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173.父様と慰安旅行3

「お似合いですよ、お二人さん」

 テーブルのお酒がなくなってきた頃、一人元気な木戸は席を離れてふふっと笑いながら、ツーショットを撮る。もちろん先ほどからスイッチを入れている通りに女声での問いかけだ。

 みんなそれなりにぐだぐだになっていて、全体的に死屍累々ではあるのだけれど、それでも会場の隅っこのほうで一人ゆっくりご飯を食べつつお酒に手を伸ばしている人がいたのである。

 かなりみなさんつぶれて来ているので、岸田さんが元気なのかはたまた周りのペースが速いのか。

 基本は部屋の方に戻らなきゃいけないはずだけれど、とりあえずしばらくはこの部屋で寝かせつつ、宴会が終わった段階で起こして移動をするとかなんとか言う話だ。そんな脱落組に西さんも入ってしまっているのだから本当にもったいないことこの上ないとしか言えない。けれど、良い感じのつぶれっぷりである。

「西さんはお酒弱い人なんですねぇ。岸田さん的には今の状況は嬉しいものです?」

 甘えるように西さんは岸田さんに寄りかかって、すーすーと軽い寝息を立てている。本当に起きていないのが残念と言わざるを得ない体勢で、かといって起きてたら絶対こんな姿勢はできないだろうなというところが悩ましい。先ほど撮ったものはきちんと後ではるかさんにプレゼントしよう。

 そんなことを思いながらにやにやと言うと、彼はうーんと複雑そうな顔をする。

「悪い気は、しない。かな。でも、ちょっと重い」

 女の子に直接言ったら瞬殺されそうなことを彼はしれっと言い切った。別にはるかさんだって重くはないはずなのだけれど。

「それは脳髄の容量だとか重さだとか、女の子の方が軽いんだぜとかそういうことですか?」

「はは。さすがにそれは。あれって身長差に応じてって話もあるみたいだし、君やこいつだってあんまり女性と変わらないんじゃ無い? それでもちょっとこのまま支えつつご飯って言うのはちょっと大変」

「へぇ。確かに私も西さんもそう体格がいいほうではないですからねぇ」

 それでこそ女装もしやすいのですがとも思う。

 高身長でもきれいな女装はもちろんできるけれど、ほとんど女子に見える女装はこちらの体格の方がしやすのは間違いがない。

「それはそうと、カメラ換えたんだ?」

「まー大学にも入りましたしね、レンズを追加するかカメラを新調するかで激しく悩んだんですが、いろんなメーカーの機種の違いみたいなのも掴みたかったので」

 彼の問いかけに理由の半分を答える。

 もう半分は、ルイと木戸の差別化のためだ。ルイのカメラは変わらずいつも使っている相棒。あれを専用機にということで土日は相変わらずあちらで撮り歩いている。

「ほんとに君はカメラのことになると一直線なんだなぁ。ちょっとおじさん的には羨ましいかぎりだ」

「おじさんっていう歳でもないでしょーに。それに、私だって大学生に、なりました」

 ふっとそこで少しだけ声音を優しく、潤んだような瞳を浮かべて岸田さんにせまる。

「すとっぷ! そいつは俺みたいな相手に向けるべきじゃないだろう」

「ありゃ、まったく魅了(チャーム)が効かない。岸田さん恐るべし」

「おそるべしって、いつもこんなことやってるのだとしたら危ないよ」

 他ではやっちゃいけないよと、叱られてしまった。

 むぅ。別に冗談交じりだし、ちゃんと信用した相手にしかしてないんだけれどな。

「仲居さんと密かな逢い引きみたいな展開は、よくあると思うのですよ。エロゲ的に」

「ぶっ。ちょ、馨くん。そのかっこでエロゲの話はさすがに」

 しごく真面目にエロゲ語りをしてあげたら、思い切り岸田さんが吹き出した。お酒飲む前で良かったと思う。

 でも、女子はエロゲの話をしないか、と言われたら答えはNOだ。特撮研の面々なんていくらでも参考資料ですよーとか言い放つし、エレナだってそれなりのエロゲをやってきている。あの顔でこれ、すっごいよかったよーとかにこにこ話してくるくらいだ。もちろんコスプレキャラだって、けっこうエロゲから採っていることも多い。

