2章 第23話 静かな計算
徴収通達から三日。
中央倉は、すでに軽くなっていた。
例年なら天井近くまで積まれているはずの穀袋は、
今は肩ほどの高さしかない。
二度。
その分だけ、確実に削られている。
石壁に囲まれた空間が、広く見える。
その広さが、不自然だった。
そして、三度目が始まる。
荷車が並び、袋が運び出される。
積み上げられた列が、さらに低くなる。
音は少ない。
指示も簡潔。
抗議はない。
町は暴れない。
それがアムレストだ。
だが、リンドには見える。
【二度でここまで減った】
【まだ大丈夫だ】
【大丈夫、のはずだ】
【……足りるか?】
“足りる”という言葉が、濁っている。
父は倉の入口に立ち、静かに見ている。
顔色は変わらない。
だが、文字は浮かぶ。
【例年の半分以下】
【冬前にこれは重い】
【計算を組み直せ】
元々十分な備蓄があったおかげで何とか冬は越せるだろう。
だが、再計算。
余裕の幅を、測り直している。
袋が運び出されるたびに、
床石が露わになる。
本来なら見えないはずの石。
そこに光が差し込む。
冬はまだ来ていない。
だが、冬の“安全域”は確実に削られている。
父が言う。
「減り方は想定内だ」
「はい」
リンドは答える。
想定内。
だが想定は、二度目までの話だ。
三度目は、“連続”という意味を持つ。
父が低く問う。
「止まると思うか」
「……止まりません」
父は目を閉じる。
「だろうな」
その裏に浮かぶ。
【勢いは止まらぬ】
【止める理由がない】
倉の奥を見つめる。
例年なら食料の安全圏があるはずの場所。
今は、安全圏超えて削られている。
町は静かだ。
市場は開いている。
パンも焼かれている。
だが、リンドには見える。
【四度目が来たら】
【その時は】
言葉が、途中で消える。
まだ暴れない。
まだ騒がない。
だが、“まだ”が薄い。
父の中に、はっきりと浮かぶ。
【この町は、選ばねばならぬ】
守るか。
従うか。
動くか。
まだ、選んでいない。
そのとき、城門から伝令が駆け上がる。
父へ差し出された書状。
重みのある封。
赤い蝋。
封蝋は王家の紋。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。
この物語は、派手な奇跡ではなく、小さな選択と積み重ねを
大切にして書いています。
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これからも静かに、誠実に物語を積み上げていきます。
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