表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/33

序章 第5話 ルミナの因果と、揺れる視線

その日。

僕はカイに抱かれ、町へ出ていた。


「よし、リンド様。今日は私がご案内しますよ」

【外の空気くらい知っておかないとな】


カイの本音は、いつものように明るくて温かい。

でも、その後ろに微かな“にじみ”があるように感じた。


(……何か、飲み込んでるような)


赤ん坊の視界は揺れる。

けれど、町の様子は前よりもよく見えるようになった。



前回訪れた時と町の景色がまったく変わっていない。

道の石畳の欠け方も、

店先の配置も、

人の流れも――

数か月前とほぼ同じだ。


(ここまで変化がないと……逆に不自然だな)


平和なのはいい。

ただ、平和以上の“止まり方”をしている気がした。


カイは軽く笑いながら言う。

「アムレストはいい場所ですよ。

 静かで、危険も少なくて」

【……動かなさすぎるけどな】


(今の……少しだけ影が強かったな)


その“影”も、

文字が浮かんだ瞬間にふっと薄くなり、

途中から見えなくなる。

本音の続きを知るには、

僕の力はまだ足りない。


食堂の前に着いた。

扉が開き、店主の声。

「おや……カイさん! そして……リンド坊ちゃまも!」

【また来てくれたのか……!】


カイが笑いながら会釈する。

「少し散歩の途中で。ご迷惑でなければ」

「とんでもない! どうぞ、どうぞ!」


そのとき――

店の奥で、白いワンピースがかすかに揺れた。

銀髪の少女。

前と同じ、どこか影のある瞳。

ルミナだ。


じっとこちらを見ていた。

(……やっぱり、この子)

カイが僕を抱えたまま、声をかける。

「こんにちは、ルミナちゃん」

ルミナは少しだけ肩を震わせた。

声は出さない。

でも――

僕の視界に淡い文字が浮かぶ。

【また……きた……】


(うわ……まただ。喋ってないのに)


本当におかしい。

他の誰も、声なしでは発動しないのに。

(なんでルミナだけ……?

 この子、何を“話してる”つもりなんだ?)


少女はそろりと近づき、

僕をじっと見つめる。

本来、赤ん坊の僕が彼女に話しかけることはできない。

だから、本音も本来なら出ないはずだ。

だけど。


【……この子……ちがう……】


文字が浮かんだ瞬間、

ルミナの瞳がかすかに揺れた。

恐怖でも警戒でもない。

明らかに“判断”の揺れ。

そして――

前にはなかった仕草が現れた。


親指を握るのではなく、

今度は 胸の少し上、空中を小さく撫でるような動作。


(……なんだ、その動き)


意味は分からない。

ただの癖なのか、

感覚を探っているのか、

何かを“感じた反応”なのか。

ルミナの本音が重なる。


【……動いた……?】


(動いた? 何が?)


僕の心臓がゆっくり鼓動する。

そのたびに、

ルミナの視線が微妙に上下した。

まるで“目に見えない線”をなぞっているようだった。


カイが気を遣ったように言う。

「リンド様、怖がらせてませんかね……?」

【どう見ても普通の子じゃない……】


(あ……カイも、そう思ってるのか)


カイの本音まで途中で消えた。

その瞬間、

ルミナは僕に近づき、そっと左手を伸ばした。

震える指先が、

僕の頬に触れた。

そして――


【……はじまる……】


文字は一瞬だけ鮮明で、

すぐにかすれて消えた。


(おい……“はじまる”って何が!?)


赤ん坊の身体では何もできない。

ただ、鼓動だけが不自然に速くなる。

ルミナはすっと手を離し、

胸の近くで指を握ったまま俯いた。

まるで、

“未来の何かを見てしまった子ども”のように。


店主が声を張り上げる。

「ルミナ、お辞儀くらい――」

「店主さん、大丈夫ですよ」

カイが優しく割って入った。

「彼女は……無理しないほうがいいタイプです」


(カイ、何か知ってる……?)


ルミナは最後に

もう一度だけ僕を見た。

その視線は、

“普通の少女が赤子”を見る目じゃない。

もっと深くて、

もっと遠いものを見ているような――

そんな不思議な視線だった。


帰り道、

カイがぽつりと呟いた。

「リンド様。あの子……すごく優しい目をしてましたよ」

【でも……あれは“普通”じゃない】


(俺もそう思う)


アムレストの町で、

はじめて“動いた因果”。

それを感じ取ったのは、

喋れない少女――ルミナだけだった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


この物語は、派手な奇跡ではなく、小さな選択と積み重ねを大切にして書いています。

リンドの一歩一歩が、少しでも皆さまに届いていれば嬉しいです。


もし続きが気になる、応援してもいいと思っていただけましたら、

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


いただいた反応は、今後の執筆の力になります。


これからも静かに、誠実に物語を積み上げていきます。

引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