第24話「赤毛の狩人」
リゼットの『打ち明け話』……があった、次の日の朝……
俺はリゼットの家で朝食をご馳走になった後、
2日目の研修に臨むべく、門番ガストンさんの下へ向かっていた。
……あれから、俺とリゼットは、ふたりで結婚の約束をした。
この世界のルールに則り、お互いが16歳になったら、結婚しようと!
俺はリゼットを優しく抱きしめて、リゼットからは抱きしめられて、
キスも何と! 10回以上は軽くした!
あっついのを「ぶちゅっ」「ぶちゅっ」「ぶちゅっ」と何度も何度もね!
正式なやり方ではないけれど、実質的には婚約。
もうひとつ、俺を好きになった村の他の女子を、
全て受け入れる約束も改めて交わしたのだ。
これって……
リア充大爆発、ハーレムへの道も開いたお前は、必ず地獄へ堕ちろ!って、
四方八方から、ガンガン罵倒される状況だよね。
でも、当たり前と言われそうだが、
俺は自分だけではなく、リゼットの人生の責任をも負う。
嫁を更に貰えば、更に責任が増す。
結構、ヘビーなプレッシャーだが、
より一層、一生懸命、頑張らなければならない。
話を戻そう。
そしてそして!
……盛り上がった所で調子に乗り、俺がリゼットを押し倒した?
Hした? 最後まで行った?
いえいえいえ! ノンノンノン!
そんな事はしない。
俺は……紳士だから!
って……本当はリゼットが、
「貰ったハーブを内緒で使って、お婆ちゃんを早く治したい!」
というから仕方なく自宅へ帰した……はぁ……
先述したが、一応、この世界では、
『16歳未満はH禁止!』ってルールもあったけれど。
今更ながら、俺は、自分の勇気の無さに苦笑する。
リゼットと最後までは行かなくとも、B行為、
すなわち、彼女のおっぱいくらい、勇気を出し、そっと触っても良かったかなと。
俺は、他人には到底言えない、そんなもやもやした気持ちで歩く。
そして、今日の研修の先生役となる、屈強な戦士の待つ村の正門へと向かった。
「おお! ケン、来たか」
俺の大先輩従士ガストンさんは、村の正門脇で待っていてくれた。
そして、ガストンさんの傍らに立つ人物がもうひとり……
赤毛のショートカット。
ボーイッシュな雰囲気。
年齢は18歳くらいで、俺よりほんの少し年上。
身長は推定170㎝の俺と同じくらい、
スレンダーで手足が長く、スタイルは抜群のモデル体型。
弓を背負い、腰から細身のショートソードを提げている。
彼女は、見覚えのある女子だ。
ああ、そうだ! 確か……昨日、俺が全村民へ紹介された時、
真っ先に声を掛けて来た子である。
「貴方、ケン……だったわね。私はレベッカ、宜しく」
レベッカさんは、僅かに口角をあげてクールに笑う。
改めて近くで見ると、彼女の髪色はストロベリーブロンドと呼ばれる、
レディッシュっぽい金髪。
そして、瞳は深い灰色。
野性的且つ、大人の女性と少女が同居している。
リゼットやクラリスさんとは、タイプが全く違う不思議な雰囲気の女子だ。
多分、相手は年上だろうし、一応、低姿勢で行こう。
「改めましてレベッカさん、こちらこそ、何卒宜しくお願い致します」
ここで、ガストンさんが、今日の『研修』の内容と趣旨を説明する。
「ケン、良いか? 今日は狩りをしながら、お前の戦いの適性を見せて貰う。同行するレベッカは狩人見習いだが、もう少しで1人前になる」
ガストンさんのひと言が、レベッカさんの気に障ったようだ。
彼女は、美しい眉をひそめる。
「違うわ。もう少しで……じゃなくて! 既に楽勝で1人前! よ!」
ガストンさんは僅かに苦笑すると、レベッカさんの言葉をスルーし、
俺へと向き直った。
「よし、出発する前に確認だ。お前、武器は?」
俺は、黙って頷くと、腰から提げた銅の剣を軽く叩く。
かつて魔物との戦いがあったとはいえ……
世紀末某みたいに、常在戦場な村ではない。
なので、この剣と、空間魔法で仕舞ってある、
あの黒い魔剣以外に俺は『引寄せ』をしていない。
だが……俺の剣を見たガストンさんは、少し不満そうだ。
「ふうむ……ケンが使うのは剣だけなのか?」
「はい、俺はケンなので、洒落みたいですけど」
「ははは、洒落かい? じゃあ、お前、弓は使った事があるか?」
「いや、全然未経験です」
成る程! そうだよな、狩人には剣というより弓か。
確かに『狩り』をするのなら弓は必須かもしれない。
……ええと、授かったスキルの中にあるのかな?
