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小石と喋ろう

作者: とた
掲載日:2026/02/28


 いたい、と声が聞こえました。


 夜の道を、自宅に向かって歩いていたときのことです。

 街頭も少ない、雨上がりのアスファルトにわずかな光が反射するだけの路地、私はその声を聞いて立ち止まります。

 そして、首を曲げて下を見ました。

 声は下から聞こえたからです。


 そこには、小石がありました。手のひらで握り込めそうなほどの大きさの、少しごつごつとした小石です。


 私はその場にしゃがみ込みました。


 「喋った?」

 尋ねましたが、聞こえるのは遠くから聞こえる車の音ばかり。

 けれど、この辺りで話をしそうなものといえばこの小石くらいなのだから、先ほどの声はこの小石に声に違いありません。


 だというのに、小石は一向に口をききませんでした。

 仕方なく、私は立ち上がります。

 そして、小石に向かってつま先を動かしかけてから、やめました。もし本当に痛くて声を上げたというのなら、もう一度やるのはかわいそうだからです。


「ひまだなぁ」


 しかし、私がその小石を避けて足を動かした途端、また声がしました。さっきと同じ声です。

 くるりと後ろを向きながらしゃがみ込みます。

 耳を澄ませて、小石を凝視しました。


「喋ったの?」

 もう一度尋ねました。間違いありません。この小石が喋ったのです。


 自転車がゴウと音を立てて私の横を通り過ぎていきました。

 私は指をそおっと伸ばして、小石にぴとりと当てました。


「さわった」


 やっぱり!

 この小石はしゃべる小石です!


 今度という今度はちゃんと見ました。聞こえました。この小石が声を発したのです。


「喋れるの?」

 指を引っ込めて、私は小石を覗き込みながら尋ねました。

 小石は少し黙ってから、

「はなしてる」

 と答えました。


 なんて奇妙で珍しい小石でしょう。


「どうして喋るの?」

 続けて問いかけてみると、やはり、また暫くおいてから、


「なあに?」


 と答えます。


 私はその小石を掴んで拾い上げようと手を伸ばしました。この不思議な石を、もっと間近で見たかったからです。


「みずだね」


 けれど、そんな声が聞こえて私は手を止めました。


 ぽつり、ぽつり。


 着ているコートが音を立てます。

 雨です。また降ってきたようでした。


「雨だよ」

 小石に向かって言いました。小石は何も答えません。

 次第に頻度を増して落ちてくる空からの雫で、ただつややかになっていくばかり。

 もう一度その石に手を伸ばしかてから思いとどまって、立ち上がりました。少しだけ足が痺れます。


「また明日ね」

 声をかけて、家に向かいます。

 のんびりしていると土砂降りになりそうなほど、そこそこ大粒の雨粒が降り始めていました。このままではコートや服を乾かすのが大変ですし、風邪をひいてしまいます。

 その点、小石は風邪など引かないのだから気楽なものです。


「またね」


 そんな声が、ずっと後ろから聞こえたような気がしました。

 家まであと五分はかかります。

 



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