第43話「大空屋でまったりだった……筈だけど」
ボヌール村唯一の商店、
昔のコンビニにあたる何でも屋の万屋。
俺の嫁になる事を切に願う、ミシェルの居住する実家は、
中規模家屋の住居部分と倉庫付きの大空屋の店舗、
それに付属する宿屋で構成されていた。
大空屋の店舗内は狭いが、木造で、結構渋い趣きがある。
但し、倉庫は仕入れをした商品備蓄の為に、結構広いとミシェルからは聞いた。
その隣が10部屋ある宿屋なのだ。
話を戻すと、倉庫を除く、大空屋の店舗内の広さは、
日本ならば.、ほんの10畳強っていうところ。
どこかのワンルームマンションと同じくらいだといえよう。
そして建物全体の造りや内装の仕様は、西洋風なのでまるっきり違うが、
持つ雰囲気はどことなく、ノスタルジックな日本の駄菓子屋に似ている。
内部は左右に、商品展示用のカウンター。
正面に、販売と買い取りを行うカウンター。
都合3つの、大型木製カウンターが置かれていた。
さあて、そろそろ『研修』の再開だ。
「こっちよ!」
ミシェルが俺の手を引っ張って、店の奥へ連れて行く。
どうやら、正面カウンター奥にある扉の向こうが倉庫、
つまりストックヤードになっているらしい。
ああ、懐かしい。
また、店員をやるのか。
某コンビニでのバイトの思い出が、鮮やかに甦るぜ。
……思い出す……俺がしばらくの間、バイトをしていたコンビニ。
店のオーナーさんの地声が大きくて、気骨とやる気のある熱血漢。
仕事熱心で気配り上手なオーナーさんの影響で凄く活気のある職場。
フランチャイズの本社指導員も売上げが好成績の為か、
いつもニコニコ笑顔で良く巡回に来ていたっけ。
そんな事を考えながら、カウンター奥のストックヤードを見ると、
そこには様々な商品がきちんと整理され、置かれていた。
「ケン、ここに在庫があるから、まずは品出しをしてくれる? 品出しする商品は左右のカウンターには並べないでOK! 中央奥のカウンターにとりあえず置くだけで構わないよ」
「おお、品出しって懐かしいな、 了解!」
俺はついそう呟いて、行動を開始した。
ミシェルの指示で店の入り口から奥に向かって、
右側のカウンターが食料品、左側が日用品と分けて並べる事を教えて貰う。
この村は基本的に自給自足で、村民は自炊が基本。
だけど、さっきの朝の弁当のように店に対する需要は結構あるらしい。
例えば……食べるのは大好きだけど、
自分では、絶対に作らないレベッカへは、甘い蜂蜜が大いに売れる、とかね。
ミシェル曰はく、そういうパターンが多いのだと言う。
食料品で、まず目が行ったのが肉なのは、俺がお肉大好きなせいもある。
ニワトリ、ブタなどの家畜系の肉を始めとして、
レベッカが草原で狩って、
持ち込んで来る、兎や山鳥、鹿、猪、等々のジビエ系など多種多様。
前世のスーパーの精肉コーナーで俺が見たような、
綺麗で細かい肉片の、パック入りなんかとんでもない。
毛をむしった頭とか、シンプルにさばいた手足がそのままの形状で、
当たり前のように売られているのは結構シュールだ。
でも……俺はつい尋ねてしまう。
「ミシェル、生肉って、基本的に足が早い、つまり、すぐ鮮度が落ちるよね?」
「うん、その通り。だから、なるべく早く売り切っちゃう。時間がある時とか、季節によっては、保存用として、燻製とか、干し肉、塩漬けにして、売るのよ」
「成る程……燻製や干し肉、塩漬けは保存用か」
この中世西洋風異世界には、当然、冷蔵庫など無い。
聞けば、この国の王都では魔力をエネルギー化して、
まるで電気のように使っているとの事だが、
辺境の田舎ボヌール村では、そんな設備は無い。
ここで俺はひらめいた。
雑学知識が出たのである。
「あの、ミシェルはさ、氷室って、知ってる?」
「え? 氷室? 何それ? 知らないよ、そんなの、聞いた事も無いよ」
「そっか。氷室っていうのはね」
ここで補足しよう。
氷室とは、自然の氷や雪を保存するために作られた施設。
貯蔵された氷や雪により、低温に保たれた室内には、
主に食料品が保存される事が多い、言わば冷蔵庫の役目を果たす。
また涼を取ったりする為に、昔から利用されて来た。
年間を通し、温度が比較的安定している為、氷室は地中に造られる事が多く、
いかに効率良く、氷を保存するかが鍵。
