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135.

「うぉおぉ。ルイ先輩の手料理が食べられる日がこようとは……ああ、部活の合宿マジさいこーっす」

 うまっ、と兼がカレーをむさぼり食べていた。

 他の面々も普通においしいねーなんて言ってくれると作った方としては少し嬉しい。

 そうはいっても特別なことをろくにしていない家庭料理だ。豆木さん特製豆カレー。ルーも市販のものを使っているし、そこまで特徴的というわけでもないのだけど、思い切り喜ばれるとこれはこれで複雑な気分である。

「今回は後輩がルイたんの手料理食べたいっていうから折れたけど、私だって多少はできるようになったんですからね」

 ぷんすかいいながらさくらがカレーをはむりと口に入れている。

「あとはあれねー、飯盒が出来るようになれば野営準備はばっちりね! さぁルイちゃん。受験終わったら春先の山道に泊まり込んで朝日を撮ろう!」

 にへりとあいなさんもにんまりしながら手をさしのべてくる。

 いや、朝日は撮りたいけれど、飯盒までしなくてもいいんじゃないかと思う。

「普通におにぎり買っていきましょうよ。もしくはお弁当作ってきますんで……」

「唐揚げおにぎりをお願いしたい! あとイカ明太も!」

「それ、ビール呑む気まんまんじゃないですか」

 だってー朝日昇るまでちょっと暇なんだもんといいつつも、この人なら昇るまでは普通に山の撮影をしていそうだ。ルイもたぶん夜景が撮れるようになればいろいろ試したりとかしながらで時間がすぐになくなるような気がする。

「まーでも趣味で撮影してるときはさすがに呑まないわよ。仕事終わったあとはちょーっと気晴らししたいけど」

「そうはいっても、銀香で撮る時はよく酔っ払って絡んでくるじゃないですかー」

「だってほらー、ルイちゃん話しやすいんだもの。最近銀香に行けなくてほんともー愚痴る相手がいなくて大変」

 弟になんて絶対愚痴れないしね、と苦笑が漏れる。その相手を知っているルイとさくらは苦笑いだ。

「あいな先輩の弟さんってことは、写真ばしばし撮れる感じなんですか?」

 一年生の男子がそんな声をかけてくる。二年三年はそれぞれ肩をすくめて首を振っている。ほんっと写真には興味はない弟さんなのだ。

「あの馬鹿にカメラ関係を求めても無駄なんだよねー。ほんっともー姉弟していだからって全然似てなくてさ」

「ルイのとこも全然似てないわよね。主にここら辺が」

 つーっと胸元に指を指されて、さくらがへへんとなぜか言ってやった感丸出しである。

 べ、別に胸は似なくても良いのだ。あからさまに視線が胸に集まってきたので、思わず胸元を両腕で隠してしまった。男子がこんなにいるのだからちょっとは自重していただきたい。

「ルイ先輩のおねーさま! すっごい美人さんなんですか!? いいなぁ大人の女性って感じしそう」

 天音ちゃんがキラキラした視線を向けてくるのだけど、うちの姉はそんなに大人の女性という感じではないと思う。おっぱいにすべてを持ってかれちゃった人だ。

「青木先輩っていうと、うちのクラスの子と付き合ってるって話ですけど、実際どうなんですか? ルイ先輩もちょーっと気になっちゃってるんじゃないんですか?」

「ふえっ!? え、ああ。青木さんの件か……」

 思えば思い切り青木の顔写真を今日みたいな講習会で見せてしまってからというもの、こう体育祭の時の絡みの雰囲気とかめぐは見ていたのかもしれない。

「その付き合ってる彼女って子の方と意気投合しちゃってる感じかなー。そりゃ体育祭の時とかちょっとこー良い雰囲気みたいにはなったことあるけど、ここ半年くらいまともに会ってないし、恋人として見るとかはないです」

