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第49話「泣かせないでよ、もう!」

クラン大狼(ビッグウルフ)を追い払った、その日の夜……


ブランシュ家別宅である俺の家では、『家族会議』が開かれている。


正確にいえば、将来、家族になるであろうメンバーでの会議であった。


ここまで来たら、俺も覚悟を決めた。


俺ひとりに、嫁大勢。


一夫多妻が、不真面目とか、みだらとか、

第三者から見れば、眉をひそめられそうだが、

リゼットを始め、女子達の熱い、かつ一途な気持ちをむげにしたくない。


全員、任せろ! 俺は甲斐性ありだぜ! って感じでがっつり受け止めてやる!

そんな決意を新たにした。


という事で、出席者は俺、リゼット、レベッカ、ミシェル、

そして親友のリゼットが本人への意思確認を行ったクラリス。

当然クッカも、空中に浮かんで、俺達の話を聞いている。


議題はというと、最優先事項は俺の嫁となるか、

改めての最終的な意思確認、


そして追い払ったクラン大狼(ビッグウルフ)の代理として、

エモシオンの町へ商隊の護衛で行く件等々だ。


司会進行役は、将来、第一夫人となるリゼット。

 

どちらかというと、大人しい性格のリゼットだが、今後の事もある。


ボヌール村内には基本的に身分云々は無い。


しかしリゼットは文字通り、村の長たる現村長の娘である。


今後は嫁達、つまり『嫁ズ』の中では、

年齢は15歳でもリゼットが中心となり、

イニシアティブを取って行かなくてはならない。


先日、俺を入れた3人で話し合った際、第二夫人を了承したレベッカが、

そう言い切ると、その後に、俺への嫁入りを宣言したミシェルからも、

「後々の事があるから、この時点で、しっかり序列を作るべきだ」と、

同じ意見が上がったのだ。


俺はそこまでしなくともと、思ったが……

俺達の中では、3歳年上のレベッカ、ミシェルに押し切られた形だ。


最後に嫁入り希望を出したクラリスも、

親友のリゼットが、立ち位置の呼び名を『第一夫人』または『正妻』

もしくは『正室』となる事を了承した。


だから俺がリゼットへ、今後このような『場』を仕切るよう勧め、

本人及び他の嫁候補達も、これまた了承したのである。


「皆さん、今夜の集会の内容は大事な話となりますけど、ご自分の気持ちは固まっていますか?」


気合の入ったリゼットの言葉に、全員が頷く。


「という事で、本日の最初の議題は、ケン様との結婚について、各自の意思確認ですね」


リゼットはそう言うと、全員の顔を見た。


「私達が住まうプリムヴェール王国は、一夫多妻制が認められております。


そして、ここに居る女子達は、

全員がケン様……すなわち旦那様の事を、大好きな子達ですよね。


私とレベッカ姉は、既に旦那様と話し合い、お嫁さんになる事を決断し、

直接、告げています。ちなみに私はケン様が唯一無二の方です!」


言い切ったリゼットの言葉を受け、

強い決意を秘めたという趣きのレベッカが大きく頷く。


そして声を張り上げる。


「はい! 私もリゼットと同じく、他の人との結婚は考えられません! 絶対に絶対に! ケン様のお嫁さんになりますっ!」


リゼットはその宣言を聞き、柔らかく微笑み、話を続ける。


「……という事で、ミシェル姉とクラリス、ふたりはどうですか?」


リゼットの問い掛けに対し、まずミシェルが元気よく挙手をする。


眼差しは真剣そのものだ。


おお、昼間のほんわかミシェルという雰囲気じゃない。

 

