163.都会とナンパと知り合いと
更新ペースがイマイチですみません。
「はて、どうしようか」
四月末。GWの一日。町を撮りに行こうよ! とさくらに誘われていたのだけれど、つい先ほど熱がでて下痢がひどいっすとメールが来ていたので、一人で町中をさまようというはめになってしまっていた。
まったくさい先わるいなぁと思いつつ、看病でもしてあげようか、フフンとメールを送ったら、弟に悪影響なので絶対くんなと言われてしまった。うーん、友達の体調不良に駆けつけるなんていい感じな友情のはずなのだけど、どうやら弟には真似させたくないらしい。
「まあ、いいんですけどね」
まったくさくらったらと、むぅと頬を膨らませつつ時計を見ればまだまだお昼にすら届かない時間帯だ。
しかも。
「人がおおいんだよねー」
いちおーここは都心ではない。のだけど繁華街であることはたしかだ。旅行とか遠出はできなくても町にはこようかっていうお休みの人は結構いて、この町もけっこう混んでしまっているのだ。
え、ルイのGWの予定はどうなってるのかって?
ふふん。それを聞いてしまいますか。
まずは、旅行があります。これは結婚式の撮影繋がりなので、木戸としての参加。父様に結構むちゃに請け負わされた。はるかさんと岸田さんのペアも参加なので、密かに楽しみではあるのだけど。まあ雑用係だ。
そしても一個はコスプレイベントだ。この時期は長期休みというのもあってイベントがたちやすい時期でもあるのだ。エレナもそこで本格復帰ということになるらしい。四月のイベントもこそこそ見に行ったりしていたようだし、弟子のほうからもなんかアプローチはあったようだ。
そう。HAOTOの翅はいまだに女装コスを続けていて、ドはまりをしているという現実がある。周りのファンに甘いマスクで「内緒ね?」なんてウィンクを飛ばしたりもしているし、今の所大騒ぎにはなっていないらしい。ばれたらばれたであいつのことなので、「隠し芸でーす」とかいってひょうひょうとするだろう。ちなみにルイはあまり会ってない。今でも息子さんをよろしくと言われてはたまらない。
「まあ、嫌いではないんだけど」
祝日の繁華街。ぱしゃりと撮影をしつつ苦笑を漏らす。やはり自分は田舎の方が好きだ。
とはいえ先週も銀香にはいったし、四月の頭こそ宴会とかでつぶれたけれどそれ以外はきっちり撮影にでているので、今までとあまり変わらない週末といっても良い。
ルイは基本的に田舎な人で、町に出るのは服を買ったりという時くらいなもの。
もちろん、撮るよ? カメラがあってSDカードの容量があって撮らないわけがない。ただ、本気度っていうのかな、楽しさっていうのかな。ちょいちょい遠慮したりしちゃうというか。
そういう意味でも田舎の方がいいと思う。
「夏物でもチェックしますかね。ああ、春物の残りでもいいかも」
せっかく町中にでたのだから、ウィンドウショッピングくらいはしてもいいのではないかと思う。
撮影を第一優先にしてはいるものの、いちおうこれでも女子の流行だとか、女子をやるために必要なものは押さえようと今までやってきている身だ。
気が向いたらシャッターを押せばそれでいい。
春の空気がたっぷり町中に広がる。ショーケースの中に置かれているのは、季節を先取りした夏物と、春物の処分品という構成だ。まだまだ春ものの方がおおい印象だろうか。
ああ、かわいいっなんて思っていると、値札を見て愕然としてみたりだとか、それを幾度か繰り返したら、声が聞こえた。
「やめてくださいっ」
女の子の声だ。そちらに視線を向けると、二人の男に囲まれている。
春先になると気分が緩んだやつも多く出ると言うし、そういうものなのかもしれない。
しかし周りにはこれだけ人がいるのに、誰も助けに入らないのだろうか。
声は聞こえているだろうに、周りの人達はそそくさと素通りするような感じだ。
さて。ここで声をかけますか、と言われたらそりゃ声はかけますとも。千歳とかならいろいろ悩んじゃうんだろうけど。
「あのー、大丈夫ですか?」
ん? と問いかけるように三人に視線を向ける。
困り顔の彼女は、すがるような視線をこちらに向けてくる。その顔を見て一瞬ルイの表情が曇るのだが、それを切り替えて男二人に向き合うことにする。
そちらは大学生だろうか。二人組で遊び慣れてる感じがする。休みだし暇だからナンパでもしようかって感じの相手だ。
「おおぉ。こりゃまたすさまじくかわいい子が飛び込んでくれちゃったり」
「どうよ、これで2対2だし、一緒にカラオケでも」
さぁつきあっちゃおうか、と軽い誘いが入る。これが噂のナンパというやつだ。ルイは初体験ではないのだけれど、目の前で震えている子は初めてなのだろう。どうしていいのかさっぱりわからないらしい。
ううむ。いろいろな見本を見せてあげてもいいのだけれど、とりあえずやれることだけやろうかと思う。
「えー、どうしよっかなぁ」
んーと、人差し指をあごにあてて思案する。そんな仕草に二人は顔を赤くしていた。
まあ男に好かれる容姿はしているつもりだし、仕草だってそれなりに研究している。そこらへんの女の子よりも十分かわいいことなんてはなから承知なのだ。おまけに声もちょっとだけ上げているのはサービスと思っていただきたい。
いわゆる同性のよしみというやつである。もちろん自分ではかわいい子に声をかけられてもなんとも思わない訳だけど。
「カラオケよりも、ご飯とかのほうがありがたいんだけど……んー。でもあたしと仲良くしてると、いろいろトラブルに巻き込まれたりとかで大変かもしれないですよ?」