 ご期待に添えるようなことはなーんもございませんというと、なぜかほっと息を吐いたのが何人かいた。どういうことだろうか。

 そこらへんはよくわからないけれど、なんだか一人だけ恋愛事情を突っ込まれるのもあれなので、他の人にもふってみる。

「それよりむしろ、あいなさんの恋バナを聞いてみたいですっ。せっかくの合宿なのだし大人の色恋事情を赤裸々に……」

 とりあえず最初はあいなさんだ。じぃと目をきらきらさせながら見つめていると、うぅ、と彼女は目をそらした。

「彼氏いたこともあるっちゃ……あるんだけども、長続きしないし、だったら写真関係でいい人をとか思ったらゲイだったりで、もーなーんもありません」

 太陽と山道と海が私の恋人ですと宣言すると、ウーロン茶をくぴりと飲んだ。別に恋人いなくてもいいって思うんだけれどなぁ。

「別に彼氏いてもいーことないですよー。かまってーってうるさいしメールの返事ちょーっとしないと寂しいっていうし」

「ちょっ、あんた彼氏いたんか」

 天音ちゃんがあっけらかんと爆弾発言をするものだから、恋人と縁の無い人達はみんな驚いて思わずがたりと立ち上がったのまでいた。

「あれ? 言ってませんでしたっけ?」

 中学の頃から付き合ってた彼氏がいますよー、と何でもないことのように言ってくれる天音ちゃんに、そんなぁと小さな嘆き声が上がった。主に一年男子から。

「私よりむしろルイ先輩の方が意外です。絶対もてもてだって思ってたのに」

「んー、モテモテなのは否定しないけど、今はカメラやってたいし」

 お断りなのです、と言っても天音ちゃんはずいと近寄ってくる。

「その前はどうなのかなーとか、ちょっと気になっちゃいますねぇ。中学時代の話とかすごいと思うんです」

「確かに気になるかも」

 男子達からひそひそと話し声が聞こえてくる。その状態でも、やれやれという顔をしているのはさくらとあいなさんだけだ。

「んー、中学時代は、そこそこモテた……かな。でも恋愛ってよくわかんなくって。あとは……さっきもちょっと話したけど、いろいろあったのさ」

 そこからはやっぱり内緒だよ? と人差し指を唇に当ててウインクをしてみせる。

 うぐぐと何か言いたげな声を上げたのはさくらだ。まったくこいつはとでも思ってるのだけど、こういう演出は大切なのである。

「さて。じゃー切りもいいところで、そろそろ片付けて撮影いこっか。普段いないルイちゃんの赤裸々なリアルを聞き出したいのはわかるけど、時間は有限だからね」

 そろそろ良い感じにお月様があがっていますぜ、というあいなさんの号令とともに、夜の撮影会の始まりなのである。




「そいじゃーじゃんじゃん……はいけないけど、撮ってみようか」

 慎重にいきましょーと言われて、今まで講習でやった設定にして三脚にくっつける。

 ずらりと三脚とカメラが並ぶという光景はなかなかに壮観である。これからなにかの競技でもはじまろうかという勢いか、はたまた野鳥でも狙っているのかという感じだ。

 まずは目の届く範囲を撮影しつつ、綺麗に撮れてたら各自散開して好きな所を撮ろうという話になっているので、まずはここで微調整からだ。

 もちろんもう十二月だし一年生だって設定を調整するのはできるし、後は夜の感覚になじむだけだ。

 蛍光灯なんかの光源があるかどうかとかも若干設定をするときに影響はでるし、レリーズの使い方も慣れないと行けない。機種によってはスマホ連動なんてのもあるようだけれど、ルイのはガラケーなので普通にレリーズだ。

