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第39話「美人母娘」

万屋という店を、ご存知だろうか?

 

漢字で万屋と書いて『よろずや』と読む。


(よろず)とは、全ての物、もしくはあらゆる物という意味であり、

すなわち、何でも扱っている小規模な店の事をそう言うのである。


分かり易く言えば、現代のコンビニみたいな店だ。


俺が、「ボンキュッボン」のミシェルさんに、

手を引っ張られて連れて行かれたのは……

ボヌール村にある唯一の商店であり、まさに万屋であった。


「農作業に狩りと来てさ、次にケンが『研修』して貰うのは私と母さんの店、大空屋(おおぞらや)だよ」


ふ~ん、ミシェルさんの家が、お店をやっているとは知らなかった……

そして、名前が大空屋か。


大空屋ねぇ……


店名を聞いて、つい上空を見上げると、今日も快晴。


真っ青な空に、真っ白な雲が点在している。

春の風は爽やかで、俺の頬をそっとくすぐる。


ボヌール村の空は、来た時からいつも澄み切っていて綺麗だ。

だから、大空屋なのかな?


何だか、俺の心の中だけに生きている懐かしい故郷の空を思い出した……


遠い目をして大空を眺めている、

俺の様子を見たミシェルさんは、可愛く微笑んだ。


「今、ケンが思った通りよ。亡くなった父さんが、この村の青い空が大好きでね。それで店の名前を大空屋にしたの」


「そうなんですか」


「ええ、この店に来たお客様が、大空のように晴々とした気分になれば良い、と願って名付けたんだって」


ふ~ん、中々ロマンチストなお父さんだったんだ。


俺が「ふむふむ」と聞いていたら、ミシェルさんが店に向かって大声を出す。


「母さ~ん! ケンを連れて来たよ~っ!」


「は~い! まあ、ミシェルったら! 殆ど初対面に近いのに、もう彼を呼び捨てなの?」


ミシェルさんから呼ばれ、開店前の店から出て来たのは、

一見30歳くらい、ミシェルさんに似た金髪碧眼、

端麗な顔立ちをした大人な美女。


加えて、スタイル抜群なカッコいい女性だった。

 

カッコいいというのは、『(いき)』と言い換えても良いだろう。


想像して欲しい。


男物の衣服を、カッコ良く着こなす女性がいるじゃない。


ファッション誌の企画物でありがちだが、

この村の女性陣はモデル並みに美形な上、皆スタイルが良い。


なので、何を着ても凄くサマになる。


そもそも、この村の村民達は基本的にジャーキンという上着、

そしてホーズと呼ばれる羊毛製のズボンを履いている。


このスタイルが、普段着兼作業着なのであるが、

ミシェルさんのお母さんは、

まるで、おしゃれなモデルのように粋に着こなしていたのだ。


元々これらは、農民男性用の衣服なのだが、

実用的で共用出来るという理由により、家族間で使い回している。

 

また女性に限り、祝い事のある場合のみ、

カートルという衣服にエプロンをつけて、

頭には、カーチフと呼ばれるヘッドドレスを装着するという。


ほら、前世地球の西洋、北欧の国の民族衣装みたいな感じだとか。


ああ、それって何か、すっごく可愛いらしい。


もしも俺の嫁達、……嫁ズが着たら……ああ、想像するだけでたまらない。

ある意味、某カフェのメイド服に匹敵する可愛さだろう。


妄想完了!

そろそろ……話を元に戻そう。


ようは、店から出て来た、スタイル抜群な美女たるミシェルさんのお母さんも、

男性用の農作業着をバッチリ着こなし、凄くカッコいいという事だ。


でもミシェルさんは、レベッカと同じくらいだから、18歳?


