第32話「欲張りと言われても、ふたりとも俺の嫁!」
こうして……俺の『研修』2日目が終わろうとしている。
昨日の地道な農作業と全く違い、今日は狩りと戦いの派手?で、
かつ激しい『研修』であった。
狩りはともかく、戦いの方は絶対に内緒である。
万が一知られたら、村中で大騒ぎされるのは確実。
いろいろな意味で、大変だから。
……結局俺は、可憐な爽やか系美少女リゼットに続き、
ツンデレなワイルド系姉御肌美少女レベッカとも結婚の約束をした。
凶悪なオーガの襲撃により、生死の境を共にした俺達。
仲睦まじく寄り添い、完全にアツアツカップルだ。
いつもの通り、村の正門が夕日で染まっている。
怪我もなく元気な、俺達の帰還を認め、
ガストンさんとジャコブさんが嬉しそうに手を振っている。
朝はご機嫌斜めだった愛娘のレベッカが、最高な笑顔で戻って来た。
なので、父ガストンさんが心の底からホッとした表情なのが分かる。
だけど……開いた門の中、すぐ傍には、
リゼットがひとり、ぽつんと、たたずんでいる。
朝は元気良く、俺の事を見送ってはくれた。
しかし、俺とレベッカの仲がどうなるのか、やはり気になっていたのだろう。
こちらをじっと見るその姿は、儚く、寂しげだ。
元気なく、俯いてしまっている。
自分が先に結婚の約束をしたが、レベッカとアツアツなのを見て、
これは俺に不履行されてしまった! と思っているに違いない。
だから俺は、レベッカに了解を貰ってから、リゼットへ近付いて行く。
「ケ、ケン様……私……」
目の前に立つ俺を見るリゼットの声が、悲し気に震えている。
この状況では、絶対に別れを告げられる! と思い込んでいるのだろう。
あっさり振られてしまうと、決めつけてしまっているに違いない。
なので、俺はそっと囁く。
「リゼット、お前の言う通りにしたからな」
「え? 私の言う通り?」
驚き、戸惑うリゼット。
そう、俺は彼女を、しっかりと安心させねばならない。
「ああ! 心配しなくても全然大丈夫だ! 俺はな、お前とレベッカふたりとも、嫁にするぞ!」
一番嬉しい言葉をいきなり掛けられて、リゼットは目を白黒する。
「あ!? あうっ!?」
更にびっくりして硬直したリゼットを、俺は優しく見つめる。
「あはは、何、考えているんだ? 俺が大好きなお前と別れるわけないだろう? ああ、そうだ! 今夜はレベッカの家で一緒に夕食を食べないか?」
「え!? 私が一緒に夕食を!? そ、それは……」
俺がリゼットを夕飯に誘うと、彼女は躊躇した。
やはり、レベッカに相当気を遣っている様子だ。
だが、俺の対策は万全である。
「大丈夫だって! レベッカのOKも貰っているから。……妹みたいなリゼットが来るのは大歓迎だってさ」
「ほ、本当に?」
リゼットは、俺の陰から恐る恐るレベッカを見た。
あのさあ、レベッカ……あいつ、普段はそんなに怖い姉御なのか?