「うぅ、冷えますなぁ」

「十二月だしねぇー、もしかしたら雪とか降るかもね」

「はいよっ。凍えそうなルイちゃんにはホッカイロを首筋にいれてあげよう」

 ぽこりとちょっと温くなったカイロを首筋当てられて、うひゃっと声を上げてしまう。少しくすぐったかった。

「いちおうコート着てもらってるけど寒いと手がかじかんだりとかするから、冬の撮影はカイロ持って置いた方がいいよー」

 特にルイちゃんは受験生なんだから風邪なんて引かせられませんと、あいなさんが特別扱いしてくる。

 あと受験まで一ヶ月。勉強はしてきたけれど、やはりこれからは体調管理の面も大切になってくるころだ。こういう配慮はありがたい。

 そして各種設定が終わって、レリーズを押す。カシャリとシャッターの音が聞こえると出来た写真がデータカードに保存される。背面パネルに出来た写真を写し出すと問題なく夜景が写し出された。何の変哲も無い草木の生える暗い絵だ。シャッター設定はもちろんオフ。

「おぉ。これくらい暗くてもちゃんと撮れる……」

 あとは光点があるようなところを狙ってみてシャッタースピードをいじってみる。

 所々で白く飛びすぎとか、ぶれる……なんて声が漏れ聞こえるけれど、あとは慣れるしかないだろう。

 今まで本当に夜の写真は撮ってこなかったのだけど、これはこれで面白いものだと思う。

 行けるものならお正月の初日の出の出る前と出る瞬間と、その後を押さえてみたい。もちろんうっすらでてきただけで光量は一気に入ってくるから地平線が白く輝く頃には設定を変えなければいけないけれど。

「シャッタースピードもうちょっといじってあげるとこれで花火のぱーってしたのも撮れるから来年やってみてね」

 それぞれ個別に設定の指導をしながら、にこやかにあいなさんはそんなことを言ってのける。

 今年は花火の撮影はできなかったから、確かにこれは試してみたい。

「屋上は上がれるんでしたっけ?」

「いちおーおっけだけど、さすがにそこに目をつけるとはお目が高い」

 気をつけていっておいでと彼女は鍵をかちゃりと渡してくれる。

「あっ、あたしも行く行くっ。どうせあんたのことだからなんか面白そうなのを見つけたんでしょ? これだから俯瞰能力高いやつはたまんないわよ」

「俯瞰能力高いってそーでもないんだけどね。ただなんかこんな景色が広がってるかなーってのが町の風景とかの位置関係でわかるって言うかさ」

「それで都会で迷うとかわけわかんないわよね」

「うっ。それはほら、同じような景色なんだもん……」

 田舎であれば東西南北全部同じような景色ということはあんまりない。それぞれ目立つものがあるからあるからまず迷わないのだけど、ビルばっかりだとなにを目印にしていいかわからないのだ。

「まっ、それじゃ屋上行きましょ」

 どんなのがあるか楽しみ、と彼女は広がっているであろう景色を想像することなくルイの後をついてくる。

 夜の校舎に移動するところだけ電気をつけていく。外で撮影している子達には申し訳ないのだが、さすがに真っ暗で夜の学校というスポットは相当怖いので明かりは思う存分使わせていただいた。

「それで? 次回三月の講習会は参加予定なの?」

「んー、無事に受験終わったらね」

 階段をぺたぺたと昇っていると、さくらが問いかけてきた。

 基本あいなさんの講習会は二ヶ月に一回だ。とはいえ二月はばたつくので三月でということでスケジュールは組まれている。それも第一日曜だ。二週目以降は卒業式関連の仕事がわんさとくるので厳しいのだそうだ。

 そのときまでに進路が決まっていないということは避けたいところだけれど、万が一と言うこともある。

「次回であいな先輩の講習会が終わっちゃうかと思うと残念」

「卒業しても参加しちゃえばいいんじゃない? 部外者のあたしがこうやって来ちゃってるくらいなんだしさ」

 しれっと部外者といいきりつつさくらの反応を伺う。

 ルイとしてもあいなさんの講習自体はここ二年かなり楽しかった。すごく無茶をしたなとは思っているけれどそれでも写真部と関われて後輩も持てたのはありがたいことだ。

「そりゃそうなんだけど、いつまでも卒業生が先輩面してたらあの子たちにも悪いかなって」

 個人的に教われるっていうならいいんでしょうけどねーと、さくらからじとーとした視線がこちらにくる。ルイさんはいいですね、あいな先輩と撮影にいけてといったくらいだろうか。