そのお母さんなのに、えら~く若く見える。


「ふふふ、ようこそ、大空屋へ。私がミシェルの母でイザベルです」


おお、イザベルさんっていうんだ。


美しい金髪と碧眼を持つイザベルさんは、

にっこり笑うと、握手の為に右手を差し出して来た。


美女の笑顔は、やっぱり良いものだなあ。


俺も釣られて、にやけ笑顔になると、さっと右手を差し出した。


そして早速、改めての自己紹介。


「ええっと、イザベルさんですか。ジョエルさんが俺を紹介した時は居ましたよね? じゃあ改めまして、ケン・ユウキです。何卒宜しくお願い致します」


「うふふ、こちらこそ宜しくね、ケン。リゼットをゴブから助けた事は聞いたわよ、貴方、勇気があって強いし、頼もしいわね」


おお、いきなりの褒め言葉。


「それと農場ではクラリスを気遣って、手伝いをしてあげたって聞いたわ。とても優しいのね。素敵だわ」


おお! こんな美人に褒められて、嫌だと思う男は居ない。

うん! 絶対に居ない。

 

その上、イザベルさんも愛娘同様、突き出たロケットのような胸をしている。


俺は本能的に、思わず「ぼうっ」と見とれてしまった。


でも、突き出た胸を、ず~っとは正視出来なくて、目を無理矢理そらせた。


「え、え、ええ~とですね。剣と魔法を、ほ~んの少しだけ使いますので……そこそこです。そして手伝いといっても、大した事はしていません」


こういう時は、威張っても、ろくな事がない。

謙遜するのが一番。


と、思ったら、傍らに居る幻影のクッカが茶々を入れて来た。


『もう! そこそこなんて、大嘘ついて! 昨夜もオーガ20体、ひゃっは~して、パリピ状態で、かる~く倒したのは、だ~れ?』


『いいじゃんか! 昨夜は昨夜で、メリハリついててさ。基本的には、変に誇らず、謙虚で控えめなのは美徳なんだから』


確かに夢に見た通り、オーガに対し、完璧無双しましたよ俺は。


だけど、お前達は「フン! 当たり前」って感じだったじゃないかよぉ。


『農場のお手伝いも、クラリスさんが可愛かったからでしょ?』


『いやいや、ああいう時は、誰でも手伝うって!』


しかしクッカが突っ込みをしたのは、

俺がイザベルさんに、ぼうっと見とれていたかららしい。


『綺麗な女性(ひと)を見たら、すぐデレデレして、もう知らないっ! その上、さっきから女性のおっぱい、ばっかり見て!』


おおっと! 俺が『おっぱい』に連続で見とれていたのは、

しっかりチェックされていた。


それもクッカに出会った時以上に凝視していた事も。

 

なので、クッカはとても機嫌を悪くしてしまう。

 

間違いない。

完全に、焼き餅だ。

ここは、しっかりフォローしなければ。


『分かったよ、ごめん、クッカ。今度デートしてあげるから』


『デート!? ホント!? 嬉しいっ! 嬉しいっ!』


俺がデートの約束をしてやると、クッカは空中で小躍りして喜んでいる。


本当に可愛い奴め。


俺がいきなりニヤニヤしているのを見て、イザベルさんは不審に思ったらしい。


「ん? どうしたの?」


「な、な、何でもありません」


慌てて、誤魔化した俺。


しかしイザベルさんは細かい事を気にしない、ありがたい性格のようだ。


「ふふふ、変な子。もしかして思い出し笑いでもしていたの? まあ良いわ、宿の食堂で話しましょう」


「え? 宿?」


「そうなの、ウチの店、大空屋は宿屋もやっているのよ。今日はお客さんが居ないから、話すのには丁度良いわ」


大空屋の隣には、同じくらいの大きさの家屋が建っていた。

それが、大空屋の経営する宿屋だそうだ。

 

聞けば、10人程度が宿泊可能であり、村へ旅人が来た時のみ営業するという。


イザベルさんが、鍵のかかっていた宿屋の扉を開けて中に入ると、

またミシェルさんが俺の手をしっかりと繋いだ。


「うふふ、ケン、行こう。中で打ち合せしようよ」


こうして俺は、大空屋の宿屋に入って、ミシェル母娘と話す事になったのである。

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