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第19話「いざとなれば!」

ボヌール村全村民への挨拶の後……

 

俺はリゼットの父、村長のジョエルさんから、

その場に残ったふたりの村民を紹介して貰った。


年齢からすれば従士の大先輩として、

ひとりはもう『お馴染み』であるガストンさん。


普段、彼は同僚のジャコブさんと共に門番を務めており、

村の正門脇の物見櫓に陣取りながら、

人間魔物含め不審者が居ないかどうか見張っている。


そして襲撃等、非常時には村の主力戦士として戦う。

いわば、このボヌール村の保安担当である。

 

ちなみに非常時にはジョエルさんが隊長、ガストンさんが副隊長となって、

そこへ村民から召集された男女の老若戦士が加わり、

外敵と戦う体制をとるそうだ。


もうひとりは、この村の農地や家畜を管理しているという、

更に老齢の男性である。


こちらは、村の食糧調達担当というところか。


祖父とも思えるような年齢差を考えると、

礼儀として、俺から丁寧に名乗った方が良いだろう。


「改めまして、ケンです、宜しくお願いします」


「ふむ、礼儀はしっかりしているようだ……ワシはラザール、はなたれ小僧、宜しくな」


ラザールさんは推定年齢70代半ばくらいだろうから、

確かに、今推定15歳の俺は『はなたれ小僧』だ。


しかしガストンさんもラザールさんも、

普段の仕事の影響か、真っ黒に日焼けしている。


筋骨隆々でもあり、超逞しい!

小僧と呼ばれた15歳の俺なんかよりも断然、生命力に満ちている。

 

「じゃあ、ガストン、ラザール。後の事は頼むぞ。ケン、良いか、ふたりにしっかり教えて貰い、かつ鍛えて貰え……あ、いたたた」


ジョエルさんはそう言うと、

さっきリゼットに思い切り蹴られた脛がまだ痛むらしく、

足を引き摺りながら引き上げて行った。


ジョエルさんは、新たな村民として加わる俺へ、

適性見極めと村の生活に早く慣れる為、

『研修』として、様々な仕事をさせると言っていたし、

俺自身もぜひに!と志願した。


だから、このふたりが『教育係』という事になるらしい。


果たして、どちらから先に教わる事になるのだろうか。

ガストンさんが、にっこり笑って片目を瞑る。


「長幼の序だ、爺さん。今日は順番を譲るよ」


「ふん! ガストンめ、相変わらず口の減らない小僧だ、お前は」


あはは、確かに俺同様にもガストンさんも、ラザールさんから見れば若僧だ。


ガストンさんはこんなやりとりに慣れているらしい。

なので、小僧と言われても「にこにこ」して、冗談を言う。


「いやいや、せっかちな年寄りを待たすと、後がうるさいからな」


「こらあ! ガストン! 誰がせっかちだ、生意気言いやがって。そんな事を抜かすお前だって、あと20年経てば、こうなるんだぞ」


え? ガストンさんが20年後にラザールさんと同年齢?


40代前半かと思っていたガストンさんだが、もう50代半ばという事なのか。


びっくりだ! 見た目がえらく若いな~!


ラザールさんが顔をしかめ、怒るが、

いつもの事らしくガストンさんは意に介さない。


「わ~った、わ~った」


笑顔のガストンさんは軽いノリで返すと、俺に「ウインク」して手を振った。


「じゃあな、ケン。頑張れよ!」


俺へエールを送ると、背を向けて、ガストンさんは門の方へ去って行く。


ガストンさんへ手を振る俺を見て、ラザールさんは、ぽつりと呟く。


「ふん! 15歳で男の新参者か……」


ラザールさんは改めて俺を「じろり」と一瞥する。


そして大きく頷く。


「うむ! 確かに礼儀正しいし、15歳と若くて活きも良い。身体(ガタイ)も、そこそこだ。火の魔法も使えるそうだし、ゴブをあっさり倒したそうだから、戦いの素質もそこそこあるか……現状でこの村に男は足りないし、もしかしたら結構な掘り出し物かもしれんな」


なんて、独り言を、ぶつぶつ呟く、ラザールさん。


聴覚が常人の数倍以上になっているらしい俺には、はっきりと聞こえた。


どうやら、新入りの俺の事を値踏みしているようだ。

このコメントを聞く限り、まあまあの評価らしい。


「ふん! まあ良いだろう、ついて来い」


ラザールさんは合図をすると、俺に対して農地へ来るようにと、促したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


村の外柵からすぐ内側には、結構大きな農地が広がっている。


ここがボヌール村の村民が耕す農地だ。

村の総面積の内、半分近いと聞いている。


良く見ると、農地は3つの形態に分かれていた。


作物が植わっている農地。

村民が数人耕す作業をして(うね)が作られている農地、

そして家畜が遊び、雑草が生い茂っている休耕地らしい3種類である。


ううむ……


確か、これは三圃式農業(さんぽしきのうぎょう)だ。


三圃式農業は、農地を春蒔きの大麦・燕麦などの夏麦、秋蒔きの小麦・ライ麦などの冬麦、そして放牧地の3つに区分し、順次耕作して行く農法である。


三圃式農業のメリット、効用は農地が『痩せる』のを防げる事だ。


ちなみに休耕地では家畜が放牧され、

その排泄物が肥料になり、土地を回復させる効果がある。


現に目の前の休耕地には簡単な柵が設けられており、

ヤギ、ブタとニワトリが放たれているのだ。


「めぇ~」とか、「ぶうぶう」とか、「こけこっこ~」とか、

鳴く家畜の姿を見ていたら、心がほんわか温まって来る。

 

ああ、そうだ、そうなんだよ。


これこそ!