「最近は女の子向けもあるし、男の子向けもしっかり作り込んでいたりで、いいものも多いのですよ? さすがにAVとなると……敷居は高いというか私はアレ駄目ですけど」

 大学に入ってからの方が見せられる頻度は増えただろうか。18禁の制限が取っ払われた状態の今、同級生たちは猿のように大喜びで見ていたりするものなのだけれど。

 身近にきれいどころがそろってしまっている身としては、どうにも嘘くささというか、そういうのがついて離れないし。若干受け付けないというようなところもあった。二次元ならまあ大丈夫なのだけど、ちょっと気持ち悪くなってしまったのだ。興奮? そんなもん欠片もしなかった。

 それに二次元の方が絶対に作り方が繊細だ。それは生身ではないからこそのストーリー補填がないと一般人には受けないから、という前提があるのだろうが。生々しいものよりも、木戸としてはきれいなモノの方が好きなのである。

「そんなあっけらかんと……でも、なんで? 普段は写真撮りにいってるんだろう?」

「コスプレ友達もいますからね。そこそこキャラを知っておくに越したことはないし、本気出す場合はやっぱり公式に勝るモノはないのです」

 ごくりと岸田さんの喉がなった。本気出すってところでちょっとぎらついたものでも出てしまっただろうか。

「ああ、でも勘違いしないでくださいよ? だいたい配分的には半々くらいです。自然の景色とかも撮るの大好きだから、森を散策とか田舎を散策とかそういうのも多いですし」

 やっと解禁になって、いまはもー歩き回ってますよと笑顔を向ける。学校に慣れるという点もあるけれど、休みの日はたいていどこかで撮影三昧だ。もちろんルイとして。

「馨ぅ。とーさんはなぁ。とーさんはなぁ」

 後ろからむぎゅっと抱きつかれてひゃんと変な声がでる。

 酒には強いはずなのだが、たぶん量が多いのだろう。どうやら耐えきれなかったらしい。息子が可愛いという現実に。いままで放任して、目をそらしてきた結果がこれである。

「父様? この前だって女子姿見たじゃないですか。それなのにこの体たらくはなんです。部下に示しがつきませんよ?」

 しれっと冷たく言ってやると、うわーんと父は泣き始めた。

「俺は、不安で不安でならんのだよ。おまえはどんどん可愛くなるし、そっち側に行っちまうんじゃないかって。誰かの嫁になんてさせんからなっ!」

「ま、まって、父さん。今のところ好きな人いないし、そもそも嫁ってのがないよ!」

 声を男声にもどして背中の父に苦情を入れる。いくら酔っているとはいえどもその言い分はなしだ。

「でもそんだけ可愛いきゃ、告白の一つや二つあっただろう?」

 あう。どうしてこの人にはそんなに信頼がないのか。こほんと咳払いをして女声に戻す。

「そりゃ、告白受けたりとかもありました。恋人たちを見ていてうっは、いい被写体って何度も思ってます。でもデートしたりとかで、写真撮れなくなるとか、ない。ありえない」

 ざっくり言ってやると、父はきょとんとした顔になった。

 まー正直普通の感覚なら、そうだろう。

「それと、私の身の回り、女の子ばっかですよ? 男友達なんてほんと何人もいないし……」

 大学で多少新しい知り合いはできたが、友達と呼べるレベルかと言われるとまだまだそこまでいってないようにも思う。

「それはぁ、知ってる……が牡丹だって同じこと言ったのに大学に入ったとたん男をつくってー」

 ぐもーと、泣きが激しくなる。激しく面倒くさい。

「それ、娘に嫌われる定番パターンだからね。それともうそこまでいっちゃったら寝ましょう?」

 よいせと起き上がって、ちらりと岸田さんたちを見る。親父を部屋の布団に運ぶのはいいのだが、そうなると西さんもという話にならないだろうか。

 この部屋自体は、四部屋とっている寝室からすぐの大部屋なので、行って返ってくるのはそう苦労はしないのだが、いまのそのいちゃいちゃっぷり全開の姿勢を終わらせてしまうのはもったいないと思う。

「あ、岸田さんは下手に動いちゃだめですよー? 西さんおきちゃいますからね?」

 かわいい声で注意を飛ばすと、まいったなこりゃと岸田さんが頬を掻いた。

 それをちらりと横目で見ながら、親父をずるずると部屋まで運んで、布団に寝かせておいた。宴会中にすでに布団敷きは終えてくれていたようで、準備をしなくていいのはかなり楽だった。

