第22話「リゼットの打ち明け話①」
俺の、『村民研修』初日が終わった……
遥か遠くに居た、狼の群れを風の魔法で追い払ってからは……
仲間と喧嘩したニワトリが、1羽飛んで逃げようとしただけで、
さしたる『事件』もなかった。
転生前、平凡男子だった俺ならば、難儀したであろう、
力仕事を始めとした数々の農作業も無事クリア。
村民達から見れば、無事に終わったと見られるだろう。
実際、仕事の終わった俺が、夕日を浴びて歩いていると、
今日の作業も含めて、顔見知りになった村の人達から次々と声が掛かったから。
「ケン! お疲れ様!」
「初めてだっていうのに、お前、畑仕事が凄く上手いな」
「おお、ご苦労さん! 今日は良く頑張ったぞ、坊主!」
「ケンよ、女に優しいお前は、俺の若い頃みたいに恰好良いな」
どうやら俺が、ひたすら真面目に働いていたのと、
癒し系美少女クラリスさんに優しくしたので認めてくれたようだ。
傍らに立つ、幻影のクッカも微笑み、目を細めている。
『良かったですね、ケン様。村の方々から、気に入って頂けて』
『ああ、わけわかめで、理不尽に死んだ時は、管理神様をほんのちょっち怨んだけれど、この世界も良いと思うよ』
昨日来たばかりで、新参者の俺ではあるが、
この村の人は、とてもフレンドリーだ。
女神様のクッカこそ、ついてサポートしてくれてはいるが……
中世西洋風異世界に、たったひとり、ぼっちで放り出されて……
人恋しかった俺は、感激して涙が出そうになる。
そして、改めて決意する。
故郷から遥か遠く離れたこの異世界で……
俺はリゼットを始め、このボヌール村の人達と共に生き、死んで行くのだと。
やがて俺は、村の正門へ着いた。
いつものように、大先輩従士のガストンさんとジャコブさんが、
門番として、しっかり物見櫓から見張っている。
あまりにも良い気分なので、俺も思わず冗談を言ってしまう。
「ガストンさ~ん! ジャコブさ~ん! 俺、今日は武器、預けなくていいっすよねえ!」
「お! 一丁前に言うようになったなぁ! なあ、ジャコブ」
「ええ、ガストンさん。ちょっち剣を預かりますか、そしてそのまま、ぽいっと捨てちゃいましょう」
「そうだな、いっそのこと溶かして売っちまうか」
「うわ! 勘弁ですよ」
俺は腰から提げた剣を、奪われないように押える真似をした。
その大袈裟な仕草が、門番のふたりには面白かったらしい。
「ははははは」
「ははは!」
「あははっ!」
俺もつい、釣られて笑ってしまう。
前世なら、絶対に無理だった。
知り合ったばかりの、こんな年上の人と、砕けた会話を交わすなんて。
そして実感する……やはりここは、俺の第二の故郷になるべき場所なんだなと。
ひと通り会話が終わった後、ガストンさんが頭を掻いた。
「ああ、馬鹿言って忘れてた。さっきからお姫様がお待ちかねだ」
「え? お姫様?」
「そうだよ、ケン。お前が昨日、しっかり守ったお姫様だよ」
昨日、しっかり守ったお姫様?
ああ、リゼットか!
そういえば、えらく怒って、お父さん――村長ジョエルさんの脛を、
思い切り蹴っ飛ばしていたなぁ……
いざとなると凄い子……なんだ。
俺が門から中に入ると、夕日に照らされた見覚えのある、
小柄なシルエットが立ち尽くしていた。
いつもながら、栗毛の可憐な超美少女だ。
「ケン……様」
でも変だ……声が、かすれている。
しょぼんとしている。
何かあったんだろうか?
何故か、リゼットに元気がない。
こんな時は、俺から進んで優しくしてあげないと。
と、その時。
俺の後方、空中に浮かんでいた幻影のクッカが、いきなり告げて来た。
『ケン様、私、しばらく外しますね』
『え? 外すって? 居たって、全然構わないのに……』
『いえ、外します』
クッカは微笑んでそう言うと、「すうっ」と消えてしまう。
どうやら、気遣ってくれたらしい。
結構なヤキモチ焼きかもしれないけど……やっぱりクッカは優しい。
俺は軽く息を吐くと、リゼットに笑顔を向けた。
「ただいま、リゼット!」
元気良く帰還の挨拶をした俺は、大きな声でリゼットの名を呼び、
思いっきり手を差し出した。
「え?」
リゼットは、突然の俺の行動に戸惑っていた。
おおっと! 俺、やらかしたか?
昨日の、リゼットの超が付くフレンドリーな態度は、錯覚だったのか。
だとしたら、俺はとんだ勘違い野郎である。
「あれ? まずいのかな? リゼットがこの前、手を繋いでくれたから……俺の思い違いで、馴れ馴れしかったか」
「い、いいえっ!!! そんな事は全然!ありません!」
どうやらリゼットは、俺と手を繋ぎたいのに遠慮していたようだ。
何と、健気な!
なので、俺は改めて手を差し出した。
「じゃあ、ほら!」
「はいっ!」
リゼットは、今度は躊躇わなかった。
満面の笑みを浮かべ、嬉しそうに手を伸ばして来る。
良かった!