ガストンさんは、俺が弓の全くの素人だと知ると、
レベッカさんを「ちらっ」と見た。
何となく、意味ありげな視線である。
「じゃあ、レベッカから習え。彼女は弓に関しては人に教えられるくらいの腕だ」
「さっきと同じく違うわ! ちゃんと訂正して! 村一番の達人と言って頂戴!」
へえ! レベッカさんは、自称、弓の達人か。
こんなに強気の態度なら、よほど自信があるのだろう。
「それからな。狩りをする際には、大事なパートナーが同行する。……こいつらだよ」
ガストンさんが示したのは、2匹の中型犬である。
1匹は3色のトライカラー、1匹はレッド&ホワイト。
俺は犬に詳しくないので犬種は分からないが、どうやら雑種らしい。
「この2匹は優秀な猟犬だ。獲物を見つけ、確実に追い込んでくれる。また危険な魔物が近付いたら必ず報せてくれる」
ここでレベッカさんが口をはさむ。
「この子はヴェガよ、私の最高のパートナー……」
「こいつはリゲルだ。俺の忠実な友さ」
トライカラーの犬を指すレベッカ、
片やガストンさんはレッド&ホワイトを愛しげに眺めた。
ふたりは、誇らしげに愛犬を自慢する。
犬か……
狩りだけはでなく、危険を探知してくれるなら色々と役に立つんだろうな。
俺には索敵のスキルがあるから、犬に頼らなくても大丈夫なんだが。
だけど犬、欲しい!
有能ならば、尚更。
実は俺、結構動物好き。
故郷に帰ったら、犬か猫と暮らしたいと思っていたから。
そんな、俺の表情を読んだのだろうか?
ガストンさんは、にっこり笑う。
「そうだ! 子犬が何匹か居る。後で、レベッカから貰えば良い」
「…………」
どうやらレベッカさんは、数匹の猟犬候補を育てているらしい。
だが、よほど可愛がり大事にしているのだろう。
不快な表情をするレベッカさんの無反応さからは、
「俺に譲渡は断じて拒否!」の強い感情が伝わって来る。
場を、『気まずい沈黙』が支配した。
そんな空気も読んだのか、ガストンさんは話を切り替える。
「は、ははは! じ、じゃあそろそろ出発するぞっ!」
様子を見ていたジャコブさんが門を開いてくれ、
俺達はようやく出発したのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昨日作業した農地の脇を通って行く。
俺に気付いたニコラさんが手を振り、
そして今日が当番のリゼットが、更に大きく手を振ってくれる。
「ケン様! 頑張ってぇ! 気を付けて行ってらっしゃ~い!」
おお、リゼットが大きな声で声援を送ってくれる。
昨夜の今日だから、俺も気持ちが前向きになる。
将来を誓い合った、『守るべき存在』が居るのは良い事だ。
「ふん!」
嬉しそうなリゼットを見たレベッカさんは、不快そうに鼻を鳴らす。
やはりというか、鉄壁であった、このボヌール村『女子の団結心』とやらは、
脆くも崩壊してしまったようだ。
そこへ火に油を注ぐように、ガストンさんが不用意な発言をしてしまう。
「ケン、昨日は初めての農作業なのに、バッチリこなしたらしいな。それもクラリスまで手伝ったやったそうじゃないか?」
ああ、ガストンさん……
さっきは勘が鋭かったのに、
この話題では何て余計な事を言う『空気読み人知らず』なんだ。
「何ですって!」
レベッカさんが、鋭い声をあげた。
凄い、怒りの波動が伝わって来る。
むう! やはり案の定だ。
でも俺が下手に口を出すと、余計に揉めそうなのでここは沈黙あるのみ。
「それって本当!?」
レベッカさんが、ガストンさんへ言い寄っていた。
ヤバイ!
