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ep1.佐々木陽子

 さてさて、最初の語り部は佐々木さんこと、佐々木陽子がつとめさせていただきましょう。

 はて。陽子? そんな名前は聞いたことがない。

 そう思うでしょう? ひどいんだよもう。みんな佐々木さんとかさっきーとかサキとか呼ぶもんだから名前の方が浸透しない。

 けれども、私は知ってる。

 陽子の陽は太陽の陽なんだって父さんは熱烈に言っていたし、昭和風とか地味とか言われても自分では下の名前も気に入っている。

 さて、そんな私はやっぱりどこか「自分が平凡にすぎるから」こそ、ちょっと変わったものに引かれるらしい。

 ミステリー研究会に入ったのだって、不思議なものにいっぱい触れあいたいと思ったからだ。

 そんな私が高校に入ってもっとも不思議だと思う人物。それが木戸馨という人なのだと思う。

 恋? そういう感情はない。敢えて言えば興味というところだろうか。

 意識し始めたのはいうまでもなく一年の課外実習の時のこと。

 ちづがわたわたしてるところを地味に助けてくれたりというのはいいとしても、女子部屋に来た男子をからかおうと全力で思っていたのに、変な反応になってむしろそっちのほうで、ずきゅんと来てしまったのでした。

 普段はひっそり目立たないもっさいモブ男子という感じだったのが、いきなり眼鏡を外すとあれだけ美人というだけでも驚きなのに、先生相手に男子なのがばれないというあの完璧な対応。

 あの部屋にいた子はその声音と表情に、普通に思ったはずだ。

 下手するとちづより可愛いんじゃないだろうか、と。

 そしてそんな思いが夢だったかのように翌日は普通にもさいモブに戻っているのだから、あれは夢だったのかしらなんていう、ちょっとキツネにつままれたような感じになってしまったものだった。もちろん木戸くんのお願いはみんな快く守るつもりでいたので仲間内でも話題に出したことはあまりない。

 そんな木戸くんも徐々に化けの皮が剥がれてきたといいますか、劇的に周りとの関係が変わったのはやはりバレンタインの後からなのだと思う。本当に彼を代表にすえてきた男子達には感謝してもしたりないくらいだ。まさかあんな風に木戸くんの女子力が表沙汰になるだなどとは思っていなかった。

 そうして迎えた三年は……いろいろな意味で面白かった。イベントもいっぱいあったし、それを間近に見れたのは幸せという意外にない。それこそ脇役でしかない自分はそれをお裾分けすることくらいしかできそうにない。

 今日はそんな中の一日をお届けしようかと思う。 

 




「うぅ、さすがに数学はわけわかんない……これぞミステリー」

 しょんぼりと机の上にへんにょりへばりつきながら、数学の答案を隠すように下敷きにして弱々しい声が漏れた。

 その答案の点数は20点。ええと、いちおう百点満点のテストで、だ。いうまでもなく思い切り赤点。

 クラスの平均点を基準に赤点を決める数学教師なので、目標の点数は四十点といささか低めの設定にはなっている。けれど、一週間後の追試までにこの点数を二倍にするだなんて芸当が一人で出来るかと言われたら、まず無理なんじゃないかと思う。参考書を見てみたところで、訳のわからない暗号が書かれていてわけがわからない。

 ちなみに追試で駄目なら補習になってしまうわけで、三年最後の夏休みを前にそれはちょっとというのが正直なところだった。

「まったくさきちゃんったら、国語系は得意なのにそっちはからっきしなんだから」

 前の席に腰をかけているちづが、ぽふぽふと頭をなでてくれる。

 目の前の女優様はあれだけ部活に専念しているくせに割と余裕で赤点を回避しているのだからずるいと思う。

「もーちづー、なんとか協力を……」

 へるぷですーと泣きつくと、んーと彼女はなにか思案しているようだった。

「んじゃ、せっかくだから何人か集めて夏休み前に勉強会でもしてみる?」

 他にも何人か数学で躓いてたと思うしー、という彼女はなにか考えているようで、じゃあ声をかけてみるねと請け負ってくれた。

「にしても、いくら苦手っていってもこの点数はちょっとどうかと思うけど」

「うぅ、一桁じゃないだけマシだと言って」

「40点を目指しましょう」

 さぁ頑張れと言われても無理ーという言葉しか出てこなかった。



「さて、そんなわけでー、補習をさけよー勉強会を始めたいと思います」

 ちづの言葉に、参加者のみなさんがうへーと嫌そうな顔をした。

 お世辞にも勉強ができない人ばかりが集まったこの会は、さて果たして本当に勉強をするために適切なのか、と言われるといささか厳しいのではないか、というのが共通認識なのだった。

 そりゃ、お互いが見張り合っていればだらけたりはしないで済むだろうけどさ。

「うぅー、まるで呪文書を読んでいるかのようだよー」

 隣のうめき声にこちらもまったく同意見だった。彼女が赤点だったのは漢文だ。びっしり漢字が並ぶあれは確かに何かの術式でも書かれているのではないかと言われても納得だ。

 ちなみにそっちは赤点ぎりぎりだった。突破できて良かったと思っている。

「ちづー、ここってどうやればいいの? もーわけわかんないよー」

 くすんと泣きつくと、唯一このグループの中で出来る子である彼女は、それはねーと、解説をしてくれるのだが、それでもいまいち要領を得ない。教え方の問題というと贅沢かもしれないけれど、ちづは割とできる子なのだ。できない子の思考回路というのがわかっておらず、なんとなくで出来てしまう。