彼女が好意を寄せてくれるって、俺の勘違いや錯覚ではなかったのだ。
リゼットの様子だと、
結構な時間を費やして、ここで待っていてくれたようである。
「わざわざ待っていてくれたのかい? 一体どうして?」
「えっと……ケン様。今夜も、お夕飯をウチで一緒に食べませんか? お父さんも、お母さんも大歓迎だから」
え? お夕飯?
おお、リゼットは、夕飯のお誘いの為に俺を待っていてくれたんだ。
そういえば、夕飯の事を全然考えてなかったな。
昼飯は、ラザールさんのを分けて貰ったからね。
それに、昼間の作業や何やらで結構、腹が減っている。
これは渡りに船だ。
「OK! 喜んでっ!」
「わぁ! よかったぁ!」
リゼットは余程嬉しかったのか、繋いだ手に「きゅっ!」と力を入れて来る。
俺も同様に軽く力を入れると、彼女は少しほっぺたを赤くしていた。
ああ、本当に幸せだ。
俺達は、まるでアツアツ新婚夫婦のように、
ぴったり寄り添って歩いていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……約2時間後
村長邸での楽しい夕飯を終えた後、リゼットは隣にある俺の自宅に来てくれた。
まあ、ブランシュ家の別宅なんだけれど。
つまり今、俺達はふたりきりである。
若い娘が夜、親公認で俺とふたりきり……
それって、もしかしたら無言のプレッシャーなのであろうか?
「私……今夜、ケン様にお話したい事があるのです」
「俺に話したい事?」
「はい! 私、とっても心配だったのです。お父さんが余計な事を言うから、ケン様が誰かに取られるかもって」
お父さん、つまりジョエルさんが余計な事を言うから、俺が誰かに取られる?
ああ、俺の事をフリーで、早い者勝ちとか言ってたな。
何だか、妙な雰囲気になって来たぞ。
「昼間、クラリスを助けてあげましたよね、ケン様」
リゼットは、いきなり「ずばん」と直球を投げ込んで来た。
え? 何で知っているの、そんな事。
俺は、慌てて、ちょっとだけ噛んでしまう。
「あ、ああ……彼女の農作業を手伝ったよ」
「すっごく優しくしてあげたみたいですね。もう、それで確定ですよ」
もう、それで確定?
いきなり、言い切るリゼット。
何だろう、それ。
「確定って?」
「ええ、クラリスったら……ケン様の事が、ひと目で好きになっちゃいました」
はぁ!? クラリスさんが俺を?
あんな些細な事で!?
ひと目で好きって、ひとめぼれ!? そんな馬鹿な!?
俺は、思わずポカンと口を開けてしまう。
「信じられない! ってお顔をされていますが本当です。本人から聞きましたから間違いありません。……クラリスは互いに何でも話せる、私の幼馴染で親友ですので」
「…………」
「その話を聞いた時、しまった!と思いました。何故、農作業の当番をクラリスと代わらなかったんだろうって……私の順番は明日なんですもの」
リゼットは、真っすぐに、熱い視線で俺を見つめて来る。
「ケン様は、この村の男女構成をご覧になって、変だと思いませんでした? 男はおじさんとお年寄りばかりで、若い人が誰も居ないんです」
ああ、それだ!
ここまで俺が、聞きたくて聞けなかった事……
「ああ! 確かに俺もおかしいなあと思い、気付いていた……それって何故なの?」
「はい! 若い男達は数年前、魔物との大きな戦いで、この村を守る為、半数以上が亡くなり、残りは貧しく平凡な村の暮らしが嫌で出て行きました。このままでは、自分達の明日が、未来が見えないと言って』
「…………」
「このまま、年を取って死んで行くのは嫌だ。まだ若いうちに、この村なんか出て、お洒落な都会で商人になって大金持ちになるとか、強くて恰好良い冒険者になり、一発逆転して、ひとやま当てるんだとか……」
「…………」
ああ、それってよくあるパターン。
俺が生きていた前世、地球の世界も、この中世西洋風の異世界も同じなんだ。
いわゆる、都会へ憧れた若者達が流出、『過疎化』になるって奴だ。
「はい……若い男子達だけではなく、女子達も出て行きました。だけど、若い女子達の半分だけは残りました。皆、生き馬の眼を抜くような都会よりも、この村の暮らしが良いと判断して残ってくれたのです」
「そうだったんだ……」
「はい! お父さんは村長という立場上、村の人口の減少を何とか防ぎたい、逆に増やしたいと、いろいろ動いているようです」
「そうなんだ……」
「はい! だけどこの平和な村へ、いきなり得体が知れない、村の平和を乱すような男の人が入って来ても困る。私達女子は、そのような村の為にはならない男性を絶対に相手にしないと皆、一致団結したのです」
リゼットはここまで言うと、悲しげに目を伏せた。
「でも、そのような女子達の団結は、脆くも崩れ去ってしまったのです」
「女子達の団結は、脆くも崩れ去ってしまった……」
「はい! 固い決意をした女子達の心を乱し、団結を崩した原因はケン様、貴方です!」
「えええ!? お、俺!? 女子の団結を崩した原因が俺なの!?」
いきなりのリゼットの指摘に、俺はまた大いに驚き、戸惑い、
動揺も、してしまったのである。
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最後に、
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