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蒼炎の子ら

「椿矢 哲郎という男の好奇心を、どっかの馬鹿が兵器転用しようと考えた。天からの祝福は、人間の手で呪いに変えられた。俺も、おまえも、兵器に改造された……殺しを定めとされた。だから、俺は戦う。お前ら人間を皆殺しにするまで」

――鮮血を纏う狂える兵器、逝緋徒 相対する少年型の蒼炎に対しての言葉――

『蒼炎』のその性質上、あらゆる可能性がそこには存在している。『蒼炎』に微粒子レベルに分解される性質を持たせたのは、酸素を取り込む生き物であればどれでも『蒼炎』を体内に取り込むからである。そしてその生き物に思考能力が有るならば、『蒼炎』が酸素と反応して出す『グノーシス』によって創造されるのだ。あらゆるものが想像のままに!


 ここではその『蒼炎』によって生み出された者たち、『蒼炎の子ら』を軽く紹介する。



 第一世界線で『蒼炎の子ら』と言えば、この世界の多くの者が『能力』に目覚めた事だろう。彼らのタイプは大きく分けて3つである。


 一つは『操作能力型』単純に言ってしまえば、超能力や遠隔操作系がこれに分類される。仕組みは個々によって様々だが、たとえば『氷を空気中に発生させる』能力を持つ者の場合、自身の吐いた息の中に含まれる『蒼炎』が発する『グノーシス』が反応。空気中の水分をかき集め圧縮。氷を発生させる。この時少々気温が下がるのも、想像力を元に現象を起こす『蒼炎』、『グノーシス』の特徴と言えるだろう。

 また別の『操作能力型』では『電撃を発する』能力があるが、これは生体電流を溜めておくバッテリーを体内に創造したのではないかと思われる。頬に溜める者や内臓に溜める者など様々だが、総じて自身の体が絶縁体の役割も果たすようである。また、筋肉が細動を起こさぬようになっているのも、“そういうイメージが無いから”と考えられる。その辺まで考えている能力者は自身の筋肉すら作り変えているかもしれない。


 そこで二つ目の『肉体変化型』である。これは自身の体組織をの物を『蒼炎』の力で作り変えてしまう能力者の事である。この能力はいささか制御が難しいらしく、自身の本来の体に戻れない者が存在している。これはひとえに「自分への不満から肉体を変化させている」者が多いため、自身の本来の姿を覚えていない、あるいは戻りたくないなどが考えられる。(もちろん戻らない方が良いという者も居るだろう)主に能力に振り回されてしまう能力者が多いのもこの型の能力者には多いようである。


そして三つ目『物質創造型』。これは物を生み出す能力である。本人は非力である場合が多いが、その非力さでも扱える物を作る場合がほとんどである。また、想像力豊かな者はファンタジー世界の産物や神話時代の遺品を生み出したりもする。その力は多岐にわたり、また人によっては人体を生成することで傷の治癒、あるいは傷の悪化を促すなどがある。ただし、生み出した物によっては非常に癖のあるタイプでもある。(たとえば菌や毒薬など無差別型の物質を作る場合は自分も巻き込まれる可能性もある為、事前の対策が必要になる)


どの世界線にも言えることだが、それらはみな能力者の呼吸によって排出される『グノーシス』ひいては『蒼炎』で行わる事である。

 『グノーシス』の供給が止まれば、今ある分の『グノーシス』でしか事は起こせないのである。



 第二世界線において特筆すべきは、第四世界線、第五世界線にも関わる『蒼炎進化体』だろう。

 これらの世界線では能力者も居ることながら『蒼炎進化体』の猛威はすさまじい。一番被害が出なかった第二世界線ですら、人類が淘汰される危機に陥った。


 では『蒼炎進化体』とは何か。

 『蒼炎』は人の思考を吸収して体言化する鉱石である。10の世界線の内第九世界線以外は空気中に濃い濃度で蒼炎が存在する。するといつの頃からか人々の間で「妖精」だの「天使か悪魔か」、あるいは「神」が存在すると噂されるようになり(思えば見えない何かによって形を成すのだからそう思うのも無理はない)そのイメージを吸収し、人型のコミュニケーションデバイスとしてアバターを作成したのが『蒼炎進化体』だと思われる。

