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第40話「私もいかが?」

大空屋に併設した宿屋の中で、俺はまたもや、イザベルさんに褒められる。


「ケンは女子に優しいだけじゃなく、農作業と狩りの研修も、両方バッチリだったみたいね? 凄いわね! 強いし、魔法も弓も使えて、何でも得意! オールラウンダーの万能じゃない! 素晴らしいわ♡」


「いやあ、それほどでも……」


「まあ! 謙遜しちゃって、もう!」


にっこり笑うイザベルさん。


おお、俺もこんなお母さんが居たら、マザコンに……

 

いや! 素敵なお姉様が居たら、絶対シスコンになっていただろう。

禁断の関係になりたくなる……なんちゃって!

 

ミシェルさんが「こらっ」というように、俺の方を見て悪戯っぽく笑う。

貴方の相手は私よ! とでも言うかのようだ。

 

そんな笑顔のミシェルさんが、


「……という事で、今度はケンに、私達の店を手伝って欲しいと言うことになったわけ」


「そうそう! ケンにやって貰う仕事は、ウチの店、大空屋の手伝いと、併設の宿屋に、もしもお客が来たら、その対応ってところね」


ミシェルさんのした説明を、イザベルさんがすぐに補足した。


さすが母娘、呼吸(いき)がぴったりだ。

 

間を置かず、ミシェルさんが俺に言う。


「後で、店内を見て貰うと分かるけど、ウチは万屋(よろずや)よ」


「ほう、万屋(よろずや)ですか」


「うん! まあ、ぶっちゃけ何でも売る店。村外の人も来るけれど、お客さんは大体、村内の人になるわ。まあ、何でも売るけれど、村では自給出来ない日用品などを、特に多く仕入れて売っているから、皆に重宝されているの」


「成る程」


「ご領主様へ納めた後の、農作物の余剰品や要らなくなった不用品その他を買取りもしているの。だから自分で言うのも何だけど、大空屋って、この村の人達には、無くてはならない店なのよ」


ミシェルさんは、誇らしげに説明してくれた。


そうだ、こういう時は、しっかり空気を読まないと。


「素敵ですね、大空屋は。ボヌール村に住む人達にとって、暮らしと経済を支える凄く大事な店なんですね」


「ええ、その通りよ! でも村の人達はともかく、外からの人には、女ふたりだけだと、舐められる事も多くて。ちょうど男手が欲しいと思っていたのよ」


成る程、そういう事ですか。


ここで、ミシェルとイザベルさんが見つめ合って頷いた。

何か、意思疎通をしたようである。


「昨日さあ、ケンとレベッカが、仲良く手を(つな)いでいるのを見たよぉ~」


あちゃぁ~、見られちゃったか。


「アレを見てやっぱり! と思ったわ」


「そうそう! 良かったなって!」


あれ? ふたりの意外な反応。

 

何故に? 何故に?


「???」


?マークを飛ばし、(いぶか)しげな俺を見て、

ミシェルさんが優しく微笑んだ。


「レベッカと1日一緒に居て、よ~く分かったでしょう?」


「ええっと……一緒に居て、良く分かったとは?」


何となく、分かるような気がするが……

超ツンデレとか、ど真っすぐとか……

 

でも、ぺらぺら真実を言ったら、口軽男として、俺はレベッカに殺される。

必ず、瞬殺される。


そんな俺を見越したように、ミシェルさんは言う。


「レベッカはね、あの子は、私の大の親友なんだ」


「そ、そうなんですか?」


「うふふ。(とぼ)けちゃって、ほら、分かってるでしょ? このぉ!」


「な、な、何がです? 分かってるとは?」


「当然! あの子の性格よぉ!」


「え!? せ、性格?」 


「うん! レベッカはね、すっごく良い子なんだけど、真っすぐ過ぎて思い込みが激しい。そして女子は勿論だけど、男子にはそれ以上に凄く厳しいの」


「な、成る程」


「それが! あんなにも、でれでれ、ケンに甘えるなんて、今までには無かったもの!」


ピンポ~ン! ピンポ~ン! ピンポ~ン!


さすが大の親友! 良く見ていらっしゃる。


レベッカは、ツンデレだけど、

99%、いっつもツンで、あのデレデレ状態は初めて……なんだろうなぁ。


そしてミシェルさんの話は、まだ終わらなかった。


「あのレベッカがさ、惚れ込むケンって凄いわ」


「ですか」


「ですよ! 初めて村の広場で会った時、村長からケンが紹介され、リゼットをゴブリンから救ったと聞いて、凄いな! カッコいいな! って思ったけれど、レベッカが、べた惚れになって、でれでれするのを見て、改めてめっちゃ凄いわって、思ったわ」


「ですか?」


「ええ、凄い凄い! リゼットの件だってそう! 普通はさ、街道を旅していて、自分が喰い殺されるかもしれないのにさ、わざわざ原野へ、走って行って、魔物に襲われている見ず知らずの人を助けに行くなんてしない。絶対にしないよ!」


「まあ、でも、リゼットを見捨てるなんて、俺は絶対に出来なかったですから」


「そうだよね! 強くて優しいケンは助けに行き、ゴブリンどもを倒し、かすり傷ひとつつけず、無事リゼットを助け出した! 私のファーストインプレッション最高!! すっごく感動したから、あの時、レベッカに続き、私も声を掛けたんだ」


「そうだったんですね」


「うん! さっき母さんも言っていたけれど、クラリスの事も聞いたよ。あの子は華奢(きゃしゃ)で、そんなに体力が無いけれど、農作業が大好きな子なんだ。疲れ切って困っていたのを、とても親切にしてあげたんだって?」


「ま、まあ、ちょっと手伝っただけです」


またもや謙遜して答えた俺を見て、

ミシェルさんとイザベルさんはさっきより大きく大きく頷いた。


ふたりとも、満面の笑みを浮かべている。


「母さん、やっぱり!」


「うん、そっくりだね」


「やっぱり? そっくり?」


ええっと、そっくりって……一体、誰にだろう?


