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137.

「はい。鉛筆をおいてー」

 ふぅと思い切り会場の空気が弛緩した。

 今日は本命の学校の受験日。行きに迷うのではとか、道ばたで変なもんに興味持つのではとか散々周りに言われつつ、会場に着いたのは試験が始まる一時間前のこと。

 持ってきたお弁当は消化のよい悪くなりにくいもので構成されている。午前の試験が終わったあとにいただいていたら隣の男子からのぞき込まれたりもしたものの、特別そこからなにかがあったわけでもなく。

 無事にテスト自体は終了した。

 マークシートの書き間違いもないし名前も書いた。

 あとで自己採点をしてみないと何とも言えないけれど、十分に合格圏内だろうと思う。

 退出を促されて外にでると、先ほど昼に一緒になった男子の姿が見えた。 

「よっ、さっきはどうもな。どうよ? テストの感触は」

「あー、ぼちぼちかな。赤城くんだっけ? 君は?」

 彼もこちらを見つけたようで、よっと手を上げてこちらを手招きした。

 最近普通の男子とまともにしゃべっていないので、ついどう喋って良いのか躊躇してしまうのだが、まあこんなんでいいのだろうきっと。

「まーぎりぎりってとこかな。受かってると嬉しいけど油断できない感じ」

 体格的にはどことなく青木を思わせるような身長高めで横にもちょっとあるという感じだろうか。がっしりまで言ってしまうと言いすぎかもしれない。

「お互い受かってるといいよな。それでその……お前これから時間あったりするか? せっかくだから答え合わせって言うか、そういうの一緒にやらないかな?」

「まー予定はとりあえずはないけど」

 いちおう受ける学校はここで最後だ。発表までは少し気を緩めたいものだし、勉強勉強という感じにはしたくない。両親からも今日くらいは羽を伸ばせば良いのではと言われているくらいだ。まあもちろんカメラは持たせてくれなかったが。あんたはそれもってたら行きに撮りまくって間に合わなくなるでしょということらしい。

 ひどい話である。確かに撮影していたら時間は忘れる部分があるのは認めるけれどコンデジをもって町にでても、きちんと目的地まではつけるのだ。

「んじゃっ、どっか入って答え合わせしようぜっ。俺さ同じ学校のヤツがだっれもここ受けなくて知り合いいねーんだよ」

「みんな就職な感じなん?」

「んや。進学校だからな。ここくらいのところは受けないんだ」

 コレでも劣等生っていわれんだよなと言われて、あーここが劣等生ですかいという気分になる。もちろん木戸とて自分が頭良い方とは言わないしうちの学校がそこまでの進学校とは言わないけど、忙しそうな高校というものもあるもんだと思う。 

「んで? どこの店はいるんだ? できれば安い方がいいし、大学のカフェテリアとかがいいんだが……」

 学内の施設は一応部外者も使用可能だし、受験日も解放されている。

 大学生の間に入って受験生がテストの回答をどうのこうのやっているのにさえ抵抗がなければ格安である。

 それこそ安さがウリのファミレスよりも、ここの食堂やカフェはお安いのだ。

 場所代の有無っていうのは大きいのかもしれない。

「おま、カフェテリア入ったことあるのか? ていうか使って良いのかよ?」

「いいんじゃないかな? オープンキャンバスのとき食堂は使ったし、カフェのほうも基本この時期もやってるって話だし。研究やってる人達用なんだとよ」

 むしろ、食堂は縮小営業でも、カフェテリアの方はちゃんとやっているという状態になるというのは夏の時にきいている。

「すげぇな。俺オープンキャンパス行ったけどこういう施設系はなーんも話きけなかったけどな」

「そのときおろおろしてたらここの先輩が声かけてくれてね。第二食堂につれてってもらった。他にもいろんな施設があるって案内をしてくれて、そのときカフェテリアの名物なんて話にもなったんだ」

「んじゃ、そこで。っとその前にトイレいっとかね?」

「あ、まあいいけど」

 一瞬何を言われているのかわからなかったのだが、そこは勘弁していただきたいところだ。

 男子と連れションに行くだなんて初めてじゃないだろうか。女子とは……そりゃ何回かあるけれど、基本男子は便所に面かせやという状態じゃないとなかなか一緒にトイレにいかない。青木に誘われたこともないし八瀬なんかは一緒に入ったら鼻血ふくとかいいやがった。

 まったく木戸の姿に先入観を持たない人との出会いというのは、かなりありがたいものである。ここのところどんどん女子扱いされるようになって、大丈夫かと思っていたところだったのだ。 

