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第46話「ふるさと勇者は劇画ヒーロー」

怒りの形相で、拳を振り上げながら襲って来る、

クラン大狼(ビッグウルフ)メンバー3人の男達。

 

モブキャラなら、大いにびびるところだが、今の俺はレベル99のふるさと勇者。

全く臆さずに奴等へ向かって歩いて行く。


肩を怒らせ、奴等へ迫る俺は、まるで敵地へ乗り込むヒーローである。

自分自身を見る事は出来ないが、想像すると我ながらカッコい~。


と、いきなり俺の心の中に異音が聞こえる。


『ざっざっざっ!』


「は?」


『ざっざっざっ!』


おいおいおい! 何? この、やたらに迫力ある劇画調の足音は?

荒野に響く、かっこいい靴音って感じだ。


でも何故か、俺の心の中だけで聞こえてるようだぞ?


それに……何か変だ。


俺の歩いている場所の足元は、草がびっしり生えていて、

そういう、砂混じりの土を踏みしめるような擬音はしない筈なんだが……


と、いうかこの足音は……『口』で言っている『擬音』だ。


ははぁ、誰が犯人なのか、分かったぞ。

 

『おい、クッカ!』


『ざっざっざっ! って、あれえ、気付きましたあ?』


(とぼ)け顔で、にこっと爽やかに笑うクッカ。


厳しいツッコミをしようとした俺は、思い切り外されてしまった。


だって、クッカったら……やっぱり可愛いんだもの。


爽やかな笑顔を見たら、男子はキュン死確定だ。

でも言うだけは言わないと!


『あれぇ? じゃないよ、ざっざっざっ! って何、それ?』


『ええっと、……少しでもケン様に、気合を入れて頂く為の効果音です』


『え!? き、気合いを入れて頂く? こ、効果音?』


『はい! 敵との対決シーンには、カッコいい足音が必須です。そう! モチベーションアップの為に必要なのです!』


『そ、そう?』


『はいっ! 絶対無敵な正義のヒーローが、あまりにも酷い悪党の理不尽さに対し、凄まじい怒りに萌えて、いえ訂正! 燃えて、ですね! 格好良く歩く時には必須の効果音ですよね、キリッ!』


早口で言い切ると、空中で、「ぴしっ!」と姿勢を正すクッカ。

君こそ、気合がすっごく入っていて、敬礼までしているよ。


『……あのね、何となく分かるけど……ま、いっか』


俺の『ウケ』があまり良くないので、クッカは少し元気をなくしてしまう。


『え? 反応……えらく薄いですね……もしかして……私がした事は、とっても余計だったのでしょうか?』


ええっと、余計って、言われてもさ……困るんだけど……


だって迫力ある効果音って、微妙なフォロー……

その上、俺自身にしか聞こえないし……あまり意味が無いのかも。


……しかし俺は、そんなクッカが、だんだんいじらしくなって来た。


この子はこの子なりに、俺の為を思って一生懸命やってくれたんだって。


ごめん! と、心の中で謝った俺は、猿でも出来る反省をする。


『い、いや! 申し訳ない! 凄く嬉しいよ、クッカ! ありがとう!』


『ほ、本当に?』


『ああ、も~っと、盛大にば~んとやってくれ。気合が入れば正義のヒーローとして、俺のノリが良くなるからさ』


『良かったあ! ケン様、私……少しはお役に立てていますよねっ!』


嬉しそうに声を張り上げ、かつ微笑んで、俺へ一気に近付くクッカ。


ああ、顔と顔がすっごく近いんですけど。

幻影の筈なのに、彼女の甘い息がふっとかかる。


『お、おお、そうだよ。クッカは俺にとって絶対に必要な相棒さ』


『えええ!? あ、相棒? ケン様の相棒って!? ううう、そんなぁ……私って、そんなに遠い存在なのですかあ!』


あちゃあ、まずった!

俺の相棒……この子はこういう表現じゃあ駄目なんだ!


