第9話「ふたりだけの秘密」
新連載です!
何卒宜しくお願い致します。
しばらく1日複数回の更新を行います。
どうぞ、お楽しみください。
俺との別離を嫌がって、わんわん泣いたリゼットちゃん。
そんな健気な子と、
俺は手を繋いで、仲良く街道を歩いている。
先ほど告げた、「俺の力の事は伏せて欲しい」という頼み事であるが……
ややこしい状況をリゼットちゃんはすぐに理解した。
素直に聞き入れてくれたので、結局は俺のお願い通りになる。
リゼットちゃんが、ここまで様々な事を話してくれたのと、
俺から告げた話の理解力を鑑みれば、
彼女は、とても聡明な女子という事が改めて分かった。
そして、ふたりで相談した結果……救出話は、極めて平凡なものにした。
森へ薬草を採りに行ったリゼットちゃんが『総勢5体』のゴブリンに襲われて……
たまたま通りかかった俺が駆けつけ、
ゴブリン2体を炎の魔法で倒したという極めて地味な話にしたのだ。
その話を裏付ける『論より証拠』は、念の為にとゲットしておいた、
焼け焦げたゴブリンの頭と腕。
まあ、これくらいのスケールなら、俺はちょっち強い冒険者レベル。
勇者扱いなどされず、「良くやったね、サンキュー」的な、
感謝をされるくらいであろう。
「勇者爆誕! 領主様へ、ご注進!」みたいに、
大々的に報告されるような、展開にはならないという計算。
そのような、俺と、ふたりだけの秘密を共有したリゼットちゃんは、
悪戯っぽく笑う。
「うふふ、でもこれって、ケン様と私、ふたりだけの秘密ですよね~」
「ああ、秘密さ。絶対に言っちゃ駄目だぞぉ」
「はいっ!」
ああ、元気で良い返事だ。
それにしても、彼とふたりだけの秘密って……
決して、ちょめちょめ……は、していないけれど。
うら若き女子にとって、何という甘美で背徳的な響きだろうか。
悪魔の危ない誘惑に、近い言葉かもしれない。
そんなこんなで、もろもろ話がまとまってから、改めて話すと、
リゼットちゃんは、自分を『呼び捨て』にして呼んで欲しいと言う。
ちゃん付で呼んでいたのだが、
ストレートに名前で呼ばれた方が『好み』みたいだ。
了解した俺へ、リゼットちゃん、否、リゼットは尋ねて来る。
「ケン様。貴方は、どちらへ向かおうとされていたのですか?」
首を傾げるリゼットはまるで可愛い小動物のようだ。
例えれば……多分、小栗鼠。
俺は、この西洋風異世界において、
初めて出来た可憐なガールフレンドに笑顔で答える。
答えは、転生し、この西洋風異世界に来た時から考えていた無難なものだ。
「ああ、リゼット。実はあてが無いのさ。実は俺、詳しくは言えないけれど、ここからとても遠い国の出身でね。暮らしていた街がわずらわしくなって、どこか違う静かな場所で暮らしたいと旅をして来たんだ」
曖昧な言い方をした俺に対し、敢えて深く突っ込まずに、
リゼットは優しく微笑む。
「そうなんですか? ボヌール村は決して豊かとは言えませんが、村民の皆は気持ちが優しく働き者ばかりの村なんです」
リゼットは、そう言うと、俺の手を「きゅっ」と握って来た。
ああ、リゼットって……俺を信じて、根掘り葉掘り聞かないんだ。
なんという信頼感。
そうこうしているうちに、時間は過ぎて行く……
先程、ゴブリンと戦った西の地平線の彼方に、
真っ赤に燃える大きな太陽が沈もうとしていた。
俺とリゼットは手を繋いで寄り添い、夕陽を浴びて歩く。
このシチュエーション、何だか……幼い頃の記憶が甦る。
追いかけっこ、かくれんぼ、
そして少し恥ずかしかったが、おままごとをして遊んだ女の子と、
桜の木が植えられた土手の道を仲良く手を繋いでウチへ帰る……
……そんな甘酸っぱい、懐かしい景色のような気がした。
襲撃があった森のある草原を約1時間歩き、そして、街道に出て……
更に30分以上、ずう~っと周囲の景色が変わらない、
暮れなずむ街道を歩いただろうか。
俺とリゼットは、街道の脇から延びる草を踏み固めたような横道に入る。
どうやらボヌール村は、この街道に隣接していないらしい。
俺は、念の為聞いてみる。
「街道から横道へ入って、ボヌール村まで、結構、奥へ行くの?」
「はい、しばらく歩きます。今、ケン様と私が通っている横道、これは村道なんです」
村道か……
俺は、中二病で培った記憶を呼び覚ます。
……地球の中世西洋では、耕作面積の確保と余所者の入村阻止の為、
街道附近に村がある事が少なかったのである。
ボヌール村が、街道から奥まった場所にあるのもそれが原因であろう。
俺とリゼットが更に30分ほど歩いて行くと、
武骨な丸太を組んだ簡素な防護柵に囲まれたボヌール村が見えて来た。
ああ、何か、こういう村、ラノベの挿絵で見た事がある。
多分だが、ボヌール村は、典型的な中世西洋風、地方の小さな農村だ。
リゼットは言う。
「さっきのゴブリンとか、人間、家畜を狙うオークやオーガなんかが、村を襲撃します。その時は、あの防護柵と正門に居る門番さんが村民達を守ってくれるんです」
そうか……奴等、森の奥からここまで出て来て人間を襲うんだ。
派手にやり過ぎて、ばれないように、後で適度に討伐しておこう。
そんな事を俺が考えている間に、
