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2章 第10話 揺らぎの声

二度目の通達は、重かった。


量は明らかに増えている。

倉庫の中で、袋が運ばれるたびに、

床板の軋む音がやけに響く。


市場では、もはや笑いは少ない。

「また増えるのか?」

「これで冬を越せるのか」

【さすがに多い】

【何かしないと】

【このままでいいのか】

“何かしないと”という文字が、初めて濃く浮かぶ。


リンドはそれを読む。

(熱が混じった)

ただの不安ではない。

焦燥だ。


その日の夕方、三人の町民が領主館を訪れた。

前回より、顔つきが違う。

緊張はあるが、目が真っ直ぐだ。

【言う】

【逃げない】

【今しかない】


父は応接間に通す。

「どうした」


若い男が一歩前に出る。

「領主様。徴収は理解しています。

 国のためなら仕方がない」

声が震えている。

「ですが……このまま出し続けるだけで、本当にいいのですか?」

【何かできるはずだ】

【動かなければ削られるだけだ】


父の胸が、熱を帯びる。

【来た】

【変わろうとしている】


妻が続ける。

「町の備蓄の管理を見直すとか、

 畑を広げるとか、

 皆で動くことはできないでしょうか」

【自分たちも役に立ちたい】

【ただ見ているだけは嫌だ】


父は、わずかに前のめりになる。

「動きたい、と言うのだな」


若い男は強く頷く。

「はい!」

【今なら言える】

【何かを始めたい】


その瞬間、部屋の空気が変わる。

リンドにもはっきり分かる。

場が一つに寄った。


父は立ち上がる。

「ならば、やろう」

その声には、久しくなかった熱があった。

「徴収は止められぬ。

 だが我らの備えは増やせる。

 水路の拡張、耕地の再配分、

 若者の労働の再編――」

胸元に浮かぶ。

【今なら変えられる】

【この町は動ける】

住民の顔が一瞬、輝く。


だが父は続ける。

「まずは志願者を募る。

 私の直属の管理下で、追加耕作の隊を作る。

 日中の労働は増える。

 徴収量が戻る保証はない。

 それでもやる覚悟はあるか」


静寂。


【……え】

【直属?】

【日中も?】


若い男の胸に文字が走る。

【そこまでとは】

【家の畑はどうする】

【失敗したら責任は】


妻の胸元。

【思っていたのと違う】

【そこまでの話だったか】


野菜売りの男。

【大事になる】

【皆で相談してからでは】


熱が、ゆっくり冷える。

リンドは、はっきりとそれを読む。


父も読む。

【……ああ】


若い男が、視線を落とす。

「いえ、その……今すぐ、という話ではなく……」


妻が慌てて言う。

「領主様のお考えを伺いたかっただけで……」

【任せたい】

【責任は負えない】


父の胸の熱が、目に見えるように沈む。

「……そうか」


声は穏やかだ。

だが内側は違う。

【違った】

【覚悟ではなかった】

【私は先走った】


「不安を伝えてくれただけで、十分だ」

父は微笑む。


住民は安堵し、深く頭を下げる。

【やはり領主様に任せればいい】

【自分たちは無理をしない】


彼らが去ったあと、応接間には重い空気だけが残った。

リンドは何も言えない。

熱が生まれ、消える瞬間を、目の前で見た。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。




この物語は、派手な奇跡ではなく、小さな選択と積み重ねを


大切にして書いています。


リンドの一歩一歩が、少しでも皆さまに届いていれば嬉しいです。




もし続きが気になる、応援してもいいと思っていただけましたら、


ブックマークや評価をいただけると励みになります。




いただいた反応は、今後の執筆の力になります。




これからも静かに、誠実に物語を積み上げていきます。


引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。

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