……どんな猛獣なんだよ。
一方、レベッカは、笑顔でこちらへピースサインを送っている。
それを見たリゼットは、漸く安心したようだ。
「はいっ! 喜んでっ! 凄く嬉しいですっ!」
どこかの居酒屋の、接客マニュアルのようではあるが、
リゼットは嬉しそうに微笑んだのである。
「じゃあ行こう」
「はいっ! すぐにお父さんとお母さんの許可を貰って来ます!」
こうしてリゼットは、俺、レベッカと一緒に夕飯を摂る事になった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
初めて来た、レベッカの家……
従士という身分なのか、村長のジョエルさんの家に比べれば幾分質素だ。
ひとりっ子のレベッカは、父であるガストンさんとふたり暮らしである。
残念ながら、お母さんは少し前に病死したそうだ。
そんなふたり暮らしの家にお呼ばれして、
俺とリゼットを入れた総勢4人は今、夕食を食べている。
ガストンさん曰はく、ふたりで食べるよりも、にぎやかで楽しいと言う。
ちなみに村の食事は、どの家で食べてもそう変わらない。
小麦の殆ど入っていない固めのライ麦パン、
野生動物の肉と村で採れた野菜をどろどろに煮込んだ濃い味のスープ、
というシンプルメニューであった。
本で読んだ事がある。
これって、やっぱり、中世西洋の農民の食事っぽい。
そんな食事を俺が摂るにあたり、
リゼットとレベッカはかいがいしく世話をしてくれる。
もう自分達ふたりは、俺の嫁だ! と言わんばかりに、だ。
「ふ~ん……」
ガストンさんは、これでもか!と、
かいがいしく俺に尽くすレベッカを、興味深げに見る。
「おお! レベッカ、お前……今朝と随分、変わったなぁ……凄く丸くなったし、優しくなった」
「な、何よ! パパ」
「いや、そうやっていると亡くなったママそっくりだと思ってな」
「な、な、何言っているの! いきなりそんな事を言わないで!」
レベッカは真っ赤になり、頬を膨らませる。
にやりと笑ったガストンさんは俺に尋ねる。
当然、今日の『研修の成果』である。
「ところでケン、今日はどうだった? 弓矢を使った狩りは難しいだろう?」
オーガ襲撃、そして俺とレベッカは、まっぱでハグ、
という『大事件』が起こったのだが、言えばい大騒ぎとなる。
なので、これらはさすがに内緒である。
ただ、研修の成果を尋ねられるのは想定内。
事前に打合せした通り、俺は言う。
「ええ、やっとの思いで兎を1羽狩る事が出来ました」
「そりゃ凄い! ケンは今日、生まれて初めて弓矢を使ったんだよな?」
「はい、レベッカの教え方が、とても丁寧で、分かりやすかったったんです」
俺が兎を1羽、弓で狩ったと聞いて、ガストンさんはびっくりする。
少し練習すれば、弓から矢は何とか放てるが、どこへ飛ぶかは保証出来ない。
それを更に、獲物に当てて狩るのなんて至難の業。
ましてや、的は小さくすばしっこい兎である。
ちなみにレベッカは、オーガに襲われた時に驚いて、
自分の獲物を放り出してしまった。
なので、今日の獲物は、俺が狩って空間魔法で仕舞っておいた3羽だけなのである。
「むう、それでレベッカの方はたった2羽か? 少ないな、今日は」
「ちょ、ちょっと調子が悪かっただけよ」
いつものレベッカなら、兎など最低5羽は狩るらしい。
それがたった2羽であるのだから、ガストンさんが訝しがるのも当然である。
『研修』の結果、俺が1羽でレベッカが2羽兎を狩ったというのは、
レベッカが決めた内訳である。
俺が0羽の『ボウズ』では、
ガストンさんが「娘の相手として実力不足、結婚を認めないだろう」
と、レベッカが主張したのだ。
夕食後……全員でお茶を飲み、デザートの梨の蜂蜜漬けを食べた。
デザートがつくのは、今日が特別な日だからだろう。
愛娘レベッカが俺にベタ惚れな態度を見て、
ガストンさんは嬉しそうに目を細める。
最初からレベッカを俺の嫁にするつもりだから、
愛娘が俺とベタベタなのも全然平気らしい。
レベッカが俺に惚れて、一方俺は彼女を大事にし、
ふたりが幸せになれば良いのだろう。
先日リゼットをゴブから助け、今日兎をいきなり1羽狩った事で、
ガストンさんは俺をすっかり認めてくれたようだ。
リゼットが一緒に居るのも、
この世界の結婚が一夫多妻制を認めているので抵抗がなさそうである。
そんなこんなで、夕食が終わり、夜も更けて来た。
俺とリゼットは、そろそろ失礼すると宣言。
レベッカは俺達を送って行くという名目で夜の外出を認めて貰う。
別れ際、俺はガストンさんから意味ありげに頼まれる。
「ケン、頼むぞ!」
これって「レベッカを幸せにしろ!」という意味だろう。
だが、朝のやりとりもあったから、
「早く孫を作れよ!」と言われた気もして、
俺は内心ひきつりながらも、何とか無言の笑顔で返す事が出来た。
こうして……俺とリゼット、レベッカの3人は、俺の家へと移動したのである。
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