表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/33

2章 第15話 静かな再会

王子が来てから、三日が過ぎた。


町は表面上、静かだった。

兵たちは規律を守り、外出は最小限。


客棟周辺は穏やかで、水路も乱れていない。

だが空気は張っている。


【失礼はするな】

【粗相はするな】

【見られている】


町全体が、少しだけ呼吸を浅くしている。


リンドは水路の点検に向かう途中だった。

客棟の裏手を通ると、ひとり立つ影があった。


レオニス。


鎧は外している。

簡素な衣服だが、立ち姿は変わらない。

護衛は少し離れている。

王子は水面を見ていた。

「……綺麗だな」

独り言のような声。


リンドは立ち止まり、礼をする。

「殿下」

王子は振り返る。

「リンドだったな」

名を覚えている。


【やはり妙だ】


王子の視線は、ただの少年を見る目ではない。

戦場で人を見てきた目。


「水路の管理をしているのか」

「はい。領の役目です」

王子は川を見つめる。


【守られている土地】

【奪われていない】

羨望と、悔しさが混じっている。


「静かな場所だ」


「ありがとうございます」


自然に出た言葉だった。

王族相手にしては軽い。

だがリンドにとっては、ただの事実だ。


王子の胸に小さな揺らぎ。

【形式ではない】


リンドは、少しだけ肩の力を抜く。

「正直、こんなに綺麗だと戦の話が遠く感じます」


王族に向けるには率直すぎる言葉。

だがリンドには、その感覚が本音だった。


王子は一瞬、目を細める。

【遠い、か】


「遠くはない」

静かな否定。


【常に隣にある】


リンドは頷く。

「そうですね。でも、ここでは水の方が強いです」


子どもらしい表現。


だがその裏にあるのは、別の視点。


王子の胸に文字が浮かぶ。

【この目は、ただの子ではない】


沈黙が落ちる。


王子がふと口を開く。

「……お前は、この町をどう思う」


唐突だが、試す問いではない。

【どう見る】


リンドは少し考える。

導かない。

ただ答える。


「守られていると思います」


王子の胸に波が立つ。

【守れなかった】


強く、はっきり。

リンドは読む。

そして、理解する。

王子は年上だ。

背負っているものも違う。

だがその内側は、人間だ。


王子は静かに言う。

「弟も、お前と同じくらいだ」


「そうですか」

リンドは素直に微笑む。


「きっと殿下に似て強い方ですね」


その言葉に、王子の胸がわずかに揺れる。

【守りたい】

【だが守りきれるか】


リンドは、内心で驚く。

(やはり王族は違う)


立場が人を作る。

意志が空気を変える。

それは年齢の問題ではない。


王子はふと視線を戻す。

「……お前は落ち着いているな」

少しだけ柔らかい声音。


リンドは笑う。

「ありがとうございます。

 でも、たぶん水のせいです」


「水?」


「この町、考えごとをしても川が流してくれる気がして」

子どもらしい発想。


だが王子は、わずかに口元を緩める。

【面白い】


距離が、ほんの少し縮む。


王子は静かに息を吐く。

「しばらく世話になる」


「はい。何かあれば、すぐ父に伝えます」


王族への遠慮が、少し薄い。

だが無礼ではない。


王子は一瞬だけ、真っ直ぐにリンドを見る。

【何者だ】


リンドも思う。

(王族が別格だとしても、この人はその中でも更に特別なのかもしれない。)


ただの力ではない。

人を引きつける重さ。


敗れてなお折れぬ意思。


それが自然に滲んでいる。


王子は歩き去る。

護衛が続く。


リンドは川を見る。

水は変わらない。


だがこの町に、

確実に新しい波が生まれている。



ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。




この物語は、派手な奇跡ではなく、小さな選択と積み重ねを


大切にして書いています。


リンドの一歩一歩が、少しでも皆さまに届いていれば嬉しいです。




もし続きが気になる、応援してもいいと思っていただけましたら、


ブックマークや評価をいただけると励みになります。




いただいた反応は、今後の執筆の力になります。




これからも静かに、誠実に物語を積み上げていきます。


引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