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2章 第14話 歪な均衡

門をくぐった十騎は、無駄がなかった。


中央の青年が馬を降りる。


第一王子レオニス。


鎧は簡素だが質が違う。

敗戦の帰途にあるとは思えぬほど、姿勢は崩れていない。


父が一歩進み出る。

「遠路、よくぞお越しくださいました。

 アムレスト領主として、歓迎いたします」


礼は正確だ。

低すぎず、高すぎない。


王子は頷く。

「此度の受け入れ、感謝する」


声は静かだ。

【迷惑をかける】

【だが崩れぬ】

【敗者の顔は見せぬ】

複数の感情が、重なっている。


王子の視線が父を捉える。


父の胸元に浮かぶ。

【歓迎できぬ】

【だが拒めぬ】

【この国に守られている】


歪な均衡。


王子は一瞬、目を細める。


「……思ったより、静かな地だ」

「変わらぬことが、誇りにございます」

父はそう答える。


一瞬、言葉が止まる。

“お疲れでしょう”と言いかけた。


だが飲み込む。

王子はわずかに視線を外す。


その仕草には、悔しさが混じっている。

見せたくない感情を押し込める動き。

そして、視線が横へ流れる。


リンドと目が合う。


「……あなたのご子息か」


父が振り返る。

「はい。リンドと申します」


王子はしばらくリンドを見る。


【……妙だ】

その一行が、はっきり浮かぶ。


【この年で、この目】

【揺れていない】

リンドの胸が、わずかに跳ねる。


(読まれた?)


違う。

読まれてはいない。


だが、感じ取られている。


王子の視線は鋭い。

年齢相応の子どもを見る目ではない。


戦場で、人を見てきた目だ。


リンドは無意識に背筋を伸ばす。

異世界で積み重ねた十六年。

だが精神は、それ以上だ。


王子の胸元に、もう一行。

【弟に近い年だが……違う】


その違いを、王子は言語化できていない。

だが確かに、何かを感じている。


リンドは内心で驚く。

(やはり王族は違う)


ただの兵ではない。

ただの貴族でもない。

人の機微を読む力。

立場からくる圧。

それが自然と備わっている。


父が言う。

「客棟へご案内いたします」


王子は頷く。


移動が始まる。

護衛の兵は無駄なく散開する。


十名。


少ない。


だが緊張は濃い。


町の者たちは遠巻きに見る。

【本当に王族か】

【敗戦の王子】


視線は抑えられている。

声はない。

石畳の上を、馬の足音だけが響く。


リンドは少し後ろを歩く。


王子の背を観察する。

【静かだ】

【だが内側は荒れている】


疲労。

悔恨。

責任。

そして、もう一つ。


【それでも戦は必要だ】


その確信は、揺れていない。


リンドはそれを読み、再び驚く。

敗北してなお、折れていない。

理屈ではない。

意志だ。


(危ういな)


異世界人としての感覚が囁く。

強い意志は、時に国を救う。


同時に、国を焼く。


客棟の前に到着する。


父が振り返る。

「ご滞在中は、どうか心身をお休めください」


王子は一瞬、何かを言いかける。

だがやめる。


【休める立場ではない】

「世話になる」


それだけ言う。


リンドと目が合う。

王子の胸に、再び文字が浮かぶ。


【この少年は、何者だ】


リンドの胸にも、別の文字が走る。

(王族は、やはり別格だ)


異世界と前世で多くを見てきたつもりだった。

だが、この存在感は初めてだ。


戦を背負う者の重さ。

象徴として立たねばならぬ者の孤独。


それが自然と滲んでいる。


客棟の扉が閉まる。


父が小さく息を吐く。

【ここからだ】


リンドは静かに思う。

読むだけだ。

まだ触れない。


だが確かに、何かが動き始めている。


第一王子レオニス。


戦の続きが、

この町に持ち込まれた。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。




この物語は、派手な奇跡ではなく、小さな選択と積み重ねを


大切にして書いています。


リンドの一歩一歩が、少しでも皆さまに届いていれば嬉しいです。




もし続きが気になる、応援してもいいと思っていただけましたら、


ブックマークや評価をいただけると励みになります。




いただいた反応は、今後の執筆の力になります。




これからも静かに、誠実に物語を積み上げていきます。


引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。

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