俺とリゼットのふたりは、ボヌール村の出入り口前に到着したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
丸太の防護柵とマッチする木製の頑丈そうな正門の内側後方……
つまり村内には、これも木製の高さ10m以上ある、
梯子付きの物見櫓が備えられており、
ふたりの門番らしい男が辺りを睥睨している。
当然、門番も東洋人じゃない。
リゼット同様、バリバリな西洋人であり、
やはり、この異世界は中世西洋風なのだと確信した。
リゼットに聞くと、彼等は、門番を兼ねる村の戦士らしい。
『つぎはぎ』だらけの使い古した革鎧をまとい、
大きなメイスを腰に提げて武装した男の方が、俺達を認め、声を掛けて来た。
門番の背は、少年になってしまった俺よりはずっと大きい。
2m近い大男で、190cmを、ゆうに超えているだろう。
転生した俺は視力が抜群に良くなっているので、男の人相もばっちり分かる
髪の毛は茶髪で短髪。
精悍な風貌をした、ぱっと見、40代後半くらいの男だ。
がっちりした体格で、顔も腕も真っ黒に日焼けしていた。
彼の野太い声が、下に居る俺達へ降って来る。
「おお! リゼット、今、戻ったのか? ん? 一緒に居る、そいつは見ない顔だけど誰かな?」
リゼットは質問には答えず、声を張り上げる。
「ねえ、ガストン! 私ね、ゴブに襲われたの!」
「な、何っ!! だ、大丈夫か!?」
「ええ、安心して、私はご覧の通り無事よ。幸い出会った、この方、旅人のケン・ユウキ様に助けて貰ったの! ゴブは5体も出たのよ!」
「成る程! 通りかかった旅人に命を助けて貰ったのか。しかし、よそ者に対する村の慣例だ。一応、彼の武器を預かってお前が先に村へ入れ。お兄さん、その腰に下げている剣をリゼットに渡したら、15mほど下がってくれ」
ガストンと呼ばれた門番の大男はもうひとりの男へ指示を出す。
「おい! ジャコブ、速攻で櫓を降りてくれ! 急ぎ門を開け、リゼットを迎え入れろ! リゼット、先に村へ入れ! 俺が彼と話す!」
何だか、急展開って事で、俺は戸惑うが……
申し訳無さそうにして、リゼットが両手を合わせている。
「御免なさい、ケン様。怒らないで! これは村の規則なの、2回めからはこんな事無いわ」
成る程ねえ、村の規則か。
まあ、郷に入っては郷に従えだ。
笑顔の俺はリゼットに鞘に入った剣を渡した。
やはり申し訳無さそうに剣を受け取ったリゼットは、
門が開いて、現れたジャコブと共に村内へ消える。
再び門が閉められて、俺は物見櫓に居るガストンと正対した。
「おう! 少年! 悪いな! 恩人に対してこんな無礼な仕打ちをして。高所からで申し訳ないが、謝る!」
物見櫓から、ガストンは、深く頭を下げた。
彼は、中々礼儀正しい男のようだ。
しかし、俺はやはり『少年』と呼ばれた。
後でじっくり、自分の姿を、鏡か何かを借り、見てみよう……
俺は、そんな事を考えながら、やはり笑顔を返してやった。
「いや、気にするな。もしも俺があんたの立場だったら同じようにするよ」
「ははは、結構! では経緯を話してくれ」
「ああ、先ほどリゼットさんが言ったが、俺の名はケン・ユウキ、旅人だ。偶然だが道中、ゴブリンどもに襲われていたリゼットさんを助けた。これが証拠だ」
俺はそう言って、焼け焦げたゴブリンの頭と腕を目の前の地面に置いた。
続いて、さっきリゼットと打ち合わせした通りの内容を改めて丁寧に話す。
「ふむふむ」と相槌を打ちながら、聞くガストン。
どうやら、納得してくれたようだ。
「よし! 分かった! 武器を素直に渡してくれたし、証拠もある。ジャコブが、リゼットに話を聞いたが、本当のようだ。君は入村しても問題は無い! 今、門を開ける」
ガストンは、にっこり笑うと、村の正門を再び開けてくれた。
あくまで個人的な意見だし、ラノベ等の設定の話。
古今東西、こういった辺境の村の人間は、排他的かつ警戒心がやたらに強い。
しかし、一旦打ち解ければ、仲良くなるのは早い。
門番のガストンは「良く来たな!」と笑顔で門を開け、
同ジャコブも、「ボヌール村へようこそ!」と歓迎してくれた。
ようやく俺が村内へ入ると、リゼットが剣を抱え、
たたたたた! と駆け寄って来た。
「御免なさいっ!!」
リゼットは俺に剣を返すと、3度目となる両手合わせ。
命の恩人の俺に対して、本当に申し訳ないと思っているらしい。
俺は「気にするな」と声を掛け、微笑む。
こんな時は、にっこり笑顔が一番だろうから。
俺の笑顔と引き換えに、安心したリゼットはまた手を差し出して来る。
彼女の温かく小さな手を、俺はしっかり掴んであげた。
「ははは、王子様はモテモテだな」
ジャコブに見張りを任せ、物見櫓を降りて来たガストンが笑う。
どうやらリゼットと共に、
彼女の父親である村長の下へ連れて行ってくれるようだ。
「こっちだ!」
手を繋いだ俺とリゼットを従える形で、門番のガストンが先導する。
こうして……転生した俺は、管理神様の立てた予定通り?
中世西洋風異世界、プリムヴェール王国のボヌール村、
村長の自宅=リゼットの家へ着いたのである。
いつもご愛読頂きありがとうございます。
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