おはよう」
わりと美人さんといって差し支えないだろうか。全体的にまだ成長しきっていない身体はこれからの伸びしろを十分に感じさせるし、胸は……うん。それほどないけれどまだまだこれからだろう。
「脱衣所の方になにもなかったってことは、おねーさん達はまさか混浴のほうから先に入ってたみたいな感じなんですか?」
「……」
「うん。あっちも脱衣所あるからね。そっちで着替えてこっちに移動してきた感じだね」
はるかさんは完全に固まってしまったのでここはルイがなんとかするしかない。こういう所の場数はそう多くはないけれど、なんとか身を守れるようにしなければ。
そう思えばあとは簡単。理由はしらないけれど、こっちに彼女がいる以上、混浴までなんとか避難できれば我らの勝利である。崎ちゃんとかちあったときよりは遥かにこちらのほうが難易度は低い。
「うわー、混浴から入るだなんて、さすがに大人ですねー! 私も入ってみたいんですけど、従姉妹に止められてしまって。あなたの柔肌を男共に見せるわけにはいかないとかなんとか」
神経質だなって思うんですけどねー、という彼女の肌は確かにみずみずしさに溢れている。まあそれいっちゃうと、しっかりケアをしているルイのほうが肌状態は良いのだけれど。
「いちおーほら、変な人もいるかもしれないから、まだまだ危ないよってことなんじゃないかな?」
「えーでもそれならおねーさんの方がよっぽどアブなさそうじゃないですか。絡まれそう」
美人さんだし綺麗だしーと、少しまぶしそうな視線を向けられるとむずがゆくなるものの、とりあえずはこの髪の長さでもこの子は自分を女性だと認識していると内心ではほっとする。一番最初に、あんた男じゃないのと突っ込まれない自信はあるけれど、さすがにひやひやものである。メイクもろくにしていないのだし。
「んー、いちおう朝ってのもあるし、それにほら、みなさん宴会でぐったりしてて朝風呂って感じじゃないみたいでね」
「へぇー、おねーさんたちは社員旅行とかそんな感じなんですか?」
若そうに見えるのにと、いう彼女の言葉は間違いではない。
「んー、あたしは部外者なんだけどね、親の社員旅行に呼ばれて来ちゃった感じ。温泉入れるって言われたらもう、はい喜んでです」
「あはは。よっぽど温泉大好きなんですね」
「あとは、田舎の撮影も大好きだから、旅費が親持ちってのはほんっとありがたいよ。普段なかなかこんなに遠出できないし」
ひやひやしながらも嘘はつかないように心がける。今話していることは全部本心だ。朝の撮影こそコスプレ撮影会になってしまったものの、ここらへんは自然の風景も多くて昨日だってかなりの数を撮ったものだった。
「えっと、結構遠くからなんですか?」
「いちおう関東なんですけど、地名言ってもわかんないよねきっと」
とりあえず、ぼやっとした回答にしたのは、いろいろ身元がばれるのがまずいからである。今はルイ状態なのでルイとしては銀香に出没するという情報以外は与えたくない。
「へぇ、従姉妹も関東なんですよ。もしかしたら近いかも」
って、そんなことないかーと、彼女は笑顔を浮かべた。思えばこれくらいの年頃は箸が転がっても面白いころかもしれない。あいにく木戸自身枯れてるので高校時代はローテンションだったわけだけれど。
「さて、じゃあ、そろそろあたしらは混浴にもどろっかな」
「えー、せっかくだからもうちょっとお話していきましょーよ。そっちのおねーさんとも是非」
「あ、うん。このねーちゃんはちょっと人見知りがあってね。なかなか初対面だとまともに話せなくって」
こくこくと思い切りはるかさんから同意の反応があった。メチャクチャ緊張しているのがわかる。
半分嘘で半分本当といったくらいだろうか。西さん自体はそんなに人見知りじゃないし、はるかさんに至ってはみんなのおねーさまだ。けれどちょっとは人見知りするのかもしれない。
「そっかー、それは残念。あ、でも今なら私も混浴入ってしまってもいいのかも」
ふふふーと笑顔を浮かべる彼女に、うっと思いつつ、どうしようか考える。
いちおう、身体を洗うというイベントはしないですむから、移動の時だけ気をつければなんとかなるとは思う。浴槽にはいってしまえば、ついてるかどうかだなんてあんまり気にならないだろう。
