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152.

「そして放課後はそっちのかっこか」

「だって、午前はあっちで十分堪能したしね」

 すちゃりといつものルイ用の一眼を首からつりながら、屋上の一区画でさくらの前で一回転してみせる。

 いつもみたいに短めのスカートがふわりと揺れて、それがすとりと落ち着いた。改めて言いたくなるけれどこの制服のスカートはほんと短いと思う。羽田先生に借りたものの方が100倍マシである。

 屋上で撮影してるんだけど、こない? というさくらからのメールが入ったから来てみたものの、他の写真部の姿はない。もともとこちらから連絡を入れようとは思っていたところだったので都合は良かったのだけど、さくらもどうやら先に合流して話をしておこうと思ってくれていたらしい。部室での集合予定時間まではまだ一時間くらいはある。

「それにさ、いちおーあたしだってここの学校の写真部の人なわけさ。それなら卒業しておきたいじゃにあー」

 言い終わる前にぴろんとほっぺたをつねられた。ひどい。

「にゃーって、あんた。その顔で猫なで声はちょっと」

「ひどーい。さくらがひっぱったのにゃー」

 またつねられた。狙ったように語尾に併せてだ。

「あはは。やっぱ学校でルイをもて遊ぶのは楽しいわ。ホントは一緒のクラスでいろいろ遊びたかったけど……さすがに無理だもんねぇ」

 ほんと、どーしてあんたは女子じゃないのよとしょんぼりされてしまった。

 たしかに週末は一緒に撮影に出たりということも多くあったけれど、一緒のクラスでっていうの最後までなかった。ルイとしても木戸馨としてもだ。

 ルイとしての学校生活、というものに木戸自体はあまり興味がない。というのもルイはあくまでも写真を撮るためのスタイルだからだ。

 でも卒業式となると多少の感傷みたいなものはある。

 もしルイとして学校に通っていたら、もっといろんなことがあったんだろうか、なんて。

「さすがに学校でもこっちなのは身が持たないかもねぇ。あたしわりとトラブルメイカーだし、巻き込まれ体質だし」

「よくわかってるじゃない。それで? 今日はこれからどうするん?」

「んー、最後だし学校の写真を撮ってこうかなってね。残念なことに懇親会からという中途半端感なのだけど、こればっかりは仕方ないし」

 さすがに卒業式にまんま登場というわけにもいかない。

 それに。

「午前中はあいなさんにばしばし撮ってもらったし、あれはあれでいいかなって。全力でプロのカメラマンさんを使い倒せるというのは、ありがたい」

 ありがたやありがたやと言っておくと、私も撮ってもらったよーとさくらも表情を緩ませる。

 いちおう今日は、青木の姉という立場で来てくれているので、撮影料金もかからず友達を撮影していますというような感じだったのだ。普通だったら万単位でお金がかかったろうに。

「さくらも撮影するんでしょ? あとで品評会やろうね」

「おっしゃあ。がんばるっす」

「ん。卒業してもあたしたちの関係はかわんないというところでね」

 ルイとさくらの関係は、学校がつないでいるわけではない。木戸と遠峰さんなら学校つながりなのだが。

 だから、卒業式は迎えるけれど、写真がつないだ縁は変わらない。

 そいじゃ、と軽く手を挙げてそれぞれの撮影場所に向かうのだった。




 そして一時間くらい経ったろうか。

 部室に集合というメールを受けて、廊下を急ぎ足で歩いていると周りに人影はもうあまり見られなかった。すでにみなさん教室の中に入って歓談をしている状態なのだ。ちなみに今日のルイの足元を包んでいるのは普通に学校指定の上履きでスリッパではない。講習会では撮影ももちろんするしスリッパだと動きにくいので、着替える段階で先に回収しておいた上履きに履き替えるようにしているのだ。もちろん家から持ってきてる設定なのでいちいち面倒なのだけど。