最初から、『不協和音』が生じているじゃないか。
昨日のジョエルさん、このガストンさん、本当に凄い鈍感おじさんだ。
「…………」
ああ、さすがにぴりぴりした雰囲気を感じたのか、
ガストンさんも『沈黙は金』で黙っている。
「何よ! ずっと黙ってちゃ分からないでしょう、パパ!」
は!? パ、パパ!? 何それぇ?
た、確か今、パパって言ったぞ?
ガストンさんが、レベッカさんのお父さんなの?
まさか、お小遣いをくれる血のつながらない特別な『パパ』じゃあないよね?
俺がそんなくだらない事を考えていると、
ガストンさんが、そっと俺の脇腹を、つんつん、つついて来る。
「お前、フォローしろよ!」っていう暗黙のサインである。
いや、……それはちょっと無茶振りでしょう。
「ええっと……」
俺が口ごもると、レベッカさんは「びしっ」とガストンさんを見据えた。
「パパ!」
「は、はいっ!」
「悪いけどリゲルを借りるわよ、ケンの訓練用にするから」
「え?」
「もう!」
遠回しに言った真意が伝わらず、いらっとしたらしいレベッカさん。
彼女は、いきなりガストンさんの手を引っ張り、連れて行ってしまう。
そして、少し離れた所で密談を始めてしまったのだ。
優しそうな父と気の強そうな娘は、何やら揉めているようである。
普通なら聞こえない声が、俺の人間離れした聴覚で、その模様を捉えてしまう。
「いや! この訓練に、半人前のお前達だけで行かせるわけにはいかん」
どうやらレベッカさんは訓練にかこつけて、
俺と、ふたりきりになるべく画策したようである。
しかし魔物や肉食獣がバンバン出る物騒な世界。
半人前の女子狩人とデビューしたての村民だけを行かせるわけにはいかないと、
主張しているようだ。
村の保安担当としては、至極真っ当な判断である。
しかし、レベッカさんは引き下がらない。
「大丈夫よ! さっきも言ったけど私はもう1人前。それに危ない場所には絶対に行かないから」
「駄目だ!」
ガストンさんは、簡単には首を縦に振らない。
当たり前である。
レベッカさんは正攻法が通じないと見ると、作戦を「がらっ」と変えて来た。
「パパ! さっきのリゼットを見た?」
「あ、ああ……」
俺へ、親しげに手を振っていたリゼット。
そんな俺とリゼットの間柄は、普通には見えない。
ここでレベッカさんは、ずばっと『直球』を投げ込んだ。
「ケンとすっごく仲良しじゃない! このままケンとリゼットが、くっついても良いの?」
「え?」
「え? じゃないわ! そうなれば、私は当分独身。で、パパが欲しがっている孫の顔を見るのも当分、先になるのよ」
「う!」
そうか、孫ねぇ……ガストンさん、孫が欲しいのかあ。
おじいちゃんと呼ばれてみたいベテラン男の願望を、見事に突いた攻撃である。
それにしても……凄い会話だ。
更に、レベッカさんの波状攻撃は続いている。
「今日の研修は好機到来の大チャンスよ! ケンとふたりきりになって、仲を進展させておかないと! そうじゃないとリゼットどころか、クラリスにも遅れを取るわ。そのうち、ミシェルだって本腰を入れて動き出すだろうし」
「…………」
あらら……黙り込んでしまったガストンさん。
これは落城寸前だ。
「ねえ! パパ! それでも良いの?」
おお、これは、とどめの『チェックメイト』!!!
俺の頭で幻の声が響いた瞬間、
ガストンさんは「がくっ」と項垂れていたのである。
いつもご愛読頂きありがとうございます。
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お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、
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