胸に関しては今の所つっこみがないけれど、入浴しているというのもあってあまりチェックできてないのだと思う。
「いやいや、いつのまにか変な人がいるかもしれないし」
けれども、できれば穏便に行きたいと言うことでさきほども伝えたことを繰り返す。君には混浴はまだ早すぎであるとっ。
「そうよー、変な人がいるかもしれないから、鈴はだーめ」
そんなやりとりをしていたら、ぺしんと彼女は頭を軽くはたかれていた。
けれど、その声に、こちらは反応をせざるを得なかったのだ。
「うへ」
思わずこんな声すらでてしまう。どうしたってこんなところでばったりこの人と会うのか、本当に訳がわからない。
「あらあら、これはルイさんではないですか」
にこにこと、笑顔の裏側に思い切りゴゴゴゴという効果音を含ませて、斉藤さんは浴槽の中にいるこちらを見下ろしてきた。
おっぱい綺麗。そんな感想を思ってしまうのは、現実逃避が入ってしまっているからだと思う。
「あれ? ちづ姉、この人と知り合いなの?」
さっすが女優さんやってると、綺麗な知り合い多くなるのかなーと彼女は少し鼻息を荒くする。
別に女優をやってるかどうかはそこまで関係なく、たんなるクラスメイトである。
「んー、そうね。知り合いっていうか、友達、だった」
ひぃ。その過去形で話すのやめていただけませぬか。メチャクチャ怖いのですが。
「とりあえず込み入った話をしようかと思うから、鈴は身体洗ってきなさいな」
っていうか身体洗わずに温泉に入っちゃダメだよと言われて、彼女はしぶしぶ洗い場の方に向かっていった。
こちらは混浴よりも広いお風呂なので洗い場まではいくらか離れていて声が届かない。
「さて、どうして女湯にいるのか、いろいろと説明していただきましょうか」
こわい。こわいです。さすがは女優さんだけあって、声音が低くつくられていて見事な迫力だ。
「あのね、ちづ。これにはいろいろと訳がありましてね……」
いつもは斉藤さんと呼ぶけれど、敢えてここは女湯なので愛称のほうで呼びかける。けれども彼女はそれにはまったくの無反応だ。
「別にあたしはいいんだよー? ルイさんがこっちに来たいなら止める必要もないしねぇ。ええとモロッコだっけ?」
いいえ、斉藤さん。最近のトレンドはもっぱらタイです。プーケットです。ヤンヒーです。
でも、修正しなきゃいけないのはそんなことではなくてですね。
「そもそも、うちらが入ったときは、こっち側が男湯だったんだってばっ。だからちょーっと覗いてみよっかなーって思ってたの」
「でも、夜の入浴時間が終わって翌朝は逆になるよーって書いてあったじゃない?」
部屋の注意事項のシートは見やすかったじゃないという意見はごもっともでございます。
「それはみたんだけどねぇ。のれんに従うのが基本というわけで」
ほんとさっきまでこっちが男湯ののれんがかかっていたのである。
「まあ、いまさらルイが女湯覗きたい、ひゃっほーとかっていうキャラじゃないのは知ってるし、こうやってあたしが惜しげも無く裸を見せているというのに、なんら反応がないのも、あーあ予想通りかって感じだけど」
ほんと、かわいそうに、と彼女はなにかにたいして、同情を浮かべた。これはルイ宛だろうか。ちょっと違う気がする。
「は、反応はあるよ? そりゃ綺麗だなーとは思ったし、良い感じに撮影会とかしたいなーとか」
「ぬ、ヌード挑戦は無理かな? でも結局頭の中はあいかわらず写真のことばっかりじゃないの」
大学にいっても、写真馬鹿は写真馬鹿じゃないの、と言われると返す言葉もない。
「それで? そちらのおねにーさんはどういうお方で?」
必死に視線をそらそうとしているはるかさんに今度は標的が移る。
「お友達です。喋ってもらっても問題はないんだけど……さすがにこの展開についていけてないのでそっとしておいてあげてください」
こくこくと再び首が動いた。そりゃそうだ。この状況でちゃんと話せているルイのほうがいろいろおかしいのだ。
「それと、ちゃんと好きな男の人とかいるから、覗き目的でもないです。それは確かです。昨日思い人が入ったお風呂の残り湯だーでゅふふ、こぽぉとか言っちゃうくらいだから安心してくださいな」