住んでいる場所の気候にもよるが、保冷用の氷、雪をもたせる為に、
おがくずをまぶすとか、いろいろ小技を使う必要がある。
また適度な換気も必要となる。
俺が地属性魔法で洞窟を造り、そこへ水属性魔法で氷を作ればとか、
何とか、なるのでは、と考えてしまう。
「ミシェル的にはさ、あまりイメージが湧かないかもしれないけれど、氷室は、氷や雪を保存するだけではなく、肉や魚、そして野菜などを長期保存するのにも便利なんだ。もしも造る事が出来たら、大空屋にも大きなプラスになると思うよ」
「へえ! 自然の氷を夏まで保存する施設で、肉や魚、野菜などを長期保存するのにも便利なの? ……じゃあ、ちょっと考えてみようか!」
という事で、氷室の設営が、俺の課題として加わった。
その野菜はといえば、キャベツ、タマネギ、ジャガイモ、カブその他。
洗っているわけなどなく、豪快に土、泥がどっさり付いたまま売られている。
卵は安くてお手軽に食べられるので、店内では結構幅を利かせていた。
村でも、卵料理は安くて大人気だから。
数年前の大規模な魔物の襲撃で殺されて以来、村には牛が全く居ない。
代用は、山羊の乳にそのチーズ。
また、忘れちゃいけない主食のライ麦パンとライ麦粉。
香辛料はスタミナもつくせいか、お手軽なニンニクが最も好まれるらしい。
嗜好品の酒に関してワインは自家生産だが、エールは外部から購入。
紅茶は安価だが、種類は少ない。
そして、大空屋の名物である蜂蜜だが、
高さ1m以上もある巨大な壷に入っていた。
村民にはレベッカのような甘党が多いらしいので、
量り売りでかなりの量が売れるそうだ。
ミシェルとイザベルさんは自分達の所有する農地の片隅に巣箱を置き、
ミツバチを飼い、蜂蜜を作っている。
いわゆる養蜂農家。
健気な働き者のミツバチは、花の蜜を集めるだけではなく、
農地で栽培する、野菜の受粉もしてくれるので、村では一石二鳥だと好評らしい。
ただ食料品は店に冷蔵設備が無いので、
日持ちするもの以外は当日売り切り、それが基本である。
なので、俺の氷室設営の提案に対し、ミシェルは興味を示したのだ。
一方、日用品は目立つものだと、可愛い女性用の衣服が置いてある。
主に祝い事用らしいが、
何と! あの癒し系美少女クラリスの自作だそうだ。
ミシェルが、感心したように言う。
「クラリスって、服も作るし、絵も上手い。とても器用なのよ。多才多芸なの」
「へぇ、多才多芸か、そりゃ凄いな」
ならば、クラリスのイメージは、
ボヌール村のレオナルド・ダ・ヴィンチとか、なんちゃって。
そして、他にも、良く見る農作業着が置いてあった。
イザベルさんも着ていたジャーキンとホーズで、
いわゆる村のメインユニフォームって奴だろう。
「服はね。作る手間と時間がかかるから、大体エモシオンの町で仕入れて売るの」
ふ~ん。
中世西洋は大体自作のオーダーメイドばかりなのにな、と俺は思う。
「でも……サイズはどうするの?」
気になった俺が尋ねると、ミシェルはにっこり笑う。
「大丈夫! 平均サイズのものは定期的にかつ多めに仕入れるし、他のサイズもノープロブレム。何故ならば、村民全員のサイズは、ほとんど母さんと私の頭に入っているから。どれくらいで買い換えるかという事もほぼ予想出来るよ」
そりゃ、凄い!
ぱねぇっす、偉いっす、ミシェル様。
ほうき、熊手は必需品なのだが、村で作れる人が不在。
鉄製の鍋や包丁なども一緒で、
鍛冶屋不在の村では、共にどこかから仕入れるしか無い。
そして店頭に置いていないのが、武器防具。
先程紹介した包丁などの刃物もだ。
ボヌール村の村民に不埒な者など居やしないが、一応安全の為なのである。
意外なのが紙と筆記用具、そして創世神様の教えを書いたものや、
若い女性に受けそうな恋愛小説などの古本が置いてあった。
残念ながら化粧品は無いが、他にリボンや髪留め、指輪など装身具も少々。
これらは、村の女性陣に好評だという。
そりゃ、ボヌール村みたいな田舎だって、おしゃれは必要。
嫁達が可愛くなったら、俺だって凄く嬉しいから。
商品の配置には色々と決まりがあるらしく、
俺が運んだ商品をミシェルがてきぱきと並べて行く。
瞬く間に、整然と商品が並べられた。
「やっぱりさ、ふたりでやると早いよね」
ミシェルは俺を見て、嬉しそうに微笑む。
そうか! これで準備万端!
