第25話「ハーレム作戦開始?」
父娘の凄い会話が終了した。
やり込められたガストンさんが、頭を掻きながら俺の方へやって来る。
その背後で、父親をこっぴどくやり込めたレベッカさんは、
勝ち誇って腕組みをしながら歩いて来た。
狩人のせいか、文字通り矢を射るような鋭い視線。
レベッカさんって、確かに美少女だけれど、相当きつい性格って感じだな。
まあ、あくまでも印象だから、そういう予感は外れてくれると有り難いが。
「ええっと……急に用事を思い出してな。悪いが今日は帰るぞ、ケン。後はレベッカに指導して貰え」
そう言うと、ガストンさんは「そそくさ」と引き上げてしまった。
あ~あ、やっぱりレベッカさんに上手く言い包められてしまったな。
つまり……「孫が欲しくないの?」で、一気に寄り切られたってわけだ!
寄り切り! 寄り切ってレベッカさんの勝ち!
「と、いう事で……パパ、い、いやガストン副隊長は急用で村へ帰還したの。よって未来の副隊長であるこのレベッカが、ケン、お前の指導にあたるわ」
え? 未来の副隊長?
相変わらずレベッカさんは、上から目線で自信満々の物言いだ。
俺がしれっと、澄ました顔をしていると、レベッカさんは念を押して来る。
「念の為、確認。異論は、無いわね?」
「全く無いです」
俺が逆らわず「了解」の返事をすると、
レベッカさんは満足そうに頷き小振りの弓を取り出した。
俺の中二病……これって確か、ショートボウと呼ばれる弓である。
いや、良く見れば、いくつかの素材を組み合わせて強化しているから、
コンポジットボウって奴か。
「うふふ、ケン。私の予備の弓を貸してあげる。調整してあるからそのまま射てる筈よ」
「レベッカさん、ありがとうございます」
「い~え~! どういたしまして! やはり狩人はさ、弓矢を使わないとね……遠くの獲物を狙って、正確にびしっ! と射る! これが狩人の醍醐味なのよ」
「成る程ですね」
熱く語るレベッカさんに、「こくん」と頷いた俺。
「少し反応が薄いようだけど……宜しい! では、ケン! これから向かう目的地は北東の草原よ」
「了解でっす」
「但し! 奥に見える東の森には絶対近付かないで。森の奥にはゴブリンの群れが居るからね」
レベッカさんは、これから行く目的地を告げると共に、俺へ注意を促した。
ガストンさんに向かって言った『危険な場所』の事らしい。
その危険をもたらす奴はゴブリンだという。
「ああ、何だ、ゴブリンですか」
「何よ、その言い方は?」
俺が、軽く言ったせいだろうか。
レベッカさんの口調に、力が入った。
「そう言えばケンは、西の草原でリゼットを助けた時に、奴等を数体倒したそうね」
「ええ、そうです」
「それ単に運が良かったのよ」
「そ、そうなんですか」
「そうよ! 舐めちゃ駄目! 奴等は普通、30体から50体の群れで行動するの。中には100体以上の大群で襲って来る時もあるわ」
「お、おお……100体ですか。な、成る程!」
知らないふりをして、驚き納得する風を装う俺。
うん! 確か、あの時戦ったゴブリンは100体以上居た。
幸い俺は魔法で撃退出来たが……
もしも常人が遭遇したら、即座に喰われてしまうだろう。
レベッカさんは厳しい表情で言う。
「心しておいて! 油断は絶対に禁物! そんな群れにあたったら、すぐに逃げるしかない。抵抗しても多勢に無勢、あっと言う間に囲まれ食べられてしまうから」
まあレベッカさんの言う通りだ。
だが…… レベル99の超人として、覚醒しつつある今の俺は、
どう考えてもゴブリンなんかに負けはしない。
「そうなんですか?」
「もう! さっきから間の抜けた返事をしないの! もう一度言うわ、ケン!」
「は、はい」
「お前が遭遇した5体の小さな群れなど、単に運が良かっただけよ」
お前呼ばわりし、何度も俺を、叱責するレベッカさんはとても真剣だ。
「生死を分ける事だからいい加減に考えるな!」と言いたいのだろう。
レベッカさんの厳しい表情を見て、俺は素直に反省した。
いくらレベル99の魔人であったとしても、
やはり万事において、目立たず控えめに、そして謙虚に生きると。
驕り高ぶると、ろくな事はない。
「分かりました。申し訳ありません」
反省した俺が、即座に謝ったのでレベッカさんは機嫌を直したようだ。
「うん! 素直で宜しい! 分かれば宜しい! ……まあ奴等が来たら、遠くに居ても匂いですぐ分かるわ。その為にヴェガが居るのだから」
「ああ、そうですか」
レベッカさん曰く、犬達が『索敵』をしてくれると自慢げ。
だが実のところ、俺が何かの本で読んだ限りでは……
犬が、遠距離の匂いをかぎ分けるのは不可能らしい。
「じゃあ、どうして?」と聞かれても、俺には分からない。
「それでも答えて」と言うのなら、曖昧で私見だけど……
多分匂いではなく、人間には感知出来ない、
敵の『気配』を本能的に感じるのだと思う。
しかしここで、余計な事を言って、レベッカさんと揉めるのは野暮。
だから俺も、備えあれば、うれいなし。
索敵魔法は常にMAXで、欠かさないようにしよう。
「まあヴェガが居て、更にリゲルも居れば万全。絶対に大丈夫。さあ行きましょう」
こうして、俺とレベッカさんは村を出発したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
1時間後……
村から見て北東の草原に到着した俺とレベッカさんは、狩りの訓練をしていた。
「まずは弓の練習だ」と言われ……
俺は借りた弓を使い、構え方から始まって、何本か矢を放ってみた。
やってみて、びっくり。
弓など触った事もなく、最初は全然駄目だった俺であったのだが……
レベッカさんから、しっかり基礎を教えて貰ったせいか、
すぐ『さま』になって来たのである。
たぶんこれ、俺の持つスキルの中に、『弓の初級スキル』もあるからだろう。
でもそんな事は、絶対レベッカさんには言えない。
だから、とりあえず練習を続ける。
弓を引き絞って矢を放つ!