俺が求めていた故郷の癒しの風景なんだ。


でも……その反面、何故か冷静に俺は考えてしまう。


収穫量は少し落ちるかもしれないが、

輪栽式農業りんさいしきのうぎょうの方が良いのになぁと。


今は春らしいから問題は無い様だが、

三圃式農業の欠点は、冬季に飼料が不足する際に家畜の飼育が困難な事にある。


片や輪栽式農業はひとつの農地に、麦の栽培をメインにし、

カブ、じゃがいもなどの根葉類、

そして土地の力を回復する性質を持つ牧草を、季節に応じて栽培するのが特徴だ。


輪栽式農業であればカブ等の栽培により、

冬場に使う家畜の飼料が確保出来るので、

牧草による土地の回復、家畜の排泄物による肥料の合わせ技で、

効率が格段に良くなるのだ。


おいおいおい! てか、すげ~な。


いくら雑学マニアとはいえ、何で、俺ってこんな事知ってるの?


と、その時。


『……管理神様から授かったオールスキルの中には、初期レベル農業従事者のスキルがありますもの、そりゃ分かりますよ』


ああ、この声は……クッカ!!!


傍らを見ると、ほっぺたを焼いた餅のように膨らませたクッカが空中に浮かび、

ジト目で俺を凝視していた。


朝の事があったから、つい大きな胸に目が行ってしまう。


『あ、ああ、クッカ、悪い、悪い。ぐっすり眠っていたから起こさなかったんだよ……』


『それは良いんです』


『え、ええ、良いの?』


『はい、ケン様の優しさですから』


『優しさ? ま、まあ、そんな所だよ』


『はい、それよりも、私……もしかして』


いきなりクッカが、顔を真っ赤にして口(ごも)る。


俺の視線が胸に行ったのを敏感に察知したのか、

それとも何か思い当たる事があって聞くのを躊躇っているのか。


『えっと、とても恥ずかしいですけれど……ケン様には勇気を出してお聞きしますね』


『え? 勇気を出して聞くって何?』


何気なく尋ねる俺。


そこへクッカから、とんでもない質問が……


『ケン様さっきから私の胸のあたりをチラ見していますけど……もしかして、私の胸……おっぱい……見ちゃいました?』


うお! 直球な質問来た~!


『お、お、おおお、おっぱい!? い、い、いや見てないよ、決して』


俺の脳裏に再び今朝の事が甦る。

 

見てはいないが、確かにこぼれて、見えそうになっていたからだ。


でも……「ぺろん」と可愛く出していた小さなお尻は……完全に見た!


同時に分かる、完璧に。


だがもしも、そんな事を言ったら俺を待っているのは確実に(デス)


『むむむ、とんでもなく動揺していますね、怪しい!』


またまたジト目で睨む、クッカ。


ヤバイ。俺の態度が、不自然過ぎるのか?


それゆえ、決めた!


尻の事は絶対に内緒だが、おっぱいの事だけは正直に言った方が良いだろう。


しかし、朝っぱらから、一体どういう話になっているの?


『い、いや、実を言うとこぼれそうになっていたから、起こそうと思ったけど、クッカって幻影(ミラージュ)だろう? 手がすり抜けて起こせなかったんだ』


『…………』


『でも何? どうかしたの?』


『その……はみ出てました』


は!? はみ出てた!?


ななな、何が!?

何が、はみ出てたの? 

もしかして?


『はみ出て……た? はみ乳?』


俺が聞き直すとやはり『ビンゴ!』であった。


『くううう……すっごくすっごく、恥ずかしいっ!! お嫁に行けないっ!!!』


クッカは真っ赤になったまま、頭を抱えて俯いている。


しかし――5秒後


『でも……ま、いっか! いざとなればケン様に貰って頂こう、私。うん、決定!!!』


おお、切り替え早っ! 立ち直りが、やはり早っ!


でも、何その決意!?


『…………』


『…………』


ふたりの間に、交錯する沈黙。


何かとんでもなく凄い事を聞いた気もするが……聞かなかった事にしておこう。


いや、それより今はラザールさんを講師とした、村の仕事の研修中だろう。


俺は一体、何をどうすれば良いのだろう?


そんな事を考えていたら、ラザールさんから指令が下った。


ラザールさん、鉄の刃がついた鍬を持っている。


「おう、ケン! じゃあ(うね)を作って貰えるか? 道具はこれ、やり方はそこで同じ作業している奴等に聞くように。終わったらワシを呼んでくれ、お前の次の仕事として家畜の見張りを頼むから」


「了解っす!」


「何だ? 了解っすって。慣れて来たら、さっきみたいな敬語は無しか? 軽そうな返事だな」


あはは、まあ良いじゃあないですか。


これが俺の『地』です。

今後はフレンドリーにお願いしますよ。


俺はラザールさんへ返事をしないで、黙って「にこっ」と笑ったのである。

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