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ラブコメ作家は恋をしない  作者: 佐和多 奏


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13/17

じゃあ俺は一体何を目指して……

白いコートを身に纏い、アンプに有線で繋がれたマイクを持って歌う彼女は俺が大好きな歌い手みたいに高い音を綺麗に出して、旋律もとても好きで、ぼーっと聴き入ってしまっていた。その世界に吸い込まれていくみたいに……。

よく見ると、その人の隣に可愛らしいベージュのスーツケースがあり、開いていて、小さなホワイトボードにはペンで、5/20枚! と書かれていた。


曲が終わり、パラパラと拍手が起こった。

空は暗く、街は明るく、そんな中に少し雪が降り始める。


その女の子が俺のところに駆け寄ってくる。何か紙を持っている。


「あの、聴いてくれてありがとうございます!」


2つしばりの、触覚を指で伝いながら、俺に紙を見せてくれた。


「これ、今私たちが売ってるアルバムで、私、ソロのCDを出すのが夢で、このアルバムを300枚売りたくて、今50枚売れてるんですけど……」

「……そしたら、ソロのCD出せばいいんじゃないですか?」

「いや、事務所が……あ、あのお兄さん大学生ですか?」

「あ、いや……25で……」

「え! す、すみません」

「え! あ、いや、全然、嬉しいです若く、見られて……」

その人は安心したかのようにクスッと笑って、自分の顔を指差した。

「じゃあ、私は何歳に見えますか?」

「……21歳、とか?」

「17歳です!」

「え! あ、えっと、すみません! あ、いや、大人っぽく見えるなって、そういう意味です、本当にそういう意味で……」


正直話しかけられるとは思わなくて、元々会話が得意なタチではないから、結構こんな感じになってしまう、けど……。迷惑になってない、かな。


「私、ミミっていう名前で活動してるんですけど……今渡した紙に載ってるCDは、いろんな人のコンピレーションなんですけど、その中に私のソロ曲も、一曲入ってて、それで、私のソロ曲を出したいって事務所の人に言ったら、これを300枚売ったら、って言われて」


「……そっ、か。……ちょっと今日は金欠で買えなくて……。あと、会話下手ですみません、僕ほんとコミュ障で」

「あ、いや! 私も会話苦手です、めっちゃ! だから……」


そこまで話したくらいで、隣にいた、サイリウムを持った人がミミさんに話しかけた。


そしたら、2人で話し始めて、だから、そのまま、さっきもらった紙をボーッと見つめて、スーツケースに書いてある5/20枚! という数字もぼーっと、見ていた。

そしたらそこにミミさんが駆けていって、嬉しそうに5を消して6と書いて、サイリウムを持った男性にCDを売った。


また歌い始めたミミさんの歌声は、やっぱり綺麗で。hihiAまで、お腹ではなく鼻やおでこのあたりで響かせているような軽い声で歌う。


帰らなきゃ。


ミミさんに背を向け、改札へと向かった。


イヤホンをつけて、吊り革に捕まって目を瞑る。


『私のソロ曲を出したいって事務所の人に言ったら、これを300枚売ったら、って言われて』


こんなことを言われている路上ライブをしている人たちがたくさんいるんだろうなって、思った。

でも、ミミさんは、今まで路上で見てきた人の中でもすごく上手な歌声だって、それは絶対そう。



500枚、売れって言った事務所と、それを聞き入れるミミさんと、自分の今を、照らし合わせて。


よく知らない出版社から声がかかって、デジタル漫画が連載されたとして。

正直、SNSのフォロワーさんに向けて投稿した方が見てもらえる気がする。

なんだけど、やっぱり出版社から漫画を連載したいって、思う。


思うけど、そうなると、やっぱしんどいと思うし。しんどいと思って、それで結局得られるものも……。


てか、俺ってなんのために漫画描いてるんだろう。



漫画を描いて、そしたらインプとかいいねとかリプとか付くから、それで、俺は、みんなに、存在してるって、示している、そんな気がする。


でも結局、何を目指して、何がしたくてこんなにたくさんの時間、漫画を描いているのか、わからなくて。


ミミさんは、何を目指して、ソロのCDを売りたいって、路上ライブやってるんだろう。


でも、ミミさんは、何かを目指している、それはなんとなく思った。


俺とは違う。

たぶん、俺は今、漫画を描いているけれど。何のために描いているのか、全然わからなくて。


というか、なんで、そこまでして漫画を描かなきゃいけないか、わからなくて。

何が目的で。


「お出口は左側です、ドアから……」


あー、着いた。

自分が何を、目指しているのかわからない、から。


連載を持って、単行本を出して、アニメ化して、エンドロールに自分の名前が載って、それを写真に撮って、インスタに、この漫画家のペンネーム俺ですって、載せて……。



『エンドロールをインスタに載せて、誰も見てないのに、って悲しいよな』


大学時代、サークル帰り、本を返して図書館を出たところで、先輩がそう言って、俺が笑った、その場面が浮かぶ。



みんなに見てもらいたいのか? じゃあそんなことをして、何になるの?

わかんない。

わかんないけど。



なんか、そうやって誰かに見てもらってるって思わないと。本当に俺、なんか、不安に、なるんだ。

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