 それが顔に出ていそうだったので顔をとりあえずむにむに手で押さえて笑顔がこぼれすぎるのを押さえる。ここで可愛いレッテルがまた貼られたらたまらない。

 彼の後をついて廊下を進んでいく。どうやらトイレの場所は把握しているらしく彼の足取りに不安なところはない。

 その角を曲がってすぐのところが男子トイレだ。

 え。男子トイレ入るのかって驚かないでいただきたい。男子の時は普通に男子トイレなのである。

 大学のトイレはなんというか、ちょっと高校のそれよりも広くて豪華だ。ウォシュレットが普通についていていつでも安心な設計で掃除も業者が入っているのでいつでも快適だ。

「おわっと、すみません間違えました」

 そんなトイレに入ろうと瞬間、目の前の赤城の身体が止まった。それに気づかずに一歩を踏み出してしまったので彼の背中に思い切り、うぶっと突っ込んでしまう。それでも彼はびくともせず、むしろ目の前の状況の方にうろたえるばかりだった。

 その、女子制服姿の子との鉢合わせのほうに。

「いや。間違えてないぞ。その子男子だし。そこは男子トイレ」

 一歩横にずれてその表情をちらっと見ただけで木戸はそう断じた。

 だって、見ればわかってしまうのだもの。

 そりゃ制服のへたり具合から見て、三年生の制服を着ているのは何となくわかる。スカートとかてかってるし、新品ではないのだろう。けれどだからといって、相手が何者なのかの証左にはならない。

「ええと、じゃあ実は心は女の子ーとかっているジェンダーさんか」

「いや、あの……その」

 ほう。赤城さん。なかなかに無難な言葉選びをなさる方だ。ジェンダーだけだと不十分ではあるけれどその単語がでるのは珍しい。

 そう決めつけられた相手は、ぱちくりと瞬きをしながら意識を動かしたようだ。

「そうっ。そうなんですー。だからその、大きな騒ぎにしないで」

 訓練してない女声もどき、といえばいいのだろうか。とにかく高くしようとうわずったように喋るのだが、声帯がろくに訓練されていないから、ろくに高くも無い声が目の前で展開される。

 まったく、どこからつっこめばいいのやらといった具合だ。

「トランスさんなら、普通こういうケースが起こるのは想定するもんで、多目的トイレを使うのが普通だ」

 すっと指を指した先には、車いすでも入れる大きな個室がある。この学校は割とそこらへん充実していて、いろいろなところに大きめなトイレがあるのである。

 そしてそこはいうまでもなく男女兼用。障害者用トイレだと入るのに躊躇するだろうけれど、多目的なら入れるだろうし、身体の問題があってどっちのトイレも入れないというなら十分多目的トイレを使うだけの資格はあるのではないかと思う。

「それと、もしないなら女子トイレを使う。ていうかその格好で男子トイレとか、もう何があったってあり得ないから」

 罰ゲームとか隠し芸とかの最中と言われれば納得しますが、と肩をすくめてみせると、その相手はきょとんと一瞬何を言われてるのか理解してないような状態になった。まった。まっとうなことを言っているのだから理解していただきたい。

「あー、確かにそっか。俺としたことがうっかりしてた。確かに心は女の子でそんな格好してるのに、律儀に男子トイレ入るっていうのはないな」

 その通りだと言ったのは赤城だった。なんだかしらんがこの先ほどできた知り合いはそっち系の知識は強いらしい。まさか本人にそのケがあるとはまったく思えないのだけれど。

「じゃー受験終了で慌ててげりぴーでトイレに駆け込んだけど、間違えて男子トイレに入っちゃった、とか?」

「女装してるのわかってるのに慌ててってなると、普段は普通の男子でどうして受験日に女装してんだよって話になるわけだが」

 木戸なら、その状態なら多分普通に女子トイレに入るだろう。それは機能面も併せてである。女子トイレの方が個数があるし綺麗なのである。もちろんその分並ぶ人も多いだろうけど。

