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第37話「怒りを最強の拳と為す」

俺とクッカ、そして従士3人は今、村から見て東の森、その中を歩いている。


西の森同様、あちこちから獣の声が聞えて来る。

がさがさと、草を鳴らす音もする。


妖精猫(ケット・シー)のジャンは唸り声がしたり、

いきなり物音がする(たび)に「びくっ」としていた。


だが人間族の俺が全くびびらず、平気で歩いているのが不思議らしい。


『おいおい……人間の癖によぉ、ケンは良くこんな真夜中に平気で森の中を歩けるな。こ、怖くねぇのかよ』


いやいや、俺にはね、授かった勇気と暗視のスキルがあるから平気なんだよ。

これらのスキルがなきゃ本当は怖いし、歩きたくないよ、こんな夜の森。

 

だけど、あの時のリゼットの顔が! そしてレベッカの顔が!

絶望に満ちた彼女達の顔が浮かべば、こんな事はお安い御用さ!と思ってしまう。


万が一何て事は無いのは勿論、

もう絶対、あの子達には、『怖い思い』をさせちゃあならないと、ね。


俺はこんな事を考えながら、渋い表情のジャンへ「にやっ」と笑ってみせた。


一方、ケルベロスは、ジャンが俺の事を、

呼び捨てにしたのが気に入らないらしい。


『おい、駄猫。(おそ)れ多いぞ! 二度と、(あるじ)を、呼び捨てにするな! 今度、様をつけねば許さぬ!』


『ああ、分かったよ、この糞犬め!』


『ふむ、その返事、全く反省しておらぬか……殺されたいようだな、貴様!』


あ~あ、またまた、喧嘩が始まりそうになってる。……猫と犬の。


『おいおい、ふたりとも、やめろって、言ったろう』


俺がそう言うと、ジャンとケルベロスは「ふん」と鼻を鳴らし、

お互いにそっぽを向いた。


そんなふたりを見ながら、

妖馬ベイヤールは「我関せず」というマイペースで動じない。


そんなこんなで、俺達は森の奥へ進んで行く。


森の動物達はといえば、普段凶暴な狼や熊も含め、俺達が進むと逃げて行く。


一見すれば、まるで俺達が、静かな森の平和を乱す悪の冒険者クランのようだ。


おっと!


言い忘れたが、変装した今夜の俺は、

法衣(ローブ)(まと)った魔法使い風アラサーのおっさんだ。


手には、魔法発動を円滑にする、ミスリル製の魔法杖を携えている。


どこから見ても、15歳の少年ケンではない。


しばらく進むと……やはり居た。


俺の索敵に反応している。


クッカも、同様にキャッチしたらしい。

昼間戦ったから分かる、はっきりと。


これは……オーガの群れだ。


『ケン様。やはり居ましたね、オーガの群れ』


『ああ……』


『まあ、オーガもゴブも1体見れば、最低30体は居ると言いますからね』


はぁ? 1体見れば、最低30体?

 

おいおい、奴等……ゴキブリかよ?

 

俺は思わず苦笑した。


しかし、クッカの表情は真剣だ。

ジャン達に聞えないよう、そっと(ささや)いてくる。


『ケン様、最初が肝心ですよ』


『最初が肝心?』


『はい、召喚した従士達に対してです。彼等はケン様の魔力を感じ、従う意味を理解はしています、……貴方を(あるじ)としてです』


『成る程……』


『しかし、間を置かず、更に大きな力を示せば、彼等は貴方を畏怖し、心から服従するでしょう』


『畏怖……か』


『はい、敬意と恐怖心……召喚した彼等と上手くやっていく為には、その両方が絶対に必要なのです』


『成る程ね。クッカ……どんな方法が良い? 教えてくれ』


『そうですねえ……ケン様が最初にオーガを素手で倒した技……天界拳が宜しいでしょう』


おお、天界拳か。


あの時、俺の内なる声が技の名前を教えてくれた。


確かに凄い技だ。

それは認める。


ええっと……確か天界拳、究極拳撃……豪拳貫通って言ったっけ……


『ケン様が使った天界拳は、管理神様がくださった、スキルの中のひとつですよ。現在、天界の神様の間ですっごく流行(はや)っている総合格闘技です』


『え!? 天界の神様の間ですっごく流行(はや)っている総合格闘技?

