(NO.tre カラ・ファミリア
埋葬儀式が終わってジョゼが言っていた挨拶周りの地獄が済んだあと、俺はアルジェントの幹部数名とこっそり物陰に隠れていた。もちろん、元老幹部から逃げるためにだ。
「テメエの脳ミソはどうなってやがる!? マジで信じらんねえ! ぜってーバカだろ!?」
フランはずっとこの調子で、イライラと右往左往しながら俺を責め立ててくる。ジョバンニ・カインに告げた俺の最後の言葉が気に食わないらしい。
俺は片方の耳を塞ぎ、鬱陶しげに言った。
「バカバカうっせーなあ。ちょっとは静かにしろよ、耳の機能が故障しちまうー」
「ボスじゃなかったらブッ殺してんぞ、このドブ猫が!」
フランが土を蹴り上げて吠えると、ヴァルドがボソリと呟く。
「ボスはドブ猫じゃない……、ノラ猫」
「それどんなフォローよ、ヴァルド」
「あ……」
俺が微笑したため、ヴァルドは照れて顔を背けた。どこで何を恥じらっているのか、ヴァルドの性格は未だ謎に包まれている。
「ケッ! なにがノラ猫――」
「ヴェルは可愛い子猫だろーが。つか、会話が駄々漏れだぞお前ら」
フランの声を遮って、ロベルトがひょっこりと姿を現した。
「ロベルト……ッ! テメエッ、途中で姿くらましやがって!」
怒声を上げるフランに、疲れた声音でロベルトは吐露してくる。随分と草臥れた様子だ。
「元老幹部の相手は苦手なんだ……、って別にサボリじゃねえぞ? 構成員に混じって見張りしてたしな」
「すまねーな、ロベルト」
謝罪の色を浮べて告げれば、ロベルトはにやりと口角を上げて言ってきた。
「全然構わねえさ。だから一発相手してくれ、それでチャラにしてやる」
「だからの意味がわからねえ」
「……なんの相手だよ?」
呆れて俺が首を横に振ると、鈍感なフランが余計なところで口を挟んでくる。ヴァルドは頬を染めて俯いているというのに。
「ナニだろ」
にやにやと顎を擦り、ロベルトは白い歯を零す。それでも首を傾げるフランは、鈍感以上の阿呆としか言いようがない。
「マジで俺と同い年かよ? まさか童貞とか言うんじゃねえだろうなあ、フラン様?」
冗談めかして言う俺に、フランはカッと顔を赤らめるや否や、どもりながら反論してきた。
「じょっ、冗談じゃねえ! 誰が童貞だゴラアッ! ふざけやがって!」
「…………」
唖然とする俺とロベルト、加えてヴァルドは同じことを思っているだろう。
(コイツ……、マジで童貞か!)
思わぬ真実を知ってしまったせいで、こっちもどう対処していいかわからず、異様な空気が辺りを包み込んだ。核心を突いた俺まで妙に気恥かしい。
「――――」
だが突如、それぞれ険しい表情を浮かべた。沈黙を破るには丁度いいタイミングで、ロバート・マッセリアを捕獲したと、イチゴとブドウから知らせが来たのだ。アルジェントらしい独特な連絡方法に、俺の気分も上がってくる。
「察しのとおりイチゴとブドウが上手くいったみたいだから、そろそろ俺らも動くとすンぜー」
黙って頷く三人に俺は淡々と指示を続けた。
「フランとヴァルドは俺に同行、ロベルトはさっきの合図で勘づいた野郎たちのフォローを頼む。ジョゼが元老幹部の相手してくれっと思う、あとの行動はそっちに任せるな」
「車をすぐに回させる」
首肯し、携帯を取り出したロベルトが電話をかけ始める。俺はそのあいだゆっくり待とうかと思っていたのだが、せっかちなフランは待っていられないようだ。
「待ってる時間が勿体ねえよ、タコッ! バイクで来て正解だったぜ、俺は先に行かせてもらう!」
荒々しく言い残して行くフランの腕を掴み、俺は三日月目で優しく聞いた。
「ケツに猫一匹くれえ乗んだろ? 乗るよなー、乗れるんだろ?」
「……フンッ! 勝手にしやがれ」
俺の手を乱暴に振り払い、フランは背を向けて歩いて行く。勝手にと言うことは、どうぞお好きにと言う意味に違いない。
「ってことでヴァルド! あとから合流でいい? 場所わかるよな?」
俺が急いで確認すると、ヴァルドは小刻みに首を縦に振って答えてくる。
「あ……俺は大丈夫。気をつけてね……ボス、またあとで」
「おうよ! んじゃあ、ロベルト! そっちは頼んだぜーっ!」
ロベルトとフランに手を振り、俺は不機嫌な狼のあとを追った。
風に押される背中は軽く、まるでジョバンニ・カインに後押しされているようだった。