もっとストレートに、この子の近しい立ち位置を示さないと。


『いや、もとい! 俺にとって、クッカは愛する嫁として、絶対に必要不可欠な女子だ!』


『へ!? 愛する嫁!? 絶対に必要不可欠な女子!? ホントですかぁ? やったぁ!! じゃあバンバン行きますよぉ!!』


空中で、飛び上がって喜ぶクッカ。

終いには、トンボ返りまでしている。


ああ、やっぱり可愛い奴め。


しかし、クッカといちゃいちゃして遊んでいる間に……


クラン大狼(ビッグウルフ)の男達3人は俺の目前に迫っていた。


だが意外にも、男達はいきなり襲い掛かっては来なかった。

何をしたかというと髭の不埒リーダー、

ガエル・カンポ同様に、恫喝(どうかつ)である。


「なんだぁ、てめぇ、生意気だぞぉ!」


「お~、こらあっ!」


「素直にリーダーの言う事が聞けないのか? さっきの女を献上したらすぐ土下座して速攻帰れや、ガキが!」


これって……大体、お約束のパターンだ。

相手の手の内が、丸わかり。

 

俺がびびって後ずさると、かさにかかって更に攻めたてるって事か。

ひとりじゃなく、3人で一緒にいうのがいかにも小悪党。


あれ? 恫喝しながらも、3人から僅かだが、憐憫の波動が洩れているぞ。

 

どうやら大の男3人で俺みたいな15歳の『餓鬼』をいたぶるのに、

少しだけ躊躇があるようだ。


奴等には、ほんのちょっとだけ『良心』とやらが残っていたらしい。

ならば、リーダーはともかく、こいつらには少し手加減してやろうかとも思う。


しかし!


「どけぃ! 雑魚(さこ)どもがぁ!」


あ、あれぇ!? 俺の口が急に?

勝手に動いてる!?

 

それどころか、止まらねぇ! 言葉が、どんどん出て来るぞ。

 

おお、これは!


あのむさ苦しい人狼ライカンと戦った時と同じ、

クッカによる俺の『声帯ジャック』だぁ!


こうなると、クッカの挑発は止まらない。


俺の口からは、言葉が出続ける。


「おい! 俺がな、用のあるのは、あのドスケベな髭男(ひげお)だけだぁ! お前達みたいな、しょーもないゴミ雑魚はなあ、邪魔だ、邪魔! うろうろしないで、さっさと道をあけ、土下座してひれ伏せ! さもないとやっつける!」


「な、ゴミ? 俺達が、ゴミ雑魚だとぉ!」


「このクッソガキぃぃ!」


「こっちが下手(したて)に出りゃ、付け上がりやがって!」


案の定、3人は超激怒。

 

あ~あ、俺がほんのガキだから、

ちょっち手加減するなんて、もうそんなの無しだ。


しかし、俺の口は……

いやクッカは、まさにノリノリ絶好調である。


「はぁ? てめえらが狼? てんで笑わせるぜ! 小汚い、負け犬悪党の遠吠えは聞こえんな。そもそもお前等のような、最低最悪な人間のくされ屑に、この世を生きる資格はねぇ!」


いやいやいや! 違う! 違う! 違~う!


俺はこんなかっこいい! ……いや、ひでぇ事は言わない。

言ったのは、口の超わる~い美女神様なんだぞ!

 

だけど、そんな言い訳を、伝えられる筈もない。

絶対の秘密なんだから。

 

結局、奴等の怒りは頂点に達し、完全に燃え上がってしまった。


「クソガキ! 俺達は小汚い負け犬じゃねぇ、つえ~狼だ! もう許せねぇ!」


「そうだ、くされ屑じゃねぇ! コロス!」


「てめぇこそ、メタメタにしてやるっ!」


激高した男達が襲い掛かろうとする瞬間、何かが燃え上がるような音がする。


『ごおおおおおおおおおお!!』


「ええっ!」「あわわっ!」「ひっ!」


何と! 3人の男達は、俺の姿を見直すと悲鳴をあげ、

「ぺたん」と座り込んでしまったのである。

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