「だから、これにはわけがあって……」

 そこでもう、取り繕うのをやめたのか、彼は諦めたような男声で懇願してくる。

「やや、これは木戸氏、このようなところで出会えるとは拙者感動でありますぞ」

 そんなとき、諍いを見つけたせいなのか。

 久しぶりにあの人の声が聞こえたのだった。




 あの場所で騒いでいたら問題になる。そう長谷川先生に言われて我々は彼の研究室へとやってきていた。

 もちろんそこにいるのが木戸だけでないとわかったとたんにオタク言葉は封印。言葉遣いの切り替えは人文学部の講師としてのポリシーかなにかなんだろうか。

 言葉遣いは相手との距離を示すものでもある。身近であればあるほど口調は砕け、逆に離れているほど硬い口調で話すことになる。

 たとえば女子高生同士なんかは特殊言語を操ったりもする。そのコミュニティの中でしかわからない暗号のようなものがいつの時代だって生まれては消えるものだ。

 そう考えれば、オタクのみに通じる特殊話法と捉えてもこれはこれで面白いのではないだろうか。

 少なくとも長谷川先生は木戸を同志だと思ってくれているようだし、受け入れてくれているのだからそれはそれで面白い先生なのだと思う。

 そんな彼の持つ研究室の中は以前聞かされていた通り、ひどいありさまだった。

 ひどいありさまだった。大切なので二度言ってみた。

 びっしりと並んだフィギュアの数は一体や二体におさまらない。

 ケースまで用意されていてそこには見慣れないキャラまでいろいろがそろっていた。

 そして。

「ちょっ……これ、エレナじゃん」

「木戸氏もエレナたんのファンでしたかな。でゅふふ。この頃のエレナたんはこわごわとキャラを演じていて大変可愛らしかったものです。拙者もつい声をかけて激写をさせていただいて」

「そのわり、最近はそこまで粘着してなくないですか?」

「それはルイたんが拙者よりよい写真を撮ってくれるからですな。僕よりも綺麗に撮ってくれる彼女がいるなら、もう撮影は任せてしまって写真をダウンロードした方がいいに決まっているのだぜ常考(じょうこう)

 あとは、女っぽさが強くなってますからなー。もうちょっと男の娘ですって感じが欲しいと感じるでござると夏の時と同じ反応が来た。すみません、エレナはもー帰ってこない所にいます。彼氏が出来てきゃっきゃしてる時点であいつはもう乙女側の方に振り切れているし、きっちり男の娘は演じるけれど女の色気が出てしまっているのはもはや仕方ないのであります。

「さて。それは置いておくとして、そちらの君の件、だったね。まったく。受験票と本人を照らし合わせて本人照合はするものなのだが……そちらに映っていた写真は君のものだったのかい?」

「それはその……」

 話のきっかけ作りというやつなのだろう。長谷川先生もさすがに木戸と同じ結論に至ったようで、先ほどの状況を聞いたあとにこのような質問をした。

 受験票は顔写真付きのもので、本人確認をするためのものだ。あからさまに写真を撮ったときと別の格好をしていたりすると、本人確認をさせられることもあるのだという。たとえば木戸が眼鏡を外して受験に来たら別人だといわれてつまみ出されたりするのかもしれない。

「そこには妹の写真が貼ってありまして」

「まさかの替え玉かよ……」

 ここまでご足労いただいた赤城氏は、その漫画みたいな展開にぽかーんとした声を上げていた。

 ニュースなんかにはなるものの、今の世の中実際にやるヤツがいるとは思えなかったのだろう。

「まずは事情を聞きましょう。どうするかはそれから決めるべきです」

 責めるような空気が出来てしまったのを制して長谷川先生は、丁寧な大人口調で対応をする。木戸に対するものとは全く違う口調に思わず違和感を覚えてしまうほどだ。

「本当は妹が受けるはずだったんです。でも昨日から40度の熱がでてしまって。それで代わりに……」

 ベッドで横になる妹はうわごとのように受験に行かなきゃと言っていたのだそうだ。それを聞いて思いついたらしい。幸い我々は髪型も似ている。軽く化粧を施してしまえば見分けはつかないと誰にも言われるほどなのだしこれなら気づかれないだろう、と。

「いくら双子っていったって二卵性の子がそこまで似てるかっていわれるとなぁ。化粧も雑だし、それでどう同じとかって言い切れるのか……」

 そしてどうして試験官そこを見逃すか本当に訳がわからない。

 そんな困惑顔をしていると、長谷川先生が苦笑を浮かべていた。

「同志の目は相当こえているのですな。髪型服装がある程度似ていれば、同一人物だと判断してしまうのは、やむを得ないことかと。本人確認など一瞬であるうえに替え玉と疑って見ているわけではないですからな」

「それで? どーすんですかこの状況。大学側に知らせておしまいですか?」

 赤城のその一言にびくんと替え玉の彼は身体を震わせた。

「いいや。特別ここで告発をしたところで誰も利益は得られないからね。他の教授にもお伺いはするが……僕としては不問とさせてもらおうかと思う。ただ……受けたのは人文学部、つまりうちだからね。入学してきて改めて試験を別枠で課すし、注目もさせてもらおう。言っておくけど学力不足の場合は一年の前期であっても特例で退学にするから、そのつもりで」