 実際問題、同じ階に宴会場をくっつけてるのはこういう酔いつぶれ客が多いからなんだろうなぁなんて思ってしまったくらい、見事な配置である。別の階だったらもう部屋から掛け布団だけもってきてかけてここで寝かせる選択しかできなかっただろう。

 おんぶができればそれに越したことはないのだけど、あいにく成人男性を担ぎ上げる筋力はない。

「まったく。これじゃー姉さまのこと言えませんね。自分の理解を超えることをやられちゃうと、酒に逃げてわけわからんくなるだなんて、ほんと親子そろって似すぎです」

 自分も同じ血統なんだよなぁと思うと、少しくらくらする。そもそも酒にたいしての耐性はどの程度あるものなのだろうか。

 母親似ならば飲めない部類にはいるのだけれど。

 そうこうして、二人のところに戻ると、シャッターチャンス再びっ。

「膝枕一枚いただきましてん。あうー。いいですねいいですねぇ。てか西さんの寝顔がめっちゃ可愛いですねぇ」

「うぐっ。しかたなくその……だな」

 膝枕といっても、それは通常のひざまくらではなかった。

 そう、顔が膝の方を向いているというか、しなだれかかったままずるっと体が落ちて、寝返りを打った結果、抱きつくような感じで膝枕になっているのである。

 つまり。股間に西さんの吐息がかかるという、エロゲでありがちな展開になってしまっているのだった。

「どうですかー? 岸田さんそんな可愛い顔を大切な所に向けられちゃって」

 ふふんと言ってやると岸田さんが我慢ができないといった顔で軽々西さんを抱き上げた。

「やっぱり、布団に寝かせるっ。もーだめ。これ以上はもう俺が持たない」

 そして彼はそのまま部屋の方に向かうと、敷かれた布団に西さんをやさしく寝かしつける。仲居さんの衣装のままだがしかたない。

 彼の場合はお姫様だっこだ。寝てなければきっとはるかさんは大喜びだったろうに。可哀相なのでその姿も撮影させていただきます。あとでプレゼントしてあげるからね。

 運び終えた彼はそのまま一緒に寝るのかと思いきや戻ってきた。食事がまだ終わってないというのもあるだろうけど、どうにもなにか話したいことがあるようだ。

 宴会場はすでに静かになってしまっている。酔いつぶれそうということで自制して部屋に戻った人達と、ここでこてんと寝込んでいる人達とそれぞれだ。いちおうちょっとすれば目を覚ますだろうということで、そのまま転がしてあるのだけれど、ある程度の時間になったら起こして部屋に誘導しなければいけないのかもしれない。そこらへんは岸田さんがある程度まだ元気なので彼にゆだねてしまおうかと思う。

 というか周りがあれだけばたばた倒れているのに、この人だけはまだまだ元気なのだから、かなりセーブしてお酒を飲んでいるのだろうなぁという感じだ。きっと自分が倒れると収拾がつかなくなることをわかっているのだろう。

「お帰りなさい。西さんはもうおねむですか?」

「まったく起きる気配なかったな。あいつなんだかんだで結構呑まされてたし」

 みんなもなにげにちょっとしてからは、あいつの存在に気づいてしまったしな、と彼は苦笑いを浮かべた。

「でも、ありがとう。君が先にあれだけやらかしてくれなかったら、ちょっとまずかったかもしれん」

「いえ。そうなるだろうなって思って、先にかき回しておいたわけですし。狙い通りです」

 もし引かれても、部外者の私ならまったくもって影響なしですしね、と素で言うと、そこまで計算していたかと驚かれてしまった。

「なんつーか、俺の前なんだし、別に普通に喋ってくれてもいいよ」

 他のみんなはつぶれてるみたいだし、と言われてもふるふると首を横に振っておく。

「女装中は、滅多なことじゃ男声は出さない主義です。それに西さんほど無理矢理声を出してるわけでもないし、声帯疲労だって多分私の方が少ないですよ。それとも女性慣れしてないから勘弁して欲しいとか、そういうことですか?」