たとえば、写真を撮られてしまったりだとか、とカメラを構えると、二人があからさまに嫌そうな顔をした。一人は思いきり腕で顔を隠したくらいだった。
撮られ慣れてない、といわんばかりだ。
「カメラ女子、か。へぇ。こんなかわいい子がカメラねぇ」
「いや、まて……どこかで見たことあるな……って。おい、おまえ……」
カメラを構えている姿を見せたからか、片方の男がぴんときたらしい。
「銀香のルイ、か」
「あれ? あたしのこと、ご存じなんですか?」
そう有名じゃないんだけどなぁとにこにこ笑顔をこぼす。春まっさかりといった感じだ。
キャラのなりきりはできないけれど、こういったこびっこびの女子顔というのは案外できるのである。
「近づくとだれしも、もがれるっていう噂が……」
「ないです! そんなんないですー」
なんてことをいうのですかっ、とどん引きの二人に苦情を入れておく。
どういう理由でそんな噂が流れているのか。訳がわからない。
もぐ、となると唯一思い当たるのがHAOTOの息子さん誘拐事件だけれど、あの件はマネージャーさんが全力でもみ消したはずだし、息子を人質という話は知れ渡っていないはずなのに。
「むしろそういうの崎ちゃんの専売だと思うんだけどなぁ」
まったく、どこでそういう噂が流れてるんですか、と不愉快そうに問いかけると、いや、ネットでと彼らはぼそりというだけだった。それはそれで問題なのであとで検索をかけておこうと思う。
いまは背後で怯えてる女の子をどうにかしてあげないといけない。
「まあ、そんなわけでめんどくさい女なので、とりあえず他を当たってみたりとか、どうです?」
「あ、うん。なんかすまん……」
ナンパしてて女の子に気を遣われたの初めてだ……と、男二人は愕然としながら離れていった。
まー、ルイ自身はめんどうくさい女であるのは確かなので、おとなしく帰ってくれたのは良かったのだが。
「あの、ありがとうございます、私、その……」
「はい。おつかれっ。君、かわいくなったのここ最近って感じ、だよね? 町にはああいうのも多いって言うし、あしらい方は覚えておいた方がいいのかも?」
どうかも? と苦笑を浮かべながら小首をかしげる。知り合い相手にはぽふぽふ頭をなでるところだが今回は封印。
ナンパに悩んでいた彼女、田辺さんはあわあわと自分はそんなことはない、と両手を胸の前でふる。
「ううっ。初めてだったんです。男の人とそんなにうまく話せないし……特にああいう感じの人は」
あっさりあしらえるだなんてうらやましいです、と言われてしまった。
もちろん、目の前の相手が貴方が苦手な男子なんですよとは、いうつもりはさらさらない。
というか、あんまり上手く話せないといいつつ、この前の宴会ではずいぶんと親しく話させてもらったばかりだけれど、それは知らないふりをしておく。
それと、もう一つ言っておこう。
「あああ。今回のあしらい方はたぶんおかしいから。参考にしないでね。普通なら極度に嫌がるそぶりは見せずに、ごめんねー急いでるのねーくらいでさらっとかわせばいいんだとあたしは思ってる。っていうか男子のプライドを傷つけないようにしつつ、ってとこがポイントなんじゃないかな」
ほんとにやばそうなら警察呼ぶとか、そっちまでいっちゃってもいいと思うよ、と伝えるとそうなのかも、と答えが返ってきた。
ふう。さすがに男子として忠告しようものなら、なにいってんのこいつと絶対言われるだろうし、注意をするなら今である。田辺さんはほわほわしすぎていていろいろ危ないのだ。学校内の相手くらいならまだしもこういうのは経験が薄いのだと思う。多くなってしまっている自分もどうかと思うが。
「ルイさんって、なんか場慣れしてるっていうか……憧れちゃいます」
「基本的には田舎の方が好きで、都会に来る機会はそこまでないんだけど……ま、そこそこはああいう場面に出くわしてはいる、のかな。男子側の気持ちもわからないでもないから、複雑といえば複雑なんだけど」
前のめりになっていた田辺さんは、その答えにきょとんと小首をかしげた。
「あーこっちの話ね。さて。それじゃあたしはそろそろ撤収を」
「あのっ」
町歩きには気をつけてねんっと軽い調子で手を振ったところで、引き留められてしまった。
なんだろう。もうやるべきことは終わったと言うのに。
「お礼、そうっ。お礼をさせてください!」
「いやぁ、そこまでするもんでもないよー。むしろいたいけな女の子が絡まれてるのにスルーしてる町のみんなが信じられない。田舎じゃみんな助け合うもんなのに」
銀香では、女の子が絡まれていたらたいてい、なんなのよあんたとおばちゃん達が出てきてくれる。
もちろん部外者だった時もあったわけで、慣れるまでは時間がいるのだけど、信頼関係ができればあそこまで頼もしい人達もいない。
「それではこちらの気がすみませんっ。喫茶店とかで良ければ入りましょう」
田辺さんは目をキラキラさせて、こちらを見上げていた。
身長はあんまり変わらないのだけれど、それでも見上げるという印象の視線は正直なところどうかと思う。
「それじゃ、ちょっとお茶でもしていきますか」
同年齢からあまりそういう対応を受けてない身としては、はぁと嘆息しながら答えるしかないのだけど、その一言だけで彼女はわぁいとはしゃいだ声を上げたのだった。
GW一日目。ここからちょっとそれぞれのキャラごとに何話かいく感じなので、時系列が前後してまいります。
四月はほんとイベント多すぎじゃないかしらと思ってしまいますが、がんばって生活していただきましょう。
そして少し更新が不定期気味でございます。今日の日曜日で立て直したいものです。