 大学によってはどれだけ単位を落としても四年まではなれるような学校もあるのだというけれど、ここに関しては一年ごとで必要単位を取れていなければ退学となる。

 もちろんそこには救済策もある。講義はいろいろなものから選ぶわけだけれど、講義をとる数の上限は規定していないのだ。それこそ毎日六コマずつフルで入れて、その中の三割が不可だとしても進級はできるようなシステムになっているので、よっぽどでなければ退学ということはない。

 つまり長谷川先生は言いたいわけだ、一年前期が本人にとっての受験本番となる、と。場合によっては他にもいろいろ制限はつくかもしれないし、妹さんがどうなるかは本人次第だと言い切る。

 なんというか、赤城も木戸も両方とも複雑そうな顔だ。

 自分が受けた学部ではないし、影響はでないのだが、不正をこのまま許していいものなのか、というのが表情にありありと出てしまっている。

 もちろん一受験生でしかない自分たちには手に余るので長谷川先生が対応してくれるならそれはそれでありがたいところだけれど。

「それで良いのなら、不問といたしましょう。ああ、それと言っておきますが、君の今回の点数と合格ライン、その他諸々の資料は後日お送りします。普通は採点結果は個別に教えたりはしないのですが、どちらにせ必要でしょうし」

「それは……ありがとうございます」

 替え玉の彼は、長谷川先生の寛大な対応に涙目になりながら感謝を繰り返していた。 

「それと同志木戸? 君からなにか言いたいことがあればどうぞ」

「安易な女装はやめてくださいます? せめて髭あとが残るようなら強めの男性用コンシーラーでも使っていただきたい所です」

 本音を言えば毛は抜くべきものだ。木戸の場合はレーザー脱毛を済ませているので口周りはかなり綺麗になっているわけだけど、一般的には数百本という毛をしっかり抜いたほうが次の生えてくるサイクルまでは黒みがでなくていいものなのである。

「さすがは同志。男の娘は毛の処理にうるさいものですからな」

「いいえっ。もう二度と女装なんてしません。もうこのようなことは……」

 もうまじ勘弁です、すみません、と彼がへこへこ謝る姿をみつつ、内心複雑な気分になった。

 長谷川先生の一言は嫌みでもなんでもなく、普通な感想なのだが、彼としては女装をするだなんてという冷ややかなものに見えたのだろう。そういう感性の相手が妹のために女装をして受験に来るだなんてそれこそ漫画やアニメの出来事のようだ。

 もう帰って良いと告げられた彼は、申し訳なさそうに退出時に一礼しながら部屋を去って行った。

 ああ、これが夏に言っていたおとらぶのフィギュアかーなんて現実逃避したくなるくらいにはダメージを負った気がする。

 これで良かったのかという思いが木戸には当然ある。不正は不正だ。

 替え玉は一玉まで無料……ではなくやってはいけない行為のはずなのになぜ長谷川先生がこんな対応をとったのか。思惑は少しは想像できるけれど、それにしてもいいものなのだろうか。

「汚い、とお思いかな、木戸氏」

「本当にこれでよかったんですか?」

 いくらなんでも、不正が発覚した受験生をそのまま帰してしまって良いのだろうかと思ってしまう。

「でゅふふ。なに、うちはそう有名大学でもありません。せいぜい二流といったところです。定員割れはさすがにしませんが、少子化の昨今一人でも多くの学生は欲しいのです」

 実力が伴えば試験はクリアされて彼女はハッピー。こちらもハッピー。クリアできなくても入学金やらでこちらだけハッピーと、先生は大人の懐事情を受験生に語って聞かせた。

 大学だって営利団体である。その言い分はわからなくはないけれど、やはりそこで儲けの話を出されるとちょっとがくんとはなってしまう。

「あ、だから、採点の結果も送るなんて言ったわけっすか?」

 赤城がなるほどと声を漏らす。

 そう。落ちたとき人はいろいろな理由を頭に描く。

 特に就職の際に多いようだけれど、断り文句で縁が無かったみたいなことを言われるのだそうだ。自分のどこが悪くて合格しなかったのかは明確にかかれておらず、もんもんとさせられるのだという。

 たとえばそこに「これのせいだ」と思えるものがあったらどうだろう。

 今回の場合は「替え玉受験がばれた」ことがそれにあたるけれど、それで不合格であったならここで話をした内容すべてが適当なでまかせととられかねない。だからこそきちんと落ちた理由はこっちだよと提示をする必要があるのだ。

 理想なのはしっかりと受かって前期でのテストで実力を示して残ることだけれど、果たしてどうなることやら、である。

「それに、スキャンダルとなるとうちも困るのですよ。しかも女装。これで叩かれると女装のイメージダウンにだってなる。またおもしろおかしくテレビで言われて、女装とかマジキモいとか、ひどいことを言われるでござる」

