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第21話「大は小を兼ねる」

『もう! 女の子には誰にでも優しいんだから、ケン様はっ!』


「わあっ!」


俺は、思わず驚いて、声をあげる。


ミミズを、とんでもなく嫌がって、逃げたクッカの大声が、

いきなり心に響いたからだ。

 

畑の、(うね)づくり作業が終わった俺は今、

ひとりで休耕地の周囲を巡回していた。


ヤギ、ブタ、ニワトリ……

3種類の家畜が、それぞれ休耕地に放牧され、餌を食べたり、

気儘(きまま)に寝ているのを見て、心が癒されている最中である。


畜産もボヌール村の重要な産業。


今時のプロ野球ではないが……

この村で生きて行く為には、

様々な仕事をこなせる、ユーティリティーさが求められる。


これから俺は、いろいろと勉強しなければと、決意していた所であった。


……むむ、クッカめ、近くに居るな?


俺が「ふう」と溜息を吐くと、案の定クッカが「ほわん」と姿を現した。


周囲を見渡して『天敵』のミミズが居ないせいか、

「ホッ」としたような表情をしている。


『成る程ねえ。クッカはミミズ、駄目なんだな?』


『はい! 最低最悪です、ちょい見するのすらNGです』


顔を、思いっ切りしかめたクッカ。


ゴブが大嫌いなのは何度も聞いたが、ミミズもか。


他にも、苦手なものが一杯ありそうだ。


苦笑した俺だが、何となく可愛いと思う。


女神様なのに「ミミズが嫌!」だなんて、何故か人間の女子っぽいんだもの。


『まあ仕方がない。それより今、俺がやっている見回りの仕事は、家畜が逃げないように見張るのと、外敵の襲撃から守る為なんだけど……』


俺が少し口ごもるのを見て、クッカはちょっと気になったようだ。


『分かりますけど、どうかしました?』


『ああ、外敵は人間や魔物だけじゃない。狐や狼、熊などの肉食動物なんかから、村民達の大事な家畜を守らないといけない、と思ってさ』


『確かに!』


『でさ……何となくだけど、東の方角に肉食動物の気配がするんだ』


『肉食動物?』


『ああ、でもまだ俺の今の索敵能力じゃ、はっきりとは分からない。クッカの索敵だともう少し詳しく分かるかなぁ?』


レベル99で万能スキルを持つと言っても、俺は全知全能ではないみたいだ。


スキルによっては、クッカの方が優れているなって思う事が度々ある。


まあ比較対象が、天界の女神様なんて、(おそ)れ多いけれど……

 

『ええっと、はい! 確かに私も東の方角に気配を感じます。ここからまだ距離は結構ありますね、ざっと3kmくらいは離れています。……多分、狼の群れでしょう』


『う~ん、狼の群れか……』


俺は少し考え込むが、答えはすぐに出た。


『ええっと、村へ近寄らないよう、追い払えないかな。遠距離射撃みたいな形で威圧射撃とかさ。ボヌール村の人には絶対にばれないように』


俺の考えた事を、クッカもすぐ理解してくれたらしい。


『了解です! 属性魔法を使いましょう。ケン様は火属性だけではなく、4大属性魔法全てを無詠唱、動作無し、念じるだけで行使出来る、超一流のオールラウンダー魔法使いですから』


『おお、そうなのか! 確か……4大属性って、火、風、水、土だっけ?』


念の為、補足しよう。


古代、中世西洋において、火、風、水、地、4つの元素が、

世界を成立させていると考えられており、

この中世西洋風ファンタジー異世界でいえば、リアルな常識。


その4つの元素を司るのが、火はサラマンダー、風はシルフ、

水はウンディーネ、地はノームの4大精霊と呼ばれる存在なのである。


『そうです。だから、特殊な風弾魔法にしましょう!』


『特殊な……風弾魔法?』


『は~い! 風弾とは風の精霊(シルフ)の吐息である聖なる風を練り、硬い塊にして敵にぶつける魔法です』


『聖なる風を練って、硬い塊か。うん! イメージが湧いた。理解した』  


『宜しい! そして普通の風弾だと、打ち出す際に凄まじい音が発生します。なので、ここで魔法を使ったと、すぐにばれてしまいます』


『いやぁ……俺がそんな凄い魔法を使えるなんて、ばれるのはまずい。下手をすれば、勇者まっしぐらだ。それも理解した。何か良い方法はある?』


『あります! 特殊な風弾魔法とは、天空に近い遥かな高所で風を練り、遠くへ飛ばして攻撃する魔法です。そこまでの高所だと地上からは絶対に音が聞こえませんから』


『おおっ! そりゃ良いな』


『はい! 地上へ着弾した時の大きな振動は伝わりますが、ケン様と、その振動を結びつける理由など何もありません』


『成る程! それ、やろうよ、ぜひ!』

 

『了解でっす。ではでは魔法を発動する為に、念じる方法ですが、まず私からイメージを送ります』


『イメージ?』


『ええ、それを見て発動の雰囲気を掴んで下さい……ちょっと……恥ずかしいんですけれど、ケン様なら……』


『恥ずかしい?』


『……見れば分かります。では行きますよ』 


顔を少し赤くしたクッカからは、

すぐに魔法を発動するイメージとやらが心へ伝わって来た。

 

それは何と!!!


