第35話「最初の召喚」
『ちょっとお、待ったぁ!』
俺が召喚魔法の言霊を唱えようとした矢先、
クッカの可愛い声が響き渡った。
どうやら、魔法の発動を緊急停止?させたいらしい。
一体、どういう事だろう?
『な、何!? いきなり?』
慌てた俺が、言霊の詠唱をストップすると、クッカがジト目で睨んで来る。
『ケン様!』
『は、はいっ!』
気合の入った呼びかけに、俺も思わず「びしっ!」と直立不動となる。
緊張感たっぷりな俺を見たクッカは、抑揚の無い無機質な声で告げた。
『うっかり忘れていまして今、思い出しました。突然ですが……追加ルールを申し上げます』
『え? 追加……ルール?』
何だよ? いきなり追加ルールって?
俺の訝しげな表情に答えるように、クッカはきっぱりと言い放つ。
『はい! ケン様からは、超怪しい気配がた~っぷり出ていましたので』
『はあ!?』
だから何だよ、俺から超怪しい気配がた~っぷりって?
『はい、あくまでも私見ですが……言いますね。邪悪な闇の主とか、悪に魅入られた男という、ふたつ名は、ケン様のイメージにはま~ったく合いません!』
知ってるよ! どうせ俺は3枚目。
お間抜けおとぼけキャラがお似合い、クールでニヒルなちょい悪キャラはNGだろ。
でも、それが今、何の関係があるのよ。
『というわけで! そのような理由から、極めて趣味の悪い召喚対象も、まったく必要ありません! なので召喚禁止とさせて頂きます』
『えええ? しゅ、趣味の悪い召喚対象? な、何の事、それ?』
うう、そうかぁ……
クッカは、これから俺が何を呼ぼうとしてたのか、
まるで分かっていたような物言いだ。
実は俺…… クッカのリクエストなど一切無視して、
女子が嫌がりそうな闇の住人系やグロイ系も含め、
とりあえず召喚し「遊んで」みたかったんだよ。
それ、ホラー映画が嫌いな、お前なのにおかしいって?
確かに!
でもさ、いわゆる『怖いものみたさ』って、あるじゃない?
と思ってたら、更にびしっと! クッカが言い放つ。
『甘い! 甘い! 甘い! ケン様のやる事など、このクッカには全て、お見通しです!』
『え? そ、そう? 分かる?』
『楽勝で分かりますよっ! そんなしょ~もない奴等を呼んでも、百害あって一利無し! 召喚魔法は、遊びではありませんからねっ!』
ああ、お姉さん御免なさい。
召喚魔法で遊んじゃ、駄目なのですね。
いろいろ呼んであ~でもない、こ~でもないと、
好きに言うのなんて一切ダメだと!
そうおっしゃいますか!
……あ~あ、つまらねぇなぁ。
という俺の心の愚痴など、クッカは華麗にスル~。
更に風紀委員のように物言いする。
『ええと、先程と若干重複しますが……具体的には悪魔、吸血鬼、夢魔、不死者、幽霊などの召喚は一切禁止とします!』
『一切禁止っすか』
『はい! 中でも蛇、ミミズの形状を持つ者は、もってのほかですね』
クッカは自分で蛇、ミミズと言った瞬間に身震いしている。
もう! そっち系は言葉に出すだけでも駄目でしょ、キミは。
結局、クッカの個人的な好き嫌いで召喚不可という事だろう?
ね? そうでしょ?
俺はそう突っ込みたかったが、下手に言えば100倍になって返って来るのは必至だ。
そして、話がややこしくなり、
召喚魔法の教授、習得、訓練は中止、になりかねない。
やはり、空気読み人知らずにはならない方が良い。
そんなわけで、俺は素直に簡潔に返事をする事にした。
『了解!』
俺の返事に気を良くしたのか、クッカは更に強気な発言を繰り出す。
『宜しい! 更に追加事項です。従来の人間タイプの女子に加え、動物等のメスも召喚禁止! とさせて頂きますね』
おお、確かに強権発動!
人間型の女子だけではなく、一切のメスが禁止と来たか。
『おいおい、結構……厳しいな』
『ダメです! 厳しいな、じゃあありません。後で無用なトラブルを避ける為です』
ええっと……無用のトラブルねぇ……
まあ、良いや。
クッカ様、サポート女神たる貴女様とトラブルを起こすのは絶対に嫌ですもの。
何か、暴走気味だけど……クッカが変に可愛い。
傍から見ていると、クッカは先日の失態や低評価を取り戻そうと、
必死になっているのが分かる。
これって、俺の役に立って愛されたい。
そしてゆくゆくは俺と結ばれたいから、頑張る!
