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やみかの。  作者: 出日出
9/11

そのはち。

 やがて車は停まり、俺は降ろされた。というより担ぎ込まれたと表現する方が正しいだろうか? 未だ拘束も目隠しも外されていない。そのうえ、当然のことだが、ここがどこだか分からないよう車は複雑なルートを走っていた。吐き気がひどい。そう言ったら、「もう少しだ。ここの最上階までエレベーターは直通だから」と返された。階段でないのは嬉しいが、そもそも俺は拉致されたのだ。そう言ったら、「長くてもせいぜい一週間だ。その間は逆らわない方が懸命だ」と、今度は嬉しくないアドバイスをされて少し戦慄。

 エレベーター内の光が、朧気に目隠しを通して分かる。狭い室内で俺の脇に立つ数人の男達、その体温も分かる。ただ、この先のことだけが分からない。俺が持ちうるどんな感覚でも、それだけは。別にそれが不安でも怖い訳でもなく、ただその先の先に待つ美紗の仕打ちが、純粋に怖い。

 ああ、やっぱり俺の中には……美紗しかいないんだな。

 チーンと到着を示す音が鳴り、と同時に目隠しが外された。分厚いドアが左右に開き、前方に室内の様子が広がる。

「……?」

 明るい人工の光が満たすワンルームに壁はなく、すべてガラス張りの大きな窓で囲まれている。テレビが四台、横長のソファが五つ。乱雑にぬいぐるみとDVDが敷き詰められた床はクリーム色の高級そうなカーペット。やってられない。

 極めつけ、部屋の中央に鎮座する天蓋つきベッドに座る女の子が一人、と。そんなことだろうと思った。 女の子が人差し指をくいっと自分に向けて曲げると、俺は両側に立つ男達に突き飛ばされ、室内に転げ落ちた。エレベーターは降り、あとには俺と女の子が一人。「あら? 意外と可愛い顔。いや意外ではないわね、あの上原美紗がご執心になるほどの逸材だもの」「逸材なんかじゃない。ただ嵌まり合っただけだ」

「ふうん?」

 見たところ、そのベッドの縁に座る女の子の歳は俺と同じぐらいだろうか。肩までかかる金髪を後ろで結び、お団子のように丸めてピンで留めてある。瞳の色も顔立ちも日本人に見えるので、染めているのかもしれない。服装は上下ともに途中までしか袖がない赤の部屋着。ここがどこだか知らないが、最上階に居を構えるならばなかなかの金持ちだろうけれど、服装からはそうと判別できない。着飾るのは人前だけなのだろうか。

「でもねー、そう思ってるのは貴方か、貴方と同等のおバカさんだけだったりして」

「どういう意味だよ」

「聞くところによると、上原美紗の方からお付き合いを申し込まれたそうじゃない」

「だから?」

「おかしいと思わなかった? なぜ自分なんだと思わなかった?」

「思ったさ。それが元で俺の家は燃えたんだ。知ってるだろ、それくらいのことは」

「ええもちろん知っている。その一件で上原美紗は君からの信頼を得た。自分の恋心は本物なのだという認識を、君に植えつけた。でもね、それって巧妙なすり替えなんだよね。まあそこに気付かないのもまた、君の評価点なんだろうけど」「……?」

「私が言いたいのはね。『本当に上原美紗は、恋愛感情から君を欲したのか』ってところなんだよねー」

「意味がよく解らない。じゃあ何で美紗は俺に近づいてきたんだ。その理由も知ってるのか? あんた……えーと」

「ああ。自己紹介がまだだったわね」

 女の子は足を組み替え、手足が不自由で床に這いつくばる俺を見下しながら言った。

「私の名は住吉加住。貴方の道を変える者よ」

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