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やみかの。  作者: 出日出
2/11

そのに。

「悠一、さよなら」

「え……」 そう言って美紗は、俺の元から歩いていく。

「おい、待っ……」

 というところで眼が覚めた。

「……夢オチって、いつの時代だよ。まったく」

 でも夢で良かった。もちろん美紗が俺から離れるなんてあり得ないけど。

 ふう、とため息をついて俺は再び布団に潜る。

「ん?」

 何かおかしい。いつもより生暖かいような、いつもより狭いような。

 不思議に思って掛け布団をめくると、まるでそれが当たり前であるかのように美紗が寝ていた。

やれやれと再びため息をはき、美紗を軽く揺する。

「美紗、起きて」

「んん……おはよう」

 美紗は赤いパジャマを着ている。加えて寝起きの呆けた顔。これはたまらない。

「ご飯、作るね」

 美紗は呆けた顔のままフラフラとキッチンに行く。

 俺は一応一人暮らしだが実際のところ、美紗が連日入り浸っている。自然、美紗の生活雑貨もかなりの数ここに揃っているわけだ。

 着替えを済ませてリビングに行ったが、まだ朝食の準備は出来ていなかった。

「手伝おうか?」

「ううん、大丈夫。もう少しで出来るから」

 特にすることもないのでテレビをつけると、朝のニュースがやっていた。どこかの高校で男女の遺体が見つかったらしい。

「はい、お待たせ」

 食事の支度を終えたらしい美紗がほほえみかけてくる。

「あ、なんかこの事件聞いたことある。二人とも拳銃で撃たれてて、手を繋いだまま死んでたんだって」

「ふーん……死んだら意味ないのにな」

「そうだね。さ、食べよう」



いつものことながら美紗の料理は美味だった。ああ、幸せ。

 食器を片付けた後、美紗は唐突に真面目な声を出した。

「ところで悠一、私は納得いきません」

「うん? 何の事かな」

 あえてしらばっくれてみる。

「昨日の、幽霊のこと。どうして私が退治しなきゃいけなかったのか」

「最初は幽霊なんて信じてなかったよ。単なる肝試しのつもりで。美紗はその、保険というか」

「結局、私が不愉快になっただけの気がする」

「悪かったと思ってるよ、それは」

「それでね悠一、駅前のショッピングモールでフェアやってるみたいなんだ。今日から」「……」


 そして今、俺は両手に紙袋を持って駅前を歩いている。美紗は俺の腕にくっついているが紙袋を持ってくれそうにない。

「ねえ美紗ちゃん」

「なあに? 悠一くん」

「ちょっと恥ずかしい。ついでに歩きにくい」

「そんなこと言って離れようとしても駄目」「いや、そうじゃなくて……」


「仲が良さそうじゃねぇかお二人さん」

 白々しい語り口で話しかけてきたのは、いかにも悪さをしていますというような感じの若者だった。しかも一人ではなく、数人の連れがいる。

「お?こっちの娘カワイイじゃん」

「男はいらねえよ。どっか消えろ」

「この男呆けた顔しやがって、マジ腹立つし」

 まったく好き勝手な事を言っているが、俺は怒っていないしもちろん呆けているわけでもない。

「なに、こいつら」

 美紗はまるで死んだ魚を見るような目で不良たちを眺めた。この不良たちに恨みは無いけれど、降りかかった火の粉は払わなくてはならない。

「美紗、こいつらは敵だ」

「そうだね。私の悠一に向かって生意気な口きいて」

「懲らしめてやりなさい。ただし包丁はナシで」

「かしこまり」

 それから後のことは言うまでもない。幽霊すら倒すほどの実力だ、そこいらの不良に負けるはずがない。「終わったよ」

 しばらくすると美紗が終了を宣言した。こういう時の美紗はいつも以上に晴れやかだ。

 包丁は禁止したはずなのに不良たちは血だらけだ。対して美紗の服には、血どころか折り目ひとつない。「私達が外に出ると毎回誰かが話しかけてくるね。この前は芸能プロダクションだっけ? その前は確かカメラで撮影されて」

「みんなお前が目的だったけどな。その度に俺は嫉妬の嵐だ」

 少し嫌味っぽくなってしまったが、彼女が評価されるというのは悪い気分じゃない。

「やっぱり家にいたかった?」

「うーん、美紗を独り占めしたいっていう気持ちはあるかな。でもまんざら悪いってことでは」

「私も同じ気持ちだよ!」

 美紗が俺の言葉を遮る。不良たちはいつの間にか姿を消していた。

「私も悠一を独り占めしたいもの! いいえ、私の気持ちの方が強い!きっとそうだよ!」

「もしもし、美紗ちゃん?もしもーし」

「私、やっぱり悠一がいればいいの。そりゃお出かけできないのはちょっと悲しいけど、でもいいよね! そうと決まれば、いろいろ準備しないと」

「おい、美紗ー?」

「まず手錠、あと鎖、食料、服と……あ、トイレはどうしよう」

 俺は美紗に気付かれないようにその場を立ち去ろうとしたが、美紗は俺の腕を掴んで話さない。

「悠一は、ずっと私と一緒にいたいよね」「まあ」

「だったら、私から逃げないよね?」

「……はい」

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