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第42話「俺はムコ殿」

今朝、夜中から作業し、午前3時に焼き上げた、

麗しきミシェル母娘(おやこ)が提供する、

紅茶付きの蜂蜜塗り放題、大空屋特製パン弁当は美味い。


否、すっごく美味い!

 

香ばしい焼きたてのライ麦パンに、ピッタリ合う濃厚な特製蜂蜜。

そして芳醇な紅茶のセット。

自ら朝飯として、完食した俺も納得だ。


「らっしぇ! なんやら」たる俺の、叩き売り的な口上が珍しい事もあって……


俺の未来の嫁達とその家族達は勿論、他の村民達もどんどん買ってくれ、

午前6時から発売した弁当は、わずか20分程度で、

用意した100個が即座に完売してしまった。


むう! ボヌール村の全村民は102名だと聞いている。

単純に考えると、殆どの村民が購入するという人気ぶり。


中には、面倒だから昼食分もそれで、と2個購入した村民も居た。


兎にも角にも、速攻で完売!


俺とミシェル、そしてイザベルさんは、

ガッツポーズ&ハイタッチで喜び合う。


「うふふ、やったね!」


「さすが、ムコ殿!」


おいおいおい、俺は既に婿殿決定なんだ(笑い)


敢えて、それには突っ込まず、俺はしれっと尋ねる。


「ええっと、次は何をすれば良いでしょうか?」


俺が尋ねると、イザベルさんは、え?という顔。


「あらら、ちょっと……身体は大丈夫? 朝早かったし、疲れたんじゃない?」


「いえ、全然大丈夫っす!」


俺が答えると、イザベルさんは嬉しそうに笑顔。


「へぇ! ケンはさ、ちょっと休みたいとか、全然言わないんだ。さすが働き者だね、我がムコ殿は」


うん、管理神様が授けてくれたレベル99のこの身体。

これくらいの労働は大楽勝だ。


「いやぁ、まだまだ全然、大丈夫ですから」


「うふふ、でもね、一旦ひと休みしてから店を開けよう。とりあえずテーブルを片付けてくれる?」


「お任せください!」


イザベルさんに頼まれた俺は、

『販売台』として使っていた、宿屋の食堂用の木製テーブルを抱えて中へ戻す。


例によってチート能力全開で、軽々とテーブルを抱えて運ぶ途中、

背後から母娘の『ひそひそ話』が聞こえて来る。


「ふふ、ケンって気は優しくて力持ちか。やっぱり父さん、そっくりだよ」


「そうよね、母さん」


「やっぱり私、お嫁にして貰おうかしら?」


「いやいや、母娘で嫁入りはさすがにまずいでしょ?」


「全然大丈夫だって! この村は若い男不足なんだから。ミシェル、貴女、可愛い妹が欲しいって言っていたでしょう? もしお嫁にして貰ったら私、ケンと毎晩、ガンガン頑張っちゃうよぉ」


「それは確かに可愛い妹は欲しいけど……」


いや、あのね、悪いけど……

聞こえていますって、内緒話、全部!


何故ならば、聞き耳を立てたレベル99たる俺の聴力は現在、常人の何十倍。


ええっと……毎晩、ガンガン頑張るって? 一体、何を?


先日のレベッカ&ガストンさんの「孫欲しい」の会話と一緒。

なんちゅう生々しさ。


何も聞かなかったように装った俺が戻ると、

ミシェルとイザベルさんは、満面の笑みを浮かべて来た。


うお! ちょっと、怖い。


「店に入ろう」


ミシェルが、俺に手を差し出して来る。


手をつなぐのは、もうお約束とでも言うように。


そんな俺達を見て、イザベルさんは、にこにこしっ放しだ。


「じゃあミシェル、ケンを頼むね。私は昼と宿の仕込みをするから」


え? 昼と宿の仕込み?

それって何だろう?


「昼と宿の仕込み……ですか?」


「うん! ウチに、お昼ごはん食べに来る人が結構居るの。それと、今日の午後はジェトレ村の商隊が来る予定なんだ」


おお、お昼ご飯はともかく、他の村の商隊が来るんだ?


どんな感じなんだろうか? 面白そう、ちょっと見てみたい。

 

「へぇ! 商隊? ジェトレ村のですか?」

 

どうやら俺は、目を輝かせていたらしい。


興味津々の俺に対し、イザベルさんは詳しく説明してくれた。


「そう! ジェトレ村はね、このボヌール村の北にある大きな村なの。出発した商隊が南下して、領主オベール様の治める町エモシオンへ行く途中、中継点として、このボヌール村に寄るのよ。大体ウチの宿で、一泊して翌朝に出発するわ」


「成る程、そうなんですか」


「うん、ほんの少しだけど、ウチの店へ販売用の商品も卸してくれるのよ」


「成る程」


「じゃあ、私はその支度があるから、ミシェルとお店をお願い」


イザベルさんは手を振りながら、宿屋の奥へ入ってしまう。


聞けば、食堂の奥に宿泊用の部屋と厨房があるそうだ。


そして……ミシェルは俺の手を握って、店へと引っ張る。


「ケン、明日から数日間は私に付き合って! 明日は商隊と一緒にエモシオンの町へ販売と仕入れに行くのよ」


「え? 商隊と一緒にエモシオンの町へ? 俺が?」


「うん、商隊にはさ、彼らが雇った強い護衛が、大抵付いているから、私達が単独でエモシオンへ行くよりも、ず~っと安全だもの」


おお、商隊と一緒だと、護衛が居るから、安全か。


成る程なあ!