一糸纏(いっしまと)わぬ全裸のクッカが、

目を閉じて熱心に祈りを捧げる映像であった。


『うおお! こ、これは!?』


『もう! 精神を集中し、精霊に祈りを捧げているのですよ! 変な声を出さないでください!』


クッカに叱られたが、俺はつい、吸い寄せられるように見てしまった。


思っていたよりも、クッカの胸は……すっごく大きい。


形も最高!


そして肌は、やっぱり抜けるように真っ白だ。


『おいおいおい! ま、丸見えだぞ!!』


『だだだだ、大丈夫です! ケン様なら! な、何も、は、は、恥ずかしくはありません! 将来の夫君になる方になら、わ、私のこのような映像を見せても構いませんからっ!』


は!? 君は盛大に噛みながら、また何か凄い事言わなかった?


『えっと……私、何か言いました?』


また言ったよ! 凄い事!


『はぁい! 愚図愚図していると狼、近付いて来ちゃいますよ。さあ発動です!』


あっさりと、華麗にスルーされた。


まあ……良い。


とりあえず対処しよう。

狼の群れ、確かに近付いているし。


先程のクッカのイメージで、

俺は天空に居る風の精霊(シルフ)に祈りを捧げる。


そして! 俺の『魂の声』を受けた風の精霊は、

願いに応えて巨大な風の塊――『風弾』を生成してくれた。


『よいしょっと!』


俺は気合を込めて風弾を飛ばす。


果たして!


俺は索敵で、気配を追う。


硬い風の塊は、ひゅごおおおおお!!と、とんでもない音をたてて飛ぶが、

村からは一切分からない。


俺はホッと胸を撫で下ろし、クッカは「どうだ!」とばかりに胸を張った。


一方、ボヌール村へ向かう20頭ほどの狼の群れ。


彼等の目当ては、家畜及び人間を餌として襲うことである。


と、そこへ!


どっごおおおおおお~ん!!!!!


巨大な隕石が落ちたような、凄まじい音と振動が、彼等の行く手で起こった。


地面には大きな穴が開き、土煙が「もうもう」と立ち上がる。


驚いた狼どもはパニックに陥り、村を襲う事などすっかり忘れ、

ばらばらな方向へと逃げ出してしまった。


狼どもが逃げた気配を、俺とクッカは感じ取る。


『索敵で分かるぞ! 狼……逃げたな』


『はい! バッチリですっ!』


クッカは幻影だから、実際には出来ないが、ハイタッチしたい気分である。


そして俺は、さっきから感じていたことがあった。


『俺さ、クッカ』


『はい、何でしょうか?』


『俺が管理神様から頂いた、レベル99の力ってさ』


『レベル99の力が?』


『ああ、凄いというか……あまりにも、人間の手には余る力じゃないか』


『確かにそうですね……下手な神様より強力ですよ』


『うん、だからさ……こんな田舎の村で、ひっそり暮らすには、全然、必要無いと思っていたけど……今の魔法で思った、そんな事は無いって』


『そうなんですか?』


『ああ、俺自身でこの力を使って何か、例えば……世界征服をしようなんて絶対に思わないけど……』


『ケン様、世界征服なんて、絶対に絶対に駄目ですよ!』


『ああ、分かってるさ。でも、クッカ』


『はい』


『これから先、何があるか分からないし、この前の人狼みたいに、とんでもない敵を倒したり、今みたいに、こっそり村を助けられれば嬉しいんだ』


『ケン様……』


『例えれば、レベル99の力が必要って……う~ん……上手く言えないな』


『ではケン様、大は小を兼ねるとかって、どうでしょう?』


『おお、大は小を兼ねる……か! 良いかもしれない!』


クッカが言った言葉。


大は、小を兼ねるって……

大きいものは、小さいものの役割も果たすことが出来るという意味。


今の俺の気持ちに響く、まさにぴったりな言葉だ。


小さな力があれば、この村では充分に暮らして行ける。


しかし信じられないほど、凄まじい災厄が襲った時、俺は絶対に無力だ。

 

そんな時、レベル99の大きな力があれば、

リゼットやクラリスを助けられるかもしれない。


いや、彼女達だけじゃない。

この村の人達を、少しでも多く救えるだろう!


それって、まさに奇跡を起こせる『勇者』だ。


どうして、俺がそんな気持ちになったのか?


答えは簡単。


多分、俺は……このボヌール村が、どんどん好きになっているから。


故郷に帰れず、運命の悪戯で、この中世西洋風異世界へ来た、

ローカルな『ふるさと勇者』かもしれないけれど……


巡り合った愛すべき家族みたいな村民達を、

勇者、つまりは守護者になって、絶対に絶対に守りたいと、

強く思い、願っているんだ。


そして俺の気持ちを、上手く(ことわざ)に言い換えてくれたクッカ。


相変わらず、優しく笑っている。


クッカって……金髪碧眼の外人さん顔なのに、どこかで見た事があるような……


それも、凄く親しく感じる………何故だろう?


以前、どこかで会って、とても仲が良かったとか?


『そんなわけないよな?』


俺は、つい疑問を念話で呟いてしまった。


いきなり、意味不明とも思える呟きを、聞いたクッカが首を傾げる。


『どうしました?』


『いや、何でもない』


俺は軽く首を横に振ると、

「きょとん」としているクッカへ再び笑顔を向けたのである。

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