 基本的に『蒼炎進化体』には個体としての意識は無いと考えられていた。複数存在し、それらが一つの記憶プールに情報を集め、一つの大きな意識の元動かされると考えられていた。いわば群体である。蟻や蜂と同じく、個という存在感は無く、群として一個体なのだ。

 だが、そんな彼らに予想外の出来事が起きる。『蒼炎進化体』のうちの一体が人間の少年に恋をし、自我に目覚める。エゴが生まれ、欲求を生み出し、『想像する想像を吸収する存在』へと変わる。これは『蒼炎進化体』にとって不測の事態だった。このことに関して『蒼炎進化体』はある行動を行う。


「人間と関わって、我々は予期せぬ進化をした。これは是か非か。人間を試験しよう」

 そしてその試験の結果、世界線は大きく二種類に分けられた。合格したのが第二世界線。不合格とされたのが第四世界線と第五世界線である。その差は大きく、たった一個体の恋ひとつで世界は大きく道をたがえ、その様相を大きく変えた。



 第三世界線に限らず、第二世界線、第七世界線にも獣人と呼ばれるものは存在する。厳密には第七世界線の獣人は、多くの悪魔の一種に過ぎずその性質は大きく異なる。

 第三世界線、そして第二世界線に存在する獣人種もまた『蒼炎』の子らと言える。


 人類の退避シェルター『箱庭』に入ることができなかった、地下へ逃げ込んだ人類はなんとか種を繋ごうとする。そのため、ヒトゲノムに手を出して環境に適応できる新人類を造りだそうとする。もちろん、そこに『蒼炎』が存在する世界では容易である。否、簡単にはすまなかった……そこには多くの“失敗作”が居り、その失敗作たちは完全に獣へとなり下がった。彼らに関しては、その後はようとして知れない。処分されたのか、獣へと進化したのか、あるいはどこかへ生き延びたのか……。


成功し新人類となった者たちは大きく分けて三つである。


 一つは『陸上種』と呼ばれる種族。主に脊椎動物、脊索動物のそれを体に取り込んだ者たちである。

 たとえば、狼のごとき毛皮と消化器官、牙や爪に俊敏さと力強さ。たとえば、トカゲのごとく変温する体温を所持し、皮膚を脱皮により生活に保ち、毒を武器とする。そういった人類以外の強かさを、人類の知恵をもってして使用するのである。


 二つ目は『空中種』。彼らは鳥類、猛禽類と言った、翼を有する種族の特徴を持つ者たちである。種類としては最も少なく、それでいて飛行能力を有するが故に他の種族と一線を画している。

 たとえば、フクロウのごとき音の成らない羽を持ち、空中より飛来する者。鷹や鳶のように望遠として物を見ることができる者。あるいは一部の百舌鳥のごとく毒を持つ者……。みな一様に美しいのもこの種族の特徴と言えるだろう。


 三つ目には水中にその居を構える『水泳種』が居る。この種族が最も多く、またバリエーションに富んでいる。軟体動物、貝類から甲殻類、魚類や一部哺乳類に至るまでさまざまである。やはりそれぞれに細かい派閥が存在するようである。

 主にタコやイカなどの軟体種族。蝦蛄や蟹といった甲殻種族。ウミウシや二枚貝、一枚貝といった貝殻種族。鮭や鮪、サメを含む魚類種族。そして、クジラやイルカと言った水生ほ乳類種である。

 彼らは陸上で生活する能力がある物も居れば、その能力が無く、陸上でも海水に浸っていられる『浮上服』なる物を装着してくる者も居る。


 また、第三世界線の者たちはその血に強い『蒼炎』の力を持っており、その血の力により“魔術”が使用できる。これは獣人種しか使用できない(ものとされているが、その気になれば人間種も使えるはずである)。

 第二世界線の獣人種もまた“魔術”の様なものは使えるが、そこまで強力な物は使えず、やはり第二世界線の人間種と同じく『おまじない』程度の力しか持っていない。……もちろん、能力者は別である。



