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165.ルイさん大嫌い磯辺さん

本日は少し短め

 五月上旬。ほんのりと夏の暖かさがせめぎよってくるこの時期は、緑が青々として公園での撮影には絶好の季節。

 背景を飛ばしても、くっきり写してもこの緑の背景でのキャラクターの撮影は割とどのキャラクターでも合ってしまうと言う利点がある。

 今日は二週に一回きているコスプレイベントに参加中。受験から開放されていろいろと山やら海やら撮りに行っているけれど、エレナとの約束もあって割と高頻度でイベント参加も行っていたりするのだ。屋内のことももちろん多いけれど、公園でというのも悪くない。

 そんな中でにまにまカメラをいじっていると、ずんずんと近寄ってくる気配が感じられた。

「私の親友が貴方に一目惚れしましたの」

 どうしてくれますの? と貴族らしいゴージャスな姫衣装を着た女の子が突っかかってきた。

 貴族は城が背景じゃないかといわれそうだけれど、庭先で遊ぶという設定で背景の緑を持ってくること自体はまったくもって自然なことなので、特別浮いてしまうこともない。

 彼女はすでに「はいって」いるらしく、口調からして貴族のお嬢さんという尊大なものに仕上がっている。

「はぁ、どうしたんですしーぽんさん」

「デートの約束を取り付けたとかなんとか、もう。憤慨モノでしてよ! 私の純朴なアッキーをどうしようっていうの、この女ったらし」

 もちろんこちらはそんなことを言われて面をくらう。ふりをする。

 というのも、アッキーが誰なのか、どうしてそんなことを言われているか、こちらでは判断がつかない設定だからだ。

 デートの約束という単語で、あああのこと、とまではわかるけど、今目の前にいるしーぽんさんというコスプレイヤーさんとアッキーのつながりがわかっていないので、頭にはてなマークが浮く、という設定である。

 とはいえ、いつかイベントで出会ったら喧嘩ふっかけられるかなとは思ってはいた。

 そう。このしーぽんさんというのが、同じ学校の磯辺さんだからだ。 

「いや、まって。ストップ! どうしてあたしが女ったらしってことになるの? そりゃあれだけ熱烈なメール攻撃を食らえば一回くらいあって、きちんと話をしなきゃって。別にデートじゃないよ。そもそもなんで女の子相手にデートとかしなきゃいけないの?」

「知ってますよ。ルイは男女ともにいけるくちだって。アイドルにも手を出してるとかどうとか。でもうちのアッキーは渡しません」

「うう。崎ちゃんは普通に友達なだけで、手を出すとかどうとかそういうこともないってば。どうしてそんなに獣前提で話をするのさ……」

「わたくしが貴方を嫌っているからですわ」

「そんな身もふたもない」

 ああ、この人は目の前でもぶれないのか。木戸の前だから悪辣な言葉を平気で言っていたのだと思っていたのに。

 それはそれで清々しいのだが、コスプレしながら思いっきり言われるのはなかなかもって厳しいものがある。

「そもそもどうしてそんなに私が嫌いなんです? しーぽんさんはそこそこ撮らせていただいてますし、今更嫌われてるって言われちゃうと、ちょっとやるせないです。しょんぼりです」

「くぅっ。その演技してますって感じの言い回しがいちいちレイヤーでもないのにいらっと来るのですわ」

 むきぃーと貴婦人が悔しがるようにハンカチをかみしめて彼女は言う。怒る仕草までロールプレイするとはさすがにすごいレイヤーさんである。

「貴女はなんだって持ってる。(わたくし)たちが持ってないものをいっぱい」

 恨みがましいように言われても、ルイとしては今の自分が自分自身だ。もちろん撮影技術は彼女が持ってないほどには持ってるだろうけれど、その分演じる力は彼女の方が上なのだからお互い様だと思う。

「レイヤーにもならない、カメコとしても専属じゃない。そんなふらふらした人がぽっとイベントにきてきゃーきゃー言われるのがたまらないのですわ」

 けれど、その言い分にはなんとなく、納得させられた。

 ルイは異色だ。エレナのカメラマンとして一定の評価は受けているけれど、ここの専属というわけではないし、ルイとしても散々言っているように「自然とかの写真を撮る人」であって、こういった二次元とか二.五次元とかをメインでやっているわけじゃないだろうという指摘は間違ってはいない。

 ただ。撮影技法に関しては間違いがなくこちらに一日の長がある。そう。他のカメ子さんはどうしたってキャラクター押しになってしまうところを、ルイの場合背景も合わせて一枚に持って行く。

 異色だからこそ撮れる写真に、みなさんの興味が集まってくれている部分は多くある。

「それはちょっと失礼なものいいだよ」

 反論をしようとしたけれど、そこでエレナが割り込んでくれる。

「確かに、ルイちゃんは異色のカメ子だと思う。っていうか最初からして場違いオーラをいっぱい出してイベントに参加してたし」

 きゅっと優しくしーぽんの手を取って微笑みかける。ここらへんほんともー女の子よりも女の子らしいよなぁと思いつつ、その仕草もキャラの設定での仕草なのだから、エレナの徹底ぶりはおかしいと思う。

 今日やってるコスプレの子は、女子校の制服だ。男の娘として共学校に通っている設定の子でとにかく優しくてかわいくて、丁寧でそれでいて、言うときは言うという感じのキャラクターだ。