「あいなさん二人で撮影行くときはなーんも教えてくれないもん。さくらと撮りに行ってるときと基本同じノリ」

 楽しいのは楽しいけど、というとでもーと少し煮え切らない反応がくる。

「なら三人で撮影すりゃいいじゃん。まあ山の中とかメインになっちゃうけど」

「うっ。そこもネックなのよね……あたしは人間撮るの好きだし、そこらへんで遠慮もしちゃっててさ」

 そりゃあ背景上手いとあんなに写真の質がかわるかーとは思うんだけどどうにもーと足が重そうだ。

「まあ、その気があったら連絡をおくんなさいというところで」

 着いたよ? と屋上の扉をぐぐっと押し込んで開ける。さぁどうぞとさくらを屋上に連れ出すと、彼女はうわっと声を上げた。  

「うわっ、これか……くぅ。やっぱり俯瞰能力たんまりじゃないのよ……」

 悔しそうな声があがるものの、そうは言ってもぴんとひらめいてしまったのだからしかたがない。

 そう。目の前にあるのは無数の光点。都会というほど多くはなく、田舎というほどまったく明かりがないわけでもないこの風景は、地上に星があるかのようなまばゆさだ。

 それでいて反対を見れば森が広がってる区画があってそこはくっきりと闇に沈んでいる。

「ここらへんには高い建物もないし、空を撮るにしてもいいのかなって思ってね」

 地上と地面と両方を撮るにはここなのかなとも思ったのだと伝えて置く。

「想像力と観察力、かぁ。ホントもう誰か人物撮るの上手い人いないのかしらね……」

 是非弟子入りしてそういうの磨きたいーとさくらがいうので、ふむんと頭に幾人かの顔が浮かぶ。

「佐伯さんとかどう? 人物撮るのアホみたいに上手いよ?」

「ぐぬっ。それあいな先輩の師匠じゃない……そんな人においそれと話しもってけないってば」

「んー、あの人なら割と普通にいろいろ教えてくれそうだけどね。ま、あたしもそう接点があるわけでもないんだけど、アイドルの写真集とかも撮りまくってるし、近くにもいるしでダメ元で行ってみてもいいんじゃない?」

 かたりと三脚を固定しながら、大学に入れば自由度増すからやりたいことなんでもやればいいんじゃないかな? とにんまり笑って見せる。

 そう。ルイとしても大学生活にはそれなりに期待はある。生活の自由度というものが違うし、アルバイトは続けるにしても、遠出もできるだろうしいろいろな景色が見れると思う。

「そうね。あたしは受験終わってるし、今度行ってみようかな」

 貴女と違ってねー、と言ってくる彼女にまったくもぅと軽くため息をついてそれぞれで撮影を始めることにする。

 あいなさんとの関係が学校を離れても続いているように、さくらとも学校が別になっても撮影に行きたいなと思いつつ、町並みの光を十分にカメラに焼き付けた。


夜の学校って作者的にちょっと怖いとは思うのですが、みんなでお泊まりとなるとわくわくするのかもしれません。カレーはいいものです。

あ、夜景撮影の件はご都合で! 難しくはないとはいわれてますが、まだ作者本格的にやったことはないです。シャッタースピードここで変えるんかー、これで花火とかもいけるんかーって感じなので。教えてよルイたん!


さて。お次なのですが……大学編に入るまでの一月二月ってネタがあんまりなくって書き下ろしなのですが、冬のあのイベントいってみよーかなと。お正月に関しては去年やってるので改めてはいいかなと。ば、バレンタインはやりますけどね? 女の子の祭典なので。そのために受験の日程早めているので。

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