でもさ、天界拳って、名前がもろストレートで、べた過ぎるのと、技の名前が何か微妙……』


『あ~あ~! 絶対にそれ以上言ってはいけません。天界拳の名誉総帥は、創世神様なのですからっ!』


創世神様が名誉総帥って!? 


な、成る程! だからか!

 

全知全能たる創世神様が、すなわち神様のトップが拳法に、はまっている。


だから、それで神様全員上へならえって事で、天界が格闘技ブームね。


『コ、コホン。では話を戻しますね、今のケン様ならレベル99の力を使い、創世神様の約1%の力を出す事が出来ます』


『へ!? た、たった1%? それって凄いの?』


『あのですね……創世神様はこの宇宙そのものなのですよ。無限の宇宙全体の広さを、よ~く考えてくださいね』


『わ、分かった! でもさ、天界拳って、もっとノーマルな普通の技は無いの? あの豪拳貫通って、破壊力が凄すぎて、俺、また返り血でドロドロになっちゃうかも』


『まあ、仕方が無いですね、不可抗力です』


『仕方が無い、不可抗力って……例えばさ、俺がテレビやネット動画で見ていた拳法とか、ボクシングとかプロレスとかはダメなのかな?』


『はい、ケン様の記憶があれば、大楽勝で使えますよ』


『うわ! 大楽勝って、あっさり言うね』


『はい! 天界拳は、一度、使い手が見た相手の技を、すぐに自分のモノに出来るのです』


……あのね。

 

ありがたいけれど、その設定は、あの某世紀末拳法と一緒なんですが。


でも、このスキルがあれば、前世ですげぇアクションスターになれたかも。


『うふふ、この際なんで、耐久性スキルも極めましょう』


『耐久性スキル?』


『自分よりも格下の相手には、ど~んなに殴られても蹴られても、得物で殴られても、斬られても、平気なスキルですよ。具体的に言えば、ケン様は、物理攻撃オール無効って事です』


『物理攻撃オール無効!? おお、凄過ぎるな!』


『はい! オーガは魔法を全く使えませんので、魔法の耐久性スキル習得は、次の機会に。ちなみに魔法の耐久性スキルは、同じく自分よりも格下の相手には、究極及び超上級魔法以外は無効となります』


『成る程。究極及び超上級魔法以外か、魔法は制限があるのね』


『はい、例えば火炎、火弾などの火球、冷気、氷弾、氷の矢などを行使されても、ケン様は、一切受け付けません』


『すっごいな……』


『はい! 物理攻撃オール無効に話を戻しますと、習得すれば、にこにこ笑って、はい、いつでも、どうぞ、カモン! って感じですね。一応、攻撃を受けた際に、ほんの軽い衝撃こそありますが』


ふ~む。

物理攻撃オール無効って、

あの某有名ゲームで鋼鉄のように固まる某魔法と、ほぼ一緒って事か。


でも、個人的な好みだけど……あの魔法は専守一辺倒で、反撃出来ずは嫌だなあ。


とりあえずクッカに聞いてみるか。


『ええと……それって、どうやって習得するの?』


『簡単です。たった1回だけ相手に思いっきり殴られるのです』


『はあ!? 何それ!』


『たった1回の経験で、パーフェクトに魔法とスキルが習得可能なのが、ケン様の持ち味です。ケン様の場合即、初心者から一気に神レベル確定なのです』


『初心者から一気に神レベルねえ……』


『はい、まあ最初だけですよ、殴られて痛いのは。ちくっとする注射と一緒です』


『でもそれ、まるで無抵抗主義みたいになるんじゃない?』


『いいえ~。やられたら当然、やり返しますよぉ』


そっか!

