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157.大学一年四月~シフォレのお茶会

入学式関連かと思いきや四月頭にお茶会です

22:06 注文していた商品ハニトじゃないことに気づいて修正です。

「まだなんの進展もないって!? えええぇ。どういうことですかそれは」

 はるかさんが目の前に小さくなってちょこんと座っていた。

 今日は四月になって学校が始まる前にエレナとお茶会でもしようとシフォレに来ている。本当は二人きりでと思っていたのだけれど、シフォレの前でうろうろとしていたはるかさんを捕まえて、三人でお茶会になってしまったのだった。

 もちろんそんな出会いをしてしまえば、聞くことはただ一つである。

 そう、誕生日会の時に一緒にいた男の人について、のその後の話。

 けれども、聞いてみると、ぽつりとそんな答えが返ってきたのだった。

「お、大人時間っていうのはどんどん過ぎ去ってくものなの。気がつけば半年とかばびゅんと過ぎ去っちゃうの!」

 しかたないのー、とうめく姿はやっぱり口調だけ聞くと十分に女子っぽい。相変わらずに乙女だ。

「それは私も同感。はい。ご注文のハニートーストとホットケーキと、アップルパイのセットね」

「うわっ。いづもさん。ありがとうございます」

 クッキーはおまけですと、パチリとウインクをかましてくださる彼女は恋バナを聞きつけたというわけではないようで、こちらの姿が見えたから持ってきてくれたそうだ。いつもながらにVIP扱いである。

「それでどう? あのあともケーキ作りとかしたの?」

「卒業式のときにロールケーキ持っていったら好評でしたよ。写真部のみなさんも喜んでくれて」

 家族にも割と評判だったんですが、父には微妙な顔をされましたというと、まあそれはねぇと、苦笑を浮かべて下さった。父としては息子がどんどん女子っぽくなるのに抵抗があるのだろう。

「まったく、出来る子はさらっと出来ちゃうからなぁ。あの後ちーちゃんに補習をしてあげたりしてるんだけど、あの子料理はできるんだけど、ちょっとお菓子関係は……」

「実はちーちゃん、料理はみっちり練習したんだそうですよ? お菓子作りもきっと練習すれば覚えるんじゃないかなぁ」

「そうなったらさらに女子力アップね」

 もうちょっと付き合ってあげるかなぁといづもさんが少しまぶしそうに目を細めた。

 この人に千歳を任せて良かったなとルイは思う。良い感じに指導もしてもらえるし、なんせ手持ちの経験がたんまりあるというのがいい。

 残念ながらルイにはそういう知識はあっても経験がはるかに足りない。実際生で経験をしてきている人の助言と、少し離れたところからの助言と二つをまとめるといいのではないかといづもさんと時々話すこともある。

 あたしだけじゃ、あの子を引きずってしまうから、というのがいづもさんの言い分だ。時代も世相も違うのだから全く同じようにやる必要なんてないし、むしろ同年代が引っ張ってあげて、困ったらうちに来なさいなんておでこを小突かれてしまった。そういう所も含めて、いづもさんのことは信頼に足ると思っている。自分の生き様に自信もあるだろうにけして押しつけない。そんなところがかっこいい。 

「くぅっ。そんなことされたら青木さんがまたでれます。いつか一線越えちゃいますよぅ」

 けれど面と向かってそんな感想は言えないので、青木をだしにはぐらかしておく。

 青木が彼女においしいものを作ってもらうとなると、でれるだろうなぁと思うのは至極当然のことだと言えよう。

「むしろ越えちゃいなよって感じ。傷は若いうちにおっておいた方がいいじゃない?」

「それはどうなんですかね? エレナさんや」

「んー。ルイちゃんみたいな朴念仁にはいろいろわかんないんじゃない?」

 にこにこと会話を聞いていたエレナが、ボディーブローを放ってきた。

 確かにルイは恋愛関係の知識は疎いけれど、保健体育の成績は悪くはない。カップルですることと言えば一応はわかっているつもりだ。感覚的にはさっぱりわからないけれど。

「そもそもエレナは一線越えちゃったりとかしてるの?」

「あらあら。彼氏持ちなの? 最近の若い子はこれだから……」

 くぅとエレナと初対面でもないいづもさんは遠慮なく悔しそうな声を上げる。

 この前のお菓子作りの時に彼氏の話もちょっとは出てたわけだし、完全にはるかさんを元気づけるための作戦の一つなのだろう。貴女のそばにもカップルはいるのだから、あんたも頑張っちゃいなさいよ的な。