「前にも似たようなことあったんですか?」

「別の学校ですがね。父親が娘の身代わりで女装して試験を受けて、マスコミも相当騒いで女装キモいとか散々だったでござるよ。せっかく自由に自分を表現できる時代になったというのにこの揺り戻しは痛すぎでござる」

「ぶっ。それって……なんかいろいろ無理がありすぎなような」

「木戸氏。大学の門戸はどの年齢の方にも開かれているのですぞ。替え玉でさえなければ女装で入学というのも十分ありでござる」

 むしろ木戸氏、女子として登校しませぬか? でゅふふと言われてふるふると首を横に振った。

 さすがに、溶け込んで生活する自信は否応なくついたけれど、したいかと言われたらNOである。

「さて。お二方。せっかく我が研究室にきてくれたのですし、お茶などいかがですかな?」

 今日はお客さんですからな、ご用意いたしますぞ、と言ってくれるので、そのすすめにそのまま乗った。

「いいですけど、長谷川先生。俺達これから試験の答え合わせでもしようかって話してたんですけど」

「なるほど。国語だけでしたら、答え合わせを付き合ってもよいですぞ。同志には受かって欲しいですからな」

 さあどうぞと二人の前にティーパックの紅茶が差し出される。つかれた頭にたっぷりガムシロップ入りがありがたい。 

「あの、さっきから同志同志といったい二人はどういう関係なので?」

 そこで赤城が先ほどから気になっていたことを尋ねた。確かに一般人からすれば長谷川先生の話し方はかなりインパクトありすぎてわけわからないだろう。

「でゅふふ。そこらへんはなんとも表現しづらいでござるぅ。いうなれば良き理解者、良き求道者、そして良き被造物ですかな」

「最後の被造物ってのがいまいちわかりませんが。俺、ユダヤ教徒じゃないんすけど」

「いつか、立派に男の娘をやってくれるであろう君への賛美の言葉にすぎませぬ」

「夏にも言いましたけど、クロキシあたりを撮っといてくださいよ。俺は男の娘にはなりません」

 なるなら女子だ。と内心で思う。ルイは男の娘ではないし、あの状態なら頭の中だってかっちり女子なのである。必要ならタックだってやるし、あの状態を男の娘というのはちょっとなんかもやっとする。

「なるほど……ポスターといい、プラモといい、ここはそういう所ですか」

 なにか納得したように赤城は頷いた。一応そこまで詳しくは無いけれど偏見もそこまでないというスタンスだろうか。嫌悪感みたいなものはあまりでていないようだった。まあ、オシャレな男子って感じでもないし、オタクは下等とか思ってなさそうなので、そこらへんは好感が持てる。

「さて、では同志。そろそろ採点の時間と行こうか」

 問題用紙を出してご覧と彼はテーブルを開けてこちらを促してくる。

 お言葉に甘えて自己採点をしてみたものの、それなりに出来ていたようで、まあまあ出来てるみたいだねぇと一応お褒めの言葉をいただいた。基本木戸は理系の方が強いので国語や古文はそこまで強くないからそれでこの出来なら悪くは無いだろう。

 受かったなら是非うちに入って欲しいと長谷川先生に言われつつ、赤城とも、四月から会えることを楽しみにしてるぜ、なんていう男同士の握手なんてものまでしてしまった。

 これで落ちてたら悲惨だなぁとしみじみ木戸は思った。


 ちなみに、合否発表で例の替え玉の人がどうなったかというと、ものの見事に落ちていたらしい。

 双子だけれど、兄の方が学力はなかったようで、あそこまで必死に頑張ったというのにとても残念である。


一個前のナンバリング間違ってました。体調不良の時は無理はいかんですね。

まだまだ喉はいたいですが風邪なので大丈夫デスとも。手持ちの漢方でやりくりしようorz


今回は受験話です。昔あった父親が娘さんの替え玉っていうアレからの発想です。長谷川先生はこの後ちゃんと学校に事情説明して了承をえてますので独断ではないですっ。受験料もさることながら入学金やばいっすよね。私立とかだと足止めのところにも入学金いれとかなきゃいかんみたいなのあるし。

でも、なんとかこれにて受験も終わりであります。おつかれさま。


そして明日の更新予定ですが。作者「手を抜きます」はい。書き下ろしが続くっちゃ続くんですが、バレンタイン企画の前に短めな脱毛話をいれようかと。もう卒業式まで全部書き下ろしとか、早く休日きてちょーだいな気分です。


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