確かに、ミシェルひとりで町へ行かせるわけにはいかない。

道中が、とても心配だもの。


確か……魔物、賊とかが、わらわら出るって聞いたぞ。


こういう時はすぐ確認。


「でも、エモシオンの町までの道中って、何か出るの?」


「うん、魔物は勿論、追いはぎとか、山賊とか、食い詰めた傭兵とかが、結構ね」


ああ、それ全部、『強盗』って奴だ。


ゴブとか、オーガとか、凶悪な人喰いの魔物だけじゃなく、

金目当てのそんな奴等も出るのならそりゃ怖いだろう。


当然、武装しているだろうし。


相当なヤバさだな。


これから俺も、人間とも戦うんだろうな。


でも、危害を加えようとする奴らは、絶対に許せない!


想い人と家族、仲間を守る為に、俺は断固として戦うぞ!


「基本的には母さんじゃなくて、私がエモシオンの町へ行くのよ。今まではグレンさんと一緒に行っていたんだけど、さすがにもうお年でさ」


「グレンさん?」


聞けば、グレンさんというのは、

俺が良く知らない村の農地担当の男性だそう。


だが、グレンさん、当年72歳……


「いやあ、悪いな、ミシェル。小さな荷馬車を使って、町までの旅及び運搬の力仕事は、体力的にもうきついよ。ごめんな!」


って、はっきりと言われ、断られてしまったらしい。

 

加えて、既に老齢のグレンさんが、一応、道中の護衛役も兼ねていたので、

ミシェルの方でも不安は(つの)っていたようだ。


俺は事情を理解し、言葉を返す。


「そういう事ならば、話は分かった。けれど、一応、リゼット達にも話を通しておきたいな」


「うふふ、あの子達ったら、ケンが数日居なくなるだけで、すっごく寂しがりそうだものね~」


あはは、ばれてーら。


「でもね! そんな事、言いながら……もう私も既にそうなってるよ」


大空屋の店内に入ってふたりきりになった途端、

ミシェルが俺にすがり付いて来た。


確かにキミも、相当な甘えん坊さんだ、うん。


「私って、いきなり、こんな馴れ馴れしくて変な子だなぁって思ったでしょ?」


確かに、いきなり『爆乳うりうり』は……ない。


話がうますぎるし、普通に考えれば美人局(つつもたせ)みたいだから。


もしも美人局(つつもたせ)であれば、

ミシェルにちょっとだけでも触ったら……


どこかから、いかつい男が出て来てこう言うだろう。


「おい! 俺の女に何をする! 金払え!」ってね。


だが、『ミシェルが変な子』だとか、さすがにそんな事は言いませんよ、俺は。 


「いやぁ、ミシェルが変な子とか、そんな事は全然無いけれどさ……何で俺に? そして、何故いきなり? って感じだったよ」


そう言うと、いきなりミシェルが俺を見据える。


今までの笑顔から一転、真剣な眼差しで見つめたのだ。


「ケン!」


「え? 何?」


「何だかさ、ケンって不思議……まるで大人みたいな気遣いをするよね。15歳って……本当?」


うわ! どきっ!


す、鋭い! がわは15歳だが、ホントの俺、中身は22歳。

18歳の君から見れば、4歳年上の兄貴みたいなもん。


確かに22歳は、前世で見ればまだまだ尻が青い。


けれど、さすがに15歳の少年に比べればず~っと大人。


う~む……何か変に思われたかな?


でも、違った。

ミシェルはまた、甘えて抱きついて来たのである。


「うふん♡ でも強いケンがそんな気遣いも出来て、優しいところが皆、好きなんだよ、きっと」


「そ、そうかな?」


「うん、リゼットやクラリスは15歳だから、ケンに頼るのは当たり前なんだけど……私が18歳で、レベッカも18歳。ケンより3つも年上なのに、すっかり頼り切っているもの♡」


おお、ここまで言われたら、俺も、

どこかの某ラノベの主人公の決め言葉を言わなきゃ!


「ああ、任せろ!」


「うふふ、任せろ!って、本当に頼もしい。じゃあ最初の話に戻るね。何故、私がいきなり甘えたかっていうと、やっぱりケンが父さんに似ていたからかな。ちょっと雰囲気が、ね」


成る程。


ミシェルは、超が付くお父さんっ子。

そう言うと、彼女も言っていたけど、ファザコン?って見られそう。


でも、何となく違う感じ。

お父さんを、凄く尊敬、リスペクトしていたっぽい。

 

だけどお父さんは、ミシェルを守る為に犠牲となり、

亡くなってしまったと聞いた。


それで悲しく寂しかったんだ。


なので俺に甘えた……


「俺が、亡くなられたお父さんに似ていたから興味が出たのかな?」


「うん、きっかけはね。そしてリゼットやレベッカから話を聞いて、この人ならば! って思ったの。それと……」


「それと?」


「うん! 私より年下だから少し、いじめてみようかなってのもあった」


「え? いじめるって?」


「うふふ♡ こうよ。うりうりうり……」


「あふふふ」


「うふふ、ケンをいじめるとか言って、結局、私がデレて、甘えてるうう!」


またもや出た。


背後に回って俺に抱き着き、

俺の背に胸をぐいぐい押し付けるミシェルの、うりうりぱふぱふ攻撃! 


き、気持ちいい~!! そして甘えまくるミシェルが可愛い!!


ああ、幸せだあ!! 異世界転生して、本当に良かったあ!!

 

だが、その瞬間!


コホン! いきなり咳払いが響く。


「君達、そうやって仲が良いのは大変結構! だけどいい加減、早く店を開けなさい」


店の入り口には……苦笑に近い笑顔のイザベルさんが、

腕組みをして立っていたのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


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