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序章 第1話 転生の泣き声と、本音のはじまり

息が――吸えない。


肺が空気を掴めず、喉の奥が勝手に震えている。

視界は白くにじみ、世界そのものがぐらぐら揺れて見えた。


(なにこれ……!?)


「ちょっと待っ――」と言おうとした瞬間、

まったく違う音が喉から飛び出した。


「――おぎゃぁぁぁぁ!!」

(いやいやいや!? 今の俺の声!?)


手足はバタバタと動いているのに、まったく制御できない。

呼吸も泣き声のリズムで上下していて、自分の意思はどこにもない。


(……嘘だろ。俺、赤ん坊になってる?)


認めたくない現実が、身体の小ささと声の高さで叩きつけられる。

混乱していると、急に身体がふわりと持ち上げられた。


柔らかい布と、あたたかな腕。

少し早い鼓動と、甘い匂い。

誰かが僕を抱いている。


「……リンド」


耳元で、優しい声が落ちてきた。

「大丈夫よ。怖かったわね」

その瞬間、声に重なるように、淡い光の“文字”が視界にふっと浮かんだ。


【よかった……ちゃんと息してる】


(……文字? 今の声に、何か重なった……?)


僕は思わずその文字を見つめる。

触れようにも、赤ん坊の手はぎこちなく空を掻くだけだ。

次に、落ち着いた男の声が聞こえた。


「元気に泣けるなら、問題なさそうだな」

その声にも、やはり文章が重なって現れる。

【本当に……よかった】

(やっぱりだ。話しかけられた時だけ、何か“本音みたいなもの”が文字になって出てくる……)


不思議な感覚。

だけど、どこかで覚えがある。


――《人心文章化》。

死んだ直後、白い空間で選んだ、あのスキル名。

(本当に……発動してるのか)


泣き声は止まらない。止められない。

「おぎゃぁぁぁ!!」

母と思しき女性が、僕を優しく揺らしながら話しかける。


「大丈夫。リンド、あなたは守られているわ」

【この子は……ちゃんと守ってあげたい】


男――たぶん父だ――も少しだけ表情を緩めて言った。

「リンド。私たちのところに来てくれて……ありがとう」

【ありがとう……】


そこから先に、何か続きがある“気配”がした。

けれど、文字は途中でかすれて消えてしまう。

(……ん? 今、何か……言いかけて消えた?)

さっきもそうだった。


「本当に……」とか、「この子は……」とか、続きがありそうなのに、

その先の言葉が形になる前に、ふっと霧散する。

(仕様……なのか? それとも、俺がまだ慣れてないせいか?)


理由は分からない。

ただ、“全部は見えない”らしい。

ひとつ分かるのはこの世界で僕は、

「声をかけられると、本音の断片が文字として見える」ということ。

(……なんだこれ。便利なのか、怖いのか……)

そんなことを考えながらも、

赤ん坊の身体は素直に泣き続ける。


「おぎゃ……ぁ……」


泣き疲れたのか、だんだん瞼が重くなってきた。

母の声が、柔らかく響く。

「ゆっくりおやすみなさい、リンド」

【どうか……笑って生きてくれますように】


その文章は途中で切れず、最後まで読めた。

少しだけ安心する。


(……そういえば)

瞼が落ちる寸前、視界の端にふっと白い光が灯った。

(この光、知ってる……)


前の世界。日本。会社。


机の上で、画面を見たまま意識が落ちた瞬間。

目を開けた先が、真っ白な空間だった。

――そこで、“スキル”を選んだ。

(あの時の記憶だ……)


白い光が、僕の意識をまた飲み込んでいく。

赤ん坊リンドとしての視界は暗くなり、

朝日 悠斗としての記憶が、白い世界へと連れ戻していった。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。


この物語は、派手な奇跡ではなく、小さな選択と積み重ねを

大切にして書いています。

リンドの一歩一歩が、少しでも皆さまに届いていれば嬉しいです。


もし続きが気になる、応援してもいいと思っていただけましたら、

ブックマークや評価をいただけると励みになります。


いただいた反応は、今後の執筆の力になります。


これからも静かに、誠実に物語を積み上げていきます。

引き続きお付き合いいただけましたら幸いです。

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