俺は、黙ってふたりを見つめた。


ミシェルさんが、何故か、うっとりした目で俺を見る。


何で? 何で? 何で? と、思ったら…… 


「ケンはね、私の大好きだった父さんに凄く良く似ているの!」


「え!? ミシェルさんのお父さんに!? 俺がそっくり?」


俺はつい、大きな声をあげた。


そして、ミシェルさんは、

いきなり大好きだった父に似ている!と言われる男の心理を、

しっかり理解していた。


「うん! でもお願いだから、ファザコンとか言って、ドン引きしないでね。ケンは死んだ父さんそっくりで、私の理想の男子なのよ!」


「そ、そりゃ光栄です。ありがとうございます」


金髪碧眼のグラマラス美少女から、『理想の男子』だと言われる。


そりゃ、男なら誰でも嬉しいじゃない?

俺は、素直に礼を言った。


ミシェルさんの目が少し遠くなる……


「父さんは魔物との戦いで、私を守る為に戦って死んだ。強くて優しくて親切で、だけどそれを一切ひけらかさない、不言実行で本当にカッコいい父さんだった……」


亡き父の思い出を告げたミシェルさんは改めて、『自分』を売り込んで来た。


「ケン! 私は貴方が気に入った! そして大好きになった! ひとめぼれって奴かも! さっきは貴方の家で、勇気を出し過ぎて、凄く先走っちゃったけれど……改めて私を見て! そして私を良く知って! ケンの事も良く知りたい! そして私を、お嫁さんにしても良い子だなって思ったら……そうしてね」


熱く自分の想いを語るミシェルさん。


ここで、イザベルさんも追随する。

可愛い娘の為には、美人ママも援護を惜しまない。


「親馬鹿だけど、ミシェルはすっごく良い子よ。心から尽くすタイプだし、ケンの良いお嫁さんになるわよ」


俺は、この場で、どう言ったら良いのか分からない。


脳裏には、リゼットとレベッカの顔が浮かぶ……


だって、一歩間違えれば、地雷を踏むから。


「ええっと……」


俺が口ごもると、ミシェルさんはふふっと笑う。


この笑いは……何だ?


「大丈夫! 聞いているから!」


「え? 聞いているって?」


な? 何を聞いてるって?


「うん! リゼットとレベッカをふたりともお嫁さんにする約束したんでしょう? 大丈夫、私も全然OKだから」


あらら……すべて、ばれて~ら。


俺は、思わず溜息を吐いてしまう。


別にミシェルさんが嫌いとか、そういうわけではない。


ただ何となく、気が重くなっただけだ。


だってさ……クッカを入れたら嫁がもう4人だぜ。


え? 何? ふざけるな?


お前なんて、すぐ爆発しろ?

って……そうですか……


「よっし!」


何か考え込んでいたイザベルさんが、はたと手を叩く。


「母さん、どうしたの?」


と、ミシェルさんが聞けば、イザベルさんは……


「この際だから、私もお嫁にして貰おうと思ってね、少し年上だけど、どう? 私」


「か、か、母さん!?」


母からの想定外の発言に、さすがのミシェルさんも驚いている。


俺はそれ以上に驚愕状態。


はぁっ!? な、な、何、それぇ!!!???

 

年上のお姉さん?


……いや違うぞ。

まさヵのまさか、母と娘が俺の嫁さんに!?

 

これって……親子丼!?


すっげ~まずくね?

どこかの、企画物アダルトビデオみたじゃないか!


その場を、沈黙が支配する。


しかし、イザベルさんは自分の希望を引っ込めるつもりはないらしい。


「ねぇ、どう?」


艶っぽくウインクするイザベルさん。

美少女には無い、大人の色香が、ぷ~んと来た。

 

ダメだ! この場の雰囲気は壊せない、イザベルさんにも恥をかかせられない、

つまり抵抗など出来ない。


これで、俺は完全にノックアウトだ!


「あ、ありです! OKです、大人の魅力です」


仕方なく、禁断の関係をOKした俺は、素直に熱くイザベルさんを褒め称える。


さすがに、ミシェルさんも呆れたように見つめていた。


しかし……


「あっはははははははは!!」


ばぁん!


「わう!」


ここで、豪快に大爆笑するイザベルさんに思いっきり背中を叩かれたぁ!!!

  

おいおい! さっきのミシェルの3倍以上の強さだ。


さすが、この娘にしてこの母ありだ。


「あはははははは! 本気にしたの? 冗談よ、冗談! 私は死んだ亭主一筋だからね!」


大空屋の宿屋には、イザベルさんの嬉しそうな笑い声が、

しばしの間、大きく響いていたのである。

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