第29話「素直になるね……」
『治癒……回復……全快……慈悲……奇跡』
俺は手解きを頼み、クッカのナビに従い……
回復魔法を段階的に習得、発動させて行く。
通常効果の『治癒』から、最高位レベルの『奇跡』まで間を置かずに、だ。
どうすればヴェガが上手く回復するのか、
専門の治癒士ではない俺には分からない。
『奇跡』さえ行使出来れば、何とか、ならないかと、必死だった。
単身オーガどもに立ち向かった、この小さな勇士を助けたかったのだ。
俺の持てる、全能力を尽くして!
ちなみに、治癒が軽症、軽傷レベルの回復、
『全快』で体調の完全回復、重傷までの怪我の治療。
その上の『慈悲』で、大抵の怪我は直るらしい。
最高位レベルの『奇跡』に到っては、
慈悲以上で、身体の欠損も完全に修復してしまう『禁呪』だそうだ。
また更なる最上位の究極魔法には、
『復活』という死者蘇生の魔法があるそうだ。
しかし、クッカからは、管理神様の指示が出ていて、
残念ながら『復活』は、俺には習得不可だと言われてしまう。
理由は明かせないとの事だが、当然こちらも『禁呪』なのである。
話を戻そう。
レベッカさんの愛犬ヴェガは、オーガに叩きつけられた衝撃で、
全身の骨が折れていた。
その上、内臓にも酷い損傷を受けていたから、
普通であれば、到底助からない重傷であった。
だけど、自分で言うのも何だが、俺の回復魔法は凄かった。
さすが、レベル99だ。
ヴェガは俺の習得した『奇跡』を受けると、
ゆっくり目を開けて、小さく鳴いたのである。
そして、さすがは『奇跡』!
みるみるうちに、ヴェガの骨折、傷は修復され、
失っていた体力も戻り、完全に回復してしまった。
元々の生命力の強さもあったし、もう……大丈夫だ。
ああ、良かったぁ!!! 本当に良かったあ!!!
……しかし俺もヴェガも全身、血だらけ。
このままでは村へ帰れないし、どこかで身体を洗いたい。
『クッカ!』
『は、はいっ!』
『この惨状だ、見たら分かるかもしれないが、このまま村へは帰れない』
『ですねっ!』
『俺はオーガの返り血で汚れた身体を洗いたい。そして出来れば、この犬も洗ってやりたいんだ。どこかに川か、泉はないかな?』
クッカは、すぐ『俺の意』を汲んでくれた。
早速、辺りの地形を確認してくれる。
『は、はい! ええっと……あ、ありました。200m先に身体を洗う事が可能な浅い川があります』
更によかったあ!!
これでちょっとは、さっぱり出来る。
次に俺は、レベッカさんに向き直る。
「レベッカ!」
さん付けではなく、呼び捨てで名前を呼ばれた瞬間、
レベッカは「びくり!」と身体を震わせた。
あれだけ俺へ言っていた注意を自ら無視。
森において起こりうる危険を招いたのだ。
自分が暴走したせいで、ヴェガが盾となり瀕死に、加えて俺を巻き添えにした。
そしてヴェガを犠牲にし、自分だけが助かってしまったと思っているに違いない。
厳しく糾弾されると思ったのであろう。
酷く落ち込んでいた。
しかし、ここは怒っちゃ駄目だ。
それより、「早く教えて」安心させてやらないと。
「おい、レベッカ、安心しろ! ヴェガの奴、助かったぞ」
「へ!? た、た、助かったって!?」
俺の言っている事が、すぐ理解出来ないのに違いない。
呆然となり、「ぽかん」とする、レベッカ。
信じられない!? と顔に描いてある。
そりゃ、そうだ。
自分を守ろうとしたヴェガが、オーガによって木に叩きつけられ、
「殺された」のを目の当たりにしていたのだから。
プロの狩人たるレベッカには……分かっていたに違いない。
本当に可哀そうだが、あれだけのダメージを受けたヴェガは、
もう助からないと……
だから、俺はもう1回言ってやる。
「レベッカ、良く聞いてくれ。お前の犬……何とか命が助かったんだ。……俺達は全員、無事なんだよ……安心しろ」
俺の言葉を聞いて、ようやく命が助かった実感が湧いて来たのであろう。
レベッカの灰色の瞳が、潤んでいる。
泥に汚れた細い指が、小さな口を押さえている。
「う、わあああああああああん!!!」
レベッカは、大声で泣いた。
号泣した。
今度は、悲しいからではない。
安堵と嬉しさの感情が込み上げて、我慢しきれなくなったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