 その意図を理解しているのかどうかはわからないけれど、エレナはふへへーと頬を緩めながらホットケーキにシロップをかけると、ナイフを入れながらデレた。

「えへへー。一緒に受験勉強したり、合格発表お互いに見に行ったり、温泉旅館に行って二人きりで貸切露天したり」

「くっ。このセレブめ……」

 違う意味でエレナには、ぷるぷると怒りを向けてしまう。

 恋愛関係はどうでもいいのだけど、そうとう春休みで遊んだらしい。

「温泉なんか二年前に入ったきりだよぅ。しかも貸切とか、うらやまです」

「あはっ。ルイちゃんも温泉入ってるんだ? それって混浴?」

「いちおーね。深夜だったし誰も入ってこないだろうって思ったのに、人が入ってきて出るに出られなくなって。ふらっふらになったけど……温泉自体は気持ちよかったよぅ」

 いきなり崎ちゃんがはいってきて歌を歌い出したときはどうしようかと思ったものだけれど、お風呂自体は確かに気持ちが良かった。修学旅行の温泉はあんなことがあって入れなかったし、ここのところ天然温泉といわれるところに入っていないのだ。

 それこそエレナのプライベートビーチに行ったときに庭についていたあそこくらいか。あれも個人風呂としては破格だったけれど、大風呂に入ってゆっくり足を伸ばしたい。

「温泉とコスプレパーティーどちらがいいですか?」

 にこにことエレナが話しかけてくる。そんなことを言われたら答えは決まっている。

「温泉一択だよー。もう最近入れるお風呂がとんとなくなっちゃって、安心して隔離されて入れるところがあれば是非」

 もしくはバスタオルを巻いて入れるところがあればそれはそれでいいのだが……天然温泉でそれがOKなのはテレビの撮影の時くらいなものである。

「まったく。ルイちゃんは普通に温泉いけばいいじゃないの。混浴がいいとか隔離されてた方がいいとか、よくわかんない」

 気兼ねしないで入ればいいのにとはるかさんは疑問顔だ。少しおそるおそるなのは、女性が公的なお風呂に入れない理由を頭に列挙しているのかもしれない。

「そうですよ! はるかさんもお相手の方と温泉旅行とかいけばいいじゃないですか」

 おぉ。そいつは名案ですと、ぱんと手を胸の前でくむ。そのままほっぺたにその手を持って行く。さあやらかしてしまおうかっ、という期待の視線もおまけにつける。さすがに九月から半年以上シフォレに来るだけという関係が変わらないというのはちょっとヤキモキしてしまう。

「む、むりむり。そんなの誘えないよ。いきなりのデートでそんな温泉だなんて」

「あら。でもあの後も月一回くらいのペースではうちに来てくださってますよね?」

 初めてじゃないじゃないといづもさんが暴露する。

「しかも、いつもほんとかわいいよな、とかなんとか言わせちゃって」

「うううっ。それはそのぅ」

 丸聞こえだったのが恥ずかしいのか、はたまた別の理由か。はるかさんは恥ずかしさと、悔しさを混ぜたようないたたまれない顔をしていた。

「いじめるのは駄目ですよいづもさん。女の子は笑顔が一番ってね」

 はむりとハニトにナイフを入れて溶けたアイスまみれになったパンを口にいれてんまいと舌鼓をうつ。

「少なくとも、ここに来るためであっても会ってくれるのはいいことじゃないかなとは思うんですよ。だってあのお相手、普通にかっこいいじゃないですか。同じ部署の人が男ばかりだとしてももてないわけないと思うんです」

「そりゃ……岸田さんなら確かにそうですけど」

 相手のことをルイは知らない設定なのだけど、ちょっとだけ小ネタを投じてみる。はるかさんはてれってれな状態なので気づかなかったらしい。

「それで、お声がかかった! これが大切だと思うんですよね。しかもはるかさんは慣れてたとしても、あっちからすれば、無理矢理そんな格好させてるってわけでしょ?」

 くすりとやるせない笑みを漏らしながら、はるかさんに視線を送る。すると彼女はたちまちぽかんとしてしまった。こっちの話に関しては気づいたらしい。

「ばれて……るんですか?」

 周りに声が漏れるのが嫌なのだろう。明確的な単語はさけてこちらに訪ねるような視線をよこした。

「そのクオリティになるとさすがにわかる人少ないとは思うけど、いちおう私はこれでもエレナを撮り続けて二年ですからね。男の娘キャラ限定コスはそれらしさがないといけないのです」