という気持ちから出ているのだろう。
クッカって、俺と同じで、すっごく不器用な子だと思うけど、
その思いを尊重してやりたい。
『分かったよ、クッカ。じゃあ、もう一度仕切り直しだ』
『了解です』
俺は再度、召喚魔法を発動させる為に言霊を詠唱した。
クッカに言われた事を思い出し、まずは偵察&通常業務をこなす者が良いだろう。
『召喚!』
俺の言霊に応えて白光の中から現れたのは、尻尾の付いた小さな影である。
影は徐々に実体化して行く。
『へぇ! ケン様にしては意外です、これなら女子受けもします』
クッカが感心したような声を出す。
『はあ? 意外って、何だよ。まあ日頃こいつが村に居ても、あくまでも自然に振る舞えるという考えで召喚したよ』
『うんうん! ケン様、見直しました、さすがです。私は良いと思います。……後は性格次第ですね。すなわち忠実且つ従順であるかどうかです』
俺達の前に現れた魔物……それは、妖精猫だ。
妖精猫は一見普通の猫、目の前に居る奴も、平凡なぶち猫だ。
しかしそれは、世を忍ぶ仮の姿。
補足すると、実は二本足で立ち、人語も喋れる。
また通常の猫より、身体能力にも優れ、
中には変身など魔法が使える奴も居るらしい。
一説には、有名な長靴をはいた猫も、妖精猫だという。
でも、この妖精猫、何故か、完全に不貞腐れている。
何か、ぶつぶつ言ってるぞ。
『はぁ? 何が性格次第だよ、勝手に呼び出しといてよお! 妖精猫の俺っちはなぁ、自由気儘に生きるのがモットーだ! 人間風情にあごで使われるなんて真っ平だ!』
おお、妖精猫め、
こいつは念話を使い、日本語も話しているぞ。
突っ込みどころ満載な異世界だが、面倒なので追及しない。
俺と普通に話せるのなら、それに越した事は無いもの。
うむうむ、それにしても、確かに、こいつの言う事は正論だ。
俺だっていきなり勇者召喚され、
王様にガンガン、あごでこき使われたら、不満たらたらだろう。
話には、筋が通っている。
だが、召喚士として、俺は奴に対して厳しく且つ優しく接しないといけない。
先ほどのクッカの話ではないが、ようはバランスだ。
確かにこいつの言う事は正論だが、簡単に迎合するのはNG。
また優し過ぎたり、逆に厳しいだけで部下はついて来ない。
そこで俺は、『飴と鞭』を使い分ける事にした。
「にやり」と笑った俺は、わざと奴に聞こえるように言う。
『ふ~ん……俺に使われるのが真っ平ね。ああ、クッカ、そういえばボヌール村の猫達って、人間と同じ様な年齢構成なんだよね』
『はい! 確かそうですよ!』
『な、何の事だよぉ! 村の猫が人間と一緒って?』
おお、食いついて来た!
さあ、盛大に撒き餌をしてやろう。
俺は、妖精猫に確り聞こえるように声のトーンを上げた。
『何故か、村に残っている猫って、メスばっかりなんだよね。それも人間にあてはめれば15歳から25歳相当の可愛くて若いピチピチの若い女の子ばっかり!』
あれれ、奴の喉が「ごくり」とか鳴ってるよ(笑い)
ここでクッカも言う。
『ああ、そういえば私、彼女達から聞きましたよぉ。頼れる男子が居たら、ぜひ私達、女子のボスになって欲しいって』
おお! クッカ、ノリノリナイスフォロー!
そんな事を、猫が本当に言っているかどうかは謎だが……
だけど良いや。
煽るだけ、煽ってやれ!
『おお、私達女子のボスかぁ……それってハーレムの王様って意味だよなぁ、確か』
クッカはすぐ俺の意図を察してくれ、悪戯っぽく笑う。
『はい! その通りです! もしボスになったらウッハウハですねぇ』
妖精猫はそこまで聞かされると、
さすがにもう我慢出来なくなったようである。
『おい! ちょっち待て!』
だが、俺達はその声を完全スルーした。
『ん? 何か聞こえた? クッカ』
『いいえ~、ま~ったく聞こえませんねえ!』
『クッカにも聞こえないか? じゃあ俺の気のせいだね。あれえ、生意気な猫君、まだ居たの?』
『てめ~! 待てと言っているだろうが!』
俺達に完全スルーされて声を荒げた妖精猫。
それにしても妖精猫の奴は生意気だ。
このままでは俺に仕える気など、全く無いであろう。
奴をがっつり教育しなければ……
まずは、汚い言葉遣いを改めさせよう。
俺は妖精猫へ向き直り、言い放つ。
『お前さ、折角召喚してやったんだから、俺達に対して口の利き方に気をつけろよ。もう少し丁寧な話し方をして貰おうか』
『うるせ~な!』
おいおい、何だ、こいつ! うるさいだと?
じゃあ、ここは鞭をぴしり!と鳴らしてやろう。
『うるせぇ? ふ~ん……じゃあもう良いさ、別の奴を召喚するから。君には即、異界へ帰って貰おうか』
その瞬間であった。
頑なな態度を取っていた妖精猫が、一気に軟化。
『えええ、即、帰れなんて!? せ、殺生な……す、済みません、御免なさい! 今後は口の利き方に気をつけますから』
どうやら……さっきの「ハーレム」云々という撒き餌が効いているらしい。
さびしく異界へ帰るより、若い女子達に囲まれそうな、
こちらの暮らしの方が全然良く思えるのだろう。
よし! ここは攻めどころだ。
『分かった。じゃあこちらから名乗ろうか。俺はケン、お前を召喚した人間族の男だ』
『私は、天界神様連合後方支援課所属、D級女神のクッカです』
俺と幻影のクッカを改めて見た妖精猫はひどく驚き、
口をあんぐり開ける。
ごら! 今更、おせ~よ! 驚くのは!
『え!? その子、幽霊とかじゃないんだ!? な、なんで!? 人間の男なんかと天界の女神様が一緒に!?』
『良いんだよ、細かい事は。さあ、さっさと名乗れ! 妖精猫!』
『わ、分かりました! 俺はジャン! 妖精猫のジャンです』
ジャンはそう言うと、俺とクッカに対し、ぺこりとお辞儀をしたのである。
いつもご愛読頂きありがとうございます。
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コミックスの第1巻、第3巻、第4巻は重版しました!
皆様のおかげです。ありがとうございます。
今後とも宜しくお願い致します。
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WEB版、小説書籍版と共に、存分に『魔法女子』の世界をお楽しみくださいませ。
マンガアプリ「マンガUP!」様でもコミカライズ版が購読可能です。
お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、
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