 それも今日で終わりかーなんて思うと少しだけ胸のあたりがきゅっと絞られるような痛みがあった。

 さて。そんな写真部の集合時間は他の所にくらべて少し遅い。というのもこういう式典の時に思い切り部活動をする部だからだ。

 そしてお茶会をしながら当日撮った写真の品評会をすることになる。

 もちろん昨日やった卒パの方の写真もわんさと出てくるはずで、はっきり言ってこれを参加しないで済ます道理はない。

 そんなわけで、羽田先生に冷蔵庫で保管しておいてもらったロールケーキ残りの一本を持ちつつ、写真部の部室に向かった。

「ああ、ルイせんぱーい。来てくださったんですね。去年は来れなかったから今年も無理なのかと思ってました」

 部室に顔を出すとすぐにめぐが見つけて声をかけてくれた。

 今日は集合率がいつにも増していいように思う。

 すでにさくらを始め三年生三人はそろって写真を見ているし、一、二年もそれぞれそろっているようだった。

 いずれ時間が経てばあいなさんも来るだろうけど、あの人は普通に保護者さん達に捕まってるのだろうと思う。立派なカメラを携帯しているし、今日の撮影担当として仕事してると思われているのだろう。

 保護者は保護者で別会場で懇親会をやっているのだが、そっちにさらわれている可能性もある。

 いちおーあの人も青木の保護者というか家族なのでそっちに参加というのもありだろうけど、ご両親が来ていたりはしないのだろうか。何度か青木邸にはご厄介になっているけれど、その両親と会ったことは無いのでもしかしたら忙しいお仕事をしているのかもしれない。

「さすがに自分の卒業式をほっぽらかすってのは出来なかったけど、いちおー部員なわけだし、みんなともちゃんとお話をしておきたかったので」

「実はさくらに、来い、来ないとお前の大切なアレをもぐぞーとか脅かされたんでしょ?」

 写真部三年の佐山さんがにこやかにそんな冗談を言ってくれた。

 彼女とは写真部関連のイベントでは顔を合わせているけれど、普段の姿ではクラスが違うのもあってあまり木戸馨としての面識はない。だからこそ普通に女子同士な関係でなおさら話ができる相手だ。

「レンズもがれたら確かにまずいので、そりゃー来ちゃいますよ?」

 一番大切なもぐアイテムといったらコレだろう。換えのレンズはもう一個あるけれど、ズームの度合いとかいろいろ違うので使い分けるのが基本だ。片方がもがれてしまったら困る。

「……えっと。ところでルイさん。その手に持ってるものは?」

「ああ、なんか伝統的に午後はお茶会になるっていうから、これ、みなさんでどうぞ」

 佐山さんがなぜかきょとんとした顔をしながら、視線をそらした先にあったものを見つけて声をかけてくれる。

 さくらは、あーあれかーという感じでこちらを見ていた。

「おおぉっ、ロールケーキ? えっとこれ……もしや手作りですか?」

 ルイ先輩お手製……と男子達がごくりと喉を鳴らしていた。そんなに期待されても……まあ期待通りの味ではあるのだけど、別にレシピさえ知ってれば誰だって作れると思うわけで。

「知り合いにレシピ教わって作ったものです。味は期待していいと思うけど、期待はしすぎないでね」

 人数分にすでに切ってありますと伝えると、相変わらずな女子力だと同学年の女子から感嘆のため息が漏れていた。別にそうたいしたことでもないのだけど。

「よっし。あいな先輩きてないけどとりあえずお茶会始めちゃおう。正直前にそれの話聞いてから、いつか作ってきてくれないかなって思ってたので」

 さぁ、はよ、さぁはよとさくらに急かされて、すでにテーブルの上に置かれているお菓子類に追加される形でケーキが配膳された。あいなさんの分は一応一個確保済みだ。

 さきほどのお昼の反応を見るにまあまあ好評だとは思うのだけど、男子だとこの味はどうなのだろうかと少し緊張する。

「はいはい、元部長様の仰せのままに」

 仕方ない人だといいつつ、すでに準備済みのお湯をカップにいれていくのは後輩男子組だ。なにげにまめな子が集まっている。

「それで、ルイさん。今日も思いっきり撮影してきたんですよね?」

 佐山さんが、さあ出しなさいと詰め寄ってくる。他の部員も苦笑気味になっているけれど、見せてくださいという空気になっているようだ。

「まあ、いいですけどね」

 SDカードを取り出して先ほど昼先から撮りすすめたものと、昨日撮影したものを差し出す。午前中にコンデジで撮った写真はもちろん表には出さない。あれはルイが撮ったものではないからだ。

 部室においてあるパソコンのディスプレイに写真が一気に表示されていく。

 教室にあるイベント写真閲覧のためのものと同じものがここにも置いてある。

 普通の部室にはあまり置かれるものでは無いのだけど、写真の選別などを執り行う関係もあってここにもしっかりと鎮座されているのであった。もちろん液晶のサイズの問題で講習会をやるときは別の部屋を使ったりするのだけど。