 第四世界線で『蒼炎の子ら』と言えば、『蒼炎』から生まれた物ではないにしろ、生み出された原因に『蒼炎進化体』が関わっている『ゾンビ』が印象に強い。

 彼らは「人類は共に生きるには不十分だ」と判断した『蒼炎進化体』により、精神を抜き取られたこの世界の住人達の成れの果てである。


 『ゾンビ』は基本的に本能的欲求に従う。食欲と性欲と睡眠欲を果たす為ならば自身が損壊しても目的へと猛進するだろう。もちろん、彼らがそれ以外に気を取られている最中はその限りではない。

 また、この存在の厄介なところは『他の個体を摂取し、その個体が有していた『蒼炎』を自己の物として吸収すること』にある。吸収した『蒼炎』は『ゾンビ』の微かな想像力や生存本能に反応し『ゾンビ』を進化させる。すなわち、食えば食うほど進化するのだ。


その進化は大きく分けて二タイプである。

 一つは言うまでも無く『肉体強化型』である。主に『クリーチャー』と呼ばれるタイプで、その様相はもはや人のそれから大きく逸脱し、知らぬ者が見れば動物の『ゾンビ』だと思うだろう。無理もないが、それらは総じて元は人間の『ゾンビ』である。また『クリーチャー』には自我を有する者が居る。もっとも、動物程度の自我しか持っていない為そこまで知恵は廻らない。

 となると二つ目は想像するのに難しくないだろう。『頭脳強化型』通称『プロフェッサー』と呼ばれるタイプだ。『ゾンビ』でありながら自我を有し、人間と同等、あるいはそれ以上の知識を有する。そしてそれらを動員して、自身の欲求を満たすことを目的とする。さらに厄介なことに、彼ら『プロフェッサー』は『蒼炎』の特殊能力を使うことができる個体が存在する……これがいかに危険な事かは皆まで言う必要も無いだろう……。



 第五世界線にも『ゾンビ』は存在するが、第五世界線の『吸血鬼』の兵卒でしかなく、彼らに飼われる『クリーチャー』しか存在しない。『プロフェッサー』になりえる者は早々に『クリーチャー』の餌か廃棄処分だろう。


 では『吸血鬼』はなんなのか。


 ずばり言うと、彼らは人間である。言ってしまえば第一世界線の能力者とまったく同一の存在だ。いや、違うと言えば厳密には違う。その違いは『蒼炎』の濃度である。

 そもそも、第五世界線は空気中の『蒼炎』の濃度が濃く、そんな世界で暮らし、その世界の食べ物を食べて生きてきた彼らが体内に大量の『蒼炎』を有さないはずも無く。ただ違うとすれば、彼らは性根から捻じ曲がってしまったのだろう。『蒼炎』の強大な力に魅せられ、それに飲み込まれてしまった。そして、更なる力を求め「他者の血中の『蒼炎』を吸血する」という行為に出たのである。そして案の定、その禁断の行いは彼らを人外へと押し上げるに至った。更に「自分が吸血鬼なのだ」という考えに支配され、己の肉体を変化させてしまっているのだ。


 彼らは人間である。もっとも『蒼炎』の被害を受け『蒼炎』の被害をばら撒く……人間なのだ。



 第六世界線では『蒼炎』は二つに集約されている。一つが『黎明』と名付けられた『蒼炎』をベースにした成長する生けるコンピュータ『エクスマキナ01』。そして、ミサイルの弾頭として発射された『蒼炎』の全てを吸収した『第六世界線 幸徳井 ヨシュア』である。


 この世界の『黎明』『エクスマキナ01』は友人の『椿矢 凌』、その父にして自らの造り主『椿矢 哲郎』博士の二人を失い、それを強いた人間社会全体を深く憎んでいる。そのため、自らの一部を切り取り培養、それをベースに攫ってきた人間を“材料”に、『蒼炎』を動力源とする人型殺戮兵器『アルママキナ』の量産を行い、人類への宣戦布告を行う。

 この世界線の『アルママキナ』は『蒼炎』の質が良くなく、他の世界線やここに至るまでの旧式『アルママキナ』、この世界線では『プロトタイプ・アルママキナ』と呼ばれる存在程協力ではない。もちろん、人をはるかに凌駕するそのスペックの兵団は、十二分に驚異的な存在ではある。