 目は肥えますぞ? というとががーんとはるかさんはショックを受けたようだ。

「それをいうなら私だって気づいてたわよ? これでも目は肥えてるもの」

 いづもさんもそれに追随する。

「がーん。私の姿って……そんなに簡単にばれてしまうような……」

「いやいやいや。そこは自信持ちましょうよ。みんなからおねーさまなんて呼ばれてるじゃないですか」

 ここにいる三人の目がおかしいだけだから、というと目を丸くする。

「そんなかわいー子が女の子のはずがないっていうけど、そうそう見破るなんてできやしないのです」

「ほんと? 大丈夫? っていうかなんでわかっちゃうんだろう」

 エレナちゃんは駆け出しの頃に会ってるから、知っててもなるほどって思うけど、といいつつ、二年前くらいにはもう誰からも女装コスと言われないようになっていたのに、とはるかさんは驚いた顔をしている。

 そんな彼女はポイントを是非、と真剣にきいてくる。どう答えたものか。

「一つ目は、声でしょうか?」

「うぐっ。確かにちょっとハスキーといわれることはある……」

「そしてあとはそれが気になると喉のあたり見ちゃう……かな。ボディラインの関係とか自分で補正かけてるところは目が行ってしまうし……」

 あと、いづもさんなんかあります? ときくと、ふむと彼女も思案顔になる。

「あとは、オーラとしか」

「うわぁ。ざっくりすぎて笑えます。ってかその回答がたぶん一番正しいんだろうけど」

 そう。結局こまかいあら探しというよりは、直感である。エレナやいづもさんを見て、ああ、と思ったのは半分以上それだと思う。そこからいろいろと確証を得ていってというようになる。

「えっ、でもそんなの私は全然わかんない」

 はるかさんは不満そうな声を漏らす。たしかにあからさまにみて女装だとわかる場合はある。けれどもエレナがまとっている空気は男の娘のものなのか女の子のものなのかといわれると答えられない。

「それはあなたがきっとまだ視線を向けてないから、よ」

「またまた、いづもさん、それはちょっと感覚的すぎですよ。それに……」

 ちょっと寂しげに、話を進める。

「わかんない方がいいって話もあるのでは? だってそれってすっごく普通の女の子っぽい」

「くぅぅ。わかる上に周りのセンサーを防ぐあんたに言われても!」

「そうはいっても、いづもさん気づいたじゃん! センサーはずしは得意だけど」

「それは、あたしの目が肥えすぎてるんだろうけど……正直、これ、良すぎると自分自身で鏡の前で悶絶なのよ」

 それはそうだろう。木戸の魔眼は自身のクオリティとともに育っていった。自分をぎりぎり女子とできるくらいに鍛え上げて、そして完全といえる状態になった。目だけが先に肥えてしまったら自分が満足できなくて大変厳しいだろう。

「えと、いづもさんってもしかして……こちらのかた?」

 おそるおそるといった風にはるかさんが尋ねる。自分で言われたくないからなのか遠慮しまくりな質問だ。

「内緒、かなー」

 ふふんと、いづもさんがごまかすものの、否定しないというだけで十分認めたも同じだ。

「じゃあ、ルイちゃんも? エレナちゃんもってこと?」

「ついてなきゃ、男の娘キャラとはいえますまい、って答えておけばいいかな?」

「あはっ。それうちのQ&Aじゃない。でも、そっち方面の技能だけは常軌を逸しているというのだけは言えるのかなぁ。本当は男の娘であれ、男の娘だいだい大好きな女の子であれ」

 エレナはきらきらした女の子声でさぁ、どっちかなーとけむにまく台詞を告げた。

「さすがにガードが固いかぁ。ちなみに私は本当は女の子派です」

 こんなにかわいい子はやっぱり女の子なのーとふくれてしまった。

 まあ自分が女装してるとなるといろいろ限界も感じるだろうし、そうなっちゃうのだろうなぁ。

「大勝利ってね。そういやエレナは大学入ってから彼氏とどうなの?」

「あいかわらずですよー。毎日メールとかラインとかいろいろしてるし。まーおうちにご招待するのは誕生日くらいなもの……っていうと、そか。ルイちゃん今年もこれる?」

「ん。どうせ土日のどっちかにやるんでしょ。だったら問題はないよ」

 さすがに友人の誕生日にいくなとまで両親も言わないだろう。結果的に女装になるわけだが。

「そのあとはうちにも来てくださるのかしら」

 いづもさんが優しそうな表情を見せる。

「もちろんです。それとオーダーはいってると思いますが……控えめでいいですからね?」

 気合い入れるのは翌週で! と言い切ると、まあまあといづもさんが苦笑を浮かべる。

「クライアントに頼まれたらそりゃ、水準は超える仕事はするわよ。あの量だもの。でも、エレナっちとしては微妙?」

「んー。ボクの誕生日って感じじゃあないですからねあれ。宣伝のために使ってくれるっていうなら、それはそれで全然いいし、お客さんに聞かれたらシフォレのケーキですっていっておくけど」