「ほんと、急いで来てくれた感じなんだ……」

 午前中のヤツがまったく入ってないだなんてと驚いた声を上げている佐山さんの声に追随するように周りから声が上がる。

「ですねぇ。ルイ先輩ならたんまり朝から撮影って感じしてたのに」

 なら、むしろ通ってる学校の制服姿が見たかった、なんてめぐはきらきらした目をこちらに向けてくる。

 さくらはその様子を、あーあという目で見ていた。まあいつものことだとでも言いたいのだろう。

 当然ながら、通ってる学校の制服姿=今の格好なわけなのだけど、他の学校に通ってると思っているめぐの頭の中では良いところの女子制服をあてがっていたりするのだろう。聖ゼフィロス女学院のお嬢様制服とか。あそこは男子禁制のお嬢様学校で、ときどき町中でその制服を見かけると周囲の学校の男子生徒は大喜びするというほどの所だ。自分には縁はないと思うけどたしかにあそこの制服は可愛いと思う。

「それとそっちは昨日のやつね。なにげに着ぐるみばっかり撮ってる?」

「うんっ。そりゃもう着ぐるみ大好きですからね」

 まー喋る着ぐるみってそうそういないんでいつもの撮影法は撮れないんだけどといいつつも、表示される子たちはものの見事なかわいさっぷりをしてくれている。今年は本当にキャラも豊富で楽しかった。

「ちなみに着ぐるみに抱きついてるルイ先輩の姿はばっちり押さえておきました」

 かちりとめぐがファイルを開くと緩んだ顔で茶色い着ぐるみに抱きついているルイの姿が表示されていた。どうやらあの場面を思い切り撮られていたらしい。

「うわ、こんなにふにゃふにゃしてたか……そりゃテンション上がったけど、ここまでか……」

 客観的に見せつけられると、緩みきってるなぁといろいろ複雑な気分にはなる。

 もちろん緩めば緩むほど女子っぽさが表にでるわけなのだけど。

「こういう所もなんていうか、女子っぽいというかなんというか」

 まったくあんたって子はとさくらから冷たい視線を向けられるものの、別に女子なので女子っぽくていいのである。

「もーほんと嫉妬しちゃう。ほんとShitね」

 あれ。後で聞こえたシットの方がなんか、ああくその方に聞こえたんですがさくらさんそれはひどくはないですか。

「ロールケーキもふんわりなめらかだし、もー、いつでもお嫁さんになれそうな勢いね」

「だから恋愛は無理だってさんざん言ってるのにー」

 さくらひどいーと言いつつ、煎れてもらった紅茶を飲む。紙コップにティーパックだけれど、それはこういう場なので仕方ない。けれどしっかりと煎れられているので香りもしっかりとでているようだった。

「でも、確かにおいしいっすよ。普通にお店に並んでるような感じで」

 自宅でも作れるものなんだなぁと後輩の男子達が頬を緩ませている。甘いものはどうやら大丈夫だったらしい。

「悔しいけど、普通にお店の味って感じ。いいなぁー好きなときにこれをつくれるっていうのは」

 もうたまらぬーと女子部員達にも好評をいただけたようだ。

 その姿をとりあえず一枚。SDカードは差し出したけれど、もちろん予備は持ってきてあるしそれをいれてあるのでいつだって撮影はできる。抜かりはないのだ。

「さて、他のみなさんの写真もたーっぷりと見せていただこうか」

 最後の部活動だからね? とみんなににまりと笑みを向けると、えぇもちろんですともと、部活メンバーはカメラを持ち出したのだった。




「なんか、本来お客さんのはずなのに、ルイさんに手伝わせてしまって」

 すまんことですと隣で皿を洗っている佐山さんは申し訳なさそうにこちらの横顔を伺っているようだった。

 特別、そんな遠慮はしてくれなくてもいいのになぁとは思うものの、こちとら学外部員である。

 部室の中に水道はないので近くの洗い場まで移動しなければならない。そこらへんもあって少しばかり思うところはあるのかもしれない。

「ねー、ルイさん。ホントに卒業旅行いかないの?」

 じゃーと水の流れる音を聞きながら、彼女は先日の話を持ち出してきた。

 写真部恒例、卒業生による旅行は今年も行われる予定だ。その頭数として最初はルイもカウントされていたわけだけど、残念ながら手持ちがあまりないので今回は遠慮させていただいたのだった。もちろん理由もそのまま伝えてある。カメラ買った関係でちょっと厳しいのですと。