これを何度も繰り返す。
すると更にびっくり。
俺が放つ矢は、ほぼ狙った所へ、まっすぐ飛んで行くようになった。
さすがはチート能力、オールスキル:仮。
俺の様子を見たレベッカさんが、感心しつつ苦笑する。
「ふうん……やるわね。ケンは本当に初心者なの? じゃあ、早速、実践ね」
ちなみに、今日の獲物は草原に住む兎である。
そして猟犬のヴェガとリゲルが、『勢子』の役。
補足すると、勢子とは、こうした狩りを行う時に、
獲物となる動物を追い出したり、
射手に向かって追い込んだりする役割の者を指す。
すなわち、左右から彼等猟犬が兎を追い立てて、
俺とレベッカさんの方に向かわせるって事だ。
レベッカさんが言うだけあって、ヴェガ達は優秀な番犬らしい。
兎がこちらに来た所を、まずレベッカさんが矢を放つ。
ひょおっ!
レベッカさんが鋭い音を立てて放った矢は、兎を見事に貫いた。
おお、すげぇ、当たった!
言うだけあって、一発で仕留めたよ。
やはりレベッカさんは「当然!」という顔をしている。
そして「次はお前だ」と促したのだ。
「じゃあ、やってみて! 常識的にはいきなり仕留めるなんて無理だろうけど、とりあえず一回やって貰うわ」
レベッカさんの掛け声で、またもやヴェガとリゲルが兎の巣に回り込む。
2匹は、連携して上手く兎を追い出した。
俺は逃げて来る兎へ、狙いを定めて矢を放った。
ひょおっ!
「あ、当たった!」
俺が思わず声を出した通り、俺が放った矢も見事に命中した。
これには、レベッカさんも感嘆。
「わぁ! すっご~い!」
その瞬間であった。
『すっご~い』
レベッカさんの声に『誰かさん』の声が重なったのである。
『うふふ! さすが弓術初級のスキル持ちですねっ』
やはりである。
幻影のクッカが、爽やかな笑みを浮かべて、
空中に浮かんでいたのだ。
『おい、クッカ』
『は~い!』
『は~い! じゃね~よ。俺が出る時には、まだぐ~ぐ~寝ていたくせに』
『い~じゃないですか! 私って低血圧で朝が弱いんですもの。出かける時に可愛い妻の寝顔を見て、今日も頑張るぞって気になったでしょ?』
はい~? また、君はさりげなく凄い事言ったぞ!
絶対言った!!!
『ええっと、私って今、何か言いました?』
『……もう充分、君の気持ちは分かったよ』
『でしょ! 私、前に言ってありますからね~』
前に言ってある?
何だ、それ?
『ほらぁ! 以前にしっかり言ってるでしょう? ケン様があっさり死んでアウトになるのは困りますって!』
『…………』
『ケン様は私と、リゼットちゃんを含めたあの村の適齢期の、女の子全員のモノですからって!』
い、いや……全員のモノって……
それって、今みたいにしっかり惚けたでしょう、君は!
『今、目の前に居るこの子もケン様に興味津々ですし、ツンとはしていても実は、かまってちゃん状態ですからね。さあ、ハーレム作戦ゴーゴー!』
『ハ、ハーレム作戦!? クッカが言う? 良いの? そういう事言って?』
「ねぇ? どうかした?」
「あ!?」
いつの間にか俺は、幻影のクッカとの念話に夢中となっていたようである。
怪訝な表情で、俺を見るレベッカさん。
この子が?
超上から目線で命令口調のレベッカさんが?
俺に対して『かまってちゃん』ねぇ……ちょっち信じられないな。
単に村の男不足で、子を産む為、
やむなく、好きでもない俺と結婚するしかない、って感じだけど。
リゼットのように俺を慕い、一途に愛してくれるのなら、
問題ナッシングの相手なのに……
俺は、気の毒だなあと、ついまじまじ、レベッカさんを見てしまう。
「なな、何よ! ケン! 私の顔を何、じっと見ているのよ! 顔に何かついてるって言うの?」
あれ? 少しレベッカさんの顔が赤い!
「ど、どうしても、ケンが私を見たいって言うのならさ……別に……良いけど」
レベッカさんはそう言うと、可愛く口を尖らせて、俺を見つめたのである。
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