「でも、みんなのことを馬鹿にしてるとか、見下してるとかそういうのは全然ないよ。騒がれるのはルイちゃんの腕が確かだから。それはコスプレ専門でカメラやってる人とかそうじゃないとかそれ以前の話じゃない?」

「そんなこと言われても、惨めになるじゃない」

 わたくしたちだってがんばってるのに、とキッと睨まれる。いい迫力でそのまま写真に撮りたくなってしまう。

 そりゃそうだ。がんばってるのはわかる。

 わかるけれど、それとこれとは話は別だ。人に受け入れられるかどうかは努力の量にもちろん比例はするけれど、比例する率は違う。上手くはまれるかどうかは環境次第だ。

「うーん。それを言われるとボクもちょっとルイちゃんみて自信なくすことはあるんだけどねぇ。それでもさ、純粋にすごいヨネって思っちゃえないもんかなぁ?」

 それじゃ、だめ? と目線を合わせられて言われて、しーぽんさんがほわっと顔を赤らめる。

 エレナのあの笑顔に落ちない相手はそうはいない。いいなぁ、あとで正面から撮らせてもらおう。

「あたくしが気に入らないのは、変身願望を必死に満たしてる脇で颯爽登場! してるようなやつなのよ。この会場にいる子達はみんな変身とかに憧れてて、普段の自分と違う自分を楽しんでる。もちろん毎回変わるエレナだってそういうところはあるんでしょ? そんな中で舞台の上のあたくし達より目立つってどういうことですの?」

 あー。そっちか。

 しーぽんさんの嘆きを聞いて、純粋に嫌われてる理由がわかった。

 彼女は普通にルイが天然でこんな風になってるんだと思ってるんだ。

 騒がれるのが嫌で、眼鏡と髪型で調節しているんだと思っていたのだけれど、どうやら彼女としてはここでキャラクターとしてでないと全力の自分を出せないというわけなのだろう。

 なにか言い返そうと思ったけれど、エレナに人差し指で唇を押さえられて止められる。 

「んー。ルイちゃんだって変身願望はあるしそのために必死に努力はしてるよ? 普段からでゅふふとか言ってるわけじゃないし」

「こら、エレナ。あたしがいつでゅふふ、そのポーズ素敵ですな、なんて言ったんですか」

「えー、でも撮影するとき鼻息荒くなるし、はぁはぁしちゃったりするじゃない」

「そりゃ、いい感じな写真が撮れたときはそうだけど、普段から人を変態みたいに言わないで」

 もぅ、とエレナのほっぺたを軽くひっぱると、いひゃいいひゃいと笑いが浮かんだ。

 そんなやりとりをしていたからか、しーぽんさんは口を挟まずにいてくれたが、やれやれとあきれた顔をしていた。そういうところが嫌なんですのと言わんばかりだ。

「じゃ、じゃあ普段のルイはどんなのか、エレナは知ってるっていうの?」

「パートナーだもの。普段のルイちゃんがどんな子なのかなんて、十分知ってる」

 ごくりとしーぽんさんが喉を鳴らした。秘密主義のエレナとルイの日常のかけらを知るチャンスというわけだ。

「普段のルイちゃんは……っていってもカメラ持ってないときのルイちゃんは、ほんとーにもっさりとしたイケテない子なのですよ。そうはいってもカメラ持ってる時間の方が最近は長いだろうけど」

 普段から、かわいいまんまでいればいいのに、と言ってるんだけどそれは無理ーとかいっちゃうんだよーとエレナはホントかわいいよねなんていいながら抱きついてきた。甘い香りがこちらまで漂ってくる。

「しーぽんさん。いちおー言っとくけど、あたしだって努力はいろいろしてるんですよ。そうじゃないとこの状態は保てないし。簡単にやってると思われるのはさすがに心外」

 これが素で自然にできてるんだとしたら、どれだけ恵まれてるのかと正直思う。

 もちろん、この状態を維持するモチベーションはある。

 最初は撮影のためだけに作ったルイだけれど、ここのところはそれ以外にも正直楽しいことが多くありすぎるし、男状態で撮影できるようになった今でも、ルイとしての撮影を優先してしまう部分が正直ある。男子の時の写真も楽しいといえば楽しいけれど、うきうきするというか、そういう意味で撮影がこちらに寄ってしまうのはしかたがない。

 一度だけあいなさんと馨状態で撮影に行ったことがあるけれど、そのときにも「少しかたいかもなー」といわれてしまったほどだ。

「それにさー。確かに人気のあるカメ子さんーってのは、珍しいけど、ここは、日常の弱みとかネガティブなところを吹き消してくれるところだもの。それ考えずに演じればいいだけじゃないかな?」

 比べたり、うらやましがったり。ちょっとはいいけど、度を超しちゃうとだめだよーとふにゃっとした笑みを向けられて、しーぽんさんは完全に毒気を抜かれた。

 せっかくリアルから外れている場で、今生の醜いところをださなくてもいいじゃないか、という提案に、不承不承彼女は従うのだった。

宣言通りに磯辺さんのお話です。そりゃもうルイさんそのものをみたらこの感想はでてしまうよね。実際はけっこう頑張っているのですが……

まあ、不承不承とりあえずはアッキーとのデートは実現いたしますとも。

まだ書いてないですけれどね! というか磯辺さんもまざって三人で会わせるのが一番いいような気がする。つっこみ役大切。


さて、明日からはサークル活動スタートであります。新人としての四月五月はいろいろとありますよねーイベントが、ということで。

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