 対して『第六世界線 幸徳井 ヨシュア』もまたかなり特異な存在である。というより、他の『幸徳井 ヨシュア』と比べ『蒼炎』の濃度がすさまじく濃く、普通ならば濃度が濃すぎて第四世界線の『ソンビ』化していてもおかしくはないはずなのだが……

 ともあれ、文字通り“スーパーマン”と化してしまっており、近代兵器だろうが『蒼炎』の兵器だろうが、傷をつけることすら叶わないだろう。もし、彼が負けることがあるとすれば、彼が“人間だから”というところにつけ込まれた時だろう。そここそ最大の弱点なのだから……


 また、それとは別に『エクスマキナ01』が作成した『プロトタイプ・エクスマキナ』による“国家の様なコミュニティー”も存在するようである。



 第七世界線で特筆すべきは無論悪魔たちである。彼らは『蒼炎』の濃度が濃すぎて体が遺伝子レベルで変異した存在である。単純に言うと食生活が悪かった。そして人であったことすら忘れ、人であった事を焦がれながら人外へと変貌していった。

 動物の特徴を持つ『エキドナ』、外見がまるで『蒼炎』で出来ているかのような外見の『エリクシル』(実際は『蒼炎』の濃度としては多種族と同じであり、変異が顕著に表れただけだと思われる)、人間らしき外見を失いながらも人間らしい心を忘れなかった『オニ』、導いた者が『アルママキナ』であった為自らの体を機械化するイメージを持った種族『アルママキナ』、人であることを大きく捨てて地に根を下ろした『ラフレシア』、彼ら5つの種族は、もはや人間としての機能の大部分を改変している。

 六番目の種族『シャイターン』は外見こそ人間のそれだが、中身は『蒼炎』の塊のようなものである。

 イメージとして人間を上げた結果、人間を模っただけである。故に、第一世界線から入り込んだ『ブルーフレイム』の団員は、その根本的な肉体能力の差に自身の無力感に嘆く時期が有ったとか。


 彼らの持つ『蒼炎』の力ははるか地平線を超えて、第三世界線に影響を及ぼしている。なぜこのような形になったのかは不明である。第三世界線の住人の願いなのか、第七世界線の住人の願いなのか……あるいは……?



 第八世界線に置いて『蒼炎』は第二世界線より深い濃度で存在している。

 というより、この空間、『思想焚書図書館』を作成した『アルママキナ』が、他の世界線よりはるかに強力であったためと思われる。本来であれば、無限に広がる空間を作成することなど不可能であろうが、それを可能にしているのだから。

 その『蒼炎』はあまねく広がり、他世界の思想を吸収。書籍化してそこに閉じ込めるように匿った少女へ提供される……はずだった。

 後に、この世界線は第十世界線との戦闘において大いに役立つことになる。



 第九世界線に『蒼炎』による産物は存在しない。表向きは。

 もちろん、存在しても構わないが、第一世界線からやってきた『ブルーフレイム』が知られること、知ってしまったことを放置するはずも無く。

 だが皮肉にも、第十世界線の侵攻時、一番最初に戦場となるのがこの世界線である。



 第十世界線は一段更に別次元である。

 『蒼炎』に満ちたその場所はいわば『神の工房』であり、他の世界線を作成したと自称する『輪廻の魔王』と他の世界線の運行を行ってきたと自称する少女『運行の魔女』の二人の世界とも、他の世界線の全てを内包しているとも、はたまた『別世界』へ通じているとも言われている。


 ともあれ、この第十世界線より『輪廻の魔王』が他の世界線の存在を、洗脳、使役しているのはかなりの脅威である。

 困ったことに、たとえ倒したとしても『輪廻の魔王』の力で復活すると言うから手が付けられない。


 だが、その力もまた『蒼炎』によるものではないか、と憶測が建てられて……


「『蒼炎』は人の思考に反応してその形状を形作ります。その力が強大であれば、時には命すら“想像で創造できる”でしょう。僕らの敵は強大です。恐ろしいほど。しかし『蒼炎』は僕らにも使えます。頼もしいほどの力をもって」

――図書館の賢者 迷い込んだ戦士たちへのしばしの休息を与えながら――


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