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2章 第9話 最初の徴収

戦は、数日後に始まった。

宣言は簡潔だった。

ヴァルディア王国は、カルドリア連邦の挑発行為に対し、

自国の権益と国境の安定を守るため軍を派遣する。


王都から届いた文面は、整っていた。

だが、整った言葉ほど、本音を隠す。

【後手には回れない】

【威信を示す】

【引けば削られる】

父は書状を静かに畳んだ。


「始まったな」


それだけを言う。

リンドは頷いた。

(ついに来た、か)

不思議と驚きはなかった。

感じていた“予兆”が、そのまま形になっただけだった。


最初の通達は、その三日後に来た。

「兵糧の増量要請だ」


父は、執務室で書状を広げる。

要請。

だが胸元に浮かぶ。

【断れぬ】


量は、想定の範囲内だった。


アムレストの備蓄なら、対応は可能。

父は即座に承諾の返書を書いた。


「穀物は明日から積み出す。備蓄を開けるぞ」


倉庫の扉が開く。

麻袋が運ばれる。

荷馬車の軋む音が、朝の静けさに混ざる。

市場では、まだ笑い声がある。


「戦かあ」

「まあ、大国同士だ。すぐ終わるさ」

【ヴァルディアは強い】

【すぐ片が付く】

【ここは遠い】

リンドは、それを読む。


まだ軽い。

不安はあるが、恐怖ではない。

(最初は、いつもこうだ)

前の世界で、何かが崩れるときも、

最初は「たいしたことはない」から始まった。


だが今は、違う。

ここは組織ではなく、国だ。

そして、剣と兵が現実に存在する。

川は変わらず流れている。

畑も青い。

それが、町を安心させていた。


数日後、父は倉庫の前で立ち止まった。

「想定よりも早いな」


小さく呟く。

胸元に浮かぶ。

【消耗が激しい】

【長引く】


リンドは倉庫の中を見た。

袋は確実に減っている。


まだ不足ではない。

だが、減っているという事実は残る。

(遠くの戦が、形になってる)

それは血でも煙でもない。

穀物の量だ。

食卓の皿の量だ。

それが一番現実的だった。


町は、まだ崩れていない。

だが会話の質が変わった。


「もう少し出すらしいぞ」

「そんなに続くのか?」

【長くなるのか】

【冬はどうする】

【備えは十分か】


文字が、以前より濃い。

リンドは感じる。

場の揺らぎが、少しだけ広がっている。


《人心文章化》が、町全体の空気を拾い始めている。

十六になってから、それができるようになった。

個人の本音だけでなく、

“町の不安”が、ぼんやりと文章になる。

(まだ、持つ)

そう判断する。


父も同じらしい。

「アムレストは備蓄がある。慌てるな」

その言葉は嘘ではない。


胸元にも浮かぶ。

【今は耐えられる】

だが同時に、もう一行。

【二度目が来たら】

その文字を、リンドは見てしまう。


そして、嫌な既視感が胸を冷やす。

前の世界で、よくあった。

最初の対応がうまくいったときこそ、

次の一手が重くなる。


川は、今日も変わらず流れている。

だがその流れの上に、

まだ見えない影が、ゆっくりと伸びていた。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。




この物語は、派手な奇跡ではなく、小さな選択と積み重ねを


大切にして書いています。


リンドの一歩一歩が、少しでも皆さまに届いていれば嬉しいです。




もし続きが気になる、応援してもいいと思っていただけましたら、


ブックマークや評価をいただけると励みになります。




いただいた反応は、今後の執筆の力になります。




これからも静かに、誠実に物語を積み上げていきます。


引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。

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