可哀そうに……オーガに襲われたショックなのだろう、
レベッカは腰が抜けて歩けなくなってしまった。
そのレベッカを、俺はおぶってやっている。
傍らには、元気になったヴェガとリゲルの猟犬2匹が、
尾を「ぶんぶん!」振って、嬉しそうに歩いている。
ちなみにヴェガを治した回復魔法を使えば、レベッカの腰などあっさり治せるが、敢えてそのままにした。
理由は、ただひとつ。
腰の治癒はほんの軽症だし、いつでも出来る。
なので、喧嘩別れしたようなレベッカを俺がおぶる事でスキンシップ。
仲直りして、もっと心と心の距離を縮めたいと思ったからである。
「ごめんね………」
レベッカが、「ぽつり」と言う。
通常運転のレベッカならば、俺をあれこれと質問攻めにしていただろう。
どうして、あんなに強いの?
どのような魔法を使えるの?
空中に浮いていたのは何故? ……とかね。
だが、さすがに、元気が無い。
まだ、色々と「引きずっている」らしい。
この謝罪には、いろいろな意味があるだろうが、とりあえずスルー。
だから俺は言う。
敢えて、彼女の真の意図と違う答えを戻したのである。
「構わないさ、お前をおんぶするくらい何でもない。でも良いのか? 服、汚れちまうぞ」
「う、ううん……汚れるくらい、全然構わない。あの……私とヴェガを助けてくれてありがとう……そして、本当にごめんなさい……」
レベッカは、バツが悪そうに礼を言い謝罪すると、
はあ~と、大きくため息を吐く。
仕方がないかもしれないが、俺はレベッカに早く元気を出して欲しかった。
だから、逆手を使おう。
「どういたしまして、でも意外だ」
「な、何が? 意外?」
「レベッカって細いのに、結構重いんだな」
「うわ! いきなり何!? それ女子に対してすっごく失礼!」
「あはは、悪い悪い」
「もう、ケンったら! 最低! 折角のスーパーヒーローが台無しじゃない!」
やっぱり女子は、いつでも、どこの世界でも体重の事に関しては敏感だ。
案の定、レベッカの口調も、だんだん『砕けたもの』になって来たし。
俺は苦笑し、自虐的に言ってみる。
「あはは、スーパーヒーロー台無しか。じゃあ俺、お前に振られるの確定だな」
しかしレベッカは、すかさず否定。
「ううん……振らない! 少なくとも私からは」
「そうか! そりゃ、すっげぇラッキーだな」
「…………」
俺の問い掛けに対し、レベッカは答えなかった。
ただ黙って、俺に「きゅっ」としがみついたのである。
そして10分後……
「お~、これが川か」
クッカに教えて貰った川は、やはり森が途切れた草原のような場所に流れていた。
川自体は小さな川で、川幅は5mくらい。
そんなに深くはなさそうだ。
覗き込むと流れている水は、綺麗で透明感抜群。
浅い川底では、小魚が遊んでいるのがはっきり見える。
唯一、水を飲みに来る危険な動物だけチェックしておけば問題無いし、
元気になったヴェガ達も気をつけてくれるだろう。
『ええと、ケン様。この川の川幅は約5m、深さは平均で約30cm、1番深い場所でも50㎝ありません』
『了解! クッカ、ありがとう』
『ケン様! わ、わ、私……』
礼を言った俺に戸惑っているようで、クッカは口ごもっている。
多分、謝りたいに違いない。
でも、こんな時は、俺から切り出してやるのに限る。
『いいさ、全員助かったし。でも俺ってやっぱりクッカが居ないと半人前だって分かった。これからもずっと傍に居て助けてくれ、宜しく頼むぜ』
『ごごご、御免なさいっ!』
『本当にいいよ! 俺もきつく言い過ぎたから……こっちこそ御免な』
『うう、うわ~ん!!!』
ははは、クッカったら泣くなよ。
レベッカといい、クッカといい、俺ってさっきから女の子を泣かせてばかりだ。
何だか、罪悪感に責めさいなまれるじゃないか。
ここで俺は、レベッカへ回復魔法、『全快』をかけてやる。
当然、無詠唱、ノーアクションだ。
「え、えええ!? な、な、何、これっ!? 身体が楽に!? 腰がすっごく軽い!! 気分もいつも以上に良くなったよお!!」
「はははは、ヴェガと同じく、レベッカも完全に治ったな」
「う、うん! ケン、ありがとう!! 本当にありがとうっ!! ケンは凄い治癒士なんだねっ!!」
「いえいえ、どういたしまして、まあ、そこそこさ」
よし! レベッカ、完全復活!