ようし、売って売って、売りまくるぞぉ。
準備が整うと、俺は気合が入って来る。
「ミシェル、スタンバイOKだ。じゃあ後はお客だけだな?」
しかし、ミシェルはのんびりしたもの。
俺が勢い込んで聞くと、さらりと躱されたのである。
「うふふ、ケン。ここはさ、エモシオンの町と違ってせわしなくないんだ。お客が来ない日も、しょっちゅうだよ」
そうか! 都会と違って、この村はゆっくりゆっくり時間が流れている。
ああ! これこそ! 前世の俺が望んだ生活なんだよ。
帰りたいと思った故郷ではないが、俺はこのボヌール村が大好きだ!
村民は皆、親切でフレンドリー。
質素だが、食べ物は美味しいし、出来る仕事は多いし、やりがいもある!
そして今や! 俺には優しい美少女嫁候補が何人も居る。
うん、大満足だ!
良いぞ、中世西洋風異世界最高! ボヌール村最高だ!
管理神様、ありがとぉ!
「まあ夕方には、ジェトレ村の商隊が来るから、今日は忙しくなるけどね」
ああ、そうだった!
じゃあ、とりあえずはのんびりしよう。
ミシェルと、イチャイチャしていよう。
そもそも、彼女の方から大胆なアプローチをして来たんだもの。
誰も見ていなかったら、
俺の方から、もっとディープな秘密のアクションでも起こしてみようか?
いやそんな事をしたら……クッカに、えらく怒られるからやめておこう。
俺は苦笑し、何とか自制したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺は相当、気合いを入れて待っていたのだが……
結局、その日は客がひとりしか来なかった。
村の年配男性で、紅茶と蜂蜜を買って行った。
最近、紅茶に蜂蜜を入れて飲むのが、村では流行っているようだ。
話を聞いたら、これって、美味そうだし、今度、俺もやってみようかな。
という事で、客が来ない間、俺はず~っとミシェルと話していた。
お互いを良く知りたいという、希望を叶える為の地道な積み重ねだ。
さすがに秘密のディープなアクションを起こす事は自制したが、
俺とミシェルは、コミュニケーションを取る為、
互いの手をぎゅ!と握ったり、軽いハグ等のスキンシップもした。
相手が『俺限定』という前提のルールがあるだろうが、
ミシェルはスキンシップがかなり好きらしい。
俺と触れ合う事で更に機嫌が良くなり、良く喋るし、良く笑う。
彼女は基本的には楽天家で、くよくよ引きずらない性格。
リゼット、レベッカ、そしてクラリスとも性格、考え方が違うが、
他の嫁候補とも相性は良いと、俺の勘が告げている。
皆で一緒に結婚しても、ひとつの家族として上手くやっていけそうだ。
まあ、あくまで個人的な意見なのだが……
嫁候補達は皆、タイプが違うからこそ、面白いと言える。
そして、話していて感じたが、
大空屋で買い物に来る数多の村民達と話しているせいか、ミシェルは村の情報通。
なので彼女と長くいろいろな内容の話をしていたお陰か、
俺は彼女自身の様々な事は勿論、この村の事もだいぶ詳しくなった。
そして俺の持つ秘密だが、リゼットもレベッカも、
約束通り、詳しくは言っていないようだ。
ただ『とんでもなく強い』とは言っているらしく、
ミシェルは俺を頼もしそうに見つめて来る。
うん! お互いを更に深く知りつつ、
ミシェルとの仲は、順調に順調に深まっていると実感する。
ちなみにクッカは俺とのデートの約束が余程嬉しいのか、
嫉妬などせず、大人しく空中に座り、笑顔で俺達を見つめていた。
そんなこんなであっと言う間に時間は過ぎ……
店の魔導時計は午後3時を回った。
魔導時計を見たミシェルは、小さく頷く。
「頃合だ」という表情である。
「うん、そろそろ店仕舞いかな」
え? まだ、午後3時過ぎだぜ。
ちょっち早くないか?
俺はそう思ったので、さりげなく聞いてみる。
「ええっと、ミシェル。まだ午後3時なんだけど……」
「良いの、良いの。全然、構わない。さっきも言ったけど、今日はジェトレ村の商隊が来るから、宿に迎えたり、仕入れのやりとりをするのよ」
「ああ、成る程……商隊が来たら来たで色々準備が要るんだな」
「そのとお~り」
ミシェルが、笑って同意した瞬間!
誰かが、店の前で叫んでいる。
「大変だ~っ!! 正門でガストン達とお!! ジェトレ村からやって来た、商隊の奴等があ!! 睨み合ってえ!! まさに一触即発だぞお!!」
えええ!!?? おいおいおい!! ななな、何ですと!!??
「急ごうっ!」
「うん!」
驚いた俺とミシェルは、店の戸締りをすると、
急ぎ正門へ向けて、走り出したのである。
いつもご愛読頂きありがとうございます。
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お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、
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