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MATTO-A5  作者: 咲之美影
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血印書

 

 高く昇る太陽は恐怖に飲まれ、厚く圧しかかる雲と轟く雷鳴が黒いスーツに身を包んだ男たちの目許に影を落とし、いま世界を振動させる極秘会議をも隠そうとしている。


 現在、俺の前にはずらりとガラの悪い男たちが座っている。右には切羽詰まった様子の元老幹部数名、左には余裕の笑みを纏った現幹部四名、これほどの雁首が揃うのは組織始まって以来のことだろう。


 その中間に腰を落としている俺はそんな両者を退屈凌ぎに観察しつつ、元老幹部から睨まれながらも現幹部たちが血印を押し終わるのを待っていた。


 (……ハイハイ、ンな見つめんな)


 現幹部が各々の血印を押した紙っきれは横流しに自分まで回ってきて、左右の両者から確認を促す眼差しで射抜かれる。


 俺は居心地悪く応えた。


 「ヴァベーネ」


 そして軽く腰を上げて座り直し、手元の紙っきれを拾い上げて目を通す。


 慣れ親しむ祖父の文字、それはいまは亡き祖父の名と血印から始まり、元老幹部から現在ここにいる幹部クラスの真新しい名と血印まで連なっていた。これは正真正銘、マフィアの血の掟に従って作られた血印書――そう、いま行われている極秘会議はイタリア四大マフィアの一つ、アルジェントのボスを引き継ぐ儀式なのだ。


 確認した紙っきれを机に置くと同時に俺は親指の皮を噛み、ぷっくりと流れ出た血をアルジェントの紋章に押しつけながらため息交じりに呟いた。


 「ハア、悪魔の契約書にサインしちまった気分だぜ」


 「ハッ! テメエより最悪の気分だっつの、こっちはよ!」


 「ん~独り言を勝手に拾うお前に早速ボス命令すんぞ、いいのけ?」


 「コイツ……ッ!」


 「グェッホン!」


 「――――ッ」


 咳払いをする元老幹部に、横槍を入れてきた現幹部はぐっと押し黙る。刹那、稲光に部屋が橙色に照らされてガラス窓がカタカタと揺れた。そう遠くない距離にどでかい雷が落ちたらしい。


 新たな門出を祝う歌声、否、イカれた組織を継ぐ俺への悲鳴なのか。どちらにしても脳髄が痺れ、どんよりとした空気に毒されていた身体がスッキリと身軽になった。


 「さあて、どうすっかなあ……」


 イタリア四大マフィアの一つ、アルジェントの勢力を護るため、面倒臭いボスの座を俺は意図も簡単に継いでしまった。何よりそれが祖父の遺言でもあり、もう一つの理由は――まだ心の奥に閉まっておくとしよう。俺たち組織に秘められた裏の顔と一緒に。




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