 あー、いちおールイさんならあるかもねーなんて話になって、それからじゃあ安いところで! みたいな話になってしまったので、そこは止めさせていただいたのだ。仲間のうちに入れて貰えるのはありがたいけれど、こちらはうっかりさっぱり卒業旅行のことを忘れていてカメラを優先してしまったので、ある意味自業自得なのである。

 おまけに言ってしまえば旅行である必要はルイとしてはあまりない。温泉は興味あるけどあのメンバーでは堂々と入れるわけでもないのだし、それなら後日近隣で撮影会でもしていただいた方がありがたいのだ。

「前にも話したけど、お恥ずかしい事情で……それと撮影会はきっちり参加するので」

 そのときはよろしくと声をかけると、はいはいと、苦笑気味の返事をしてくれた。写真馬鹿なところは彼女にもよく伝わっていることなので、まあしょうがないかと思ってくれているらしい。けれど。

「それは、ルイさんが実は男の子だから、なのかな?」

 ん? と何事でも無いように言われた彼女の言葉に、一瞬腕が止まる。

 正直、知っている人間からばらされることは有っても、見抜かれることがあまりなかったので、その突然の追求に反応しきれなかったのだ。

「な、なんのこと?」

 つとめて自然に、食器を洗い始めながら彼女に微笑を浮かべる。なんの冗談? と言ってしまえればいいのだけど、残念ながらなるべく嘘はつかない主義だ。

 ふふっと彼女は苦笑を浮かべながら、まあまあ安心しておくんなさいとぽふぽふ肩を叩いてきた。

「いちおー知ってるのは三年のメンバーだけよ。ほら、二年前に卒業旅行と称して山に行ったじゃない? そのときの反応っていうか、さくらの反応でなんとなくね」

 なるほど。これで写真のできどうのこうのでわかったと言われたら、なにみなさん写真でわかってしまうのかと愕然とするところだったけれど、別口の情報源からでちょっとだけほっとする。

「ええと、それをいまさら明かす理由は?」

「卒業式だから、かな? 別に悪いことに使うつもりもないし、なんていうか知ってても確信が揺らぐというか……ここ二年一緒にいたけど、ほんともー女子ですって感じなんだもの。貴女が何者であろうと、別に下心があったわけじゃないんだろうし……」

 っていうか、実は心は女の子とかそういう感じなの? とかすーっと近寄られて言われて、うわーと内心で叫び声を上げたい気分だった。

 完成度と性自認は関係ないのよっ、なんていづもさんなら言うのだろうが、そんな専門用語を使うつもりは無い。

「下心ってのはまーったくないかなぁ。ここに呼ばれたのもさくらがなかば強引にだし。それと、いちおう言っときますけど、心が女子ってわけでもない……はず」

 言い切ろうとしたけど、この前のいづもさんの一件で少しだけ性自認というものの知識が深まったせいで、心の性別を断言できなくなっているルイとしては、こんな中途半端な答えしか言えなかった。

「そもそも撮影のためにこういう格好してるだけだしね。でも、誓って言うけど悪いことはなんにもしてないよ? 被写体を緊張させないようにっていう配慮の一環だし」

「あー」

 それでその完成度か……となんだか彼女は、最初にさくらに話した時以上にショックを受けているようで、がくんと肩を落としていた。

 ルイとして初対面だったさくらとは違って、二年一緒に生活した上での告白は、それなりに衝撃が強いのかもしれない。

「ええと、いちおう確認しとくけど、さくらはともかくとして、あいな先輩は?」

 知っているの? と問われて、うん、まあと答える。

「あの人は、撮影法のうんたらかんたらで、見破りました。どうもあっちとの間で共通点があるんだよーとかなんとかね。さくらには絶対ルイの方が仕上がりがいいとか言うんだけどねぇ」