「当然、決めています! 私もケン様のお嫁さんになりますよ。ケン様、このようにお転婆で、不束者(ふつつかもの)の私ですが、宜しいでしょうか?」


息もつかず、一気に決意を言い切ったミシェル。


いつもの『友達感覚』かつ、バンカラな雰囲気が全く無く、

落ち着いて、一歩引く、しとやかな雰囲気が半端なく出まくっている。


おお! 女の子って……こんなに極端に……変身出来るんだ。


俺は、ミシェルの変貌振りに圧倒されながら、大きく頷いた。


「ああ! 大歓迎さ!」


当然、俺がOKを出すと、ミシェルは太陽に向かって咲く、

向日葵(ひまわり)のように笑った。


「ああ! ケン様! 本当にありがとうございます! リゼットとレベッカも宜しくお願いしますね」


「ええ、大歓迎です! ウチのファミリーにミシェル姉が入ってくれると、すっごく頼もしいです」


「あはは、私も全く同感だよ!」


ミシェルに挨拶された、リゼットとレベッカも嬉しそうだ。


そして次にリゼットは、親友でもあるクラリスに向き直る。


「最後に……クラリス。今回の集会には、ぜひ参加したい! と言った貴女の、ケン様へ対する気持ちを聞かせてくれますか?」


リゼットが、俺をケン様と呼び、レベッカとミシェルも同じく。


なので、クラリスも、俺をケン様と呼ぶ事にしたらしい。


「は、はい! 私もぜひ、ケン様のお嫁さんになりたいと思っています……でも、こんな私……でも宜しいのでしょうか?」


クラリスは、不安そうに俺を見た。

まるでおずおずと、問い掛けるような眼差しだ。


俺は、思わず聞いてしまう。


「こんな私?」


「はい……私は他の皆様に比べると地味で、性格も暗い女の子だって、自分でも分かっていますから」 


いやいやいや! そんな事は、ない!

クラリスは、とっても可愛い。


切れ長の垂れ目が目立つ、優しい笑顔が魅力的。


クラリスは男女問わず、誰もが癒される素晴らしい女の子だ。

どこが……こんな、なのだろう。


俺は、そんな気持ちを込めて、クラリスへ告げる。


「こんな私、なんてとんでもないぜ。お前はとても可愛いし、その優しい笑顔で俺や家族を素敵に癒してくれる子だ」


「そ、そんな……」


俺が励ましても、相変わらず自信がなさそうなクラリス。

彼女を優しく見つめ、俺はきっぱりと言い放つ。


「絶対にそうなの! ……でも良いのか? 結婚とは一生のモノだけれど、俺達はあの畑の時しか、同じ時間を過ごしていないんだぜ」


俺の言葉を聞いたクラリスは、とても嬉しそうな笑顔を見せる。


ほら! それなんだよ。


皆をホッとさせる、お前の優しい癒し笑顔は最高なんだ。


クラリスは俺の顔を見た後、何か決意したかのように頷く。

そして、真顔に戻ると、淡々と話を続けたのである。


「……私は魔物の襲撃で両親が亡くなって以来、たったひとりで生きて来ました。村の人達は優しいし、リゼットは親しい友達として、とても良くしてくれました。だけど私はやっぱり、一緒に暮らせる家族が欲しかった」


多分、初めて人前で言うのだろう。

とても大人しいクラリスが、滅多に言わない本音。


親友のリゼットを始めとして、

レベッカもミシェルも、じっとクラリスを見つめている。


「あの時……ケン様が私を手伝おうと声を掛けてくれて、本当に嬉しかった」


「…………」


「ふたりで一緒に畑を耕した時、ああ、私、今、凄く凄く幸せだなあ、と心の底から思ったんです」


「…………」


「私と一緒にコツコツやってくれる優しい人が、ケン様みたいな人が、私は好きなんです」


クラリスは、まっすぐに俺を見つめる。


「それに……ふたりで過ごした時間は、他の皆様に比べ、全然短いかもしれませんけれど、私にとっては、かけがえのない素晴らしい素敵な時間……そんな時間を、また、ケン様と過ごしてみたい。いいえ、一生過ごしてみたい」


おいおい、クラリス……何て事言うんだ?


俺、嬉しくて泣きそうじゃないか。


何か、クラリスが(にじ)んで見えてしまってる。


ここで決めてやらなきゃ、男じゃない。

だから俺は、大声で叫んだ。


「クラリス、おいで! 俺の嫁になってくれ、お前は絶対に必要さ」


見ると、クラリスの瞳にも、嬉し涙が一杯になってウルウルしている。


両手を広げると、クラリスは泣きながら、俺の胸へ飛び込んで来たのであった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『良いなぁ……私はそっちの世界では実体がない幻影……抱き締めて貰うなんて出来やしないし、やっぱりお嫁さんにはなれないんだ』


先ほどからクッカが、落ち込んでいた。

 