さあ、とりあえず身体を洗おう。
おっと! こういう時は、やっぱりレディーファーストだよな。
「レベッカ! 先に身体を洗ってくれ。俺、あっち向いて見張っているから」
「お、お断りしますっ!」
ああ、このフレーズも『ツンデレ』そのものだ。
レベッカ……やっと元気になって来たじゃないか!
ん? でも……断わるって、どういう意味?
「えっと……レベッカ?」
「私が……ケンの汚れた身体、洗ってあげる。綺麗に丁寧に洗ってあげる」
えええっ!? 俺を洗う?
冗談でしょ!
「おいおい、俺は裸になるんだぜ」
「構いません! 私の為に汚れたんですから、ぜひ私に洗わせて下さい! お願いします」
レベッカの覚悟は本物みたい。
言葉遣いも、丁寧に変わってるし。
ならば、ここで俺が断るのは野暮。
「でもちょっと……少し恥ずかしいかもな」
俺が、「ぽつり」と呟いたひと言。
これが原因でレベッカから、とんでもない『衝撃発言』が飛び出す。
他愛もないやりとりだったのに、
ふたりを『急接近させる』結果になってしまうから、運命なんて分からない。
「だだだ、大丈夫です! わわわ、私も脱ぎますからっ! そ、それでお相子ですよねっ?」
は!? 今、何つった?
「じゃ、じゃあ! さ、さ、先に脱ぎますね。わわわ、私が脱いだら! ケ、ケンも脱いでっ!」
「おいおい! レベッカ!」
しかし! レベッカは、俺が止めても構わずに、
「するする」と革鎧と肌着を脱ぎ捨ててしまう。
そして……彼女の裸身は……すっごく美しかった。
手足は日に焼けて真っ黒だが、
革鎧と肌着に隠されていた身体は真っ白な肌であり、眩く輝くようだ。
貧乳を気にするだけあって『おっぱい』は小振りだが、愛らしい形をしている。
最初から分かっていたが……レベッカは顔が小さく、すらりとして足が長い。
やはり、スタイルは素晴らしく、完璧なモデル体型!
ただ、俺の前で「すっぽんぽん」になって、さすがに恥ずかしいようだ。
そりゃ、そうだろう!
何たって、嫁入り前の若い娘だもの。
「ううう……」
羞恥心で唸るレベッカに、俺はこうフォローするしかない。
正直、俺の為に勇気を振り絞ってくれた事が嬉しいし、愛おしい。
「レベッカって、すっごく綺麗だな!」
「ううう、嘘!」
「いや、嘘じゃない、凄く綺麗さ! 可愛くて手足が、すらりと長くて、スタイル抜群。肌も真っ白だ、全てが素晴らしいよ」
「ううう、ケン! 良いから早く脱いで! お願いっ!」
レベッカは大声で叫ぶと、「くるり」と背中を向けてしまったのである。
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お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、
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