「セレブなりの悩み……ってことで。今の話、はるかさんも内緒でおねがいね」

 ルイがぱちりとウインクをしてしーと人差し指を唇につける。今のやりとりではどこの誰かがエレナの誕生日のために、シフォレのケーキをオーダーしていることと、エレナがそれだけセレブって部分くらいなものだ。ボクとあえて言ったのは、どちらなのかわからなくするためのフェイクだろう。

「セレブなコスプレイヤーって……初めてみるかも。普段からお姫様みたいな格好してるとか?」

「そーでもないんですけどね。学校は制服だったし。お父様はあんまり帰ってこないから好き放題できるんですけど、まあ普通ですよ」

「えー、割とネグリジェとか豪華だったと思うけどなぁ」

 エレナの部屋に泊まりに行ったときにけっこうお嬢様な服を着ていたことを思い出す。

 ときどきテレビ電話で話すときも思いっきりお嬢様な感じだったような気がするのだけど。

「うう。ルイちゃんまでー。ルイちゃんだっておうちでもかわいいかっこーしてるくせにー」

「ちょ、それは誤解を生みます。それとこれからは外に居る時間の方が長くなるから、家ではそれこそジャージとかですって」

「うわ、家ジャーだ」

 それはそれで、ルイちゃんの家ジャーはちょっと見てみたいとはるかさんが希望に目を輝かせる。

「そこはできれば、彼ジャーがいいなぁ」

「そうはいっても、男の人の家に行ったことって、写真見せてもらいに一回いっただけですし、もう高校卒業しちゃいましたから、彼ジャーは無理じゃないかなぁ」

 彼氏のジャージをたぷっと着こなすというのは、割とメジャーなジャンルである。

 他に彼シャツとか、いろいろあるみたいだけど、学校指定のジャージとかがあるところで、体をぬらしてとかそういう展開がなんだか萌えるらしい。

「ゲンジツはそんなもんよね……あーあ。あ。うん。あたしは高校の頃そういやそういうのあった、かも」

「ほほぅ。どんな感じなんです?」

「確かね、暖かいから上着はいいかなぁって思ったら予想以上に寒くて、くしゃみしてたらこれきろってさ」

「おぉっ!」

 けっこーきゅんと来たっけーと、はるかさんが柔らかい笑顔を浮かべる。かわいい。

「じゃあ、たとえば会社のデスクでつかれてうたた寝しちゃってるところに上着かけてくれたりとかは……」

「あー、それはないかなぁ。家が会社のそばだから家まで帰って寝るし」

「そっかー」

 それは残念ーとエレナが心底残念そうな声を上げる。

 そう。彼女の家は確かに会社から五分くらいなところにあるのだ。終電を逃しても家に帰れる。

 むしろ。

「今日は電車なくなったから、泊めてくれよ……なんて展開の方がありそうですよねぇ」

 ふふ。実際にあの部屋に入ったことのあるルイとしては、そういう展開も十分に想像がつく。でも同時にうちの親が八時九時で帰ってくるのを知ってるからそこまでの残業もないのかもしれないとも思うのが残念なところだ。

「忘年会したあととかはあるけど、残業で日をまたぐって年に何回もないし、それにそういうときは2,3人泊まっちゃうから」

 うむぅ、とはるかさんがとても残念そうな声を上げる。

 本当に泊めてあげたいのは岸田さんだけというのが丸わかりだ。

「じゃあ、次泊めてあげるときが勝負ですね?」

 いい雰囲気をつくるしかないですよーと言ってあげると、はるかさんは遠い目をしながら、そうなるといいなぁと弱々しくつぶやくだけだった。


このお話を高校編最後に挿入するかどうかはとても悩ましいところでした。

はるかさん達の仲は大学編でこそ進んで行くのだし、「はじまり」としてはいいのではないかなということで。

はるかさんかわいくて大好きです。大人なんだけどちょっとしたところがいい! 最終的に男同士で付き合うのか女装込みなのかはわかりませんが、早くくっついていただきたい。

それと、エレナさん……彼氏と卒業旅行とか、まじリア充ですね……


さて。明日こそは大学の話がはじまりますよー。新キャラも増えますがオープンキャンパスの時の人達が基本であります。

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