空中に浮かんだまま、元気なく項垂(うなだ)れてしまっている。


さっきから、村の女の子達が『花嫁宣言』をして、

正式に俺との結婚が決まったから無理もない。


俺は、そんなクッカを暫く見ていたが、実は決めていた事がある。


こんな事をしたら、管理神様には叱られるかもしれない。


いや、絶対に激怒するだろう。


だけど……


「皆、注目!」


俺がいきなり手を挙げたので、リゼット達は何事かと俺を見た。


「今まで隠していて悪いが、俺のお嫁さんになる女の子がもうひとり居る!」


「「「「えええっ!」」」」


驚く、リゼット達4人。


そしてリゼット達以上に驚いたのが……クッカである。


『ケ、ケン様ぁ!? そ、それってまずいです! それ以上言ってはいけません!』


焦りまくって、必死に制止するクッカ。


当然だろうな、

天界の女神様の存在を、一般人へカミングアウトするなんて、

とんでもない禁忌であろうから。


しかし俺は言う!


『大丈夫さ、クッカ。責任は俺が全て取る。俺が管理神様に土下座してお前をお嫁に貰えば良いんだろ』


『え、ええっ!?』


まだ驚いているリゼット達へ、俺は改めて言う。


「実は、もうひとりの子もお前達と同じ、俺の大事な大事な女神様なんだ」


「え!? 私達と同じ!?」

「大事な大事な!?」

「私達は……女神様!? なのですか!?」


大いに戸惑うレベッカ、ミシェル、クラリスが俺の言葉を繰り返す。


ここで、リゼットが俺へ尋ねる。


「旦那様、その子って、多分ですが……ボヌール村の女の子じゃあないですよね。一体どこに居るのですか?」


「ここさ」


俺は、クッカが居る空中を指差した。


しかし、幻影化しているクッカは、俺以外には見えない。


「え? ままま、まさか幽霊ですか?」

「ええっ、こ、怖い!」

「私、駄目なんです。そういうの……」


今度はリゼット、レベッカ、クラリスが怯えたように、

クッカの居る空中へ視線を走らせた。


「ケン様!」


ここで、ぴしり!と俺の名を呼んだのはミシェルである。

彼女の表情は、怖いほど真剣であった。


「そのお方、天界の女神様……なんですね。分かりました! それでお名前は?」


「ああ、名前か、……クッカだ!」


「クッカ様……ですか」


ミシェルは確かめるように、クッカの名を呼んだ。

そして、俺が指差した方向へ、深々と頭を下げたのである。


「初めまして! 天界の女神様たるクッカ様! 大いなるお力をお持ちの貴女様のご加護なくして、ケン様と私達は結ばれませんでした。本当にありがとうございます」


いきなり突飛な行動に出たミシェルに対し、

リゼット達は勿論、俺も、当のクッカもびっくりしている。


顔を上げたミシェルは、にっこり笑う。


「女神様である貴女様も、旦那様のお(そば)に居らして、恋してしまった……そしお嫁さんになりたいと思われた……で、あれば私達は歓迎致します! いえ! 大歓迎致しますよ!」


「ふう」と息を吐き、ミシェルは話を続ける。


「今、私達には残念ながら貴女様のお姿は見えません。ですが、いずれお会いして、一緒に仲良く暮らせる日が来る事を、心の底からお祈りしております」


美少女4人の中で1番信心深いと思われるミシェルは、

俺の言葉に『何か』を感じたのであろう。

姿が見えないクッカを、喜んで迎え入れると宣言したのである。


片や、リゼット、レベッカ、クラリスは、真剣なミシェルの気迫に、

圧倒されてしまっていた。


そしてミシェルに強く促されると、

全員でもう一度、見えないクッカに向かって、深く深く頭を下げたのである。


そして、そのクッカはといえば……

 

胸が一杯になって、うまく言葉が出ないようだ。

真っ赤に腫らした目には、涙がたくさん溜まっている。


やがてクッカは、我慢出来ずに泣き始めた。

 

これは……嬉し泣きだ。


『あ、ううううう……あああああ……』


クッカが手で顔を覆って泣く姿が、俺にも(にじ)んで見えている。


ああ、今夜の俺は泣き上戸のようだ。


明日以降出発するエモシオン行きの段取りが話し合われて、

リゼット達が引き上げてからも……

 

俺にしか聞こえない、クッカのむせび泣く声が、

部屋にいつまでもいつまでも響いていたのであった……

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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