反撃は可能なんだ。


『うふふふふ、出来れば100倍返しくらいにして! ばっこ~んて、思い切りぼこる! それってスカッとして、サイコーじゃないですかぁ』


『り、了解!』


クッカの性格が段々分かって来た。


まあ、そういうの嫌いじゃないし、とりあえずOKだ。


こうして俺とクッカは「作戦」を決めたのである。


で、15分後。


俺はひとりでオーガの群れと対峙している。

群れの規模は結構大きくて、30体までは行かなかったが、20体も居やがった。

 

少し後方にクッカと3人の従士達は待機している状態だ。


『うっふふふ。さあ、殴られましょう! 思いっきり行っちゃって下さい。びった~んと!』


思いっきり、びった~んって殴られるか……


まるでどこかの某プロレスラーみたいだけど……


最初は俺が一方的に殴られるって、分かっているからか、

クッカの奴、ひとごとだと思って楽しそうに言っている。

従士達でさえ、面白がってワクワクしているのが伝わって来やがった。


ごはああああああっ!!


頃合と見たのか、俺を睨んでいたオーガの1体が咆哮、

でっかい拳を振るって来た。


指示通り、覚悟を決めて俺は無抵抗。


無防備に腹をさらす。


当然、どぐわしゃっ!!! オーガの豪拳が俺の腹に炸裂する。


「ぎゃ~つ!!!」


思わず俺は、絶叫をあげてしまった。

 

だってだって! 痛い! 痛い! 痛い!


全身がバラバラになったようだ。

びった~んなんて、可愛いもんじゃねぇ!


俺の口から、真っ赤な血がシャワーのように吐き散らされる。


オーガのパンチで内臓がぐちゃぐちゃになり、

身体中の骨が、あちこち砕けているのが分かる。


うおおお! オーガって、こんなに強いのかよ!?


派手に吹っ飛んだ俺は何度もバウンドして、ぼろきれのようになって地に伏した。


『わああっ! いいぞ、いいぞおっ!』


『何でぇ、ケンの奴、超弱いじゃん!』

『おお、主よ。オーガ如きに死んでしまうとは情けない!』

「ぶひひひ~ん!」


クッカの声を皮切りに、様々な声が交錯する。

 

く、糞っ! あ、あいつらぁ……


畜生、くそオーガめ!

超絶、怒りを込めて、反撃してやるう。


『ケン様! か・い・ふ・く・ま・ほ・う!』


と、その時。

倒れた俺の心に、クッカの声が響く。


ああ、そうだった。

まずは回復魔法『奇跡』だ。


言霊を詠唱した瞬間、俺の身体を白光が包み込む。


まばゆい光を受け、追いかけて来て俺を喰おうとしたオーガが一瞬、

躊躇(ちゅうちょ)する。


ゆらり……回復魔法で復活した俺は、その隙に、すっくと立ち上がった。


分かる。

もう俺は、耐久性スキル――『物理攻撃オール無効』を完全に習得した。


こいつら格下のパンチなんか喰らっても、全然平気だ。


ごはああああああっ!


俺が無力だと思ったのか、またオーガが襲い掛かって来る。


拳を振り上げて、今度こそ止めを刺そうと襲って来る。


ばぐうっ!!!


襲って来たオーガの頬に、繰り出した俺の拳が、

ボクシングのカウンターパンチ気味に潜り込む。


たった1()の力加減だが、オーガの顔が不自然にひしゃげている。


手ごたえは確かにあった!


だん! だん! だんっ!!


そして今度はオーガの方が、派手に吹っ飛び、

地面へ叩きつけられて、バウンドした。


ごろごろ転がったオーガは……


が、がはっ!


大量の血を「どばっ!と吐くと、あっさり動かなくなってしまった。


俺は法衣(ローブ)の土埃を、軽く払うとオーガの群れを睨み、

更にクッカ達をも睨みつけた。


最初のオーガを一発で倒した俺の迫力に気圧されてか、

残りのオーガどもも、クッカ達も黙ってしまっている。


沈黙が、その場を支配した。


その瞬間。

俺はまた、レベル99に相応しく、凄まじい力を身につけていたのである。

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