 自分でも共通点ないくらいの仕上がりなのですが……と言うと、は? と彼女は固まった。

「同一? ってことは男子でもそこそこ写真とる人ってこと?」

「え。ちょ、すでにそこまでわかってるなら、さくらに問い詰めたりとかしてたんじゃないの?」

 すでにもう、ルイ=木戸馨はわかっているものと思っていたのに、はてさて、わかっていたのはルイ=男子ということだけだったようだ。

 うーん、物事こちらの想像の上の解釈を相手はするものだなぁとしみじみと思ってしまう。

「いやぁ、いちおーね。生暖かく見守ってあげよーって思ってなんも聞いてないの。下級生に至ってはたぶん、誰も気づいてないと思う」

 いちおーデリケートな問題でしょ? と言われて、彼女の慎重さに感謝を向けたいくらいだった。

 女子なら……なおさらこんなことを知ったら騒ぎ立てそうだというのに。

「確かにめぐは絶対気づいてないかな。そして気づけば絶対怒る……ってか頭の中で情報処理しきれなくて、下手すると失神する」

「ってことは、めぐが男子の姿も知ってるってことか……」

 んー、と彼女は洗い物が終わって蛇口を閉めたその指をあごもとにあてて、んーと思考を巡らせている。

 ここまで言えば、たいていの写真部員は答えに行き着くだろう。

 めぐはなにげに木戸馨の悪口を写真部で言っているし、写真スキルのある男子なんてそうそういるもんでもない。

「え。いやいやいや。まって。じゃあめぐちょー可哀相じゃん」

「は?」

「あー、あはは。こっちの話」

 こほんと、佐山さんは視線をそらしながら、えーまじかーと、一人つぶやいている。何が何なのかよくわからない。

「えっと、改めまして。木戸……くんでいいの?」

「いちおう、はい」

 まーこっちで居る時は性格も変わるってよくさくらには言われるんだけどね、というと、そうですかと彼女の表情はなにかつかれたものに覆われた。

「まさかうちの学校の生徒とは思ってなかったし……まさかあの(、、)木戸くんとか……」

「ええと、佐山さん? そのあの(、、)って、どういうこと?」

 いちおうそんなに目立ったことはなかったと思うのですがね、と言うと彼女も肩をすくめながら言い放った。

「まあ、ルイさん自体がお騒がせな人だから、日常くらいどうってことないって判断なのかなぁ。木戸くん(あっち)だって十分お騒がせなんだけどなぁ」

 それほど大きな話題がはたして木戸馨にあっただろうか。

「えっと、あの加工写真事件のことをいってるなら、あれはホント誤解というか、トラブルというか……」

「あれもそうですけど、他のこともあります」

 今は、っていうかもう追求する気もないですがといいつつ、ああ、根っこは同じなのかとなぜか納得げなつぶやきが聞こえた。

「普通の人がおたおたしちゃうようなところで、なんとか対処しちゃうっていうところが、確かに二人とも同じなのかなって」

「ええと、あの写真騒動はあたしだってそーとーおたおたしたんですからねっ! 他にもいろいろな……ああもう、思い出すだけで騒動だらけっすー」

 くすんと言ってあげるとほとんど無意識なのだろう。佐山さんがいつものノリでよしよしとなでなでしてくれた。

「でも、この三年間はほんと楽しかった。放課後も。写真部の活動もそんなには出来なかったけど、もうお客さん状態じゃないって思ってるからね?」

 ありがとう、と素直に言葉がでた。それは紛れもない本音だ。

 おまけに、知っててずっと知らないふりをしてくれていたというのなら、それはもう感謝してもしたりないだろうと思う。

「うう。こんなかわいい子が男の子の訳が……ああ、もぅ! 撮る! 撮っちゃう!」

 彼女はわたわたと、水仕事でどかしていたカメラに手をかけてこちらを撮った。

 今どういう顔をしているだろうと思いつつ、まぁ悪い顔ではないのだろうなと思いながら、彼女のシャッター攻勢を甘んじて受けるのだった。

これにて高校生活終了であります! いちおう春休みのお話があるので大学編が始まるまでまだありますが……ここ二週間ほとんど書き下ろしという生活でした。でもちょっと作者側としては終わっちゃうのもったいない高校生活だったなと思っています。


そして今回ですが、写真部の他の部員さんにもちょっと触れてみました。各学年に三人ずつ正規部員はいるのですが三年は全員女子です。その子達にルイはどう見られているのか、なんていうところですね。まあみんな良い子であります。


さて。そして明日はよーやっと、書き下ろしから離れられる……ってなわけで前から書いてた春休みお仕事話です。珍しく木戸くんとしてのお仕事です。

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