 ふふっと、微笑を浮かべて見せると、岸田さんがすごく嫌そうな顔をした。魅力的な表情だとは思うのだけどどうにもこの人には通じないらしい。

 どうにもこの人はいつもの調子が通じなくて面白い。そもそもだ。

 去年の結婚式の時にシフォレの話をしたあと、はるかさんをわざわざ女装させて連れてった理由とかそこらへんがよくわからない。結果的にはるかさんがああ(、、)だから上手くいったものの、普通女装の強要なんて上手くいくものでもないし、それを実行してしまおうなんてするより、普通に他の女性を捕まえた方がどう考えても楽だ。

 それをしなかった理由はなんなのだろう。はるかさんの女装のことを先に知っていたのなら、それを口実にしながら切り込むという感じでカップル誕生だ。なんの問題もない。でも他に理由があったとしたら?

 せっかくだから、少しでもお酒が入っているここで聞き出しておきたい。

 そう思っていた矢先のことだった。 

「俺さ……ゲイなんだ」

 ぽつんと言われた言葉に、は? と一瞬言葉を失ってしまった。

 ええと。ゲイ。陽気な人。男性同性愛者。頭にいろいろぐるぐる情報が回る。

「黒い皮の衣装でふぉーってする感じです?」

「ちーがう。今はちゃかさんで聞いて」

「はいはい。でもそれならどうして僕には反応しないのです?」

 ん? と小首をかしげてかわいらしく彼の顔を見つめる。けれど大抵の男の人がおちる必殺のスマイルも空振りする。ゲイだからか。いやゲイならなおさらなんで反応しないのだろう。訳がわからない。

「それは君を男と認識できてないから、なんじゃないかな?」

「まーこのかっこしてて男だろうなんて言われたことはないのですけど……」

 そうなると疑問が浮かんでくる。ならば西さんにはどうして反応したのか。

 彼女の女装だって、ほとんど完璧だ。

「そこら辺が、わからんのですよね。西さんには悪いかもだけど、彼女だって男くささってほとんどないですよ? ゲイの人って同性がいいんでしょう? それって男らしさっていうかそういうのを求めるものだとばかり」

「一般的にはそうなのかもしれないけど、俺の場合はちょっとこう。逆に女の人が苦手って言った方がいいのかな」

 なるほど。いわゆる男好きなのではなく、どちらかというとバイなんだけど女性が苦手だから男に走るみたいな感じなのか。それでさっきもとびきりの笑顔とか、可愛い仕草にまるっきり食いつかなかったというわけだ。女臭さが強すぎるとダメというわけだ。

「どういうところが駄目なんです? いちおう社交では問題ない?」

「仕事上のつきあいであれば、別に男女での違いはそこまで気にならない。でも、プライベートだとどうしても、女の自由奔放さっていうのが駄目で」

 いろいろ振り回されたトラウマっていうか、そういうのもあるんだろうけどという岸田さんは苦り切った顔をしていた。

 まぁ、馨にもいろいろ思い当たることは多い。崎ちゃんなんかはその面倒くささでは突出しているだろうか。

 それをいえばルイもそういった女の奔放さというものを持っているかもしれない。

「それでリハビリもかねて、西にはシフォレに一緒に行ってもらったりしたんだよ。わざわざ女の格好してもらってさ」

 あの店、女性同伴じゃないと入れないし、と補足が入る。その言い訳を使いつつ女装をさせるのに成功したというわけか。やはりもとからはるかさんが女装レイヤーというのを知っているわけではないらしい。 

「中身は西なわけで、しかも女装状態だろ? そうなれば自由奔放ってのもでないだろうし、うってつけって思ったんだ、最初は」

 女装を拘束具という解釈をする人を初めてみた。

 けれど西王子はるかとして活動している彼女にしてみれば、女装そのものはたいした枷にはならないだろう。むしろこの人と一緒に二人きり、しかもシフォレみたいなお菓子屋さんなんてまるでデートみたいじゃないかということでどきどきしていたのに間違いない。