「それは、言ってないからっ!」
「あ、ほんとだ。澪とかよりちょっと高めな声だけど、普通に女声」
突っ込みの声に斉藤さんは満足したのか、それとも視線を向けないのに好感を持ったのかようやく表情の奥にあった堅さをとっぱらってくださった。
「さすがはルイのお友達ーといったところかな。そういうことなら、まー協力してあげなくはないか」
事故っていうのは確かにそうなんだろうし、とようやく彼女は納得してくれたようだった。
「あーでも、ええと、ルイさんや。とりあえず立ち上がってちょうだい」
鈴に見えないようにでいいので、と言われてしぶしぶその言葉に従うことにする。ちゃぷんと水の音がなって、肌から水滴が落ちていく。
「うげ」
「あの、もう、いいかな?」
あんまり見られるの恥ずかしいと、頬をそめていると、うぬぬとうめき声がもれた。
「これがさくらが言ってた感覚か……」
「さ、さくらには裸は見せたことはないよ? ほんとだよ?」
「でも、水着着たって。スタイルがぱねぇっすって言ってたし、そりゃこんなの見せられたらたまらんですよね」
男湯はこれじゃあ、無理か……といろんな事情をようやく酌んでくださったらしい。
彼女はよし、と結論をだすと、わしゃわしゃウィッグをつけていないルイの髪をかき混ぜた。
「この場はあたしがなんとかしてあげましょう。でもそのかわり貸し一つね。シフォレでケーキ奢ってね」
あたしだけ連れてってくれないとか、いくらなんでもあんまりだよと彼女はしょんぼり言った。
「澪に作ってもらえばいいじゃん。まだ交流はあるんでしょ?」
「そりゃそうだけど……あの子あれで不器用だから」
「ああ、まあ、ね」
三月のときのブッシュドノエルのできを思い出しながら、そうですよねーと苦笑が漏れる。たしかに彼女が作ったあれは、味は問題なかったけど、ちょっとぐちゅっとしていたのであった。
「んじゃ、約束したからね! 日程とかはラインは……ガラケー派なルイさんに併せてメールで連絡したげる」
つーか、せっかくタブレット持ってるんだから、それで通信できるようにしなさいよと言われて、それもありかーと少し記憶に止めておくことにする。いちおうこれ、SIMが入るようになっていて通信可能なのである。毎月のコストというものを考えて今まで通信できるようにしていなかったのだけど、そろそろ考えてもいいかもしれない。というかインターネット上のメールが出先で見れないのはちょっと不便なのだ。
「では、行って参る」
しゅぱーんと彼女はそのまま、従姉妹が身体を洗っているところに向かっていった。
彼女はだーれだと、後ろから目隠しをしてじゃれ合うようにしている。
チャンスは今だ。はるかさんに目配せしてざぶりと浴槽からでて、とてとてあの扉に向かう。
「それじゃ、鈴さん、あたしたちは混浴の方にいくので、これにてー」
「へっ? えええっ。もうですかっ。全然お話できてないのにー」
ていうか、じゃれるなちづ姉といいつつ彼女はその目隠しをはずそうと必死だ。
はるかさんをとりあえず先に混浴の方に押し込む。そしてちょうどルイも扉に手をかけたときだ。
「うわ……細いーいいないいなぁ」
思い切り後ろ姿を見られた。うーん、お尻あたりあとかはあんまり自信はないのだけど、これを見ても特に男だと思われることはないらしい。今は都合がいいけれど、これでいいんだろうかとは思ってしまう。
「裸にかんしては斉藤さんのを愛でてあげてください」
もう、ほんとおっぱいといいバランスがよくて羨ましいです、と言い置いて、混浴のほうに戻るのに成功した。
「なんか、三年前と似た状況になってしまったなぁ……ほんともーこういうの勘弁してほしい」
「だよね。あとでのれん換え損ねた人には文句を言ってやらなきゃ」
あー、もう心臓に悪いとはるかさんはほっとした顔で言ったのだった。
さらっと終わらせて二日目の日本酒試飲会に行こうかとおもったのですが、思わずついつい長くなりました。今回のお風呂シーンはいろんな意味で書いてて楽しかったです。ケーキ一つね!
そして明日はいちおうバス移動とかです。てか酒ツアーすぎる旅行なのです。