「重傷過ぎる……」

 どうしてわからないのかわからないというこの状況にちづも肩をすくめるばかりだ。

「とりあえずこの公式を再復習かなぁ」

「いまいちどの公式をどの状況で使えばいいかがさっぱりで」

 アホでスマンと言いつつも手はなかなか先に進んでくれない。

「ええと、そこらへんは……カン?」

 なんとなく? というちづはホントもう、どうしようもない才能の塊だと思う。

 どうしてこう神様は不公平なのだろうか。自分もぱっと見とか感覚でテストを通過したいものだと思う。

 そんなことを思っていたら不意に、男の人の声が聞こえた。

「カンでなんとかなるなら、勉強する意味ないと思うんですがね?」

 柔らかい声音に顔を上げるとそこには、木戸くんが立っていた。

 はて。どうしてこんなところに彼がいるんだろうか。

 確か、追試も赤点もなにも無かったはずだし、そもそも男子はこの会には誘っていないはずなのに。

「だからこそ、先生に来ていただいたわけです」

 この人数一人で相手にするの無理だから、助けてーとあのちづがまるで女友達に接するような甘えた声を漏らしている。まあ木戸くん相手ならそうなるのはわかるけど、他の男子が見たらいろいろ誤解するんじゃないだろうか。

「おおぉっ、かおたんっ。へるぷっす」

「斉藤さんあんまり勉強しないで出来る人だから、教えるの駄目でしょ」

 手伝いますと彼は開いていた席に座ると周りに視線を向ける。誰がどの教科をやっているのかをまずはチェックといったところだろうか。

「あたしだって、いちおー勉強してないわけではないんだけどなぁ」

 記憶力は良い方だけどさ、と才女さまは悪びれもせずにそんなことを言ってのけた。

 ちなみに、木戸くんの教え方は実に丁寧でわかりやすいと評判だ。

 勉強に関して言えば彼は努力の人だと思う。写真に関しては本能で撮っているのだろうけど、他のはあれで真面目にやっているのだ。

 このクラスで勉強を教わりたい男子のナンバーワンは南鄕くんだけど、私は木戸くんの教え方の方が正直好きだ。

 安心感もあるし、南鄕くんだってなにげに天才肌だから、アホに教えるのはイマイチなのだ。その点木戸くんはわからない所がどこなのか、躓いた経験を元に教えてくれるから、わかりやすい。

 そんな彼も古文とかは覚えるだけじゃないかなぁと言っているわけだけど、語呂合わせとか努力をしているのは知っている。

「ああ、そうそう。いちおー人数は聞いてきたんで、みなさんでどうぞ」

 問題三つといたら一枚って感じでどうぞ、と彼は一人ずつに綺麗にラッピングされたクッキーの包みを渡してくれた。

「あの、木戸くん? あたしには? あたしには?」

 かさりとおかれた袋をじぃと物欲しそうに見ながらちづは、まるで愛犬かなにかのような声をあげていた。これまた男子に向けては絶対に言わなさそうな台詞である。 

「はいはい、そう言われると思って斉藤さんのもいちおーあるよ」

 上手く教えられたら食べなさいと言われて、ぷぅとちづは膨れていた。そういう顔を自然にしてしまうところは、ホントに木戸くんには気を許してるなぁとしみじみ思ってしまう。

 これで女優、斉藤千鶴は男子に絶大な人気を誇る女の子だ。告白だって何回か受けてるらしい。そんな子が無防備な顔を向ける男子なんてきっと、木戸くんくらいなもんだと思う。それでいて二人が付き合っているという話がでないのは、木戸くんの性格のせいなのかもしれない。

 なんせ放課後はほっとんどクラスメイトと遊ばない。土曜日なんかもさいさんの青木くんからのアプローチも無下に断ってさっさと帰ってしまうのだ。

 実は地元に彼女がいるのではないか、なんていっている人もいるけれど、ちづもさくらも口をそろえて『それだけは絶対にない』と苦笑していたけれど、そこらへんは私も同意見だ。

 というか、彼氏が地元にいると言われた方が納得がいく。一時期青木くんとの熱愛報道が流れていたけれど、あのときはやっぱりかーとか思ったものだった。

 どういう経緯で木戸くんの素顔を知ったのかは知らないけれど、青木くんもなにげに良いところに目をつけるものだ。あんな子が彼女だったらって男子だったら確実に思うんじゃないだろうか。そういえば修学旅行のときにいろいろあったとかいう話も聞いたっけ。

 でも、あのとき見た顔がどうにもデジャブってしまうのだけど、どうしたことだろう。

 本当にミステリーだ。他でもどこかで見た気がするのだ。

 あんなに可愛い子なんて滅多にいないはずなのだけど、ううん。目の前の難問よりもそっちのほうに気持ちがいってしまう。

「追試が無事に終わったら、改めてお茶会しよ?」

 けれども目の前でほわんと完璧な女声でそんなことを言われてしまったらもう、そんな違和感なんてものは消し飛んでしまって。

 

 このとき参加していたメンバーは全員、無事に追試をクリアできた、とだけ、言っておこうかと思う。

 可愛いは反則だ。まったくもう。

 ゴメン佐々木さん。平凡な名前、名前ーしょうわーって思ってたら、子は確定で、あとはなんだろうって思ったら「アイドル伝説」でした。古すぎるよっていわれるのはわかっているがっ。年齢についてもいわれそうだがっ。私だってオンエアーまともにみてた記憶はなく「あのフレーズ」だけなのです。

 いいじゃない、陽子の陽は太陽の陽だよ!

 さて、一発目はミステリー娘の佐々木さんです。下の名前は今までついていませんでしたが、なにげに同じクラスで絡んでくれた子ですしね!

 いちおう、こんな感じの長さ? でというかそのときの気分で「今まで以上に」適当に書いて参りますとも。なんせ充電、休養期間ですからな!

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