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あくび




 「おはよう」



教室のドアを開けると、女の子独特の明るい挨拶が飛び交う。


今日は一段とその声がうきうきと弾んでいる。


私が机の上にカバンを置くと挨拶を交わした何人かの女の子たちが

私を取り巻いて、期待を膨らませた瞳で私に問いかける。


今まできっとうずうずしていたのだろう、その口調は性急だった。



 「ねぇ!結局、高橋先パイとはどうなったの?」


 「付き合うことにしたの?」


 「告白されたんでしょ。なんて言われたの?」



口々に好奇心を抑えるための言葉を発する。


彼女たちの言葉はストレートで私の心にドスンと圧力をかける。



 「耳がはやいね」



私は嘘のない、ただの事実を言葉にする。


心に見合うだけの責任をもつ言葉を。


だけど彼女たちはそれだけでは心を落ち着けることはできないらしく、

各々の眉をひそめて我慢ならないと唇を噛む。



 「だーかーら、結局どうなったのよ!高橋先パイとは!」



ドンと机を叩いて問いてしまうほどに

彼女たちの心にすくう好奇心は、彼女たちの世界を広げようとする。


心は世界を欲してやまない。


だから多少のリスクを被っても世界を手に入れようと、

人は責任を負うことも出来ない言葉を発してしまう。



 「どうにもなってないよ。告白はされたけど、返事はしてない。」


 「どうして?」


 「よく考えてほしいって言われたの」



事実だけの淡々とした言葉だけど、

今の私に支えられる言葉のすべてだった。



 「はぁ、なーんだ」



女の子たちは納得したような面もちで口々に安堵を漏らした。


好奇心が前面に出ていた心も落ち着き、世界の扉も閉じた。


そして彼女たちはお互いに言葉を交わしながら私の周りから散らばっていった。



周りから人が去ってやっと視界があき、私は今日初めて隣の席を見て、笑った。




 「おはよう、結衣子」



彼女はすごくきれいな笑顔を私に返した。



 「おはよう、千花」









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