 まったくもって、乙女である。

「何回も行ったんですか?」

「そりゃ、ケーキも美味いし、慣らしていけばまともになれるかもって思って。西だって嫌がらなかったし」

 そう言いながら彼の目が泳ぐ。まったく。

「今のはちょっとイラっと来ました。岸田さんは女の子の気持ちをわかってなさ過ぎです」

 あんまりな反応についきつめの口調で早口になってしまう。もちろん女声は維持しているけれど。

「というと?」

「まともになるために、西さんを道具として使ってるってことですよね? 女性相手につきあえるようになったら、さんざん利用して西さんはぽいですか?」

 それでもいいって西さんなら言いそうだけれど、それはさすがにひどい。

 あれだけ大好きって言ってる姿を見てる身としては、それが変な風に踏みにじられてるように感じられてむかむかする。

「いや。でもそれは……さ。西だって男なんだぜ? いつか彼女作って結婚するだろうよ」

 思い出の一つになるだろうよきっとと言う彼に軽い殺意がわいた。

 けれども、勝手に西さんの気持ちを言ってしまう訳にはいかない。乙女の告白は本人が勇気を振り絞って言わないといけないものだ。

 そこで、はぁとため息をついてすとんとテンションを下げた。

「そう、考えるなら、まぁ、仕方ないですね。もーなんも、あ、ひとつだけ」

 こほんと咳払いをしてから、岸田さんに一言。

「ご存じのとおりシフォレの店長と私は仲良しで、聞いた話だと、お店で西さんのことまじ可愛いとかいろいろ誉めてたって聞きましたけど」

 それは本心なんです? ときくと、彼はぼっと顔を赤くした。

 どうやらかなり岸田さんも本気らしい。自覚をしていないのはいただけないのだが。

 これはゲイだから西さんを好きなのか、それともはるかさんを好きなのか、どちらなのだろうか。

「正直かなり二人がどうなるのか気になるので、是非進展があったらご連絡を」

「馨くん……きみ……」

 岸田さんが驚いたようすで目を見張る。あまりにも女子っぽく対応をしたのがやはり気になるのだろうか。

「係長がいってたみたいに、本当に嫁に行く気ではあるまいなっ!」

 ずるっ。そっちですか。

「あーもぅ。そっちの趣味はないですっ。っていうか、恋愛自体あんまりよくわかんないんですってば」

「あはは。冗談だよ冗談。でも女の子から告白受けたりっていうのはないのかい?」

 なんでかんでで美少年だろうに、と言われて困ったような渋面を作る。

「普段は黒縁眼鏡ですしねー。美少年っていわれてたのは中学までで、あえて目立たないように生活してるんですよ」

「眼鏡、はずしてみせてよ」

 手が伸びて眼鏡に触れそうになる。そこですっと体ごと一歩後ろに下がった。

「駄目ですよー。眼鏡をはずすと美少女だったとか、そういうことは滅多に起こることじゃないですから。きっと眼鏡はずすと目は3の形になるにきまってるんです」

「あはは。じゃあそういうことにしておこうか」

 岸田さんはそこで立ち上がると、もう寝ようかと声をかけてくれる。時間は十一時を回ったくらいだろうか。

 彼もお酒が入っているし、少しうつらうつらとしているようだ。

「では、そろそろ皆さんを起こしつつ、寝るとしましょう」

 仲居さんには別にここで寝てしまってもそれはそれで、と言われているけれどそういうわけにもいかないだろう。

 最後まで残っていた食事をとりあえず下げてもらって、ぺちぺちと起こしていく。

 早めにつぶれてしまった人達が多いので今はふらふらしながらもなんとか起きてくれて自分達で部屋に戻っていってくれた。

 そうして一緒に寝室のほうに移動する。

 岸田さんは西さんの寝顔をふっと柔らかい顔で見ると、自分もその隣の布団に入った。

 木戸はそれを見届けると、仲居さんの衣装から寝間着用の浴衣に着替えたのだった。

宴会後半。父様が酔っ払いです。そりゃ目の前で長時間「女子な息子」を見せつけられれば、意識を手放したくもなりますとも。

作者禁酒二日目です。手は震えないものの依存症入ってるので悪夢は見ます。それでお酒話を書くと呑みたくはなるのですが、まぁ我慢です。健康診断のシーズンなのです。

そして岸田さんが女性を避ける理由がついに公開。

なんか自分がマイノリティであっても、他に目を向けられないって人も多くいますしそこらへんは経験値かもしれませぬ。マイノリティだからこそ、近くに「少数派はいないだろう」という自己完結をしてしまうというやつです。

作者は腐っておりますので、いつだって身近なカップリングを作りますが、それは別のお話。


さて。次回ですが、今度は明朝、仲居さんと絡みます。

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